アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

30 笑われた夢

 Sクラスの教室にいたのは、自分を含めて十五人ほどだろうか。中には実力テスト結果発表時に絡んできたエリシアや、同じクラスからSクラスに入ったデイジーといった見知った顔も見受けられる。
 僕がS+としてこの場にいるため、今年の一般枠は四人であり、どうやら特別枠で入ってきた人数が全体の半数以上を占めているようだ。


「それでは、各人自己紹介をしてもらいましょうか」


 ケイトのその言葉に促され、教室の、生徒から見て右側一番前の席の生徒から自己紹介を始める。


 全体の人数は仮クラスの時より少ないが、教室の広さは前使っていた教室と然程差がない。そのせいか、前の教室より声が通りやすく、よく響くように感じられる。


 一人ずつ名前と抱負を語る簡単な自己紹介が進んでいく。ちなみに、僕、アルフレッド、フラジールは仮クラスの時から長机に共に座っているが、その順番は左から先の通りである。


── そして、いよいよ僕たちの番が来る。


「ょ・・・よろしくおねがいしますぅ」


「皆、よろしくたのむぞ」


 その順番は右から順に流れ、フラジール、アルフレッドが自己紹介を終えた。


『次は僕の番か・・・。なるべく普通に・・・・・・普通に』


 こういう自己紹介の時はなるべく普通に、悪めだちしないことが重要だと僕は思っている。・・・・・・なぜなら、もう既にこれまで十分と悪目立ちしてしまっているから・・・。


「名前はリアム。夢は全ての魔法を自在に操れるようになることです。よろしくお願いします」


 そう、簡潔かつ子供らしい夢を語る僕。


『できた・・!簡潔で子供らしい夢を語った完璧な自己紹介ではないだろうか!』


 そして、うまい具合に自重できたと自画自賛する僕は、内心でガッツポーズする。だが ── 


「「「クスクス・・・」」」


 なぜか教室のあちらこちから、馬鹿にするような笑い声が聞こえてくる。


「はい、素晴らしい立派な夢でしたね・・・・・・。それでは次の方、お願いします」


 注目を集めるように手を合わせ、夢のフォローしてくれるケイト。・・・しかし、その声は実に控えめだ。その後も「ありえね〜」や「ありえないよね」なんて影で同調する周りの生徒たち。


「おい・・・一応確認するが、本当に全ての魔法を自在に扱えるようになると思っているのか?」


 すると自己紹介が終わり、とりあず席に着いた僕に、隣に座るアルフレッドが小声で問いかけてくる。


「えっ・・・・・・ダメなの?」


 僕はその質問に、「それではダメなのか?」と質問に質問で返す。


「お前はなんというか・・・良くも悪くもまだ小さな子供なのだな・・・・・・」


『なんだって・・・!お前にだけは言われたくない!』


 そんな呆れるアルフレッドの発言に、僕は見当違いなツッコミを入れる・・・── 心の中で。


「いいか?よくよく考えてみろ・・・?・・・お前も自分のステータスは見ただろ・・・?」


 しかし、それだけでアルフレッドが言いたいことはわからない。そしてそれを察することができるほど、僕は魔法についての一般常識を持ち合わせていない。
 そんな質問の意図を理解していない僕に、アルフレッドはため息をついてその続きを説明し始める。


「はぁ〜・・・── だからな、人種ヒトシュが扱える魔法属性は多くても精々5属性程度だ・・・」


「あっ・・・」


 僕はようやくアルフレッドが言いたかったことを理解した。


『そういえば僕ら人種が使える属性は平均的に無属性を除いて2〜3属性程度、多くても5属性ぐらいだったっけ・・・』


 属性親和とスキルの魔法が全属性だった僕は、そのことを失念していたことに今、気付かされる。


「・・・わかったか?つまり人種はどうあがいても全ての魔法は使えない。それに、人種より魔法に長けているエルフやドワーフといった妖精種、それから魔族や高位のモンスターでも全属性の魔法が使えたという記録は少ない・・・」


 説明の途中で答えに気づいてしまった僕に、アルフレッドはダメ押しの答え合わせを行う。


「それ故、全魔法を習得するというのは不可能である・・・というのが人種の一般常識なのだ」


 ましてや、僕は家名持ちではない。この世界の家名とは、貴族や名家出身の証および大抵のそのような名門一族は通常魔法や精霊魔法に長けており、平民とは一線を画している。


 どうやら僕は一般常識から外れた夢を語り、その事実が余計にその自爆に拍車をかけたようだ。・・・・・・いわゆる、前世で言う所の痛いロマンチスト、もしくは”厨二病”といえば理解しやすいだろうか。


 ようやく自分が発言した内容の意味を理解し、周りの目の意味を知った僕は、一気に赤面する。・・・しかし ── 


『あれ・・・?でも僕が恥ずかしがる必要ってなくない?』


 一気に赤面してしまった僕であるが、ふと、先の発言を恥じる必要はないのではないかと気づく。


『だって、僕の属性親和全属性だし・・・』


 よくよく考えてみると、それに手が絶対届かないとは限らない立場に自分がいたことを思い出す。


『まあ、一応まだ属性魔法を使ったことはない』


 あくまでも魔法。それにスキル全般は含まれない。


『だったら可能性はあるよね』


 そして、そう自己完結し、周りに笑われ馬鹿にされた件は心の中から恥ずかしさごとかなぐり捨てた。感情から恥ずかしさを捨てた僕は、あらゆる魔法に挑戦できる資格を持つことを再認識し、思わず笑みをこぼす。


「おい・・・どうして笑ってるのだ?」


 僕の内心を知らないアルフレッドからは、その様子はとても不思議、もしくは不気味に見えたのだろう。恥ずかしいことを口走り、馬鹿にされ、自爆したはずの僕が笑みをこぼしているのだ。


「ん?・・・・・・ああ、気にしないで」


 それでも心の底から溢れてくる嬉しさに、新クラスから始まる魔法の授業を今か今かと待ちきれない僕であった。

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