アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
35 スキルの個人授業 Ⅰ
「どうかなさったので?リアムさん?」
そんな、汗をかいて喰い入るようにステータスボードと睨めっこしている僕に、ケイトは不思議そうにそう告げる。
「い・・・いえ・・・その、僕の魔力、つい先日まで19万と2501だったんですが・・・。それにこのユニークスキルには見覚えがなく・・・」
しかし未だに混乱解けない僕は、そんな曖昧な返事をケイトに返すことしかできなかった。
「どういうことでしょう・・・」
僕からその理由を聞いたケイトがふと呟く。
「魔力を使用をするとその器である体と魔力が鍛えられて育っていきますが・・・しかしこの魔力の育ち方は異常・・・育ち盛りにしても説明がつかない・・・」
そして一人ブツブツと考察の世界に入るケイト。どうやら僕の身に降りかかった不思議現象が、研究者としてのケイトのスイッチを押してしまったようだ。
「ケイト先生・・・?」
そんなケイトに、一人置いていかれている僕は右往左往しながら彼女の名前を呼んだ。しかし ──
「リアムさんは初めから大量の魔力を保有・・・まさか、魔力の成長量は初期保有量に依存する⁉︎・・・いやしかしそれだけでもまだ___」
どうやら彼女にその声は届いていないらしい。
「ケイト先生・・・ケイト先生!」
僕はそんな様子の彼女に徐々に声を大きくし、名前を呼んで現実に戻そうとする。だが ──
「そもそも魔力の定義とは万物の因子を保有する生命エネルギーの一種・・・。つまりその魔力は保有する種族によって一定の基準を持つはずですが・・・しかしリアムさんは人種 ──・・・?・・・リアムさん、あなた本当に人種ですか?」
「ケイト先生!」
呼びかけにも気付かず、あまつさえ僕の種族さえも疑い始めたケイトに僕は呼びかけ半分、ツッコミ半分で声を荒らげる。
「── どうされました?リアムさん?」
すると、先ほどから呼びかける僕に漸く気づいたケイトであったが、なぜ自分の名が今呼ばれたのか理解していないようにそう返答をする。
「・・・どうされましたって、先生・・・僕ほったらかしで一人研究の世界に浸っていたじゃないですか!・・・それに僕は正真正銘の人種・・・です!」
僕は続けて声を荒らげ、その理由をケイトに伝える。・・・まあ、最後の種族宣言で少し詰まってしまったのはご愛嬌だ。
「そ・・そうですね。これは失礼。少々不適切な発言がありました」
そして自らの現状を今理解したケイトは、片手を握りこぶしにして口の前に持ってくると取り繕うように謝罪する。
「それで、その・・・ですね・・・。いくつか先生に聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
僕もそんなケイトには深く触れないよう、話題の転換とともに質問したいとケイトに尋ねる。
「はい・・・なんでしょう?」
ケイトもどうやら察してくれたようだ。態度を改めたケイトは僕の質問を受け入れる旨を示す。
「先ずはですね・・・、ユニークスキルの《魔眼》とはどういうものか、先生はご存知ですか?・・・急に現れたスキルなので全然把握できてなくて」
得体の知れない発現の仕方をしたユニークスキルに、僕は控えめにケイトにそう質問する。すると ──
「ああ、魔眼についてですか。それは原因がわかっているので大丈夫ですよ」
僕の質問に、頼もしく胸を張るケイト。
「ある文献によれば魔眼とは、生まれ持った才能であり、ユニークスキルとして分類されるそうです。通常はその種族特性に沿った能力を発揮するそうですが、しかし稀に、その眼に大量の魔力が集中した時、眼の変質によって《魔眼》のスキルを所得するものが現れるそうで・・・。そうして所得した魔眼も一応ユニークスキルに分類されるそうですが、その能力は本来の生まれ持った魔眼には遠く及びません」
そう言って、ケイトはつらつらと《魔眼》について説明をしてくれる。
「いわゆる特性が付与されていない純粋な魔力で発現する眼らいしいです。リアムさんは先ほど、その身に大量の魔力を巡らせていましたから・・・試しにその魔眼の項目を押してみてください。その通りならばおそらく『純粋な魔力が集積した眼』という短文が表示されるはずです」
僕はその説明と並行して、ケイトの言った通りにステータスボードの《魔眼》の項を長押しする。すると ──
『純粋な魔力の集積した眼:付与可』
確かにケイトの言ったような説明がポップアップで表示されるが・・・ ──
『なんか余計なものがついてるような・・・』
そこに載っていたのはケイトが教えてくれた文章とは少し違ったものだった。だが ──
「しかしそれでもその能力は素晴らしいものです。ユニークスキル《魔眼》を使えば、例えば無属性の一種である身体強化よりも遠く、かつ明確に対象を視覚に捕らえたり、また夜目も効き、まるで昼間のように暗闇の中でもあたりを見渡せるそうです」
続けてそうユニークスキル《魔眼》の有用性を説くケイトに、僕はとりあえずこの問題を後回しにすることにした。
「ええっとでは次に、この《魔力操作Ⅲ》についてお聞きしてもいいですか?」
そして次の質問に移る僕。
「ああ、それについても大丈夫ですよ」
するとまた、頼もしく原因がわかっていると言うケイト。
「── おそらくリアムさんがお聞きしたいのは《魔力操作》がなぜレベルⅢから発現したのか』ということでしょう?」
実は《魔力操作》の所得については、さっきの魔石の配布の前に一通り説明を受けているのだ。
「はい・・・そうです」
そうして質問の内容に見当をつけて確認をとってくるケイトに、僕は肯定で答える。
「これについてもいくつか前例があります・・・・・・リアムさんも魔石を渡す前に一度ご説明差し上げたのでご存知ではあると思いますが、《魔力操作》は魔力を知覚した段階でそのスキルが発現します・・・そしてレベルが上がるごとに、魔力の操作も上手くなるわけです」
『そこまでは授業で教えてもらった内容と同じだな・・・』
先ほどの復習も兼ねて説明を始めるケイト。
「つまりは、《魔力操作Ⅰ》とは先ほど行った魔石を通して魔力を知覚、操る練習の通過点であり、入門編。そして修練を積み、練度を上げることでそのレベルを上げていくわけですね・・・」
『ふむふむ・・・』
僕はそのケイトの説明に相槌を打ちながら、その続きに耳を傾ける。
「── しかし時々、魔力操作の才能を初めから持ち合わせていたり、内包する魔力が多いと、その魔力を操るのが難しくなる代わりに、一度成功するとそのレベルが一気に上がることがあります。・・・いわゆる《魔力操作》の先天の資質や大器晩成型、といったところでしょうか」
『・・・ということは』
ここまでケイトが説明を終えたところで、僕はその説明から、《魔力操作Ⅲ》を所得するに至った大体の原因に、目星をつける。
「リアムさんはおそらく両方でしょう。まあ・・・後者の場合、もっと歳を重ねてからが基本なのですが・・・先ほど流れ出る膨大な魔力を制御する才能も目の当たりにしましたし・・・」
そのケイトの見識は、大体僕の予想と同じだった。
「ということは、これからはさっきみたいに魔力が暴走することはないんですか?」
そして、おおよその原因がわかった僕は、これからの懸念についてケイトに尋ねる。
「少し違いますね・・・。先ほどの件は、魔力の塞き止めができずに放出していただけで、暴走というわけではありません。本物の魔力の暴走とは荒れ狂う魔力と共に苦痛を伴うもので、その制御なんてとてもではないですが不可能・・・」
どうやら、僕の先ほどの魔石火柱事件は魔力の暴走によるものではなく、ただの大規模な魔力の放出だったようである。
「魔力とは一種の生物システムです。実は、魔力はその存在を保有者が知覚するまでは石のように体内に固まり止まっているのですが、その存在を一度知覚すると、第二の血液のようにゆっくりと全身を循環します。ですから、先ほどの魔力の放出はおそらく融解した魔力の高まりと、手に握る魔石が共鳴し、初めての魔力知覚であったことから起きた事故と言えます・・・・・・実際、リアムさんは今しがた、そして先ほど放出していた時も、体内に流れる魔力を感じることができたのではないでしょうか」
ケイトのその言葉に、僕は現在の状態を確認するため、魔力の知覚を実践してみる。
『確かに、さっきの魔力放出?を塞ぎ止めた時も激しいながら流れは知覚できたし、今も体内にどこかゆっくりと流れる何かを感じることができる』
「もし暴走していれば、魔力の流れなんて感じることはできないと聞きますし・・・」と、僕の様子を見ながら並行して話を続けるケイト。
「魔法とは要は過程とそのイメージ・・・しかし、個人によってはどうしても現象に対する理解やそもそもの資質に差があり、結果として個人の属性格差が生まれます」
『ふむふむ・・・』
「先ほどリアムさんがイメージで魔力を制御したことしかり、私の放った即興の水魔法しかり、強い魔力には相応のイメージと技術が必要となりますが・・・しかし今、スキル《魔法操作Ⅲ》を所得されたリアムさんであれば、これから先、万が一今日のような意図しない魔力への干渉が行われても、ある程度の制御ができるでしょう」
『なるほど・・・』
「スキルの一端は、その所有者に魔法や技術のイメージと過程をタグ付けして、自動的に引き起こしてくれることにあります。つまり、一定の練度によって習得した技術を、普遍的かつスキルや呪文名を唱える、またはさらに使い込めば、息をするように自動的に意思に付随して無詠唱で魔法やスキルを使用することができるわけですね・・・」
『つまりは僕の《隠蔽》のように勝手に意思を汲み取ってくれるということかな・・・少し違うか・・・』
ケイトの説明に僕は、僕の意思を汲み取ってExスキル《隠蔽》が隠蔽する内容を変えることと紐付けしようとしたが、これはなんとなく違う気がし、紐付けはせず、今は別物として考えておくことにした。
「結局、意図しない魔力の流れを制御することは難しいのです。しかし、リアムさんはそれをやってのけました。それは他から干渉する魔力を防衛する術と同等の難しさ、大体、初等部後半から高等部にかけて広く学ぶ内容の一つであります。であるからして、リアムさんはいきなり《魔力操作Ⅲ》のスキルを所得されたのだと、私は考えます」
そういって結論を述べるケイトと、とりあえず頭の中の情報整理を一旦終える僕。
「リアムさん・・・質問は以上でしょうか?それとも何か私の説明でわからないところがありましたか?」
「い、いえそういうわけでは・・・ケイト先生の説明は十分に理解しました・・・えっと・・その・・・!・・・あと一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
そんな少しおどけてあともう一つだけ答えて欲しいと僕が強請る。
「はい、よろしいですよ」
ケイトはその了承の意を示す。そのケイトの言葉に、僕は今一度気を引き締めて、真剣な表情をするのだが・・・しかし ──
「・・・・・・」
中々質問の内容を言葉にすることができない。実は、この質問は今の僕にとって一番重要な内容なのである。
『この質問、いざすると決意はしたものの、やっぱり聞きにくい・・・』
やはり、この質問を他人にするのはちょっと気がひける・・・といっても、家族に尋ねるような内容でもないのだが。
どんどんと最初の決意をよそに、うつむき始め、質問を迷う僕・・・
『やっぱりこの質問、止めておこうかな・・・』
そして徐々に真剣な表情が情けなくなり、やはり質問を取りやめようとしたが・・・
「・・・・・・」
しかし質問を躊躇う僕がふと顔を上げてみると、黙って、何も言わずに真面目な表情で僕の質問を受け止めようと待っているケイトの姿が目に入る。そして
『・・・!やっぱり質問しよう!・・・ここで後回しにするのはただ事実の確認を先延ばしにしているだけ・・・いずれ自分がその不安で潰されるだけだ・・・!』
そして「思い立ったが吉日っていうし!」とそんなケイトの姿に、僕は迷いを捨て、僕にとって大切な質問をケイトにすることを再決意する。そして ──
「あの、ケイト先生は僕のこと・・・気味悪くないですか?・・・その・・・僕、ステータスはこんなだし、自分で言うのもなんですけど、この歳で結構考えが自立しているしているというか・・・平民の出であるにも関わらず、ある程度の文字の読み書きや計算もできますし・・・」
これは決して自慢ではない。・・・純粋な疑問である。
もし僕がケイトの立場であれば、僕はきっと・・・、この得体の知れない生徒に、疑心どころか暗鬼も抱いていたであろうから・・・。
そんな、汗をかいて喰い入るようにステータスボードと睨めっこしている僕に、ケイトは不思議そうにそう告げる。
「い・・・いえ・・・その、僕の魔力、つい先日まで19万と2501だったんですが・・・。それにこのユニークスキルには見覚えがなく・・・」
しかし未だに混乱解けない僕は、そんな曖昧な返事をケイトに返すことしかできなかった。
「どういうことでしょう・・・」
僕からその理由を聞いたケイトがふと呟く。
「魔力を使用をするとその器である体と魔力が鍛えられて育っていきますが・・・しかしこの魔力の育ち方は異常・・・育ち盛りにしても説明がつかない・・・」
そして一人ブツブツと考察の世界に入るケイト。どうやら僕の身に降りかかった不思議現象が、研究者としてのケイトのスイッチを押してしまったようだ。
「ケイト先生・・・?」
そんなケイトに、一人置いていかれている僕は右往左往しながら彼女の名前を呼んだ。しかし ──
「リアムさんは初めから大量の魔力を保有・・・まさか、魔力の成長量は初期保有量に依存する⁉︎・・・いやしかしそれだけでもまだ___」
どうやら彼女にその声は届いていないらしい。
「ケイト先生・・・ケイト先生!」
僕はそんな様子の彼女に徐々に声を大きくし、名前を呼んで現実に戻そうとする。だが ──
「そもそも魔力の定義とは万物の因子を保有する生命エネルギーの一種・・・。つまりその魔力は保有する種族によって一定の基準を持つはずですが・・・しかしリアムさんは人種 ──・・・?・・・リアムさん、あなた本当に人種ですか?」
「ケイト先生!」
呼びかけにも気付かず、あまつさえ僕の種族さえも疑い始めたケイトに僕は呼びかけ半分、ツッコミ半分で声を荒らげる。
「── どうされました?リアムさん?」
すると、先ほどから呼びかける僕に漸く気づいたケイトであったが、なぜ自分の名が今呼ばれたのか理解していないようにそう返答をする。
「・・・どうされましたって、先生・・・僕ほったらかしで一人研究の世界に浸っていたじゃないですか!・・・それに僕は正真正銘の人種・・・です!」
僕は続けて声を荒らげ、その理由をケイトに伝える。・・・まあ、最後の種族宣言で少し詰まってしまったのはご愛嬌だ。
「そ・・そうですね。これは失礼。少々不適切な発言がありました」
そして自らの現状を今理解したケイトは、片手を握りこぶしにして口の前に持ってくると取り繕うように謝罪する。
「それで、その・・・ですね・・・。いくつか先生に聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
僕もそんなケイトには深く触れないよう、話題の転換とともに質問したいとケイトに尋ねる。
「はい・・・なんでしょう?」
ケイトもどうやら察してくれたようだ。態度を改めたケイトは僕の質問を受け入れる旨を示す。
「先ずはですね・・・、ユニークスキルの《魔眼》とはどういうものか、先生はご存知ですか?・・・急に現れたスキルなので全然把握できてなくて」
得体の知れない発現の仕方をしたユニークスキルに、僕は控えめにケイトにそう質問する。すると ──
「ああ、魔眼についてですか。それは原因がわかっているので大丈夫ですよ」
僕の質問に、頼もしく胸を張るケイト。
「ある文献によれば魔眼とは、生まれ持った才能であり、ユニークスキルとして分類されるそうです。通常はその種族特性に沿った能力を発揮するそうですが、しかし稀に、その眼に大量の魔力が集中した時、眼の変質によって《魔眼》のスキルを所得するものが現れるそうで・・・。そうして所得した魔眼も一応ユニークスキルに分類されるそうですが、その能力は本来の生まれ持った魔眼には遠く及びません」
そう言って、ケイトはつらつらと《魔眼》について説明をしてくれる。
「いわゆる特性が付与されていない純粋な魔力で発現する眼らいしいです。リアムさんは先ほど、その身に大量の魔力を巡らせていましたから・・・試しにその魔眼の項目を押してみてください。その通りならばおそらく『純粋な魔力が集積した眼』という短文が表示されるはずです」
僕はその説明と並行して、ケイトの言った通りにステータスボードの《魔眼》の項を長押しする。すると ──
『純粋な魔力の集積した眼:付与可』
確かにケイトの言ったような説明がポップアップで表示されるが・・・ ──
『なんか余計なものがついてるような・・・』
そこに載っていたのはケイトが教えてくれた文章とは少し違ったものだった。だが ──
「しかしそれでもその能力は素晴らしいものです。ユニークスキル《魔眼》を使えば、例えば無属性の一種である身体強化よりも遠く、かつ明確に対象を視覚に捕らえたり、また夜目も効き、まるで昼間のように暗闇の中でもあたりを見渡せるそうです」
続けてそうユニークスキル《魔眼》の有用性を説くケイトに、僕はとりあえずこの問題を後回しにすることにした。
「ええっとでは次に、この《魔力操作Ⅲ》についてお聞きしてもいいですか?」
そして次の質問に移る僕。
「ああ、それについても大丈夫ですよ」
するとまた、頼もしく原因がわかっていると言うケイト。
「── おそらくリアムさんがお聞きしたいのは《魔力操作》がなぜレベルⅢから発現したのか』ということでしょう?」
実は《魔力操作》の所得については、さっきの魔石の配布の前に一通り説明を受けているのだ。
「はい・・・そうです」
そうして質問の内容に見当をつけて確認をとってくるケイトに、僕は肯定で答える。
「これについてもいくつか前例があります・・・・・・リアムさんも魔石を渡す前に一度ご説明差し上げたのでご存知ではあると思いますが、《魔力操作》は魔力を知覚した段階でそのスキルが発現します・・・そしてレベルが上がるごとに、魔力の操作も上手くなるわけです」
『そこまでは授業で教えてもらった内容と同じだな・・・』
先ほどの復習も兼ねて説明を始めるケイト。
「つまりは、《魔力操作Ⅰ》とは先ほど行った魔石を通して魔力を知覚、操る練習の通過点であり、入門編。そして修練を積み、練度を上げることでそのレベルを上げていくわけですね・・・」
『ふむふむ・・・』
僕はそのケイトの説明に相槌を打ちながら、その続きに耳を傾ける。
「── しかし時々、魔力操作の才能を初めから持ち合わせていたり、内包する魔力が多いと、その魔力を操るのが難しくなる代わりに、一度成功するとそのレベルが一気に上がることがあります。・・・いわゆる《魔力操作》の先天の資質や大器晩成型、といったところでしょうか」
『・・・ということは』
ここまでケイトが説明を終えたところで、僕はその説明から、《魔力操作Ⅲ》を所得するに至った大体の原因に、目星をつける。
「リアムさんはおそらく両方でしょう。まあ・・・後者の場合、もっと歳を重ねてからが基本なのですが・・・先ほど流れ出る膨大な魔力を制御する才能も目の当たりにしましたし・・・」
そのケイトの見識は、大体僕の予想と同じだった。
「ということは、これからはさっきみたいに魔力が暴走することはないんですか?」
そして、おおよその原因がわかった僕は、これからの懸念についてケイトに尋ねる。
「少し違いますね・・・。先ほどの件は、魔力の塞き止めができずに放出していただけで、暴走というわけではありません。本物の魔力の暴走とは荒れ狂う魔力と共に苦痛を伴うもので、その制御なんてとてもではないですが不可能・・・」
どうやら、僕の先ほどの魔石火柱事件は魔力の暴走によるものではなく、ただの大規模な魔力の放出だったようである。
「魔力とは一種の生物システムです。実は、魔力はその存在を保有者が知覚するまでは石のように体内に固まり止まっているのですが、その存在を一度知覚すると、第二の血液のようにゆっくりと全身を循環します。ですから、先ほどの魔力の放出はおそらく融解した魔力の高まりと、手に握る魔石が共鳴し、初めての魔力知覚であったことから起きた事故と言えます・・・・・・実際、リアムさんは今しがた、そして先ほど放出していた時も、体内に流れる魔力を感じることができたのではないでしょうか」
ケイトのその言葉に、僕は現在の状態を確認するため、魔力の知覚を実践してみる。
『確かに、さっきの魔力放出?を塞ぎ止めた時も激しいながら流れは知覚できたし、今も体内にどこかゆっくりと流れる何かを感じることができる』
「もし暴走していれば、魔力の流れなんて感じることはできないと聞きますし・・・」と、僕の様子を見ながら並行して話を続けるケイト。
「魔法とは要は過程とそのイメージ・・・しかし、個人によってはどうしても現象に対する理解やそもそもの資質に差があり、結果として個人の属性格差が生まれます」
『ふむふむ・・・』
「先ほどリアムさんがイメージで魔力を制御したことしかり、私の放った即興の水魔法しかり、強い魔力には相応のイメージと技術が必要となりますが・・・しかし今、スキル《魔法操作Ⅲ》を所得されたリアムさんであれば、これから先、万が一今日のような意図しない魔力への干渉が行われても、ある程度の制御ができるでしょう」
『なるほど・・・』
「スキルの一端は、その所有者に魔法や技術のイメージと過程をタグ付けして、自動的に引き起こしてくれることにあります。つまり、一定の練度によって習得した技術を、普遍的かつスキルや呪文名を唱える、またはさらに使い込めば、息をするように自動的に意思に付随して無詠唱で魔法やスキルを使用することができるわけですね・・・」
『つまりは僕の《隠蔽》のように勝手に意思を汲み取ってくれるということかな・・・少し違うか・・・』
ケイトの説明に僕は、僕の意思を汲み取ってExスキル《隠蔽》が隠蔽する内容を変えることと紐付けしようとしたが、これはなんとなく違う気がし、紐付けはせず、今は別物として考えておくことにした。
「結局、意図しない魔力の流れを制御することは難しいのです。しかし、リアムさんはそれをやってのけました。それは他から干渉する魔力を防衛する術と同等の難しさ、大体、初等部後半から高等部にかけて広く学ぶ内容の一つであります。であるからして、リアムさんはいきなり《魔力操作Ⅲ》のスキルを所得されたのだと、私は考えます」
そういって結論を述べるケイトと、とりあえず頭の中の情報整理を一旦終える僕。
「リアムさん・・・質問は以上でしょうか?それとも何か私の説明でわからないところがありましたか?」
「い、いえそういうわけでは・・・ケイト先生の説明は十分に理解しました・・・えっと・・その・・・!・・・あと一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
そんな少しおどけてあともう一つだけ答えて欲しいと僕が強請る。
「はい、よろしいですよ」
ケイトはその了承の意を示す。そのケイトの言葉に、僕は今一度気を引き締めて、真剣な表情をするのだが・・・しかし ──
「・・・・・・」
中々質問の内容を言葉にすることができない。実は、この質問は今の僕にとって一番重要な内容なのである。
『この質問、いざすると決意はしたものの、やっぱり聞きにくい・・・』
やはり、この質問を他人にするのはちょっと気がひける・・・といっても、家族に尋ねるような内容でもないのだが。
どんどんと最初の決意をよそに、うつむき始め、質問を迷う僕・・・
『やっぱりこの質問、止めておこうかな・・・』
そして徐々に真剣な表情が情けなくなり、やはり質問を取りやめようとしたが・・・
「・・・・・・」
しかし質問を躊躇う僕がふと顔を上げてみると、黙って、何も言わずに真面目な表情で僕の質問を受け止めようと待っているケイトの姿が目に入る。そして
『・・・!やっぱり質問しよう!・・・ここで後回しにするのはただ事実の確認を先延ばしにしているだけ・・・いずれ自分がその不安で潰されるだけだ・・・!』
そして「思い立ったが吉日っていうし!」とそんなケイトの姿に、僕は迷いを捨て、僕にとって大切な質問をケイトにすることを再決意する。そして ──
「あの、ケイト先生は僕のこと・・・気味悪くないですか?・・・その・・・僕、ステータスはこんなだし、自分で言うのもなんですけど、この歳で結構考えが自立しているしているというか・・・平民の出であるにも関わらず、ある程度の文字の読み書きや計算もできますし・・・」
これは決して自慢ではない。・・・純粋な疑問である。
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