アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

99 ぼっち化の悩み

── 1ヶ月後、夜。

「そろそろ一人で潜れるようになりたい・・・」

 僕は一人、自室で悩んでいた。

「マスターは友達が少ない」

 訂正、一応二人だ。

「いやアルフレッドやフラジール、エリシアはそれぞれ自分の勉強があるし、レイアも放課後はビット先生のところで温室の手伝いを始めたって・・・」

「つまりマスターは時間を無駄に消費するニー・・・」

「違うから! 確かに授業はほとんど修了しちゃって暇は持て余してるし、居場所なくて校舎内ブラついてることも多いけれど!一応学生だから!!」

 そう。僕は今、かなり暇を持て余していた。今思えば前世で大学程度の基礎能力はつけていたし、こちらの世界で目新しいことといえば魔法とダンジョンくらい。本当はまだ習えていない魔法練習法や、履修できていない科目もあるにはあるのだが、そこはあれ、残りのスクールライフを楽しむためにストックしている。もちろん、今習っただけの魔法でも前世の知識がある僕からすれば弄りがいのある可能性の塊なわけだが、魔法の研究でも始めようならケイトに目をつけられ、四六時中拘束されこき使われるブラックな泥沼にハマるのは目に見えていた。実際彼女からは何度も勧誘を受けており、そのたびに断るのに結構苦労していたりいなかったり・・・。
 あとは技術チートを使って色々開発もしたいが、こちらは段階を踏んで緩やかにやっていくことが重要だ。それに最近始まったリゲスとの稽古は受けにまわっている。現状彼のスケージュールが空くまで待機してはそれに臨んでいる・・・そんな状況だ。

「でも一人は流石にな・・・不安だ」

 しかしかと言って、ダンジョンの中に一人赴きモンスター狩りを始めるのは不安だ。僕は見た目が見た目だし、妙な諍いもなるべく起こしたくない。

「鴨がネギを背負っているようにしか見えないと忠言します」

「そうなんだよ・・・ああ誰か練習に付き合ってくれる人はいないものか・・・」

 正直行き詰まっていた。ロガリエの時は確かに子供ばかりだったが、それでも数人で動ければそれなりの抑止力になる。なぜなら人数が増えるほど当てなければならない労力は増えるし、最悪死んでも蘇ることができるから、複数の同じ証言が揃えられるために冒険者狩りや追い剥ぎに遭う確率がグンと下がる。 

「魔法を使えば負ける気はしないんだけど、それじゃあ意味ないし」

「宝の持ち腐れというやつですね」

「・・・そうだよ。言語の成長が順調なようで何よりだ」

「それほどでもあります」

「はぁー・・・」

 僕は思わずため息をつく。それにあの時は年上のラナだけじゃなくて冒険者のウォルターも・・・って ──

「そうだ!ウォルターがいた!!」

「個体名レイアとラナの兄ですね?」

「そうそう・・・って個体名ってのは止めろ!!」

 突如見えた一筋の暁光。僕は早速、いつもより早くマレーネの薬屋を訪ねるべく明かりを消して就寝した。

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「それは難しいな・・・」

「お願い! 簡単な仕事に同行させてくれるだけでいいから!」

「だけどなぁ・・・」

 次の日の朝、僕はダンジョンに向かう前のウォルターを捕まえて交渉していた。

「もちろん報酬はいらないし、なんなら講習代としてこっちからいくらか払っても・・・」

「ああ待ってくれ! そういう話じゃないんだ」

「へっ?」

 頭を下げ、依頼として彼に更に頼みこもうとしたが ── 

「まあ、そのな・・・あの出来事をきっかけに俺も色々学んだんだ・・・」

「学んだ?」

「そうだ。確かにあの後日、俺はお前たちといつでもパーティーを組むといったが、それはフリーの探索の話。だから休みの時はいつでも俺はお前たちに付き合ってやるが、仕事は別だ」

 その経過は芳しくなく── 

「第一に、依頼中に別依頼を並行してできる器がまだ俺に育っていない。それに・・・なんというかだ・・・それに限って言えば、お前の方がよっぽど強いからな。これじゃあ俺が負んぶに抱っこ、お前に依存しちまいそうで・・・だから、すまん!」

「・・・そっか」

 結局断られてしまった。しかし彼は彼なりに自分で足掻き成長しようとしている。そういうことであれば、僕がこれ以上駄々をこねるのは論外だ。

「そういうことなら、時間があるときだけでもお願いできるかな?」

「ああ、それだったらいつでも大歓迎だ」

 僕は彼に願える最大を推し量り、最後にもう一度お願いし直す。そしてウォルターも快くそれを引き受けてくれたのだが ── 

「・・・で、こう断って早々言いづらいんだが、そんなにダンジョンに潜りたいなら、スレーブでも雇ったらどうだ?」

「・・・奴隷」

 僕に気を使ってくれたのか、ウォルターがある方法を提案する。

「なんだ知ってたのか? ・・・なら話は早いな。仕事は探索・運搬が主だが、少し高い金を払えば戦闘できる奴隷を借りることもできる。俺もパーティーが組めない時はよく利用している」

 それは奴隷の雇用。正確に言えば奴隷を保有する店から奴隷を借りるのだ。

 この世界にも奴隷は存在する。前世のように個人から組織単位で人を売り買いすることができ、その身と自由を束縛するわけだが、この国ではある程度奴隷の身分保証を行なっている。例えば、その多くは生活が苦しくなり身売りした者なのだが、そこには第一に本人の意思尊重が存在し、労働の自由、体の自由、そして人権の自由と三つの段階から奴隷となる者は自分の身を置くレベルを選び売ることができる。
 労働の自由は労働力として自分の力を売ること。どちらかというと派遣の仕組みに近く、それらの権利を専門の商会が奴隷商より買取、労働力として貸し出すのが主流だ。
 体の自由はその名の通り、体をも売ること。身の自由が束縛され、ほとんどの命令に逆らえなくなる。時には体をも許し、かなりの束縛が伴う。ただし本人の同意なしに傷を負わせたり、虐待することは許されない。
 そして人権の自由は、その実は体の自由と束縛される内容はそうは変わらない。ただ一つ違うのが、身売りする際に得ることのできる金だ。実は国による補償で、奴隷には一定金額以上の賃金を時間の経過ごとに支払わなければならない。奴隷はその賃金を自由に使うことが許され、生活費もそこから賄う。そして体の自由以下を売った奴隷は金を貯め、それらを売った時と同等の金額で権利を主人から買い戻すことで晴れて奴隷から解放されることこそが最終目標なのだ。
 しかし、人権の自由を売った奴隷がそれを達成することは果てしなく不可能となる。なぜなら、国による奴隷補償で課せられる賃金の支払いはあくまでも、労働の自由、体の自由、人権の自由において同じ金額なのだ。身売りによって得られる金は前から順に高くなり、人権の自由レベルで身売りした奴隷の得られる金額は破格、一生仕えても到底貯蓄できるかわからないほどの金額で取引されるケースを指す。それが人権を売ると表現される所以なのだ。

 要するにこの国の奴隷とは質に近い。自分の権利を自分の裁量によって質に入れることで一時金を得る。奴隷の多くはその借金を返すために働き、賃金をやりくりして主人から権利を買い戻す。主人側は期間が長くなるほど賃金を払う義務が発生し、余計な費用がかかるリスクはあるが、その分所有奴隷から買った自由を得ることができる。更に有権者は奴隷所有に際し国への報告義務が発生するが、一方で奴隷所有に対する国からの税がないこともポイントと言える。まあ、犯罪を犯して奴隷に堕とされた犯罪奴隷なんかもいるにはいて、こちらはその保証対象から外れていたりするのだが ── 

「なんなら俺が利用しているスレーブの商会を紹介してやるよ。それだったら安心だろ?」
 
「・・・少しだけ考えていいかな?」

「もちろんだ」

「ありがとう」
 
 とりあえず、僕はこの話を保留することにした。理由は念の為他の意見も欲しいと考えたからだ。・・・父さんあたりにまた、相談してみるのがいいだろう。

 その後、僕はレイアとスクールに登校するまで彼やラナ、レイアたちと団欒しながら、清々しい朝の時間を楽しんだ。

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「スレーブか・・・いいんじゃないか?」

「でもまだ少しリアムには早いんじゃない? 一応監督責任もあるんだから・・・」

「だがいずれは雇うことになるだろう? 俺だってたまに手伝ってもらってるんだ。リアムの提示する労働条件はだいぶ楽だし、変な反発を生むことは限りなくないと思うが・・・最悪奴隷紋もあるしな」

 奴隷紋。それはこの世界特有の魔法で刻まれた奴隷の証、つまりは魔力契約の一種で、契約に背こうものなら注文者は請負人である奴隷に一定の罰を行使できる。

「ウォルターの言ってたって商会はおそらく俺が前に連れてってやった所だ。信用はできる」

「・・・なら大丈夫かしら」

「それじゃあ!」

「でも一つだけ! スレーブは基本仕事を手伝ってもらうために利用するものです。スレーブを雇うお金は自分のお小遣いから出すこと、これだけは言っておきます!」

「おいおいアイナ。リアムは既に小金持ちだ。その辺はわざわざ言わんでも・・・」

「ウィルは黙ってて! こういうことは初めに言っておくことが大事なの!」

「・・・はい」「キシシ!」

 怒声と同時に契約精霊であるバルサを眼前に召喚され狼狽える父さん。しかし母さんが言わんとしていること、それは十分に理解できるものだった。

「はい。責任を持ってスレーブの雇用を行います」

「・・・よろしい。じゃあ、夕ご飯の続きをしましょうか♪」

 つまりは自分の責任を自覚させるために自分のお金を使うこと、管理し報酬を得る努力を惜しまないことである。母さんからの許しを得た僕はその教訓を胸に刻み込み、再びスプーンを手に掴む。

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