アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

74 謝罪と和解

「父さん母さん・・・今日の夜、ちょっと話があるんだけどいい?」 

 あれから一晩がたち、夜が明けて朝食の時間、僕は母さんと父さん相談があることを伝える。 

「あら、なにかしら? ウィルは予定、大丈夫?」 

「ん?いいぞ?」 

 母さんは頬に手を当て、そして父さんはパンを口に運びながらOKをくれる。 

「ありがとう。それじゃあ今日は僕、ちょっと用事あるから先に行くね」 

 そして早めに朝食を終えた僕は、身支度を済ませ家を出る。 

「いってらっしゃーい」 

 玄関のドアを開ける僕を見送ってくれる母さん。 

「もぐもぐ・・・気をつけろよ」 

 そんな母さんの横で、父さんもパンを口に頬張りながらも手を振って見送ってくれる。 

「いってきます」 

 僕はそんな二人に見送られながら、いつも見慣れたこの道を歩き始める。 

 ・ 
 ・ 
 ・ 

「昨日は返事がなくて心配したけど、どうやら大丈夫だったみたいね」 

 アイナがリアムの背中を見送りながら呟く。 

「ああ、今日はリアムのお願いもあることだし、早く帰ってくるよ」 

 そんなアイナに微笑みかけるウィル。 

「それじゃあ俺もぼちぼちいってくるわ」 

「いってらっしゃい」 

 そんないつもと変わらない、平穏な1日が・・・今日も始まるのだった。 


▽      ▽      ▽      ▽ 

「おはよーございまーす」 

 僕はゆっくりと扉を開く。 

「あッ! いらっしゃいリアム!」 

 レジに座るレイアが僕を招く。 

「なにッ!リハムだと!」 

 すると奥の方から聞こえる馴染みのある声。 

「リアムッ!」 
「リアム・・・」 

 そして慌ただしく出てきたのは、少し寝癖の残るラナと木製の柄に毛のついた歯ブラシを咥えていたウォルターだった。 

「おはよう、ラナ、ウォルター」 

 僕はそんな慌ただしい二人に挨拶をする。 

「おう・・・」 

 すると、どこか気まずそうに返事をするウォルター。 

「・・・はは、少し二人と話がしたいんだけど、いいかな」 

 僕はその二人を指名しながら、レイアにも含めて許可をとる。 

「ああ・・・」 

 再び、ウォルターは僕の問いに静かな返事を返すのだった。 


▽      ▽      ▽      ▽ 

「昨日はごめんなさい」 

 僕は率直に昨日の粗相な言動と行動について謝罪する。 

「いや、なんでお前が謝るんだよ!」 

 するとそれに驚いた様に、椅子から飛び上がるウォルター。 

「なはは・・・ウォル兄、先を越されちゃったね」 

 そんなウォルターを横目に、頭をかいて苦笑いする。 

「ああ・・・、まさか先を越されるとは」 

 そしてウォルターもそんなラナに追随し、頭をかいてそうぼやく。・・・こうして二人を見比べると、やはり二人は兄妹だ。 

「あー・・・コホンッ! そのなんだ・・・・・・。謝るのは俺の方だ! すまなかったリアム!」 

 突然・・・。いや、必然ではあったのかもしれないが、唐突に頭を下げ、僕に謝罪するウォルター。 

「私もごめんなさい、リアム」 

 するとその隣にいたラナも、僕に頭を下げて謝罪する。 

「俺はお前たちのロガリエの先導役として・・・。先輩として、お前たちを守ることができなかった・・・」 

 そのまま、頭を下げながら言葉を続けるウォルター。 

「お前たちに先導者を頼まれて、俺はどこか浮き足立っていた。まるで自分がもうベテランになった様で嬉しくて、思慮が欠如していたのかもしれない」 

 ふと気づいた机の上に置かれたティーカップを覗くと、そこにはウォルターの悔恨の表情が写っていた。 

「だから実践指向のサポートなんて軽い考えをして、俺は主武器であるアックスを置いていきお前たちを傷つける結果になった」 

 そして彼は再び顔を上げると、真っ直ぐ僕の目を見据える。 

「俺はどんな思惑があろうと、万全の状態でついていくべきだったんだ。危ないときに皆を守れなければ意味がないからな」 

 自身の胸中を打ち明け、猛省するウォルター。  

「いいや、それは違うよ」 

 しかし己の思考を省み、再起するウォルターには悪いが僕は一点だけ、彼の語るその原因について訂正をする。 

「僕の感じた限り、ウォルターも、そしてラナも・・・。サポートしてくれるって側にいてくれるだけでとても頼もしくて、慎重に僕たちを気遣ってくれていたと思う」 

 それは彼らを責め立てる事でも、慰めでもない。 

「それにまた一度、二人とはダンジョンに潜りていって思うし・・・。その、二人が良ければだけど・・・」 

 あと一言、その一言の前に暴走しそうになる感情。しかしそれは、僕が言わなければならない言葉で、本心から漏れている言葉だ。 

 僕は一度深呼吸し、逸る気持ちを落ち着けて、そして ── 

「いつか僕が二人に追いつくから、その時は一緒にまた冒険してください」 

 両手を差し出し、顔を上げて、僕は真っ直ぐその言葉を二人に伝えることができた。 

「「・・・ッ!」」 

 一瞬、二人はそれに驚いた様にハッと言葉を失う二人。だが ── 

「ああ、もちろんだ!」 

「いつでも誘ってね!」 

  二人は直ぐに僕の手をとり、期待に応えてくれる。すると── 

「あの〜・・・」 

 背後のお店側のドアの方から、恐る恐る僕たちに呼びかける声が聞こえてきた。 

「盛り上がってるところ申し訳ないんだけど、ウォル兄さんはともかく、ラナ姉は今日補講でしょ?・・・そろそろ出ないと間に合わないんじゃない?」 

 申し訳なさそうに言葉を紡ぐレイア。 

「・・・」 
「・・・」 

 僕とウォルターも、黙ってラナの方をに視線をやる。 

「・・・いや〜、一回くらいサボっても問題な」 
「お姉ちゃん!」 

 目を泳がせ、理由にすらならない言い訳をするラナに、レイアの鋭い叱咤が炸裂する。 

「まったくもー・・・。一緒に行こうって誘ったのはお姉ちゃんでしょ? 私だって学校の温室で植物たちの世話があるんだからしっかりしてよ!」 

 プンスカと頬を膨らませながら、腰に手を当てまるで母親の様に姉を咎めるレイア。こういう姉妹関係を見ていると時々、どちらがお姉さんなのかわからなくなってしまう。 

「ごめんごめん。もうそんなに時間が経ってたんだね」

 僕は二人の時間を拘束してしまったことを謝り、再び謝罪する。 

「リアムは悪くないよ・・・」 

 するとそれを聞いたレイアは言いにくそうに言葉を詰まらせながら、僕のフォローをしてくれる。

「だったらさ、僕も学校に用事があるから、一緒に行かない?」 

「ホントッ!? なら一緒に行こう!」 

 スクールは今夏休み。最近は普通の登校日であっても時間を持て余している僕だが、朝の日課として、毎日ポーション作りの練習をしてからレイアたちと一緒に登校している。 
 実は僕も、昨日ある事実が発覚したために学校に用ができたのだ。であるから、今日は僕も学校に顔を出さなければならない。 

「俺は今日は家でゆっくりするよ。何かあったら帰ってこい」 

 そんな僕たちを見送るべく、ウォルターは一緒に玄関先にやってくる。彼はもう中等部を卒業し、現在はフリーで冒険者をやっている。パーティーも決めていなければ自由に散策し、クエストを受けたり素材集めをする気ままな冒険者だ。 

「それじゃあいってきます、兄さん」 
「いってきます」 
「イッテキマース・・・」 

 見送りするウォルターに出かけの挨拶をする僕たち。唯一、補修へと向かうラナはその声に元気がない。  

「なんかリアム・・・変わった?」 

「そう?・・・なんか変?」 

「ううん。別に変じゃない。前のリアムも好きだけど、優しいところや 私はどっちも・・・す・・好き、かな」 

「あはは、ありがとう」 

「う・・うん」 

 そんな他愛無い会話をしつつ歩く通学路。恥ずかしそうに頬を染めるレイアが、それを隠すべくそっぽをむく。 

「わったしも〜」 

 すると突然、横から僕に抱きつくラナ。 

「お姉ちゃん!」 

 それを見たレイアはラナを引き剥がそうとすると、逃げていくラナを追いかけて行ってしまった。 

 夏休みに入っても変わらず付き合える友達がいること。その輪に加わる僕はそれになんだか懐かしさを感じつつも、前を行く二人を追いかけるため、今日も走り出す。 
  

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