アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

09 試験の結果

 試験の終わった僕は、再び学長室の方に顔を出す。


 すると、学長室にいた父さんと母さんは、学長先生の出してくれたお茶とお菓子を食べながら楽しくお茶会をしている真っ最中だった。


 早すぎる僕の帰還に、父さんは飲んでいたお茶を吸い込んで咳き込み、母さんは手に持っていたお菓子を背中に隠す。学長先生はなぜかメガネをかけ明後日の方向を見て口笛を吹いているが、メガネは思いっきりずれてており、その口笛も下手くそだった。


「あ、あらどうしたのリアム?試験はどうしたの?」


 慌てたように視線を泳がせつつも質問する母さんの問に「終わりました」と告げる。すると学園長先生は「もう終わったのか!」とメガネをクイッ正しい位置に戻し目を丸く学長先生。


『まあ、前世の知識があるからチートみたいなものだけど、今はいいよね』


 そして、僕はさっきの仕返しとばかりに「フフンッ」と鼻を鳴らしドヤ顏を決める。
 しかし学長先生は


「そうか、ならば結果が出るまでこちらで一緒にお茶でもどうだ?」


と大人の対応で僕のドヤ顔をスルーする。


『あれ、なんか悔しい上に恥ずかしいんだけど』


 この勝負は、どうやら一枚上手だった学長先生に勝てなかった。






 ── それから30分ほどが経った。お茶をする僕たちのいる学長室の扉がノックされ「失礼します」と一人の成人男性が入ってくる。


「おーアランくん。テストの採点は終わったかね」


「はい、つつがなく」


 アランと呼ばれた男は学長先生の質問に採点が終わった旨を任務完了報告のように返答する。


「うむ、ではリアムくんの試験結果を教えてくれ」


 そして、任務完了の報告を受けた学長先生はアランに僕の成績を訪ねる。


「リアムくん?」


 するとアランは「誰?それ?」みたいな顔をした後、学長室にいた僕を見て「誰ですか、この子は?」と学長先生の質問に質問で返す。


「誰ですか、って今回試験を受けたリアムくんだ。お主も試験官として彼の試験の監督をしただろ?」


 学長先生はアランの質問返しに答えると、さらに質問を鸚鵡返しにする。するとアランの表情はどんどん白くなり、その後「すいません。一度失礼してもよろしいでしょうか」と断りを入れると血相を変えて学長室から飛び出した。


「どうしたんだ?何かあったのか?」


 などと呑気に構える学長先生とは反対に、僕は今のやりとりに嫌な不安を覚えた。






 ── 更に10分ほど経った頃、再び学長室の扉がノックされる。
「失礼します」と言って学長室に入ってくるアランの後ろには見覚えのある女の子が一緒にいた。そしてその女の子にいち早く反応したのは、なんと父さんと母さんだった。


「あれ、ラナちゃん?学長室に来るなんて何かあったの?」


「どうしたんだ?何かあったのか?」


とラナと呼ばれたあの試験官をしていた女の子の心配をし始める両親。


「ラナちゃん?」


 話に一人置いていかれてる僕は、思わず両親に彼女のことを質問する。すると、その質問に父さんが答えてくれる。


「ほら、一年前の洗礼式で一緒だったレイアちゃん、覚えてるか?」


 一年前の洗礼式。彼女とお喋りした記憶は苦いその思い出の中で唯一楽しかったものだからもちろん覚えている。
 僕は父さんの質問に「うん」と肯定する。


「そうか、なら話は早いな。ラナちゃんはレイアちゃんのお姉ちゃんだ」


 ほぇー、そうなのか。記憶の中のレイアとは髪も行動も似つかないこの子が、まさか彼女のお姉さんだったとは驚きだ。そういえば、目の色は同じだな。
 そんな問答をする父さんと僕をよそに、アランはラナに何か確認を取っているようだった。


「あの子で間違いないな」


「はい、間違いありません」


 中々状況が進まない。そんな中々進まない状況にしびれを切らした学長先生はアランに再び質問をする。


「それで、リアムくんの試験の結果はどうだったのだ、アラン」


「・・・・・・」


 学長先生の質問にアランは沈黙していた。すると学園長先生は、アランにもう一度質問を繰り返す。


「もう一度聞くぞ。リアムくんの試験の結果はどうだったんだ?それとも何か?言えぬほど悪かったのか?」


「いえ、その・・・リアムくんの受けた試験は、全て、満点でした・・・・・・」


 学長先生の意地悪などこか歯切れの悪い声で、採点結果を伝えるアラン。


「ほぉー、それは驚きですね。まさか満点で合格するとは」


 学長先生はその結果を聞き、驚きつつもその結果に満足するように頷いていた。父さんと母さんも「うそ、だろ・・・・・・」「やったわね、リアム!」とそれぞれ反応していた。しかし、それらの反応に横槍を入れるように試験を採点したアランが、重い口調で口を挟む。


「学長先生・・・そ、その・・・・・・」


「ん?何かねアランくん」
「それが、ヒソヒソ・・・」


 学長先生に発言の許可を得るとアラン先生は学長先生の耳元に手を当て、こちらに聞こえないような声で何かを伝え始めた。すると、学長先生の顔がどんどん悪くなっていく。まるで狐に包まれたような顔に、だ。


「バカなッ!王立学院中等部の入試問題を・・・・・・ハッ」


 王立学院中等部の入試問題。何かとてつもなく不穏な言葉が聞こえてきた。突然大声をあげた学長先生に、父さんと母さんは「何かあったのか?」という顔で不安げに僕の顔を見つめてくる。


「申し訳ありません。こちらに手違いがございまして」


 すると、アランと呼ばれた先生が頭を下げ謝罪の言葉を述べる。


「て、手違いと申しますと?リアムはスクールに入学できないということでしょうか?」


 父さんと母さんはあの入学一年目の編入生が受けるとは思えない試験の問題を見てはいない。アランの述べる手違いという言葉を「手違いがあり入学ができない」と解釈した父さんが質問を返す。母さんもどうやら同じ疑問を持ったようで、父さんと一緒に学長先生の方を見る。


「どうやら当スクールに通うカリナさんのために、練習問題として用意していた王立学院の中等部入試の過去問題を出してしまったようで・・・・・・『カリナさんの弟が受ける』という内容がどこかで『カリナさんの受ける』試験となって伝わってしまったようです」


『なんだ、その伝言ゲームのような間違いは?』


 本当にどうしてそうなったのか、訳がわからなかった。しかし、説明を終えたアランが一緒に学長室に来たラナの方の視線をやっていることで、その経緯を大体を察してしまった。


「いや〜、カリナさんが中々受けてくれなくて困っていたのですが、まさか弟さんがお受けになるとは」


 なんて笑い話かのように、学長先生とアランはお互いのミスを誤魔化そうとする。


 だが、母さんは僕の察した経緯のそもそもの原因に着眼する。


「ところで、なんで『カリナの弟が試験を受ける』という風に言伝されたのでしょうか」


 最もな疑問だ。母さんは、まずあり得ないであろう伝言をしたことに対し質問する。すると、ピシッと笑顔の凍りついた学長先生が、言いにくそうにその質問に答え始めた。


「それはですね・・・・・・その、お宅のカリナさんの成績は当スクールの中でも群を抜いており、すでに4年生でありながら学内トップの成績を修めておりまして・・・・・・そのカリナさんの弟さんに『特別措置をとる』という風に伝えれば余計な波風を立てずに済むかと思い・・・・・・」


 どうやらカリナ姉さんは想像以上に優秀だったらしい。あのブラコ ──もとい、弟思いのカリナ姉さんがそんなにも優秀だったなんて意外も意外だ。父さんと母さんもそのことを今初めて知ったようだった。
 しかし ──


『入学したいといった僕がいうのもなんだけど、このスクール、大丈夫か?』


 確かに交渉の際、こちら側からカリナ姉さんの話題を振ったが、流石に特別措置を「カリナ姉さんの弟だから」で済ますなんて教育機関としてはどうかと思う。


 両親もこのどうしようもない理由に呆れてしまったようだ。少し痛いものを見るような目で学長先生たちを見る僕と両親。その視線に耐えかねたかのように、顔を真っ青にした学長先生とアラン先生は「「申し訳ありませんでしたー!」」と息のあった声で、改めて謝罪した。

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