アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

29 クラス発表とケイトの謀略

── エリシア・ブラッドフォード。


 嵐の様に過ぎ去っていった彼女にしばらく立ち尽くしていた僕たちは、その後、なんとか持ち直して次の授業に臨んでいた。


「── それでは、これからランク別のクラス分けを行なっていきたいと思います」


 黒板に大きな紙を数枚貼り付け、教壇に立つケイトが、これからクラス分けを発表する旨を1-2生徒全員に向けて発言する。


「まずはDクラスから ── 」


 そう言って、一番下のDクラスから名前を読み上げていくケイト。そして彼女に呼ばれた生徒たちは口々に溜息や不満を漏らしていた。


「次はCクラスです」


 Cクラスで呼ばれた生徒たちからは、Dクラス同様不満やため息がの声が見受けられたが、その中には一番下で且つ基礎授業の巣窟であるDクラスを回避できた安堵の声も混じっていた。


「次はBクラス」


 その後はBクラス、そしてAクラスという順番に名前が呼ばれ、徐々に安堵の声や喜びの声が多数を占める様になってきた。そして


「では・・・Sクラスの発表です」


『遂に来た・・・!そして僕の名前はまだ呼ばれていない・・・・・・!』


 これまでのクラス発表では僕の名前が呼ばれていない。・・・つまりはそう言うことなのだ!


「その前に、特別枠の方々。特別枠の方々は各々自分自身のクラスをわかっていらっしゃると思うので今回は発表を控えさせていただきます」


 特別枠の生徒はお金を払ってSクラスに入る生徒たちである。名前を呼ばないのは、後々少しでも厄介な垣根を残さないため、おそらく先生なりの配慮なのだろう。


「・・・コホン!・・・このクラスからはSクラス3名の枠の内、2名の生徒がSクラスの生徒として選ばれました。仮とはいえこの1ヶ月間、このクラスを担当していた身としてはとても喜ばしく、そして誇らしくあります。他のランククラスで呼ばれた皆さんも、是非、彼らを見習って日々精進してください。・・・・・・それでは、発表したいと思います・・・」


 少し客観的で常套語のような気がするが、ケイトは生徒に感情移入しやすいタイプの教師だ。そして、この1ヶ月間でその様はよく見て取れた。


『そう考えると感慨深いものがあるな』


 長かった様な短かった様な、その1ヶ月間過ごしたこのクラスとも遂に別れる日が来たのだ。そう考えると何か込み上げてくるものがある。


「それでは、発表したいと思います。・・・Sクラスに選ばれたのは・・・出席番号25番フラジール、出席番号12番デイジー・リトルです」


 名前の読み上げが終わったその瞬間、教室の一角から「やったー」と一人の生徒から喜びの声が上がり、教室の中では祝福の拍手が鳴り響く。


『・・・?・・・なんだって?』


 意味が分からない。僕の名前は呼ばれていない筈なのに、最後の筈のSクラスの名前の読み上げに僕の名前が入っていなかった。


「それでは、明日より先ほど呼びましたクラスでの授業が各々始まりますので、前に貼りでしてある案内を見てしっかりと自分の教室を確認しておくこと。そして皆さん、これからも努力を怠らず精進するように・・・」


 一度言葉を止め教室全体を見回すケイト。そして ── 


「それでは、これにて1-2最後の授業を終わります。1ヶ月間ありがとうございました」


「「「ありがとうございました」」」


 そう言って笑顔で締めくくるケイトと感謝を返す元クラスメイトたち。


 授業が終わり周りの生徒たちはそれぞれ談笑したり前に張り出された案内を確認しに行ったりそれぞれがそれぞれの行動に移っている。


「・・・・・・」


 そんな中、まだ状況が理解できず沈黙しながらも頭の中で混乱している僕。すると ── 


「リアムさん。あなたにお話があるので申し訳ないですが一緒についてきてくれますか」


 誰かが話しかけてくる。


── しかし、僕にその声は届かない。


『どうして呼ばれなかった・・・。もしかして内申点が低すぎて他のクラスで呼ばれたのを聞き逃した・・・いやしかし・・・』


 頭の中で目まぐるしく情報を巡らせ、一つ一つの状況の分析を繰り返す。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


「リアムさん・・・!聞いていますか!」


 誰かが僕を呼ぶ大きな声とともに肩を掴まれ体を揺らされる。


「・・・!・・・・・・ケイト先生?」


 そしてようやく僕はその言葉とその声の主に気がつく。


「やっと気づきましたか・・・・・・大丈夫ですか?」


 やっとのことで反応を示した僕に、すぐに反応しなかったことを心配するケイト。


「だい・・・じょうぶです」


 その心配に、僕は上の空ながらもぼんやりと答えた。


「・・・そうですか。・・・・・・それでは改めてリアムさん。申し訳ないのですがあなたには少しお話があるので一緒についてきていただけませんか?」


「?・・・・・・・はい」


『なんだろうか。申し訳ないなんて先生が生徒と対等の立場で話を持ちかけるなんて・・・。僕の名前がクラス分けの点呼で呼ばれなかったこと?・・・・・・それとももしかして、今になってスクール特別措置ができなくなったので入学したこと自体が取り消し・・・とか?』


 混乱していた僕は、その呼び出しに良からぬ想像を重ねてしまう。


「では、行きましょうか」


 しかし、そんな表には出さない想像を他所に「移動しましょう」と提案するケイト。


 そんなケイトの言葉に僕は黙って立ち上がり、その後についていく。


 教室の扉を開き、先に廊下に出たケイトの後に続くように廊下に出た後扉を閉めるため僕は一度振り返る。


── すると、そんな僕のことを心配そうに見ているフラジールと、不機嫌そうに見るアルフレッドが視界に入った。
 どうやら彼らは、僕を心配して後ろから着いてきていたらしい・・・。


『なんていうか、いい友達だな・・・・・・』


 彼らの姿が視界に入るだけでホッとするような・・・・・・その姿に少し元気が出た。


 それから、僕はそんな様子の彼らになんとか笑顔を作り、手を振って「大丈夫」とアピールする。


 ── そして、フラジールは少し困ったような笑顔で、アルフレッドは「ふんッ」と鼻を鳴らしてそのアピールに答えてくれる。


 僕はその様子をサッと確認した後、教室の扉を閉めて再び歩き始める。そして、その僕の表情からは、扉を閉める前に絞り出した作り笑いが綺麗に解け消え、代わりに溢れ出す温かい照れくささからか、少しだけ深い微笑みを浮かべていた。




▽     ▽      ▽      ▽


「どうぞ」


 僕たちは先ほどいた1-2のクラスがあった校舎とは違う校舎に来ていた。そして今招かれた部屋はどうやらこの部屋はケイトの研究室であり、この棟はスクールの研究棟のようだ。


「それではそちらに掛けてください」


 そう言って椅子を勧めるケイト。研究室の中には実験道具が所々に垣間見えるが、全体的に綺麗に片付いている印象だ。


「はい」


 僕は勧められた椅子に腰掛ける。すると、ケイトも対面するように僕の前の椅子に座った。


「・・・それでは、要件を話しましょうか」


「・・・ゴクリッ」


 僕はそのケイトの言葉に生唾を飲むほど緊張していた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


「── 単刀直入に申しますと、リアムさん、あなた少し先を見据えた勉強をしてみませんか?」


「へっ・・・?」


 間抜けな声を出す僕。単刀直入にと前置きしたケイトの言葉だったが、その意図が全く掴めなかった。


「ええっと・・・すいません。簡潔すぎました・・・。その・・・なんと言えばいいのか・・・」


 それから、ケイトは暗中模索するように手探りの説明を始めた。それから ── 


「── つまり新入生のSクラスとして自由科目や魔法授業についてはそのまま受けていただいて結構なのですが、基礎授業に関しては上級生や中等部レベルの勉強をしてみませんか?・・・ということでして」


 最後にその内容を再度しっかりとまとめ上げ、今度はちょうど良い簡潔具合でその説明をするケイト。また、


「この場合、あなたのクラスの扱いが一応区別され、”S+クラス”というSクラスとは一線を引いたクラスとして便宜を図りたいと思います。もちろん、あなたが望まないのであれば今年はさらに特別に、Sクラスの一般枠を四人としてあなたをSクラスに入れることもできます。・・・ですので先ほどのクラス発表のとき、あなたのランク発表を控えさせていただいたのですが・・・・・・って聞いてますか?リアムさん?」


と、説明する。


 僕の頭の中の一部はショートしていた。そして、最後のケイトからの意識確認で、僕のそのショート部分はようやく復旧される。


「は、はい・・・・・・聞いています」


 なんとか返事を絞り出した。


「そうですか?・・・・・・それで、どうでしょう?」


「?・・・どうでしょう、と言うと?」


 どうやら僕の頭の一部はまだショートしていたようだ。ケイトの質問の意味を完全に理解していなかった。


「ですから、あなたにS+クラスとして更なる特例措置を取りたいと思うのですが、どうですか?と言うことです」


 するともう一度、今度は内容も少し付け足して分かるように質問してくれるケイト。そして ── 


「う・・受けます・・・!」


 僕は、まるで身を乗り出すように慌ててその質問に答えた。


「・・・それはよかったです」


 そう言ってケイトは安心したように微笑みを見せる。


「それでは、そのように便宜を図らせていただきます」


 それに、話の決定事項の確認を簡単に行うケイト。


 そして、それから話は終盤に差し掛かる。


「実をいうと、私も家名もない平民の出なのです。平民出身の先生方の割合でいうと、これがまた意外と多いのですが、皆さん、様々な壁を乗り越えてこの職についてらっしゃいます。かくいう私も、小さい頃からこの職につくまでは様々な壁にぶつかりました。・・・・・・あなたも、特殊な道のりでこれからも何かと壁にぶつかるとは思いますが、自身の目指すべき道の上を歩めるよう、是非、新しいクラスで頑張ってください」


「はい。先生の期待に応えられるよう、これからも新しいクラスで頑張っていきます!」


 自身の経験を語りながらも送るそのケイトの激励に、僕は未来に向けての決意で返す。
 これで、ケイトは僕の担任から外れることとなる。しかし彼女は担任以外にも水、光、風の魔法に魔法陣学の担当も持っている。きっとまた、魔法の授業なんかではお世話になるはずだ。
 僕はそんな便宜を図ってくれたケイトに『恥ずかしい噂は耳に入れまい・・・!』と内心でも固く決意する。すると ──


「なんと言うか・・・。あなたと話していると、時々、年相応らしくなくて、とても不思議な感覚に陥りますね・・・」


 そう言って「フフッ」と笑うケイトに、僕は今後もう少し気をつけるようにしようと、思わぬ形でその決意にダメ押しを受けてしまった・・・。




▽      ▽      ▽      ▽


── 翌日。


「結局、お前もSクラスだったのか・・・」


 昨日教室で別れてから、今日、Sクラスの教室で再開したアルフレッドがそう口から零す。


「いや、それがちょっと事情があって・・・」


 事情を知らないアルフレッドたちに、僕は昨日ケイトと話した内容を伝える。


「はぁ・・・?なんだそれは!なんで僕よりも小さくて貴族でもないお前がそんな特別措置を受けることになるのだ!」


『突っ込むところそこかよ・・・』


 なんと言うか、アルフレッドのこう云うところは未だに変わらず、何故だか安心する。


「そ・・・それでも・・・よかったですぅ・・・」


 すると、そんな僕を励ますようにフォローを入れてくれるフラジール。そしてそんなフラジールに僕は


「やっぱり、は優しいな〜」


と、そうフラジールの部分を強めて彼女を褒める。すると ──


「まあ、良かったのではないか・・・」


 そっぽを向いてこちらをみてはいなかったが、確かにアルフレッドがデレた。


── だが・・・


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


 それからその場は数秒の沈黙に支配される。・・・そして ──


「な・・・」


 その雰囲気に耐えきれなくなったアルフレッドが何かを言おうと何かをふと零すが、その後また口ごもる。


「な・・・?」


 僕はその聞き取れた一文字を声に出し、再度のアルフレッドの発言を促す。


「なんとか言ったらどうなのだーーーーーーッ!」


 突如「ウガーッ!」とキレるアルフレッド。そして僕はそんなアルフレッドを ──


「はいはい、アルフレッドもヤサシイヨー」


と、完全に棒読みで投げやりであったが、慰めるように言葉をかける。すると ──


「お前のそういうところはやっぱり嫌いだ!」


 そう言って拗ねる彼はどうやら相変わらずだ。




 ── それから数分後、Sクラスの教室の扉が開く。どうやらクラス担任の教師がやってきたようだ。


「カツカツカツ」


 その人物が歩くたびにヒールの音が教室に鳴り響く。


『・・・・・・』


 僕はその登場した担当の教師であろう人物に驚きを覚えた。


「カツカツカツン」


 そしてその人物は真っ直ぐ教壇に向かうと、教壇の前で足を止め、クラス全体を見渡すように一瞥する。そして ── 


「それでは、自己紹介を始めたいと思います。」


 きっと幻覚に違いない。そうだ、これはきっと漫画とかでよくある『生徒たちの注意と対応能力を測る・・・!』とか言う魔法を使った抜き打ち試験に違いない。・・・しかし ──


「私の名はケイトです。何人かの生徒はこれまでの1ヶ月間生徒として担当していたので既に存じている子もいるとは思いますが、これから約11ヶ月間、よろしくお願いしますね」


 名前もどうやら間違いないようだ。・・・それに、よく考えてみると、まだ魔法の授業も本格的に履修していない僕たちに、そのような抜き打ち試験を仕掛ける意味もあまりないように思える。


「どうしましたか?リアムさん?」


 僕はきっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたのだろう。ケイトがわざわざ反応するとは相当だ。


「いえ・・・なんでもありません」


 僕はそうなんでもなかったように答える。・・・・・・しかし、今一度よーくみてみると、どうやらそう問いかけるケイトの顔は少し笑っていた。


 そして、僕はそのタイミングで、彼女に一計を案じられたのだと気づく。


『・・・ッ!・・・・・・ぼくの・・・』


 確かに昨日ケイトは新しいクラスで頑張ってね・・・という旨の激励をしてくれたはずだ。


『ぼくの・・・・・・』


 しかし、彼女は自分が新しい担任ではないということは一言も言っていない。


『ぼくの・・・・・』


 それによく考えると、今の時期から新クラスの担当に就くのだから、1ヶ月間の仮担当を担任していた先生たちからその担当が決まることはよく考えればわかったことではないだろうか。


『ぼくの・・・・・・』


 それでも・・・。


『ぼくの・・・ぼくの』


 だからって・・・・・・。


『・・・・・・ぼくの・・・』


 ・・・・・・・。


『・・・・・・』


 ・・・だからって、別にわざわざミスリードしてまで嵌める必要はないじゃないか!


 そしてケイトに嵌められた僕は、『ぼくの!・・・僕の昨日の決意と感動を返せーーー!』と、内心で叫ぶ如く、天井に向かって吠えるのであった。

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