アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
80 2度目の仲直り
ミリアとの約束の後、僕は一先ずブラームスのところへ報告に行く。
「貴様・・・随分とミリアに気に入られたようだな・・・」
眉をピクつかせながら、執務の手を止めるブラームス。
「とりあえず、ミリア様の説得は終わりましたので、あとは親子で今後のお話でもと・・・」
僕はそんなブラームスを諌めるべく、その場しのぎの答弁でやり過ごす。すると──
「ミリアだろ!リアム!!」
僕の服裾を掴むミリアが、隣で僕の様付けに対して抗議の声を上げる。
「── ポキッ!」
ブラームスの持っていた万年筆のような筆記具が折れる音。
「えっとあの!僕このあとに用事ができまして・・・とにかく失礼します!!」
「あッ!リアムッ!!」
そんなブラームスを尻目に、僕は早く撤退した方が良いとミリアを置いて、早々に退室した。
▽      ▽      ▽      ▽
「はぁ〜・・・。思わぬ収穫があって僕としては万々歳だったんだけど・・・、最後にまた嫌な土産ができた」
僕はあの時のただならぬブラームスの雰囲気を思い出しながら、持ち帰る悩みが増えたことに肩を落とす。しかし
「お待たせフラジール。じゃあその・・・、アルフレッドのところに連れてってもらってもいいかな・・・」
先ほどブラームスに言ったことはあながち嘘ではない。僕にはこれからまだ、やらなければならないことがある。
「わかりました・・・」
僕の願いを聞いたフラジールはそう言って一礼すると、前を歩いていく。
・
・
・
「その、フラジール!・・・ごめん」
ふと、歩き始めて数分、前を行くフラジールに謝る僕。
「えっと・・・なにを?」
キョトンと後ろを振り向き、僕の方を見るフラジール。
「ミリアの説得に付き合わせて嫌な思いをさせたこと・・・。それに、昨日のダンジョンでの僕の行動や言動について・・・」
こんな流れで彼女に謝る様なことはずるかったかもしれない。しかし僕は今しかないと思った。アルフレッドに謝る前に・・・。
「私は気にしてませんよ!ダンジョンのこと。・・・それに先ほどミリア様とのお話に私の名前を供として出してくれたこと、ありがとうございました・・・嬉しかったです」
すると一転、足を止めて慌てるようにそれを否定したフラジールはそれを許し、更に礼を言うフラジール。
「主人であるアルフレッド様があのようなことになってしまい、危うく面目が潰れてしまうところでした・・・しかし!リアムさんがミリア様に供を打診してくれたおかげで私の供が許され、なんとか首の皮一枚繋がりました」
そして彼女は凛と伸びた背筋のまま僕に微笑みを見せると──
「ありがとうございました」
そのまま、頭を下げて礼をする。
「こ!こちらこそッ!・・・ありがとう!!」
何故か、不格好にも僕にもそうしないといけないような気持ちが込み上げてきて僕も頭を下げる。
『・・・ドキッとした〜』
そして内心、フラジールが向けた微笑みにドキドキしていた・・・。
窓から日の差し込むお城の廊下で、頭を下げあう二人・・・。
僕はその刻々と過ぎる数秒に耐えきれなくなり、恐る恐る、片目を開けて彼女の様子を伺うとする。・・・すると ──
「・・・・・・」
どうやらフラジールもそのなんとも言えない状況下、僕の様子を伺おうとしたのか、チラ見する彼女の目と目が合ってしまう。そして
「ハハハ・・・」
「フフフッ・・・」
大きな声で腹を抱えて笑ったりはしない。胸の中いっぱいに広がる幸せな感情が僕たちを包み込み、緩んだ口元に綻ぶ相好が産む咲いとともに僕たちの不安を一つ、また攫ってくれた。
▽      ▽      ▽      ▽
「それではリアムさん・・・。アルフレッド様をよろしくお願いします」
「・・・行ってくるよ」
フラジールとの和解を無事に済ませ、アルフレッドが待つ応接室へとやってきた僕は、フラジールに見送られながら部屋の扉を叩く。
「いいぞ・・・」
中から聞こえてくる入室許可。
「アルフレッド・・・」
「ああ、リアムか・・・」
ソファに座るアルフレッドのその些細なつぶやきに、僕は緊張する。
「まあ座れ・・・。僕もお前に話があったんだ・・・」
ソファに座りながら、対面のソファを進めるアルフレッド。
「じゃあ・・・」
僕は、ぎこちない足取りでソファの前まで行くと、そのまま腰を下ろす。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして流れる一時の静寂。
「あのさ、怪我は大丈夫だった?」
僕は一先ず、先ほどミリアの私室の前で起こったことを話題に話を詰めていく。
「ああ、お前が魔法で防御してくれたおかげでなんとかなった・・・」
するとアルフレッドも、静かな声色であったがその話題に乗ってきてくれる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しかし再び訪れる静寂。すると ──
「・・・なあリアム。僕は誰かの役に立てる様なれるのだろうか・・・」
「どうして・・・?」
「僕は・・・。今世話になっている公爵様の願いすらも全く遂行することはできなかった」
彼はここの近くの屋敷を借りて、ブラームスの庇護下の元、現在スクールに通っている。そんなブラームスに彼はきっと借りの様なものがあるのだろう。
「それはしょうがないよ・・・。あれはかなり難しい問題だったし、僕も運で得た情報がなければ説得は難しかった・・・」
僕はとりあえず、落ち込む彼を肯定する・・・が ──
「・・・公爵様も学長先生も手を投げた案件だ。・・・しかしだからこそ、僕に役を任せられた時は嬉しかったし、是非に同じ夢を追いかける新しい友人が一人増えるかもしれないと思ったが・・・」
結局その気持ちは虚しく、気休めとなってしまった。
「結局は空回り。意気込みだけが先走っては碌に会話もできず、追い出されて無様に助けてもらう始末。・・・お前がここにいるということは、既にミリア様の説得も成功させたのだろう?」
そう言われると僕は何も言えない。もう一度運で解決したなんてとてもではないが言えないし・・・。
「昨日のダンジョンで起きたことだってそうだ。メンバーのあいつが暴走した時に僕は後ろで見ていただけ。それにゴブリンの2陣目がきた時、あいつに続いて戦闘に参加したのは僕だった」
ますます、なんと声をかけて良いものかわからない。
「結局僕は息巻いていただけ・・・。お前に重荷を背負わせ、引き止めることもできなかった・・・」
そして彼はこうべを垂れると・・・
「すまなかったな」
一言、そう言って黙り込んでしまった。
「・・・・・・」
自分が謝る前に、こうして謝られるとは思ってもみなかった。こうされると、僕がなんと言っていいものか考えるのが難しくはなるが・・・
「ごめん」
率直に、とてもシンプルに僕は彼にそれを伝える。
「・・・なぜ」
するとアルフレッドは、僕のその言葉に驚いた様に顔を上げる。
「それは僕があまりにも自分勝手だったから。・・・相談することもなく気持ちを爆発させてみんなの前でエリシアを非難してしまった。怒鳴って、喚いて、傷つけてしまった」
僕は自分のしてしまったことを悔いながら、告白する。
「それにエリシアをオークから取り返す時のことを言えば、あの時逃げろって言ったウォルターの言葉に反発して下がらなかったのは僕だし、2陣目のゴブリンたちがきた時だって、あんな呆気なくゴブリンたちが倒れた後だとそういう気持ちになるのもわかるよ・・・」
あの時、確かにエリシアがゴブリンライダーを3匹一瞬で倒してしまったのをみて、僕も油断していた。
「僕たちにとっては初めての挑戦だったんだ。完璧な成功なんてありえない、ましてや失敗しないなんて万が一にも・・・」
あの時のロガリエメンバーで無難に動けたのは精々フラジールだけ。僕もフラジールに魔力消費の大きいミストをお願いしてしまったし、ショックボルトでエリシアを傷つけてしまった。
「さっきはミリアの手前あんなことを言っちゃったけど理由はどうであれ・・・フフッ・・・みんなより小さな僕に話しかけてきてくれて、アルフレッドと仲良くなれた時に僕はとても嬉しかった・・・」
「・・・ハハッ」
入学式のあの日、「おいチビがいるぞ」という独特な呼びかけからの奇妙な出会い。それを思い出して僕とアルフレッドは少し笑ってしまう。
「アルフレッドに謝られたのはこれで2回目。だけど今回は僕も君に謝らなければいけない」
アルフレッドに謝られるのは、あの時のスクール初日以来だ。
「勝手なことを言って、逃げて、友人として相談することもせずに感情を爆発させた」
学校という環境で、初めて僕にできた友達だった。
嬉しかった。
こそばゆかった。
・・・そして、楽しかった。
「本当に、ごめんなさい」
友と自分の心をさらけ出し分かり合う。こういう経験は初めてだ。
「僕の方こそ、申し訳なかった」
そしてそのアルフレッドの言葉とともに、僕とアルフレッドは固く握手を交わし、和解した。
「貴様・・・随分とミリアに気に入られたようだな・・・」
眉をピクつかせながら、執務の手を止めるブラームス。
「とりあえず、ミリア様の説得は終わりましたので、あとは親子で今後のお話でもと・・・」
僕はそんなブラームスを諌めるべく、その場しのぎの答弁でやり過ごす。すると──
「ミリアだろ!リアム!!」
僕の服裾を掴むミリアが、隣で僕の様付けに対して抗議の声を上げる。
「── ポキッ!」
ブラームスの持っていた万年筆のような筆記具が折れる音。
「えっとあの!僕このあとに用事ができまして・・・とにかく失礼します!!」
「あッ!リアムッ!!」
そんなブラームスを尻目に、僕は早く撤退した方が良いとミリアを置いて、早々に退室した。
▽      ▽      ▽      ▽
「はぁ〜・・・。思わぬ収穫があって僕としては万々歳だったんだけど・・・、最後にまた嫌な土産ができた」
僕はあの時のただならぬブラームスの雰囲気を思い出しながら、持ち帰る悩みが増えたことに肩を落とす。しかし
「お待たせフラジール。じゃあその・・・、アルフレッドのところに連れてってもらってもいいかな・・・」
先ほどブラームスに言ったことはあながち嘘ではない。僕にはこれからまだ、やらなければならないことがある。
「わかりました・・・」
僕の願いを聞いたフラジールはそう言って一礼すると、前を歩いていく。
・
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「その、フラジール!・・・ごめん」
ふと、歩き始めて数分、前を行くフラジールに謝る僕。
「えっと・・・なにを?」
キョトンと後ろを振り向き、僕の方を見るフラジール。
「ミリアの説得に付き合わせて嫌な思いをさせたこと・・・。それに、昨日のダンジョンでの僕の行動や言動について・・・」
こんな流れで彼女に謝る様なことはずるかったかもしれない。しかし僕は今しかないと思った。アルフレッドに謝る前に・・・。
「私は気にしてませんよ!ダンジョンのこと。・・・それに先ほどミリア様とのお話に私の名前を供として出してくれたこと、ありがとうございました・・・嬉しかったです」
すると一転、足を止めて慌てるようにそれを否定したフラジールはそれを許し、更に礼を言うフラジール。
「主人であるアルフレッド様があのようなことになってしまい、危うく面目が潰れてしまうところでした・・・しかし!リアムさんがミリア様に供を打診してくれたおかげで私の供が許され、なんとか首の皮一枚繋がりました」
そして彼女は凛と伸びた背筋のまま僕に微笑みを見せると──
「ありがとうございました」
そのまま、頭を下げて礼をする。
「こ!こちらこそッ!・・・ありがとう!!」
何故か、不格好にも僕にもそうしないといけないような気持ちが込み上げてきて僕も頭を下げる。
『・・・ドキッとした〜』
そして内心、フラジールが向けた微笑みにドキドキしていた・・・。
窓から日の差し込むお城の廊下で、頭を下げあう二人・・・。
僕はその刻々と過ぎる数秒に耐えきれなくなり、恐る恐る、片目を開けて彼女の様子を伺うとする。・・・すると ──
「・・・・・・」
どうやらフラジールもそのなんとも言えない状況下、僕の様子を伺おうとしたのか、チラ見する彼女の目と目が合ってしまう。そして
「ハハハ・・・」
「フフフッ・・・」
大きな声で腹を抱えて笑ったりはしない。胸の中いっぱいに広がる幸せな感情が僕たちを包み込み、緩んだ口元に綻ぶ相好が産む咲いとともに僕たちの不安を一つ、また攫ってくれた。
▽      ▽      ▽      ▽
「それではリアムさん・・・。アルフレッド様をよろしくお願いします」
「・・・行ってくるよ」
フラジールとの和解を無事に済ませ、アルフレッドが待つ応接室へとやってきた僕は、フラジールに見送られながら部屋の扉を叩く。
「いいぞ・・・」
中から聞こえてくる入室許可。
「アルフレッド・・・」
「ああ、リアムか・・・」
ソファに座るアルフレッドのその些細なつぶやきに、僕は緊張する。
「まあ座れ・・・。僕もお前に話があったんだ・・・」
ソファに座りながら、対面のソファを進めるアルフレッド。
「じゃあ・・・」
僕は、ぎこちない足取りでソファの前まで行くと、そのまま腰を下ろす。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして流れる一時の静寂。
「あのさ、怪我は大丈夫だった?」
僕は一先ず、先ほどミリアの私室の前で起こったことを話題に話を詰めていく。
「ああ、お前が魔法で防御してくれたおかげでなんとかなった・・・」
するとアルフレッドも、静かな声色であったがその話題に乗ってきてくれる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しかし再び訪れる静寂。すると ──
「・・・なあリアム。僕は誰かの役に立てる様なれるのだろうか・・・」
「どうして・・・?」
「僕は・・・。今世話になっている公爵様の願いすらも全く遂行することはできなかった」
彼はここの近くの屋敷を借りて、ブラームスの庇護下の元、現在スクールに通っている。そんなブラームスに彼はきっと借りの様なものがあるのだろう。
「それはしょうがないよ・・・。あれはかなり難しい問題だったし、僕も運で得た情報がなければ説得は難しかった・・・」
僕はとりあえず、落ち込む彼を肯定する・・・が ──
「・・・公爵様も学長先生も手を投げた案件だ。・・・しかしだからこそ、僕に役を任せられた時は嬉しかったし、是非に同じ夢を追いかける新しい友人が一人増えるかもしれないと思ったが・・・」
結局その気持ちは虚しく、気休めとなってしまった。
「結局は空回り。意気込みだけが先走っては碌に会話もできず、追い出されて無様に助けてもらう始末。・・・お前がここにいるということは、既にミリア様の説得も成功させたのだろう?」
そう言われると僕は何も言えない。もう一度運で解決したなんてとてもではないが言えないし・・・。
「昨日のダンジョンで起きたことだってそうだ。メンバーのあいつが暴走した時に僕は後ろで見ていただけ。それにゴブリンの2陣目がきた時、あいつに続いて戦闘に参加したのは僕だった」
ますます、なんと声をかけて良いものかわからない。
「結局僕は息巻いていただけ・・・。お前に重荷を背負わせ、引き止めることもできなかった・・・」
そして彼はこうべを垂れると・・・
「すまなかったな」
一言、そう言って黙り込んでしまった。
「・・・・・・」
自分が謝る前に、こうして謝られるとは思ってもみなかった。こうされると、僕がなんと言っていいものか考えるのが難しくはなるが・・・
「ごめん」
率直に、とてもシンプルに僕は彼にそれを伝える。
「・・・なぜ」
するとアルフレッドは、僕のその言葉に驚いた様に顔を上げる。
「それは僕があまりにも自分勝手だったから。・・・相談することもなく気持ちを爆発させてみんなの前でエリシアを非難してしまった。怒鳴って、喚いて、傷つけてしまった」
僕は自分のしてしまったことを悔いながら、告白する。
「それにエリシアをオークから取り返す時のことを言えば、あの時逃げろって言ったウォルターの言葉に反発して下がらなかったのは僕だし、2陣目のゴブリンたちがきた時だって、あんな呆気なくゴブリンたちが倒れた後だとそういう気持ちになるのもわかるよ・・・」
あの時、確かにエリシアがゴブリンライダーを3匹一瞬で倒してしまったのをみて、僕も油断していた。
「僕たちにとっては初めての挑戦だったんだ。完璧な成功なんてありえない、ましてや失敗しないなんて万が一にも・・・」
あの時のロガリエメンバーで無難に動けたのは精々フラジールだけ。僕もフラジールに魔力消費の大きいミストをお願いしてしまったし、ショックボルトでエリシアを傷つけてしまった。
「さっきはミリアの手前あんなことを言っちゃったけど理由はどうであれ・・・フフッ・・・みんなより小さな僕に話しかけてきてくれて、アルフレッドと仲良くなれた時に僕はとても嬉しかった・・・」
「・・・ハハッ」
入学式のあの日、「おいチビがいるぞ」という独特な呼びかけからの奇妙な出会い。それを思い出して僕とアルフレッドは少し笑ってしまう。
「アルフレッドに謝られたのはこれで2回目。だけど今回は僕も君に謝らなければいけない」
アルフレッドに謝られるのは、あの時のスクール初日以来だ。
「勝手なことを言って、逃げて、友人として相談することもせずに感情を爆発させた」
学校という環境で、初めて僕にできた友達だった。
嬉しかった。
こそばゆかった。
・・・そして、楽しかった。
「本当に、ごめんなさい」
友と自分の心をさらけ出し分かり合う。こういう経験は初めてだ。
「僕の方こそ、申し訳なかった」
そしてそのアルフレッドの言葉とともに、僕とアルフレッドは固く握手を交わし、和解した。
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