アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

133 パトリックからの呼び出し

「こんにちは」
「おやリアム殿? 今日は家庭教師の日では・・・」
「はい。今日はパトリック様に面会したくて参上しました」

 城の門の前で今日の門番を担当していたのはジュリオ、僕はミリアの家庭教師がない今日この日に城を訪ねてきた理由を彼に話す。

「なるほど。ただパトリック様は先ほど少し出かけてくると城をお出になられて・・・」
「それは・・・タイミングが少し悪かったですかね」

 しかしどうやら、パトリックは今留守であるようだった。

「いえ、しかしご予定では直ぐにお戻りになるとか」
「そうですか。それではここで少し待たせてもらってもいいですか?」
「城の中でお待ちにならないので?」
「はい・・・余計なエンカウントをしてそちらに意識を割く気力が今はあまりなくて」
「その歳で、リアム殿も随分と気苦労絶えないようで」
「わかりますか?」
「ええ、自分が言えた義理ではありませんが、先日の騒動で・・・」

 先日、というと僕が彼とはっきり面識を持ったトードーズ戦後のあの騒動であろう。兎にも角にも、ジュリオの同情も得られたところで、僕は少しここでパトリックの帰城を待つことにする。 

「それに学長先生がミリア様の魔法講義を担当することになったので、これから僕も城を訪問する回数は少しずつ減るかと」
「それは寂しいですね・・・しかし、ミリア様も相当やる気らしいですから、喜ばしいと言えば喜ばしいのか・・・」
「何か・・・あったんですか?」
「つい昨日のことです。城の中の警備に当たっていた私どものところに何やらこそこそとしておられたミリア様がいらっしゃって」

 そして、その間に最近あった世間話をするのだが・・・主に共通の話題となるミリアが中心で。

「最初はまた勉強をお嫌いになって城を抜け出そうとしていたのかと、声をかけてお咎めしたのですが・・・どうやら目当ては最初から私どもだったらしく」
『へぇ・・・めずらしい』
「まだ子供・・・といっても既に10を超えて更に言えば貴族の中でもトップクラスの魔力をお持ちになられる王族家系の公爵様のお嬢様ですから」

 この通りです・・・と、袖をまくってその下にあったやけど跡をちらっと見せるジュリオ。

「何があった・・・いえ、今の話の流れで大体読めました」

 僕は一瞬、驚きのあまり何があったのかと問いただそうとするが。

「薬はもらえなかったんですか? 今回はどう考えても悪いのはミリアだと思うんですけど・・・」
「私も警備の端くれ。それに子供で、ましてや護衛対象である方に傷を負わされたとなればこの上ない恥ですから」

 情けなさく、しかし顔にはできるだけの笑顔を浮かべて頭をかくジュリオ。きっと「やっぱり相手がいた方がやる気が出るわ!」とかいって彼らに魔法の練習相手・・・いや、的にでもしたのだろう。まだ若いがジュリオだって城に勤務するいわばエリート。自由に動けたのであれば、ミリアごときに遅れをとるはずもない。

「なるほど。でもジュリオさんは重要人物を守る護衛の方でありますけど、家系は家系で仕方ない部分もありますし、ミリアも本来は領民を守る立場の人間なんですからそれくらいガツンと文句の一つでもいってやればよかったんです」
「そう言われると、面目次第もないですね」

 一体どの口が言うのか。僕は少し弱気になっていたジュリオの前で得意げに反省点を告げる。しかし、普段の彼女との立場・・・上下関係とここ最近のフラストレーションのせいだろうか。こう裏で誰かのことをああだこうだと言うのはあまりよろしくないことではあるが、口が進む進む。

「それじゃあ、ヒール」

が、一応傷を治してやることも忘れない。このまま自然治癒を待つのは、あまりにもジュリオが不憫だ。

「ありがとうございます。リアム殿」

 ジュリオは突然のことに驚きを見せながらも、律儀にお礼を言ってくる。きっとやけどの跡もそのヒリヒリも急に消えたから戸惑ったのだろうが、僕の魔法能力については彼も既知のことだ。

「これ、僕が作った粗悪品ですが、火傷くらいになら・・・」

 そして、万が一のために僕が亜空間から試作で作ったいくつかのポーションを取り出し机の上に並べていると──

「やぁ、リアムくん。もう来ていたのか。突然呼び出してすまない」

 後ろから、知った声が僕を呼ぶ。

「おかえりなさいませ! パトリック様!」

 突然の主人の帰りに、畏まって挨拶をするジュリオ。そこには、門番の駐留所の入り口に立つパトリックと──

「リアムだと! あの忌々しいテーゼの小僧(ガキ)か!」

 するとその後ろ、少しだけ見えていたとある影の頭がひょっこりとパトリックの背中から顔を出す。

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