アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
169 寵愛に勝るもの
「おいあれってもしかして・・・」
「死んだんじゃなかったのか?」
「いや、大怪我して療養中って俺は聞いたぜ」
──ザッザッ。
「リアム・・・さま」
道行く人間、すれ違う人間、遠目にヒソヒソと話す人間。
──ザッザッ。
同じ屋根の下に住む、家族の呼びかけも──
「さーみてってよってって!」
「おーッ!ティナちゃんじゃないか! ん? その隣の少年はもしかして彼氏かい?」
そんな彼に気づかない人々の喧騒も──
「・・・・・・」
彼の耳には、届かない。
──ダッダッ。
「おい危ないじゃないかい!」
──ダッダッダ。
「すみませーん!」
しかし──
「トォー!」
賑やかな朝の人通りを駆けて、2人に近づく怪しげな影が──
「影!?」
瞬間、その影は大きく跳躍し少年の背後から大きな影を落とすと──
「ドハッ!」
そのまま、影に気づき振り返った少年の顔にのしかかるように抱きつく。
「重い・・・」
そして、押し倒された少年はあまりにも愚直な感想を──
「ウッハーッ! ホントにリアムだ! 動いてるリアムだ!」
「しゃべれ・・・! 息が──!」
しかし、再び力強く抱きついてきた少女の体に、少年の口は塞がれてしまう。
「まってよお姉ちゃーん」
その後ろから──
「おはようティナちゃん」
「おはよう」
もう一人の少女が、ティナと挨拶を交わす。だが──
「レイア?」
少女はその後、スグに彼女の背後に隠れてしまった。
「ほらほらレイア! リアムだよリアム!」
一方、未だリアムに抱きついたままのラナは、そんなレイアをこっちこっちと満面の笑みを浮かべて呼び寄せる。
「ホントに、リアム?」
──が、レイアは慎重に、怯えているのかとさえいうくらいに慎重に、ティナの背後からリアムに話しかける。
「そうだよ」
しかし、リアムがそう肯定すると──
「よかったー!」
勢いよく、彼の胸元に向けて飛び込んでいく。
「朝からモテモテだな」
すると──
「ウォルター」
「久しぶりだなリアム」
もう一人、走り出した妹たちを追って追いついたウォルターが、片腕を差し出す。リアムはそれにレイアを抱いていない方の腕を差し出して答えると──
「ただいま」
「「「おかえり」」」
変わらない3人の笑顔に、過去の、いや、昨日の希望がよみがえる。
「あっ! ていうか重いってひどくないリアム!」
「いまさら!?」
「リアム。その返しはツッコミとともに事実を肯定してしまっていて・・・」
「レイアもヒドい!」
プンスカと頬を膨らませるラナは相変わらず、お調子者でムードメーカーだ。そんなラナを手玉に取ったレイアは、ティナと同様背が少し伸びたであろうか。
「お熱いね・・・」
が──
「いやその・・・なんだ」
しかしこの中で一番変わっていたのは、彼女らの兄であるウォルターだった。
「ひ、久しぶりだな。リアムくん」
彼のスグ隣に立ったニカが、顔を赤くしながら挨拶する。ウォルターとの距離を指摘されて緊張しているのだろうか、声が震えている。
「お久しぶりです。ニカさん」
そんな彼女に、リアムはにっこりと笑顔を浮かべて挨拶を返す。だが、数秒後──
「俺らさ・・・その、結婚したんだ」
なんとも衝撃的な告白を、気まずそうに頭をポリポリと掻きながら告げるウォルター。こんなにドキリとしたのは、昨日からの急展開の中でも存外に一番だった。
「そ、それはおめでとう!」
リアムは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながらも、なんとか搾り出した謝辞を述べる。
「「・・・ありがとう」」
それを聞いた2人は、互いに泳ぐ視線を別方向に外しながらも、視界には捉えているリアムに恥ずかしげに応える。全く初々しいというか、なんというか。一体何があったら1年でそんな急展開に──・・・
「あ・・・」
──1年。
「あれ・・・?」
突然、リアムの目から大粒の涙がこぼれ始める。
「ど、どうした!?」
ウォルターが慌てる。
「ちょ、ちょっとウォル兄! なにしたの!?」
こういう突然に実は弱いラナも、慌ててウォルターを問い詰める。
「大丈夫だよ・・・リアム」
だが末妹であるレイアは意外としっかり者で、優しくリアムの頭を撫でる。
「よしよし・・・」
その隣では、なぜリアムが泣いているのかを察したティナもまた、一緒になって頭を撫でてくれる。
「いや・・・その、なんでもないんだ」
熱い気持ちが込み上げてくる。口では強がってみせるが、涙が止まらない。
「どうしようニカ! 俺なんかまずったか!?」
「おおお落ち着けウォウrター! まずは仲良く朝食の誘いでも!」
「もう朝飯は食ったろ!? ニカこそ落ち着け!」
止まらない涙に、慌ててオロオロとするウォルターとニカ。
「ハハハ・・・普通は昼食か夕食だよ。そんなおめでたいお祝いの食事なのに、朝食じゃ軽すぎてたくさん話もできないじゃない」
すると、リアムが溢れてくる涙を指でぬぐいながらあまりの2人の慌てように笑って間違いを指摘する。
「そ、そっか・・・」
「だよな。お前とは積もる話もあるしな」
慰めるどころか、涙を流すリアムにフォローされてしまった2人は、ニカは再び顔を赤くして、だがウォルターは落ち着いた様子で過去を振り返りながら自分も同じ気持ちであることを顕にする。
「積もる話・・・か」
リアムは、そんなウォルターの何気ない言葉の一つにしんみりと浸る。
『そっか・・・』
変わらないみんなの姿を見て──
『本当にもう』
しかしそこには確かに変わってしまったものもあって──。
「そっか・・・本当にもう、1年が経っていたんだ」
たった1年が、戻らない1年へと変わる。嬉しいような哀しいような。拮抗する2つの感情が綺麗に均衡し、彼の哀情を溶かしていく。
「死んだんじゃなかったのか?」
「いや、大怪我して療養中って俺は聞いたぜ」
──ザッザッ。
「リアム・・・さま」
道行く人間、すれ違う人間、遠目にヒソヒソと話す人間。
──ザッザッ。
同じ屋根の下に住む、家族の呼びかけも──
「さーみてってよってって!」
「おーッ!ティナちゃんじゃないか! ん? その隣の少年はもしかして彼氏かい?」
そんな彼に気づかない人々の喧騒も──
「・・・・・・」
彼の耳には、届かない。
──ダッダッ。
「おい危ないじゃないかい!」
──ダッダッダ。
「すみませーん!」
しかし──
「トォー!」
賑やかな朝の人通りを駆けて、2人に近づく怪しげな影が──
「影!?」
瞬間、その影は大きく跳躍し少年の背後から大きな影を落とすと──
「ドハッ!」
そのまま、影に気づき振り返った少年の顔にのしかかるように抱きつく。
「重い・・・」
そして、押し倒された少年はあまりにも愚直な感想を──
「ウッハーッ! ホントにリアムだ! 動いてるリアムだ!」
「しゃべれ・・・! 息が──!」
しかし、再び力強く抱きついてきた少女の体に、少年の口は塞がれてしまう。
「まってよお姉ちゃーん」
その後ろから──
「おはようティナちゃん」
「おはよう」
もう一人の少女が、ティナと挨拶を交わす。だが──
「レイア?」
少女はその後、スグに彼女の背後に隠れてしまった。
「ほらほらレイア! リアムだよリアム!」
一方、未だリアムに抱きついたままのラナは、そんなレイアをこっちこっちと満面の笑みを浮かべて呼び寄せる。
「ホントに、リアム?」
──が、レイアは慎重に、怯えているのかとさえいうくらいに慎重に、ティナの背後からリアムに話しかける。
「そうだよ」
しかし、リアムがそう肯定すると──
「よかったー!」
勢いよく、彼の胸元に向けて飛び込んでいく。
「朝からモテモテだな」
すると──
「ウォルター」
「久しぶりだなリアム」
もう一人、走り出した妹たちを追って追いついたウォルターが、片腕を差し出す。リアムはそれにレイアを抱いていない方の腕を差し出して答えると──
「ただいま」
「「「おかえり」」」
変わらない3人の笑顔に、過去の、いや、昨日の希望がよみがえる。
「あっ! ていうか重いってひどくないリアム!」
「いまさら!?」
「リアム。その返しはツッコミとともに事実を肯定してしまっていて・・・」
「レイアもヒドい!」
プンスカと頬を膨らませるラナは相変わらず、お調子者でムードメーカーだ。そんなラナを手玉に取ったレイアは、ティナと同様背が少し伸びたであろうか。
「お熱いね・・・」
が──
「いやその・・・なんだ」
しかしこの中で一番変わっていたのは、彼女らの兄であるウォルターだった。
「ひ、久しぶりだな。リアムくん」
彼のスグ隣に立ったニカが、顔を赤くしながら挨拶する。ウォルターとの距離を指摘されて緊張しているのだろうか、声が震えている。
「お久しぶりです。ニカさん」
そんな彼女に、リアムはにっこりと笑顔を浮かべて挨拶を返す。だが、数秒後──
「俺らさ・・・その、結婚したんだ」
なんとも衝撃的な告白を、気まずそうに頭をポリポリと掻きながら告げるウォルター。こんなにドキリとしたのは、昨日からの急展開の中でも存外に一番だった。
「そ、それはおめでとう!」
リアムは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながらも、なんとか搾り出した謝辞を述べる。
「「・・・ありがとう」」
それを聞いた2人は、互いに泳ぐ視線を別方向に外しながらも、視界には捉えているリアムに恥ずかしげに応える。全く初々しいというか、なんというか。一体何があったら1年でそんな急展開に──・・・
「あ・・・」
──1年。
「あれ・・・?」
突然、リアムの目から大粒の涙がこぼれ始める。
「ど、どうした!?」
ウォルターが慌てる。
「ちょ、ちょっとウォル兄! なにしたの!?」
こういう突然に実は弱いラナも、慌ててウォルターを問い詰める。
「大丈夫だよ・・・リアム」
だが末妹であるレイアは意外としっかり者で、優しくリアムの頭を撫でる。
「よしよし・・・」
その隣では、なぜリアムが泣いているのかを察したティナもまた、一緒になって頭を撫でてくれる。
「いや・・・その、なんでもないんだ」
熱い気持ちが込み上げてくる。口では強がってみせるが、涙が止まらない。
「どうしようニカ! 俺なんかまずったか!?」
「おおお落ち着けウォウrター! まずは仲良く朝食の誘いでも!」
「もう朝飯は食ったろ!? ニカこそ落ち着け!」
止まらない涙に、慌ててオロオロとするウォルターとニカ。
「ハハハ・・・普通は昼食か夕食だよ。そんなおめでたいお祝いの食事なのに、朝食じゃ軽すぎてたくさん話もできないじゃない」
すると、リアムが溢れてくる涙を指でぬぐいながらあまりの2人の慌てように笑って間違いを指摘する。
「そ、そっか・・・」
「だよな。お前とは積もる話もあるしな」
慰めるどころか、涙を流すリアムにフォローされてしまった2人は、ニカは再び顔を赤くして、だがウォルターは落ち着いた様子で過去を振り返りながら自分も同じ気持ちであることを顕にする。
「積もる話・・・か」
リアムは、そんなウォルターの何気ない言葉の一つにしんみりと浸る。
『そっか・・・』
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しかしそこには確かに変わってしまったものもあって──。
「そっか・・・本当にもう、1年が経っていたんだ」
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