アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

135 昔はエイを使っていたらしいよバルス

「ダァー!不完全燃焼だー!」

 一人残された部屋で、両手を大きく上げて体の力を入れて抜く。

『あのおじさん。かなりやり手だ』

 途中、目一杯ハンドルを切った意味不明な態度の変わり様であったが、攻め立てる僕に対し昔話を始めたかと思えば、いつの間にか話が終わっていた。

「急にすまなかったね、リアムくん」

 すると、ガスパーを見送って戻ってきたパトリックが、脱力する僕を見て和かに話しかけてくる。

「ぱ、パトリック様! すいません、だらしのないところをお見せしました」
「いいさ。どうか楽にしてくれ」

 そして、僕の前に再び座ると──

「今回は、ガスパー殿からの急な申し出でね・・・いや情けないことに、彼には色々な事業に投資をしてもらっている分頭があがらないところがあって」
「いえ。街を発展させるということが、どれだけ大変なことかは及ばずながら分かっているつもりです。パトリック様こそ、お疲れ様です」
「おや? 顔に疲れが出てしまっていたかな? ふむ、僕もまだまだだな」

 指摘された疲れを誤魔化すように、冗談を言って笑うパトリック。

「あの、パトリック様、先ほどの話の続きの話なんですが、その王都に撤退していった商会は・・・」

 そんな明るく振舞おうとする彼の様子に僕は今だな、と先ほどのガスパーとの話に出てきた商会について尋ねる。

「ああその話か。それなら今も王都で店を開いているよ。優良店だから、尚更たちが悪い」
「その、商会の名前は・・・」
「気を使ってくれてありがとう。そうだね。僕から聞いたというのは内緒だよ?なにせさっき散々言ってしまった分外聞が悪い」

 恐る恐る探りをいれる僕に、再びにへらと笑うパトリックが、その商会の名を口にする。

「ウィスパー商会・・・」

 僕は、そのパトリックから告げられた商会の名を確かめるように呟く。

「パトリック様、その、ウィスパー商会という商会が築いたインフラはどうなったんですか?」
「それはもちろん、ウィスパー商会のノーフォーク支店を買収したウォーカー商会が握っているよ」

 どうやら、本当に今ではこの街から商会は撤退したようである。

「なんか白けてしまったな。そうだ。なんなら気晴らしに城の魔法練習場で数発魔法でも撃っていくかい?」

 すると、僕の考察故に間を置き訪れたちょっとした静けさに、気を使ってくれたパトリックが、僕にそんな──

「いいんですか?・・・でも、もし今の僕がストレス発散で魔法を放とうものなら・・・」

 提案を──

「勢い余って、城まで吹き飛ばしてしまうかもしれません・・・」

 する。

「そ、それは大変だな・・・」
「なーんて、冗談ですが、最近どうも予想外の方へと横にそれることが多く・・・て?」

──ぴちゃん。

「あれ? 上から水が──」
「ああそうだリアムくん! お詫びにお茶でもどうだい? 珍しいお菓子が献上されてね。よかったら・・・」
「いえ。その・・・ミリアに見つかると面倒臭いことになりそうなので、今日はお暇させていただきます。折角のお誘いですが、またお誘い頂けると・・・」

 冒頭、少し動揺したように見えたが、その後は何もなかったように話を切り替えたパトリックの誘いを、僕は断り──

「ああ、そうか。確かに、今日ミリアは勉強の予定がぎっしりだし、我が妹ながらにそんな横で君がお茶でもしようものなら考えただけでゾッとする。残念だが、お茶はまたの機会としよう」
「はい。それではまた」

 一礼して、部屋を後にする。

「・・・行ったよ」
「はぁ・・はぁ・・・申し訳ありません。しかしあの魔力圧は私には少々大きすぎまして・・・」
「それもそうか・・・僕でもちょっぴり寒気を感じたからな。あの歳であれだけの魔力(じつりょく)・・・末恐ろしいな」
「とにかく、作戦は成功だ。これで会頭お墨付きで商会を調べる口実ができた」
「あの・・・ご無礼を承知で申告しますが、今の魔圧で全身が汗でびっしょりですので、はしたなくも一度水浴びか着替えをしたく・・・」
「・・・早く行って来なさい。僕は先に執務室に戻っているから」
「は、では失礼します」

 そして、僕がいなくなった部屋でそんな会話がなされていたことは、当事者である彼ら2人しか知らない事だ。

『あの天井に張り付いていた人、パトリック様の護衛かな?』

 背伸びした時にチラッと見えちゃったんだよな〜・・・魔力が。ついでに好奇心でちょっと威圧しちゃったんだけど・・・と、廊下を一人歩きながらブツブツと唱え歩・・・いていると──

「ま、考えたところで仕方ないか。気晴らしに、新しいレシピの再現でも・・・」
「あ、リアムじゃない。どうして城にあんたがいるのよ」
「・・・・・・」

 Oops! これは予想外の邂逅だ。

「・・・・・・」
「なに? 私の顔に何かついてる? それともまさか惚れ」
「Dash!『僕は今、何も見なかった!』」
「ちょ・・・ちょっと待ちなさいよ! フフフ、この城の中で私から逃げられると思ってるの!」

 僕は脱兎のごとく、その場で回れ右して突っ走る。城の廊下を、それはもう脇目も振らずに。

 ・
 ・
 ・

「ミリア様・・・その左手に引きずってらっしゃるのは・・・」
「城の中で偶然見つけたのよ。丁度いいから、私の練習の成果を見せるついでにコツを聞こうと思ってね」
「確かに魔法の感覚は微妙に違い人それぞれですから、彼は多才ですし参考としては十分・・・しかしいつも言っていますが、人を相手に練習するのはまだ早すぎますから・・・」
「さぁリアム! 私のシビれる華麗で研ぎ澄まされた魔法(わざ)を見せてあげるわ!」
「どうしてなんだー!僕が何をしたっていうん・・・ビリッ」
「・・・って、聞いてないし・・・プフッ」

 罰として、ミリアに今日も魔法を教えに来ていたルキウスのいる練習場へと強制連行された僕。

「頑張ってリアムくん!」
「笑ってないで助けてください学長先生!人体実験はノーです!」
「ここまでは序の口!パルスじゃインパクトに欠けて軽いから半濁点を濁点にして・・・ミリア式電気マッサージ、バルス!」
「いやそのネーミング色々とヤバイから! てかマッサージの周波数・・・いや電圧じゃない!普通の人だと即あの世行きレベル!!!」
「いや〜ピカピカ光って綺麗だなぁ〜。こう教え子が成長していく姿を目で実感できるって教育者としては嬉しいよね」
「うむ。天使が生き生きとし、悪魔が苦しむ姿というのは実にいい。私の執務でやつれた心も潤うというものだ」
「あ、ブラームス様どうも。どうです?とりあえずここ1ヶ月で魔力変換までの基礎は身につけましたよ」
「うむ。これからもその調子で頼むぞ。良きに計らえ」

 すると、執務を途中で抜け出し、娘の成長をストーキング・・・もとい見守ろう隠れていたブラームスが、堂々とルキウスの隣に並ぶ。

「なにあなたまで傍観してるんですか!守るべき領民が、それに良きにって・・・いや良くないから!!仕事してください(怒)!!!」
「ハッハッハ」
「クックック」

 魔法防御力が高いので傷を負ったり苦痛を感じることはなかったが、それはあくまで肉体的なお話。終始ミリアに押さえつけられ大人たちのストレス発散の格好の餌食となった傷は、精神的にはかなりの深手であった。間違っても、あんな殺人マッサージで体のだるさが取れたなんてことは・・・あったので、それが余計に彼を苦しめたことは、余談である。

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