VRゲームでも身体は動かしたくない。
第6章30幕 恩<obligation>
「詳しく聞かせて」
私はそうハリリンに告げ、帰り道を歩く時間も惜しい、というように≪ワープ・ゲート≫を出します。
そしてセカンドホームまで帰ってきた私達とハリリンはリビングで話し始めます。
「事の発端は『ヴァンディーガルム』の調査失敗っす」
「失敗? 普通に成功なんじゃ?」
失敗とは言えない結果だったと思うので私はそう聞きます。
「あれは国王様から見たら失敗なんすよ。チェリー達が結果を持ち帰ったっすから」
ハリリンがそう言うと一瞬暗い空気になります。
「あっ。ちがうっす。別に責めてるわけじゃないっす。問題はそのあと何すよ」
「なに?」
「国王に入れ知恵してる宰相が、『虎の子』アンチなんすよ。高い戦力を持つチェリーとエルマが抜けたことで国力が落ちたっておもってるっす」
「私とエルマ二人でもジュンヤには勝てないけどね」
「都市一つ壊滅させる力があるチェリーと単騎で千人倒すジュンヤは比較できないっす。国としてはチェリーの方が欲しいはずっす」
「あれは一人じゃなくて、ステイシーの力も大きかったけど」
「国はそう考えてないってことっす。ということで俺らは拠点を国力の落ちてる『ブラルタ』に移すことにしたんすが、下手したら……」
そこでハリリンが言葉を止め、その省略された言葉をこの場にいる全員が浮かべます。
「もしそうなったら少し力を貸してくれないっすか?」
そう言ってハリリンが頭を下げたので私は少し困惑し、目線をエルマに向けます。
するとエルマはコクリと頷きましたので、私はハリリンに返事を返します。
「そこは分かった。でも条件がある」
「NPCは倒さない、っすよね」
「うん」
「ありがとうっす。恩に着るっす」
そう言ってハリリンが立ち上がり頭を下げます。
「そういえばこのことに対してジュンヤは?」
「激おこっすよ。今も国王に直談判して牢屋にいるっす」
「ふぅ……」
それを聞いた私の口からは、ため息が漏れます。
まさか自分の元所属国がここまで横暴だとは……思っていましたが、これはあまりにも酷い。許せませんね。
NPCは倒さないと言いましたがいっその事国王やっつけた方が……。
そこまで思考して思い出すのはポテトの言葉です。
彼女は『花の都 ヴァンヘイデン』の国王はそれほど長くないと言っていました。
もし国王が天寿を全うし、代替わりをすれば少し良くなるかもしれませんね。
転送屋を使って帰るより走ったほうが早いというハリリンをセカンドホームの入口まで見送り、私は再びリビングへと戻ってきます。
「問題が山積みだぞ? 『ブラルタ』っていったらもこちねると共同の案件がまだ終わっていないしな」
サツキがコーヒーを啜りながらそう言います。
「たぶんまだ先の話だろうけどね。私ちょっと『ヴァンヘイデン』に行ってくるよ」
そう言って隠蔽系の装備を取り出します。
「ひとりで行く気か?」
「一人で行かせてほしいの」
「それは無理だ。エルマも絶対にいくだろう?」
「もちろんだよ! 私も歯向かって掴まった経験を持ってるからね!」
フンスと鼻から息を吐きながら、エルマが言います。
「だよね。じゃぁ二人で行こう。隠蔽系の装備は?」
「ないよ!」
「じゃぁこれ使って」
インベントリから余っていた≪視覚阻害≫、≪認識阻害≫の効果を持った装備を渡します。
「おっけ。行こう!」
私の渡した装備を着用したエルマと共にステイシーが出した≪ワープ・ゲート≫で『花の都 ヴァンヘイデン』へと飛びました。
「懐かしくも思えるけど、嫌な思い出の方がフラッシュバックしそうだよ」
「わかる」
エルマと会話をしながら王城に向かって歩きます。
しばらく歩き、王城まで到着すると門番があくびをしながら立っていたので、≪認識阻害≫を最大出力で発動し、すすっと王城の内部まで侵入します。
「このあとは?」
「そこの右手の階段を下って地下まで行く」
「了解」
『進メ 彼ノ者ヨ 渡レ 真実ノ道 我ガ血潮ヲカテトシ 辺リニ闇ヲ我ラニ光ヲ』
『≪真実ニ至ル道シルベ≫』
私が一定時間認識されても発見されないという隠蔽系の詠唱魔法を発動しておきます。
「これは便利だね」
「でしょ」
「じゃぁ行こう」
エルマにそう返し、私達は人の横を通り抜け、地下へと向かいます。
地下にある牢屋までやってきます。
看守も私達に気付くことがなかったのでそのまま進み、ジュンヤを探します。
「ジュンヤー」
エルマが声を出します。
「≪認識阻害≫と発見防止あるって!」
「そうだった」
そう言いながら探していると、壁を削るような音が聞こえてきます。
「向こうかな?」
私がそう言って向かうと、そこにはジュンヤがいて、壁を拳で削っていました。
「なにしてるの? って聞こえないんだった」
私はそう言って詠唱魔法を解除し、そして隠蔽系の装備も脱ぎます。
「「うおっ! チェリーじゃねぇか。どうしたんだこんなかび臭ぇところに」
「聞きたいことがあってきたんだよ。ハリリンから色々聞いたんだけど」
「あぁ。俺から言えることはなんもねぇな。『ブラルタ』に移籍することにしたんだが、それすら認めない。追放しておいてこのざまだ。指名手配だよ」
「まじか」
そう言ってエルマも姿を現します。
「エルマ、お前もいたのか。二人してきたって事は脱獄手伝ってくれんのか」
「そのつもり」
「よっし。剣を貸してくれ」
ジュンヤがそう言ったので私は剣を渡します。
「さんきゅ。あらよっと」
ジュンヤはスパンと檻を斬り、出てきました。
「この鉄格子は脆いからな。誰か、ハリリンあたりじゃねぇかとは思ってたが、来た時に剣かなにか借りようと思って削っておいたんだ」
自慢げにいうジュンヤに少しあきれながら私は隠蔽系装備をジュンヤに渡し、一緒に地下室を脱出しました。
看守に見つかりましたが、ジュンヤが≪変装≫していたので特に大事にはならずに済みました。
「一度お前らのホームにいっていいか? 詳しい話をしたい」
「わかった」
私は≪ワープ・ゲート≫を出し、ジュンヤと共に、セカンドホームまで帰ってきました。
to be continued...
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