アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

144 すれ違い

「でもさー、あの子供に痣が一切なかったってのもおかしくないか?」
「どうして?」
「あれだけのアンデットが集まっていれば、瘴気も相当濃くなっていたはずだろ?」
「確かに・・・だけど」
「案外、エドの探してる精霊様の鍵を握ってたりしててね?」

 暗い森の中を、二人の冒険者がものすごいスピードで駆け抜ける。

「カミラ、多分人だろうけど、橋の中央にいっぱい魔力を感じるよ」
「ああ。私も感じた」

 が、彼らは予期せぬ場所で、そのスピードを緩める羽目となった。

「あん? お前らこんな橋の真ん中で何道塞いでんだ? 邪魔だろ!」

 いつもなら通行者もまばらな橋の中央、境界線の向こう側で冒険者たちが──

「それが、境界線を越えられなくなったんだ」
「は?」

 意味のわからないことを抜かして、行く手を阻む。

「嘘つけ! そんなことがあるかっての!」
「本当なんだ! 俺たちは今日エリアDでアンデット共を狩るために日暮れ後にそっちに入る予定だったんだが、もうかれこれ1時間この調子だ」
「ああ、なんか薄い壁みたいなものに弾かれ・・・いや、ぶつかる感じか。とにかく、通れねぇんだ!」

 そして次々と、訳のわからないことを口走るのだ。

「カミラ、どうやら嘘じゃないみたいだけど・・・」

 すると、エドが冒険者たちのあまりの必死さに、彼らのフォローを入れようとするが──

「エドは黙ってて!」
「・・・はい」

 直ぐに、カミラに制される。

『が、確かに嘘は言ってないようだな・・・』

 が、これはどうしたものだろうかとカミラも悩んでいた。エドの言う通り、彼らが嘘を言っているようには見えない。自分以外の味方をして欲しくなくて、ついキツく制してしまったが。

「俺はもうこれ以上激突するのはゴメンだからな! ほらみろ鼻血!」
「そうだそうだ! 」「まだ疑うってんなら自分で試してみろい!」

 すると、境界線の向こう側から、冒険者たちが境界線の向こう側から挑発し、未だ疑いの目を向ける彼女を煽る。

「あ゙゙゙?」

 途端、カミラが底冷えするほど恐ろしい声を出す。が──

「はーん。やっぱ女だな。人を疑うだけ疑って自分で確かめる度胸もねぇなんて!」
「そうだそうだ!」
「なんなら、こっち側からお前が壁にぶつかる惨めな姿を見てやるからはよしろ!」
「お、いいなそれ」「だろ?」

 なんと冒険者たちは、どうせ通れないのだからとそれをいいことに、更に彼女を挑発し、挙句そしる。

「・・・・・・あ゙゙゙?」

 カミラが怒る。

「カミラ・・・なんだかものすごくドスが利いてるよ?」

 エドの言った通り、それはもう恐ろしいドスを利かせて。

「それにほら、皆さんもその、今の内に謝っていた方がいいんじゃないかと。カミラはかなり強いから、目をつけられると後が大変・・・」

 エドが、冒険者たちにも注意を促す。自身、その怒りを自分に向けられたことはほとんどないが、他に向けられた怒りならばたくさん見てきた。これ以上はお互いにとって良くない結果を生む・・・そんな一触即発だった。

「もやしは黙ってろ!」
「ははは、そういえばこいつ、肌もしれぇが髪も真っ白だな!確かにもやしだ!」
「だろ?」「なっはっはもやしだもやし!」

 だが、遂にその罵倒はエドにまで及ぶ。余程、狩の前に足止めを食らったので鬱憤が溜まっていたのだと見える。

「私のことだけならまだ半殺しで済ませてやろうと思ってたが・・・」

 すると、当然カミラの堪忍袋の緒が切れる訳で。

「は、半殺し?・・・カミラ?」

 その言葉に、エドの顔も青くなる。

「エドのことまで悪く言うなんて許せねぇ・・・」

 しかしそんなことは御構い無し、もう彼女の視線の標的はロックオンされる。同時に、凄みも増した。

「は、はん。そんなドスの効いた声で何言おうと、通れねぇんだから怖かねぇよ!」
「そうだそうだ!」
 
 カミラの威圧に少しビビっているじゃないか。なぜこう冒険者というのは張り合いたがるのか、理解に苦しむ。

「そうか・・・だったら」

 途端、カミラが腰の剣を抜刀する。

「だ、大丈夫だ!いくら凄もうが所詮は女冒険者!」
「俺たちが破れなかった壁を破るなんて・・・」

 その動作に、またもや動揺する冒険者たち。しかしそれもその仕方のないこと。今のカミラならば、本当に彼らのいう壁とやらを切るまでやってのけそうだった・・・と、次の瞬間──

「その壁ごとぶった切ってやる!テメェら死ぬ覚悟はできてんだろうな!」

 カミラが右薙に剣を振るい、本当に突進しに行ってしまう。

「へっ?」
「あん?通れんじゃねえかよ」

 が──

「「ゲェー!通れた!」」

 彼女の一閃は中断され、先頭にいた冒険者の首筋に当たるギリギリで止まる。

「あ、その・・・あの・・・」
「まーなんだ・・・言い残したことはあるか」
「「ヒィー・・・!」」

 剣の当たる首筋から、ツー・・・っと、赤い血の線が引かれる。これには、その冒険者含め後ろの輩全員がビビりたおす。なにせ、彼らには彼女の一閃の剣筋を捉えることができていなかったのだから、仕様が無い。

「カミラ、その辺で。彼らも張り切っていたところ出鼻を挫かれて鬱憤が溜まっていたんだ。許してあげよう?」

 しかし、この辺でもう寸劇も終わりでいいだろう。なにせ僕たちは今、急いでいるのだから。

「はぁ、それにこんなことしてる場合じゃないな。お前ら、エドとマイスイートエンジェルに感謝しろよ・・・だが──」

 どうやら、カミラも熱い感情の裏でしっかりと冷静に判断できる余裕を残していたらしい。

「寝言は寝て言え! そんなんじゃこの森に入らない方がいい。特に今日はどうも様子がおかしいからな」

 そして、存外優しいのだ。まあ、今回はこの後のイベントを彼女がとても楽しみにしているから・・・というのもあるのかもしれないが。

「な、なんだ? 橋の真ん中あたりが騒がしいと思ったら急に進み始めたぞ?」

 橋の入り口の手前、渋滞に足止めを食らっていたウォルターたちであったが、なにがあったのかどうやら壁とやらがなくなったらしく、通行が可能となったらしい。

「チッ! 不完全燃焼だ!」

 カミラが、不機嫌そうに舌打ちする。しかし──

「なんだその顔は・・・」

 エドは、そんなことよりも、さっき見せた彼女の優しさがたまらなく嬉しかった。

「うん。さすがは僕の奥さんだ」
「ば!・・・照れること言うな」

 夜の探索に出るため、流れる冒険者たちの人混みを、彼らだけが逆に行く。

「何があったかは知らないが、時間もだいぶ経っちまった。急いでリアムたちを──!」

 同刻、流れ始めた人の流れに乗ろうとメンバーの先頭を歩くウォルターが──

「あの髪は──」

 一瞬、ほんの一瞬。人混みの中に、見覚えのある色の髪を見つける。

『もしかして・・・いや、でもあの人たちは』

 ウォルターは一瞬、迷った。本当に、チラリとそれを見た一瞬に。

「いや、どっちにしても今は──」

 しかし、今の彼にはそれを確かめるだけの時間はなかった。もしただの見間違いだとしたら、それこそ大きな時間のロスとなる。

 ・
 ・
 ・

「これで仕込みは完了だな」
「流石は先生です。臭いはなし、味は少々変わるが元がこれだし奴らも気づきませんね」
「よせ、こんな小賢しい策で褒められても、せいぜい銅貨1枚、いや3枚ってところかな?ハハハ!」
 
 先生と呼ばれる影が商人特有のジョークを言って、得意げに笑う。自画自賛もいいところだ。

「さて、奴らが戻って来る前に──」

 そして、その場から早々に退散しようと──

「退散を──」

──した瞬間!!!

「待てッ!」

 背後から、何者かが彼らを呼び止めた。

「「ギクリッ!!!」

 その瞬間、彼らは驚きのあまり思わず「ギクリッ!」と声を発してしまう。

「おいこいつらギクリッて言ったぞギクリッて」
「そうだね。もし悪巧みしていたのだとしたら、滑稽だね」

 これには、彼らを呼び止めた声の主達も疑惑の目で訝しがる。確かに、これではあまりにも滑稽である。

「お前らなにやってんだ? コソコソと、怪しいなー?」
「いえ、我々はその・・・」

 彼らは、その少ない頭の知恵を振り絞り、言い訳をフルサーチする。

「そう! 先ほどから何やら激臭漂っていたため、原因が何かを突き止めようとしていた所存! 決して怪しいマネなど!」
「激臭?」

 すると意外や意外。なんと先生・・・と呼んでいた方の小さい方の片割れが、質問に答える。

「たしかに、臭いな」
「カミラ。これは香辛料の臭いだよ。それも複数を大量に混ぜて焦がしたような・・・」
「う゛ッ! キッツー! 誰だよこんな劇物生み出したやつぁー!」

 ・・・劇物。

「香辛料は高級品だし、嫌がらせにしても食べる前にこれが毒だとわかる。だとすれば、彼らがこんなイタズラをする必要もない・・・か」
「まぁ、そもそも食いもんダメにするって嫌がらせの可能性もあるが、やっぱりこれだけの香辛料の量だと割りに合わん!それに──」

 それは、疑いをかけられた2人組にとってとても都合の良い考察だった。

「これ作ったのゼッテェろくなやつじゃないな! うん! 普段どんな料理食ってんだか底が知れる」

 普段の生活の質が知れる、これを作ったコックは実にひどい言われようである。これを作った、もといこの劇物に仕上げてしまった者がどんな地位にいる誰ということも知らずに。

「そうでしょう? 我々も、是非これを作った方に一言言ってやりたくて」

 実際、とある毒をシチューに盛った彼らであった。しかし── 

「だよな。これを食うとか絶対ないよな! 臭いだけでもう鼻腔がぶっ壊れ始めた、ズズッ」

 カミラが、刺激のあまりでできた鼻水をすする。そしてこれでは、そもそも対象がこの料理に手をつけるかどうかも怪しい。だが──

「でも異国には、たくさんの香辛料を混ぜて作る料理があるらしいよ。これが案外やみつきなる味らしい」
「本当かエド?」
「・・・」

 この料理がうまいかまずいか、毒物か劇物かは関係ないのだ。問題は、誰が誰のために作ったのかである。

『『それを作ったのは領主の娘だがな・・・』』

 そう。誰が、誰の、・・・ために作ったかである。

「・・・そうか。お前たちは公共のモラルを守るために劇物を作り出した張本人に抗議するべく立ち上がった正義だったのか」

「はぁ・・・」
「まぁ・・・」

 ここまで都合よく解釈されると、嘘をつく方も多少戸惑うという。

「急に突っかかって悪かったな・・・是非、任務を全うしてくれ給え!」
「ごめんなさい。僕たちも先を急いでるもので」

 結果、なんとか彼らは危機を乗り切って、やり過ごすことに成功した。

「急ごうエド。明日は私のマイスイートエンジェルの晴れ舞台だ♡」
「ははは・・・」

 カミラとエドは再び、森に入り目的地に向け駆ける。

「いい判断でしたよ。ゲイルくん」
「いえ。なんてことはないですよ先生。これでも商家の子息ですから」
「あの2人・・・そこらにいる初級中級とは明らかに一線を画しています。妙な揉め事を起こすのは得策ではなかったですからね」
「先生がそこまでいうほどに・・・」

 一方、この2人組も再び森に入り木の陰に隠れると──

「ククク。さて、高みの見物をするために、我々も急いでアースへと戻るとしましょう。これを飲みなさい」
「は、はい」

 怪しげな薬包紙の包みを2つ、それぞれ手に取る。

「臭いも味もきついですが、その分効果は保証付です。さぁグイっといきますよ!」
「はい!」

 そしてそれを口に含むと──

「んぷッ!」
「グッ! まずい!」

 その酷い臭いと味をなるべく感じぬように、一気に水で喉の奥へと流し込む。

──バタリ。

 そして数秒後、彼ら二人は地面に倒れふす。

「・・・ここは」

 カミラとエドのように、身体強化を維持して休憩もなしに超スピードで走りつづけることは難しい。あんな芸当はかなりの実力者しかできない。
 だがガイアの世界では、それとは別に転送陣のある街に速く、それも瞬時に戻ることのできる手段が2つある。

 1つはかなり限定された人間しか使えないが、空間魔法の、あるいは瞬間移動系魔法道具を使うことである。空間魔法、魔道具両方の希少性から、これを実行できるものはかなり限られるが、現実世界でも使えるかなりレアな手段である。

 そして2つ目は、どうしようもなくなった時、遭難してしまったり身動きが取れなくなってしまった時にガイアでだけ使える手法である。特殊なスキルも道具もいらない。ただ、痛みを感じないことに越したことはないが──

「着きました。リヴァイブの門です」
「先生・・・」
「やぁ、着きましたよ。どうです? 痛みはなかったでしょ?」
「はい。さすがは特注品ですね」
「ククク、さあ、高みの見物といきましょう」

 先に転送された男は、背後に立つ門を見て不敵に笑う。そう、そのガイアでだけ使えるその手法とは、わざと自害し、リヴァイブの門から生き返る方法である。

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