アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

18 アルフレッド

ノーフォーク公立学校 
 ── 通称スクール


 遂に入学式の日を迎えた。


 何もスクールと呼ばれているのはこの学校だけではない。アウストラリア王立魔法学院以外の国に認められた学校の総称である。またスクールには高等部より上が存在しない。中等部を卒業して入ることのできる高等部・学院部はこの国で王立魔法学院にしかない。


 さらにスクールはその学校が建つ領地の領主によって運営されることがほとんどである。故にその領地のスクールには領民であり、税をしっかり払っていれば無償で通うことができる。ただし、教材は各自で用意しなければならない。
 この世界では、紙は十分に流通しているのだが、印刷技術の発展が遅れている。そのため教材は高価なものであり、新品を購入する、卒業生や上学年の学生に譲ってもらう、授業のノートを必死にとる、街の図書館・学校の図書館に通うことで教材を複写をしたりと、生徒にとってその対応と対策は様々だ。
 ちなみに、僕はカリナ姉さんがこれまでにとったノートを教材として使用するつもりだ。


「私のノートでいいの⁉︎・・・はぁ〜、私のこれまでの努力がリアムの役に立つなんて、『し・あ・わ・せ』だわ!」


 恍惚した様で了承するカリナ姉さんの対応に多少の心労を負いはしたが、問題なく事前に「Yes」をもらっている ──


 と、に、か、く!──だ。スクール入学の事前準備も一通り無事に終えたはずだ。


「はい、ローブ」


 母さんが僕に1羽の鷲の紋章が入ったローブを着せてくれる。このローブはスクールが支給してくれるものであり、鷲の紋章は公爵家の紋章からを参考にしたものだ。


 だがこのローブはちょっと・・・いや、かなり大きい。通常は6歳からの入学が一般的なので、スクール支給のローブでは一番小さいのがこれしかなかったのだ。


「やっぱり大きいわね・・・でもリアムもすぐに大きくなるから今だけの我慢よ」


 ダボダボなローブを着こなせる様になるためにも早く大きくなりたいものだ。


「それから・・・はい、これ!」


 そう言って母さんが差し出してくれたのは長方形の30cmほどの箱だ。僕は母さんから箱を受け取る。


「開けてみて」


 母さんに促され箱を開ける。するとそこにはグリップの先に赤い魔石のついた1本の杖が入っていた。


「それはね、昔私が使っていた杖よ。杖には2種類あって、その小さい杖は調合や錬金なんかの繊細な魔法をアシストしてくれるものよ。そして杖は最初から作るよりも、ある程度魔法が上達してから新調した方がいいの。まあ、最初から新品を買ってあげられればそれに越したことはないんだけど・・・火属性の扱いに特化してるし、お下がりになっちゃうけど、普通の杖としては使えるだろうからそこは多めにみてね」


 スクールでは授業中のみトレントの素材でできた簡易的な杖を貸し出してくれる。だから、杖はスクールのものを借りようと思っていた。しかし、自分の杖があれば、授業以外の時間も練習がしやすくなる。


「ありがとう!母さん!」


 これは本当にサプライズだ。このプレゼントはより一層これからの学びのモチベーションをあげてくれる。母さんは良いインセンティブを僕に与えてくれた。


「さ、それじゃあ入学式に行きましょうか」


「うん」


 杖を腰につけた杖ホルダーにしまい、僕はいよいよ始まる学校生活に向けて、家の玄関を出た。




▽      ▽      ▽      ▽


 入学式はスクールの魔法練習場に設営された会場で行われる。


「それじゃあ、いってきます」


「また後でね」


 僕は母さんと別れて入学生受付の方へといく。


「入学生の子供たちは許可証を持ってこちらに並んでください」


 入学生受付に並んでいる子供は僕よりも大きい子ばかりだ。


 受付に並んでいる最中、受付からも見えるスクール校舎の方に、荷物を運んでいるカリナ姉さんと・・・確かラナ!入学試験をカリナ姉さんの模試と間違えて持ってきて、さらにそのまま受けさせるという強行に移った女の子を見つけた。カリナ姉さんたちは朝から在校生として入学式準備に駆り出されている。


 そしてカリナ姉さんもこちらに気づいた様だ。持っていた荷物の箱をパッと離し、僕に手を振っている。当然、突如離された箱はそのまま落ちるわけで・・・。カリナ姉さんが落とした荷物の箱を見て、一緒に荷物運びをしていたラナが横で何か喚いている。


「ハハハ・・・」


 入学試験であった感じ、お調子者の人に迷惑をかけるタイプの様に見受けられたが、あの子はあの子で苦労してそうだ。やがて落とした箱を持ち直したカリナ姉さんは、横で何か言ってるラナと何処かへ荷物運びを再開した。


 カリナ姉さんが見えなくなってから数分後、ようやく受付を済ませた僕は、案内された新入生の待機する場所へと向かう。


『はぁ・・・ここにきて前世の悪い癖が出てくるなんて・・・』


 待機場所へと着いた僕は、入学式が始まるまでの時間を一人で過ごしていた。ここにきて前世のコミュ障がその効果を思う存分発揮する。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


「おい、チビがいるぞ」


 そうぼっちな僕にいちゃもんつけてきたのは、僕より少し背が高いくらいだろうか、新入生の中でも一番小さい僕より少しだけ背の高い男の子だった。


『これ、僕が言われているから主観的に捉えられるけど、他の新入生から客観的に見たら、ものすごいブーメランだろうな・・・』


「ア・・・アルフレッド様、ダ・・・ダメですよぅ」


「うるさい!フラジールは黙ってろ」


 今度は他の新入生と変わらない背丈の女の子が、アルフレッドと呼ばれた背の低い男の子を咎めようとする。しかしアルフレッドはフラジールと呼ばれた女の子の言葉を無理やり制し、こちらに再び視線を戻す。


「我が名はアルフレッド・ヴァン・スプリングフィールド。辺境伯、スプリングフィールド領領主アルファード・ヴァン・スプリングフィールドが次男である。喜べチビ。私自ら、貴様を我が舎弟として認めてやろう。どうだ?嬉しいだろう?」


「スプリングフィールド?」


 僕はこの領地の情報なら日常会話程度の把握はしているが、他領に関してはあまり情報を持っていない。というか、これは魔法とダンジョン以外のことを調べてこなかった弊害だ。


「なんだと?貴様、この公爵領に隣接し隣国にも接するその重要な領地の名を知らぬだと?」


 なるほど。どうやら大領地と隣国に挟まれた中々気力要する領地の様だ。


「はい、知りません。なにせ僕はこれからスクールに入学する身。平民である私は隣接する領地の名も知らぬほどまだ未熟なのです」


「そ、そうか。まあいい」


 あれ?動揺してる?貴族っていうからなるべく丁寧に返したつもりなのだが・・・どうやらあまり肝は座っていなかった様だ。


「で、では改めて・・・貴様をこのスクールでの我が舎弟として認めてやろう。どうだチビ、嬉しかろう?」


 ああ、そういえばそういう話だったっけ。あまりにも興味がなかったせいですっかり忘れていた。


「お断りします」


 取り巻き、またはパシリ認定されて大事な時間を無駄に過ごすのは嫌だ。前世で時間だけは持て余していた僕は、何かに打ち込むことのできる大切さを身にしみて知っている。後々面倒になるかもしれないが、ここはしっかりとお断り申し上げる。


「な、なぜだ!この新入生代表挨拶をする私の配下に加えてやろうというのだぞ?貴族である私の誘いを断るなど!貴様、不敬だぞ」


『そんなの知るか!今初めて知ったわ!なんでそんな知ってるのが当たり前の様な口ぶりで堂々としていられるわけ?貴族ってやっぱそうなの?傲慢なわけ?』


 僕はこの傲慢野郎の下につくなんて絶対に嫌だ。それにここは公爵領。さすがに他領地の領民に対して手を出すことは難しいだろう。しかし、その思考とともにある疑問が浮かび上がってくる。


「その・・・つかぬ事をお聞きしますが、なぜ他領地の貴族様がこの領地のスクールにいらっしゃるのですか?」


 この領地の貴族ならわかる。しかしアルフレッドは他領地の貴族。通常であれば領のスクールか王立学院に通わせる、家庭教師を雇うなど他にもっとそれらしい方法があるはずだ。


「バカが。確かに我が領地はスクールを置くことが許されるほどの実績を持っている。しかし、我が領地は他国に接する地でもある。もしその隣国が我が国に攻めてきたときに戦場となるのはスプリングフィールドだ。だから王は我が領地にはスクールを置かれないし、領民の子供たちには特別に支援金を出してこの領のスクールに通うことを許された。貴族は一般的に王立学院に通うか家庭教師をつけて専門の勉強をするわけだが、私は次男である。我が父は領民とともにこのスクールに通い、交流を深める様私におっしゃったのだ。それにここにはオブジェクトダンジョンがある。ここのスクールは他のスクールと比べて学ぶことが多い。故に、私は今このスクールの入学生としてこの場にいるのだ。わかったか、チビ」


 アルフレッドはまるで事前に練習してきたかの様に長々とした説明を流暢に話す・・・絶対練習したんだろうな・・・・・・。


「・・・もうよかろう。さあ、貴様は舎弟として我が軍門に下るのだ!」


『軍門って・・・』


 黙ってその様子を見ていた僕にしびれを切らした様に本題を切り出してきたアルフレッド。しかし僕の答えは ──


「お断りします」


 当然「ノー」だ。


「なぜだ・・・なぜ!私がここまで真摯に相手してやっていると言うのに!」


 その答えに納得していない様子のアルフレッド。


「理由は二つ。まず一つは、あなたの下につく利益メリットが僕にはないこと。そしてもう一つは、僕は『チビ』でも『貴様』でもなく『リアム』という名前があります。初対面でその様に人を蔑み威圧することが貴族の本懐なのでしょうか?」


 納得していないアルフレッドに、僕は笑顔で毒を吐いて・・・もとい簡単に理由を説明する。
 そしてその答えを皮切りに、アルフレッドの顔はどんどん赤くなっていった。


「この様な恥をかかされたのは初めてだ!ええい、貴様は我が家に伝わる拷問の魔法で処罰を下してやる」


 そう言うアルフレッドは腰から杖を引き抜きこちらに向ける。
 僕はその行動に思わず母さんにもらった杖を構えてしまう。


 場に緊張が走る。


 アルフレッドは何か口で詠唱しながら杖の先に魔力を集めていた。


『どうする?思わず杖を構えたけど、魔法の使い方はまだ一つも習っていない』


 拷問ということは決して死ぬ様な魔法ではないのだろう。しかし、絶対に痛い。周りも相手が貴族だからだろうか・・・助けに入ってはくれない。


 僕は必死に今できる対応策を考える。


『無闇に殴り突っ込むのはさすがに危なすぎる、かと言って僕は遠距離で攻撃する方法も持ってないし・・・』


 アルフレッドの杖に詠唱とともに杖を囲う様な文字列が現れ始めた。


『ダメだ・・・何も思いつかない・・・!こうなったら戦略的撤退を・・・!』


 対抗策が何も思いつかなかった僕は、最終手段・戦略的撤退を選ぶことにする。しかし、その判断は遅かった様だ。


「ハハハッ!私に恥を欠かせた貴様に私自ら鉄槌を下してやる。もうこの魔法は完成するッ!国境担う我が家に伝わる魔法の一つ、拷問魔法が!後は貴様の魔力の防御を無理やりこじ開けて直接肉体に魔法をかけるだけ!」


『遅かったか・・・周りを巻き込まない様に今から逃げるのはもう無理だ・・・』


「さあ、くらえッ!我に仇なすものに痛みによる真実を《拷問トゥー・トゥルー


 アルフレッドの発動の呪文とともに杖の先に集まった魔力の塊が飛んでくる。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 しかし、その魔法が僕に届くことはなかった。僕に届く寸前、その魔力の塊が霧散して消えたのだ。そして ──




 ドサリッ ──




 僕に魔法を放ったはずのアルフレッドがその場で倒れた 。


 突然倒れたアルフレッドに、蚊帳の外だったフラジールがすぐさま駆け寄り容体を確かめる。


 その間、微かな静寂が訪れる。


 そして応急確認が終わったのだろう。先ほどまで丸まっていた背中がまっすぐに伸び、フラジールが倒れたアルフレッドの横に座りながらその結果を伝える。


「魔力切れです・・・」


 どうやら魔法を放つ最後の最後で魔力切れを起こした様だ。


『こいつ・・・アホだ。アホフレッドだ』


 魔力切れを起こして倒れるアルフレッドに、僕は素直にそう思った。

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