アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

06 前代未聞の洗礼式

 係員に改めて点呼を取られ、整列してレイアと別れた僕は、いよいよ始まる洗礼式に心を躍らせていた。


『緊張もしちゃうけど、やっぱりこのワクワクは最高だ』


 胸の中でかつてないほどの高揚感を感じていると、いよいよ教会の扉が開く。


 教会の内装は、質素ながらも綺麗な装飾が施されており、教壇の後ろに立つこの教会が主神とする神様であろう像とステンドグラスが神聖さを醸し出し、まさに質実剛健といった感じだ。
 そして、教壇の横にはこの教会の司祭らしき人が教典を持って立っていた。扉が閉められ僕たち全員が教会の中に入り整列すると、教会の端に並んでいた聖職者らしき人物の一人が一歩前に出て「静粛に」と僕たちを鎮める。


「これから司祭であるアストル様が洗礼式を行われます。あなたがたは静かにアストル様のお話に耳を傾けるようよろしくお願いします」


 そういうとその聖職者らしき人物は一歩後ろに退き元の位置に戻った。


 そして教壇の横に立っていたアストルと呼ばれた司祭様は、ゆっくりと教壇に立ち、話を始める。


「アースに生まれ落ちた我らが愛しき幼子達よ。そなたらも神々の恵みを受け、精霊のご加護を得る時が来た。しかし、そなたたちはまだ幼い。これから力の種を授かるそなたらは、その力をどのように使い、どのように成長させていくかを学び経験していかねばなければならない。そして、驕ってはいけない。頼りきってはいけない。いわば精霊達はそなたらの分身。時には頼り、時には助け合える良き隣人でなければならない ──」


 司祭の前置きが続く。3歳の子供がこのあたりの話を理解しているかは疑問がわく。事実、周りの子供達は眠そうだったりウズウズしたりしている。長い話にも終わりはある。前世の学校の校長の話はその後の楽しみもなくただ長いだけだったが、今回は少し違う。そう、この祝辞が終わったあと、ついに僕は精霊と契約ができるのだ。
 そんな感じで精霊契約を心待ちにしていると、司祭の話も前置きが終わり精霊契約の注意事項も終わりを迎えようとしていた。


「精霊が自分の手元にきたら魔力を流してくれるので、その魔力を受け入れるように。魔力を受け入れると精霊とつながった感覚を得ることができます。それで契約は完了です」


 事前の説明が終わる。司祭は一度僕たちを確認するかのように見渡すと最終確認を終えたように祝辞の最後に入り始めた。


「では── どうか神テールとその他の神々による導きがそなたらと共にあらんことを。幾久しく、精霊のご加護が悠久の友としてそなたらを守るよう ──」


祝辞が終わりに近づく。あとは祝詞を唱えるだけだ。そしてその瞬間がついにやってきた。


精霊イスプリートとの契約コントラクト


 祝詞である呪文を唱える司祭。すると天井に大きな魔法陣が浮かび上がり、祝福の光と共に様々な色をした光の球が降り注ぐ。どうやらアレが精霊のようだ。精霊達は契約をすると、下位精霊の場合はそのままの形で、中位精霊の場合、契約した瞬間に姿を変える。


 上から降り注ぐ光の球達はそれぞれがまるで昔から知っている相棒の元へ向かうように重複することなく子供達の元へ飛んでいく。


── しかし、ここで事態は急変した。優しく降り注ぐ光が僕の頭上より少し高い位置に来ると、その光がまるで縦に細長い傘でもあるかのように避けていくのだ。


 上を見上げ今か今かと待ち続けていた僕はその異変に頭が混乱する。新しい精霊と契約できた他の子供達は嬉さでどうやらこのことに気づいていない。しかし皆を見渡せる位置にいた司祭は、どうやらその異変に気づいたようだ。祝福の光が避け、精霊と契約できていない僕を目を丸くしてみていた。司祭の立ち位置から見ると明らかに僕のところだけ精霊達の祝福の光が避けているのだからそれは驚くだろう。


 やがて降り注ぐ祝福の光が消え、僕以外の皆が精霊との契約を終えたようだ。僕は放心していた。絶対に契約できるはずの精霊と契約ができなかった。


「そ、そんな馬鹿な!」


 突然の司祭の叫び声にその場にいた子供達は驚き注目する。そんな注目を受けた司祭は僕の方に小走りで近づき肩を掴み覗き込む。


「君!精霊との契約はできたかい⁉︎」


 目の前で大声で問いかける司祭の言葉に放心していた僕は力なくフルフルと首を横に振る。
 すると、今度は周りがざわざわし始め「あいつ、精霊と契約できなかったみたいだぜ」「嘘でしょ」といった声が所々から聞こえてくる。


「そ、そうか・・・・・・すまない」


 僕からの答えを得た司祭は、今度は周りの声から思わず近寄り質問してしまったことを思いだし、申し訳ないことをしたという顔で返事をする。僕の肩から手を離した司祭は重い足取りで教壇に戻ると「コホン」と咳払いをし、再び自分に注目を集める。


「祝福を受けし我らがアースの子供達よ。そなたらが敬虔なる神々の教徒として、正しき道を精霊達と共に歩まんことを願う。さて・・・・・・これにより洗礼式は終了だ。扉の前で洗礼式を終えた証を配布しているので、出席の首飾りとそれを交換して受け取るように。それを受け取ったら、怪我のなきよう落ち着きを持ってご家族の元へと戻りなさい」


 司祭が最後の祝辞を述べ、洗礼式の閉式の旨を子供達に伝える。すると、さっきまでの出来事を完全に忘れてしまったかのように、精霊達と契約の終わった子供達は次々に家族に契約をできたことを報告するべく、教会の外に駆けていく。
 洗礼式の前から一緒に話をしていたレイアも、心配そうに僕の方を見ていたが、今は話しかけない方が良いと判断した彼女は後ろ髪引かれるようにその場を後にした。
 僕以外の子供達の姿がホールから消える。


「君、今までに高位の精霊と直接契約をしたことはあるかい?」


もちろんそんな記憶はない。僕は司祭の質問に再び首を横に振る。


「そうか・・・・・・。高位の精霊などと契約をしていれば精霊契約ができないことにも納得がいくが・・・・・・しかし精霊達の祝福の光も彼を避けたというのはどういうことだ?」


 司祭は頭を捻り原因を考えてくれているようだ。僕の答えを交え、今も自問自答しながらウンウン唸っている。
 しかし ──


「すまない。このようなことは初めてでな。前代未聞でおそらく事例がない」


 どうやら原因の結論は出なかったようだ。


「一応、こちらでも調べてみるので、何かわかったら知らせよう。今日は残念な結果になったが、お家の人も心配しているだろうから、もうお帰りなさい」


 そういうと司祭さんは僕に洗礼式を終えた証を手渡してくれる。


「はい、ありがとうございます。失礼します」


 この司祭さんはいい人のようだ。明らかに落ち込んでいる僕に優しく接し、今後の対応まで考えてくれている。しかし、僕はあまりのショックに3歳児らしからぬ返答をしてしまった。そんな3歳児らしからぬ返答をする僕を見て、よほどショックだったのだろうと帰結した司祭は教会の扉を開けてくれる。


 教会の扉の開けられた先には門の近くで僕のことを待っている家族の姿が映る。家族は皆笑顔でこちらを見ている。その笑顔を見ると、胸を締め付けられるような感情が押し寄せ、思わず泣いてしまいそうになった。しかし、僕を笑顔で出迎えてくれる家族に泣き顔は見せまいと一度下を向き目に溜まった涙を拭き取り笑顔を見せる。


 だが、そんな僕の様子がわかってしまったのだろう。皆表情を変え、心配そうに僕を眺めている。そして、僕が家族の元へと辿り着くと母さんが突然僕を抱きしめた。


 そして突然抱きしめられた僕は、中身の年甲斐もなく、外見の年相応に泣いてしまった。


 抱きしめる母さんの温かさは僕の悲しみを優しく包み込み、頬をくすぐる春の風は、僕の涙を遠くへと運んでくれた。

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