アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

139 世界から

──とある大樹の麓の里。

???「まずい! それは予定外です!ドミナティオス様!」
???「コードは?」
???「#%○□の45度線です!急いでください!」
???「承知・・・不可侵の《ノンアグレッション・》境界線ホライズン!」

 この里には、世界中のありとあらゆる季節の花が咲く。春一番に花の花弁を撒き散らす風のように、慌しい里の一角。

「・・・失敗です」
「なんと、ひっかかりおったのに難なくすり抜けるか・・・」

 どうやら、緊急事態のようだ。

「なんの騒ぎかな?」
「「シエル様!」」
「あーあー、彼とのリンク切れちゃったよ。許可証なく立入禁止区域に入るとかどういう神経してるんだ?お前の愛しい人はさ」

 次の瞬間──

「「・・・シエル様」」

 シエルと呼ばれた人影が消える。

「ねぇ、ベル?」

 窓の縁に置かれたひまわりと花瓶。シエルはとある揺り籠の傍、つい数秒前までいた里、そして世界を天空から一望する。

 ・
 ・
 ・

「ここに残ってリアムの作ったシチューを味見しようよ。そして、私たちで味を整えてもっと美味しくすればリアムも・・・ムフフ」

 リアムたちが橋に向かってから数分後──

「ムフフ」

 おたまを手にしたミリアが、シチューの入った鍋の前で不気味に笑う。

「ムフフ」

 そんなミリアが取り分けた味みのシチューを口に、ラナが同じような笑みを浮かべる。

「もう少しバターを足すとコクが増すかも。もう一杯!」
「わかったわ!・・・そうね。あとは私が城のキッチンから盗み・・・もとい持ってきたこの高級香辛料たちを入れればもっと美味しく・・・」
「・・・!?」

 ラナがお皿をミリアに差し出すと、おかわりのシチューをまた取り分ける。

「お姉ちゃん!」
「なぁにレイア?」

 すると、新たに手に渡るシチューの入った皿とスプーンを手にしたラナを──

「そんなの味みじゃなくてもう食事だよ!」
「いやー。やっぱりリアムが味付けしたシチューは美味しいね!」
「ラナ姉・・・」

 レイアが注意するが、そんなの御構い無しにさっさとシチューをすくい取ったスプーンを口に運んではすくい取るを繰り返すラナ。

「それにミリア様があんな風に調理なさるなんて・・・一体なんと言えば」
「ああそれなら、『ここに残ってリアムの作ったシチューを味見しようよ。そして、私たちで味を整えてもっと美味しくすればリアムも・・・ムフフ』って誘っただけだよ? ムフフ」
「そんなこと言ってたのラナ姉!」

 そしてもう空になってしまったシチュー皿を片手に、スプーンを顔の隣あたりにもう片手で掲げたラナが自慢げにミリアを共犯に仕立て上げたカラクリを話す。

「ふふふ・・・このシチューなら」
「ミリアお代わり! 牛乳をあと少し足すとクリーミーさが増すかも!」
「そうね。アクセントを加えたからその分まろやかさを足せば・・・」
「「はぁ・・・」」

 もう、暴走したこの二人は止められない。レイアとフラジールは二人、諦めのため息を吐く。

「あれ、そう言えばティナは・・・」
「ティナさんなら、さっきミリアさんがシチューに何かを入れた瞬間(とき)くらいに向こうの川辺の方に駆けて行きましたが・・・」

 そして、気付いた時には隣からいなくなっていたティナの所在を──

「あー・・」
「おーいラナ! みんな!・・・っと、すんません急いでて!」
「気をつけろガキ!」

 すると──

「ン゛!?」
「ウォル兄?」
「どうしたんでしょう。何やら慌てていらっしゃるようですが」

 声のした方を見ると、大声でみんなを呼びながらキャンプ地の合間を人にぶつかることも厭わないような速さで駆けてくるウォルターの姿が目に入る。

「はぁ・・・はぁ・・・ヴッ! なんだこの刺激臭は・・・!」

 それから、ウォルターは自分たちのキャンプから漂ってくる異臭に目を一瞬しかめたものの──

「じ、実は・・・!」

 その後は手早く簡潔に、橋で何が起きたのかを話す。

「そんな・・・!」
「アルフレッド様・・・」
「リアム・・・」

 ウォルターから、事の顛末を聞いたレイア、フラジール、ミリアがそれぞれの反応を見せる。

「おいラナ! お前何こんな緊急事態にニコニコスプーンなんて口に咥えて──」

──バタン。

「るん・・・だ?」

──ガクリ。

「ラナぁーー!」
「ラナ姉!?」
「ラナさん!」

 ウォルターがラナの肩を揺らし手を離した瞬間、ラナはバタンと地面に倒れ伏し、愕然となった表情のままその首をガクリとうなだれさせた。

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