アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
151 空論、または推論
「ククク! 成功ですよゲイルくん!」
「はい先生!」
コンテスト会場の出入り口、その影でフードを被った2人の不審者が笑う。
「中毒状態?」
レイアの口から告げられた、リアムの異常状態。
「リアムなにか変なもの食べた?」
「変なもの・・・シチュー・・」
記憶に意識をフルに巡らせて、レイアの質問に昨晩食べたシチューを挙げてしまうリアム。だが──
「でもそれはラナさんも口にしていました。ですから・・・」
フラジールから、限りなくその可能性を否定できる情報がもたらされる。
「っしゃラナ!」
「はいはーい!」
早速視点を変えてみれば、ラナは自身の身体強化、更にフラジールが戦闘直前にかけたバフを纏って華麗にオークを翻弄して戦っていた。兄弟同士、ウォルターとの連携はそれはもう見事なもので──
「中毒状態・・・」
一方、2人の会話が流れた会場でも、波紋が広がっていた。
「一体どういうことだ?」
「さ、さぁ、ちょっとわからないわ」
もちろん、彼の一番身近な存在であるウィルとアイナにもわからない緊急事態である。しかし──
「これエド。どうしたんじゃ? 顔が青くなっておるぞ?」
場内で1人だけ、違う反応を表情に浮かべる者がいた。
「か、母さん。僕はその、とんでもない見逃しをしてしまったかもしれない」
マレーネに1人異質な反応をしていることを指摘されたエドが告げる。
「見逃し? いったいなにを・・・」
「昨晩、僕たちはエリアDでリアムくん達を助けた後、エリアCのキャンプを通ったんだ」
マレーネの切り返しに、詳細を話し始めるエド。
「そこでテントの傍、誰もいない料理が並べられた食卓を見た」
彼は昨晩、自分たちがそこで見た物について詳しく説明をしていく。
「あぁん? エド、もしかしてあの劇物シチューの鍋があった食卓のことか?」
「そうだよ。カミラ」
「でもあれはひどい臭いだったし、そもそも人間の食いもんじゃなかったぞ?」
すると、昨晩彼と一緒に行動していたカミラが会話に参加する。
「それに、あれから毒の臭いはしなかったんだろ?」
「けどもし、あの香辛料がたくさん使われた料理をいいことに、フェイクの毒物を盛ったとしたら?」
彼は今、最悪の状況を想像して話を進めていた。
「あの怪しい2人組か・・・」
すると、唐突にカミラが不審な言葉を口にする。
「「怪しい2人組?」」
ふと、呟いたカミラの言葉に反応する大人たち。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
すると突然──
「み、見たんですか!? 怪しい2人組を!」
静かに聞き耳を立てていたパトリックが、ものすごい勢いで食いつく。が──
「パトリック!」
次の瞬間、パトリックの名を呼んで彼を再び制止するブラームス。
「おいちょっと待て! その話、ツッコミどころが多すぎるぞ?」
すると、ここまで黙って話を聞いていたウィルが口を開く。
「だいたい作りたての料理を留守番もなくほっといて全員が離れるなんてことあるのか?」
「昨晩橋の近くでちょっとした騒ぎがあったんだ。だからあのテントを使っている人間が1人もいないことに不思議に思わなかった」
エドが、ウィルの疑問を追って潰す。
「父さん・・・今朝ギルドから報告があった幽霊橋での事件ですが・・・」
「うろたえるなパトリック。おそらくエドガーの言った騒ぎとはそれのことであろうが、他は想像の話である。その食卓がミリア達のものとは限らぬし、その怪しい2人組もウロウロしていたという情報だけでは証拠が不足しすぎている。怪しいことに変わりないが、目当ての者たちとは限らん」
そんなウィルとエドの会話に紛れて、コソコソと言葉を交わす2人が──
「おいジジイ?」
「む? なんだウィリアム」
「あんたさっきから何コソコソとパトリックと話してるんだ?」
と、それを怪しんだウィルが、その片割れに問いかける。
「なに・・・今パトリックの話にあった幽霊橋での騒ぎ、それが今朝のギルドの報告にあったと言う確認をしていただけだ。が、それもエドガーの話とは関連性のみえないもの。意図的なものだったかも怪しい事象に近い一件だ」
「本当に、それだけか?」
「ああ。それだけだ」
ブラームスは、とっさの機転でそれを回避する。さすがは領主、そして公爵と言ったところではあるか。
「そうか・・・」
が──
「でもなぁんか、やっぱりさっきから2人とも怪しいんだよな」
「お前の言っていることはよくわからん」
戦闘前、そして今とそれまでにパトリックととった不審な行動がまずかった。
「そうかそうか。だったら仮にミリアちゃんになにか不幸な出来事があって、俺がその情報の一端でも掴んでいても話す必要はないわけだ」
「貴様! 一体なにを口走っているのだ! 今の言葉、冗談だけでは済まぬ話だぞ!」
訂正しろ! と、まくし立てながらウィルに訂正を求めるブラームス。
「例えばパトリックの話が事実だとして、毒を飲んでいたのがミリアちゃんだったかもしれないんだぞ?」
しかし──
「・・・! それは・・・」
ウィルはブラームスの怒りにひるむことなく──
「おいジジイ一体なにを知ってる! 隠してる! 包み隠さず話せ!」 
彼の怒りを逆手にとって、自分の膨らんだ怒りと共に疑念の胸中を吐き出してぶつける。
「まあ待ってよウィル! そもそもあの激臭シチューが彼らのものだったって確証は──!」
「だがエド、ウチの息子が狙われた可能性があるんだぞ? それでも・・・」
「僕の話はあくまでも不確実のもので、事実から想像を膨らませた空論に過ぎないんだ」
しかし次の場面では──
「だからあの食卓が彼らのものだったかも、不確実なんだ」
「だな。おいウィル頭を冷やせ。お前ちょっと急ぎすぎだ」
大声で公爵に迫るウィルをエドがなだめ、カミラが咎める。
「ウィル。一旦席につきましょ。あなたが焦る理由もわかるけど・・・」
そして、彼の妻であるアイナも。これには──
「はぁー・・・すまなかった。ちょっと冷静じゃなかった」
アイナの説得もあり、息を一回深く吐き出すとゆっくりと自分の席に座るウィル。
「エドも悪かったな。お前はただ可能性を話してくれただけだったのに」
「いいんだウィル。僕こそ想像だけで君を不安にさせるようなことを言ってしまった。すまない」
お互いが、お互いのミスを認めて頭を下げて謝る。ウィルとエド、そして元アリアのメンバーたちには、それだけの確かな繋がりがあった。
「それにあの食卓にあった件のシチューはカミラの言った通り誰かが口にできるような物じゃなかった。あれだけの香辛料となると、出所も限られてくる。だから子供たちがあんなに大量の香辛料を持ってること自体がありえない話だったよ」
さらに、それにと続けてウィルを安心させる言葉を付け加えるエド。エドの言った通り香辛料は貴重なものだ。そう、激臭がするほどの大量の香辛料を入手し、それが入ったシチューなど子供たちが作れるはずが・・・ん?
『・・・まさか』
この時、パトリックを始めとする──
「ち、父上・・・」
「あ、ああ」
「母上・・・」
「え、ええ」
ブラームス、そしてマリアの公爵一家の頭の中に、不穏なある事件、事実と考えがよぎることとなる。
「だよな・・・絶対バカ味だとわかっているシチューをリアムが食べるはずもないか」
ウィルがエドの話を聞いて頷く。彼の息子リアムは、現在、食事処を作る計画を鋭意立てて進行しているくらいには料理の心得があり、そんな絶対地雷だとわかるものをわざわざ口にするはずがない。また、エドの発言はリアムの姿を今日知ったくらいで人物情報も異常な魔力と多才の親友の子というぐらい、ほとんどそのバックグランドを知らなかったために仕方のないことであるのだが、香辛料の入手に関して言えばリアムは子供ながらに荒稼ぎしていて大金を持ってるし、食品を扱うテーゼや珍しい東洋の食品を扱う鈴屋との繋がりがあるために可能性もあった。香辛料は領での自給率が低く、その多くを輸入に頼っているいわば高級で貴重な品である。しかしだからこそ、やはりリアムが自分の管理をしている香辛料をそんな無駄遣いする息子ではないとウィルは信じていた。その自信故の、この発言であったのだが──
「ウィリアム。その、話が落ち着いたところでこういうことを言うのは気がひけるのだけれど・・・」
納得したと一旦話を飲み込んだところで、恐る恐るとした様子のマリアが話しかけてくる。
「マリア様?」
ウィルは首を傾げて答える。なんであろうか、いつも凛としている彼女がこんな相手の様子を伺うような調子で話すのは珍しい。
「マリア!!」
「母上!?」
瞬間、ブラームスとパトリックが慌てた様子で間に割って入る。
「ちょっと待たぬか? とにかく子供達がクリアして話を聞いた後でも──」
「でもウィリアムには知る権利があるわ。もし考えたくないことだけれど子供たちが敗走してしまったらどうするつもり? 原因が悪い想像通りだったら、その時はどう責任を取るの?」
「・・・どういうことだ?」
一度納得しかけていたウィルが食いつく。
「はぁ・・・一昨日のことだ。城の厨房から大量の香辛料がなくなる事件があったんだが・・・」
そんな状況で、さすがにはぐらかしはきかないと観念したブラームスが重い口を開く。
「「・・・!?」」
「どうやら、遠征に出るミリアが勝手にそれを持ち出したらしいのよ。ほらあの子、リアムくんに空間魔法を付与してもらったポーチを持っているから、コックが気づくまで持ち出したことに誰も気づかなくて・・・」
「な、んだと・・・」
マリアの発言に、皆の表情が凍りつく。
「リアムくんはなぜか昨晩エリアDに入っていたみたいだし、その間に彼らの晩ご飯に妹がいたずらをしたとして、それを彼に無理やり食べさせる可能性は・・・」
更に、パトリックが語る仮の話。これには──
『『・・・ありそう』』
この時、リアムとミリアの関係性を知る誰もがその光景を容易に想像できたという。事実、実際それが現場では起きてしまっていたわけだが。
「おい、じゃあやっぱり」
「もしかして、城の厨房に毒でもあって間違ったとかそういうことじゃないよな?」
「そ、それはもちろん違う! 城の厨房に毒物があるはずもない。それこそ大問題だ!」 
「だよな。それじゃあさっきの話にあった怪しい2人組は登場しない」
再び、話が悪い方向へと動き出す。が、その時──
「「ウォォォォォー!」」
突然の轟音。会場中が、今日一番の熱気と歓声に包まれる。
「クリアー! 見事最後のオークをバトルメイジのエリシアが仕留め、勝利です!」
・
・
・
「「「エッ?」」」
瞬間、スクリーンから目を離していた大人たちは、ナノカの実況によって、子供達のミッションクリアの事態を知ることとなった。
「はい先生!」
コンテスト会場の出入り口、その影でフードを被った2人の不審者が笑う。
「中毒状態?」
レイアの口から告げられた、リアムの異常状態。
「リアムなにか変なもの食べた?」
「変なもの・・・シチュー・・」
記憶に意識をフルに巡らせて、レイアの質問に昨晩食べたシチューを挙げてしまうリアム。だが──
「でもそれはラナさんも口にしていました。ですから・・・」
フラジールから、限りなくその可能性を否定できる情報がもたらされる。
「っしゃラナ!」
「はいはーい!」
早速視点を変えてみれば、ラナは自身の身体強化、更にフラジールが戦闘直前にかけたバフを纏って華麗にオークを翻弄して戦っていた。兄弟同士、ウォルターとの連携はそれはもう見事なもので──
「中毒状態・・・」
一方、2人の会話が流れた会場でも、波紋が広がっていた。
「一体どういうことだ?」
「さ、さぁ、ちょっとわからないわ」
もちろん、彼の一番身近な存在であるウィルとアイナにもわからない緊急事態である。しかし──
「これエド。どうしたんじゃ? 顔が青くなっておるぞ?」
場内で1人だけ、違う反応を表情に浮かべる者がいた。
「か、母さん。僕はその、とんでもない見逃しをしてしまったかもしれない」
マレーネに1人異質な反応をしていることを指摘されたエドが告げる。
「見逃し? いったいなにを・・・」
「昨晩、僕たちはエリアDでリアムくん達を助けた後、エリアCのキャンプを通ったんだ」
マレーネの切り返しに、詳細を話し始めるエド。
「そこでテントの傍、誰もいない料理が並べられた食卓を見た」
彼は昨晩、自分たちがそこで見た物について詳しく説明をしていく。
「あぁん? エド、もしかしてあの劇物シチューの鍋があった食卓のことか?」
「そうだよ。カミラ」
「でもあれはひどい臭いだったし、そもそも人間の食いもんじゃなかったぞ?」
すると、昨晩彼と一緒に行動していたカミラが会話に参加する。
「それに、あれから毒の臭いはしなかったんだろ?」
「けどもし、あの香辛料がたくさん使われた料理をいいことに、フェイクの毒物を盛ったとしたら?」
彼は今、最悪の状況を想像して話を進めていた。
「あの怪しい2人組か・・・」
すると、唐突にカミラが不審な言葉を口にする。
「「怪しい2人組?」」
ふと、呟いたカミラの言葉に反応する大人たち。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
すると突然──
「み、見たんですか!? 怪しい2人組を!」
静かに聞き耳を立てていたパトリックが、ものすごい勢いで食いつく。が──
「パトリック!」
次の瞬間、パトリックの名を呼んで彼を再び制止するブラームス。
「おいちょっと待て! その話、ツッコミどころが多すぎるぞ?」
すると、ここまで黙って話を聞いていたウィルが口を開く。
「だいたい作りたての料理を留守番もなくほっといて全員が離れるなんてことあるのか?」
「昨晩橋の近くでちょっとした騒ぎがあったんだ。だからあのテントを使っている人間が1人もいないことに不思議に思わなかった」
エドが、ウィルの疑問を追って潰す。
「父さん・・・今朝ギルドから報告があった幽霊橋での事件ですが・・・」
「うろたえるなパトリック。おそらくエドガーの言った騒ぎとはそれのことであろうが、他は想像の話である。その食卓がミリア達のものとは限らぬし、その怪しい2人組もウロウロしていたという情報だけでは証拠が不足しすぎている。怪しいことに変わりないが、目当ての者たちとは限らん」
そんなウィルとエドの会話に紛れて、コソコソと言葉を交わす2人が──
「おいジジイ?」
「む? なんだウィリアム」
「あんたさっきから何コソコソとパトリックと話してるんだ?」
と、それを怪しんだウィルが、その片割れに問いかける。
「なに・・・今パトリックの話にあった幽霊橋での騒ぎ、それが今朝のギルドの報告にあったと言う確認をしていただけだ。が、それもエドガーの話とは関連性のみえないもの。意図的なものだったかも怪しい事象に近い一件だ」
「本当に、それだけか?」
「ああ。それだけだ」
ブラームスは、とっさの機転でそれを回避する。さすがは領主、そして公爵と言ったところではあるか。
「そうか・・・」
が──
「でもなぁんか、やっぱりさっきから2人とも怪しいんだよな」
「お前の言っていることはよくわからん」
戦闘前、そして今とそれまでにパトリックととった不審な行動がまずかった。
「そうかそうか。だったら仮にミリアちゃんになにか不幸な出来事があって、俺がその情報の一端でも掴んでいても話す必要はないわけだ」
「貴様! 一体なにを口走っているのだ! 今の言葉、冗談だけでは済まぬ話だぞ!」
訂正しろ! と、まくし立てながらウィルに訂正を求めるブラームス。
「例えばパトリックの話が事実だとして、毒を飲んでいたのがミリアちゃんだったかもしれないんだぞ?」
しかし──
「・・・! それは・・・」
ウィルはブラームスの怒りにひるむことなく──
「おいジジイ一体なにを知ってる! 隠してる! 包み隠さず話せ!」 
彼の怒りを逆手にとって、自分の膨らんだ怒りと共に疑念の胸中を吐き出してぶつける。
「まあ待ってよウィル! そもそもあの激臭シチューが彼らのものだったって確証は──!」
「だがエド、ウチの息子が狙われた可能性があるんだぞ? それでも・・・」
「僕の話はあくまでも不確実のもので、事実から想像を膨らませた空論に過ぎないんだ」
しかし次の場面では──
「だからあの食卓が彼らのものだったかも、不確実なんだ」
「だな。おいウィル頭を冷やせ。お前ちょっと急ぎすぎだ」
大声で公爵に迫るウィルをエドがなだめ、カミラが咎める。
「ウィル。一旦席につきましょ。あなたが焦る理由もわかるけど・・・」
そして、彼の妻であるアイナも。これには──
「はぁー・・・すまなかった。ちょっと冷静じゃなかった」
アイナの説得もあり、息を一回深く吐き出すとゆっくりと自分の席に座るウィル。
「エドも悪かったな。お前はただ可能性を話してくれただけだったのに」
「いいんだウィル。僕こそ想像だけで君を不安にさせるようなことを言ってしまった。すまない」
お互いが、お互いのミスを認めて頭を下げて謝る。ウィルとエド、そして元アリアのメンバーたちには、それだけの確かな繋がりがあった。
「それにあの食卓にあった件のシチューはカミラの言った通り誰かが口にできるような物じゃなかった。あれだけの香辛料となると、出所も限られてくる。だから子供たちがあんなに大量の香辛料を持ってること自体がありえない話だったよ」
さらに、それにと続けてウィルを安心させる言葉を付け加えるエド。エドの言った通り香辛料は貴重なものだ。そう、激臭がするほどの大量の香辛料を入手し、それが入ったシチューなど子供たちが作れるはずが・・・ん?
『・・・まさか』
この時、パトリックを始めとする──
「ち、父上・・・」
「あ、ああ」
「母上・・・」
「え、ええ」
ブラームス、そしてマリアの公爵一家の頭の中に、不穏なある事件、事実と考えがよぎることとなる。
「だよな・・・絶対バカ味だとわかっているシチューをリアムが食べるはずもないか」
ウィルがエドの話を聞いて頷く。彼の息子リアムは、現在、食事処を作る計画を鋭意立てて進行しているくらいには料理の心得があり、そんな絶対地雷だとわかるものをわざわざ口にするはずがない。また、エドの発言はリアムの姿を今日知ったくらいで人物情報も異常な魔力と多才の親友の子というぐらい、ほとんどそのバックグランドを知らなかったために仕方のないことであるのだが、香辛料の入手に関して言えばリアムは子供ながらに荒稼ぎしていて大金を持ってるし、食品を扱うテーゼや珍しい東洋の食品を扱う鈴屋との繋がりがあるために可能性もあった。香辛料は領での自給率が低く、その多くを輸入に頼っているいわば高級で貴重な品である。しかしだからこそ、やはりリアムが自分の管理をしている香辛料をそんな無駄遣いする息子ではないとウィルは信じていた。その自信故の、この発言であったのだが──
「ウィリアム。その、話が落ち着いたところでこういうことを言うのは気がひけるのだけれど・・・」
納得したと一旦話を飲み込んだところで、恐る恐るとした様子のマリアが話しかけてくる。
「マリア様?」
ウィルは首を傾げて答える。なんであろうか、いつも凛としている彼女がこんな相手の様子を伺うような調子で話すのは珍しい。
「マリア!!」
「母上!?」
瞬間、ブラームスとパトリックが慌てた様子で間に割って入る。
「ちょっと待たぬか? とにかく子供達がクリアして話を聞いた後でも──」
「でもウィリアムには知る権利があるわ。もし考えたくないことだけれど子供たちが敗走してしまったらどうするつもり? 原因が悪い想像通りだったら、その時はどう責任を取るの?」
「・・・どういうことだ?」
一度納得しかけていたウィルが食いつく。
「はぁ・・・一昨日のことだ。城の厨房から大量の香辛料がなくなる事件があったんだが・・・」
そんな状況で、さすがにはぐらかしはきかないと観念したブラームスが重い口を開く。
「「・・・!?」」
「どうやら、遠征に出るミリアが勝手にそれを持ち出したらしいのよ。ほらあの子、リアムくんに空間魔法を付与してもらったポーチを持っているから、コックが気づくまで持ち出したことに誰も気づかなくて・・・」
「な、んだと・・・」
マリアの発言に、皆の表情が凍りつく。
「リアムくんはなぜか昨晩エリアDに入っていたみたいだし、その間に彼らの晩ご飯に妹がいたずらをしたとして、それを彼に無理やり食べさせる可能性は・・・」
更に、パトリックが語る仮の話。これには──
『『・・・ありそう』』
この時、リアムとミリアの関係性を知る誰もがその光景を容易に想像できたという。事実、実際それが現場では起きてしまっていたわけだが。
「おい、じゃあやっぱり」
「もしかして、城の厨房に毒でもあって間違ったとかそういうことじゃないよな?」
「そ、それはもちろん違う! 城の厨房に毒物があるはずもない。それこそ大問題だ!」 
「だよな。それじゃあさっきの話にあった怪しい2人組は登場しない」
再び、話が悪い方向へと動き出す。が、その時──
「「ウォォォォォー!」」
突然の轟音。会場中が、今日一番の熱気と歓声に包まれる。
「クリアー! 見事最後のオークをバトルメイジのエリシアが仕留め、勝利です!」
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「「「エッ?」」」
瞬間、スクリーンから目を離していた大人たちは、ナノカの実況によって、子供達のミッションクリアの事態を知ることとなった。
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