VRゲームでも身体は動かしたくない。
第6章24幕 過去<past>
私は2014年1月23日に、東京の端っこで生まれました。
どこにでもある普通の家庭だったと思います。
違う点があるとすれば、それは一人っ子だったことでしょうか。
それが後々の私、智恵理を形作る基礎になってしまったのです。
「運動は危ない、怪我をするからダメだ」そう両親が私に説き、私は運動をほとんどしてきませんでした。
幸いなことに、この時代、体育のような体を動かす教科は選択授業となっていましたので、私は必要最低限のものしかやってきませんでした。
それは小学校を卒業した後も同じです。中学でも運動はせず、もちろん高校でも。
そんな私が、通わずに授業を受けれる様にシステムが作られた現代の大学教育において、家でぐーたら過ごすのは無理もない話だと思います。
たしかに、受験勉強は頑張りました。しかし、その先に何があるのか私には分かりませんでした。
両親はよく私に言っていました。
「将来何をするにも学歴は大事だから」
「この世の全てはお金よ」
それを聞き育った私は、娯楽断ちにも耐え、なんとか合格した大学をまさかの2年で中退です。さすがに両親もこれには怒りを露にし、私と幾度となく口論になりました。
たしかに、両親が育った時代、学歴は全てでした。お金は全てでした。
ですが私達が生きてきた、そしてこれから生きていく世界に、それほど重要なものなのでしょうか。
私はその疑問を両親にぶつけました。
そして答えられない両親に、私は信用を無くしました。
「その後は知っての通り、私は、毎晩毎晩、両親から、再入学しろ、金を家に入れろ、って言われて嫌気がさして半ば家出のように簡素なアパートに引っ越した、ってわけ」
過去を語るのはあまり気持ちの良い物ではありませんね。色々と思い出してしまいます。
「チェリーの両親は心配してないの?」
「してると思うよ。でも会う気はない」
「それはちょっと冷たいんとちゃうか?」
「そんなことないよ。もこちんさんは両親のことが好き?」
「好きや。じゃなきゃモナコ公国なんてついて行かへんやろ?」
「ふふ。そうだね」
もこちねるの返事を聞きながら私はお酒をちびっと飲みます。
「正直さ、あたしも人のこと言えないんだよね」
「うん、知ってる」
エルマの過去は私も知っています。一応親友ですから。
「この際や、聞かしてみ? なんでも聞いたるわ」
そう言って度数の高いお酒を一息に煽り、新しいものを永谷に頼んでいました。
「なるほどな。そりゃ家もでたくなるわな」
エルマの話を肴にお酒を飲み続けていたもこちねるが、そう返します。
「そうでしょ。でもあたしもチェリーも、それにたぶんサツキやステイシー、マオ……。みんな何か抱えてるよ、きっと」
そう呟くエルマの声は寂し気で、永谷のグラスを拭く音にすらかき消されてしまいそうでした。
「せや。だからこそ、あんたら5人はなかがええんやろ?」
もこちねるの言葉を聞いた私とエルマの頭上には疑問符が浮いていました。
「似たもの同士っちゅーことや」
姉弟がいるくらいやしな、ともこちねるは付け加えました。
「永谷さんすまんな、ぎょうさん飲んでもうて、次で最後にしとくわ」
「かしこまりました」
そう言った永谷が、新しいグラスの丸い氷をカランと入れ、ウィスキーをトクトク注いでいきました。
「エルマ、エルマ!」
私がエルマに声を掛けると、「むにゃむにゃ」という近頃の漫画でも言わないぞ、という音を立てていました。
「永谷さんエルマお願いできますか?」
「もちろんでございます。開いたグラスはそのままで結構ですよ。では失礼致します」
そう言ってエルマをお姫様抱っこし、部屋まで連れて行きました。
「夜風にでも、あたろうかな」
私は誰もいなくなったこの空間に、自分の声を溶け込ませました。
庭に出て、少し歩きながら、冷えた夜の風で火照った身体を冷やします。
まだ秋とは言え、冬も近いですし、夜は冷えますね。
私がそう考えていると、何かがバサッと肩に掛けれらます。
「そんな恰好で夜風にあたるのは、身体によくないんじゃないか?」
サツキはどこからか羽織りを持ってきてくれたようでした。
「サツキ、起きたんだ」
「ん? あぁ。すまない。現実で酒を口にしたのが久々でね」
「そっか」
「何かあったのか?」
「ううん。何でもない」
私はそう答えますが、心の内をサツキに看破されていました。
「チェリーがそう言うときは何かあった時だ。誰にも言わないさ」
「エルマともこちねるさんと家族の話をしたんだ」
「あぁ。家族か。そうもこのチームは家族関係が複雑なメンバーだな」
「サツキも?」
このサツキの言い方だと、「自分も含めて」ということが感じ取れたので、そう聞き返します。
「あぁ。幼いころにね、母を亡くしたんだ」
そう言ってサツキが過去を語り始めます。
「もう正直記憶も無いんだ」
「それは寂しいね」
「いや。それがそうでもないんだ。ワタシは母を亡くした後、すぐに祖母に引き取られたからね。おばあちゃん子だったていうのもあって、充実していたよ」
「あれ? お父さんは?」
「ふっ。聞かれると思ったさ。いないんだ」
「えっ?」
「私が誕生したときには、もう蒸発した後だったらしい」
「そんな……」
「なぁに気にすることじゃない。元々知らない顔だ、どうってことない」
気丈にしてはいますが、少しサツキも寂しそうでした。
「それからは世間一般の人と変わらんさ。変わったのは祖母が亡くなってから、だね」
そう言ってサツキはそれからのことを話してくれました。
広い家に一人寂しく住んでいること、作家になろうとしたきっかけなどを聞き、外を散歩しているとうっすらと眠気がやって来て、私はあくびをしてしまいます。
「ふぁーあ。ごめんね。話してるときに」
「気にしないさ。ワタシなんか寝ていたんだからね」
「それもそうだね」
二人であはは、と笑いながら屋敷へと戻ります。
「じゃぁゆっくり休んでくれ」
「サツキもね」
階段を登り切ったところでサツキと別れ、私も部屋へと向かいます。
エルマが用意したんだか知りませんけど、扉にチェリーって書いてあるのは止めてほしいですね。
そう思いながら扉を開け、私はすぐベッドに入ってしまいました。
to be conti
どこにでもある普通の家庭だったと思います。
違う点があるとすれば、それは一人っ子だったことでしょうか。
それが後々の私、智恵理を形作る基礎になってしまったのです。
「運動は危ない、怪我をするからダメだ」そう両親が私に説き、私は運動をほとんどしてきませんでした。
幸いなことに、この時代、体育のような体を動かす教科は選択授業となっていましたので、私は必要最低限のものしかやってきませんでした。
それは小学校を卒業した後も同じです。中学でも運動はせず、もちろん高校でも。
そんな私が、通わずに授業を受けれる様にシステムが作られた現代の大学教育において、家でぐーたら過ごすのは無理もない話だと思います。
たしかに、受験勉強は頑張りました。しかし、その先に何があるのか私には分かりませんでした。
両親はよく私に言っていました。
「将来何をするにも学歴は大事だから」
「この世の全てはお金よ」
それを聞き育った私は、娯楽断ちにも耐え、なんとか合格した大学をまさかの2年で中退です。さすがに両親もこれには怒りを露にし、私と幾度となく口論になりました。
たしかに、両親が育った時代、学歴は全てでした。お金は全てでした。
ですが私達が生きてきた、そしてこれから生きていく世界に、それほど重要なものなのでしょうか。
私はその疑問を両親にぶつけました。
そして答えられない両親に、私は信用を無くしました。
「その後は知っての通り、私は、毎晩毎晩、両親から、再入学しろ、金を家に入れろ、って言われて嫌気がさして半ば家出のように簡素なアパートに引っ越した、ってわけ」
過去を語るのはあまり気持ちの良い物ではありませんね。色々と思い出してしまいます。
「チェリーの両親は心配してないの?」
「してると思うよ。でも会う気はない」
「それはちょっと冷たいんとちゃうか?」
「そんなことないよ。もこちんさんは両親のことが好き?」
「好きや。じゃなきゃモナコ公国なんてついて行かへんやろ?」
「ふふ。そうだね」
もこちねるの返事を聞きながら私はお酒をちびっと飲みます。
「正直さ、あたしも人のこと言えないんだよね」
「うん、知ってる」
エルマの過去は私も知っています。一応親友ですから。
「この際や、聞かしてみ? なんでも聞いたるわ」
そう言って度数の高いお酒を一息に煽り、新しいものを永谷に頼んでいました。
「なるほどな。そりゃ家もでたくなるわな」
エルマの話を肴にお酒を飲み続けていたもこちねるが、そう返します。
「そうでしょ。でもあたしもチェリーも、それにたぶんサツキやステイシー、マオ……。みんな何か抱えてるよ、きっと」
そう呟くエルマの声は寂し気で、永谷のグラスを拭く音にすらかき消されてしまいそうでした。
「せや。だからこそ、あんたら5人はなかがええんやろ?」
もこちねるの言葉を聞いた私とエルマの頭上には疑問符が浮いていました。
「似たもの同士っちゅーことや」
姉弟がいるくらいやしな、ともこちねるは付け加えました。
「永谷さんすまんな、ぎょうさん飲んでもうて、次で最後にしとくわ」
「かしこまりました」
そう言った永谷が、新しいグラスの丸い氷をカランと入れ、ウィスキーをトクトク注いでいきました。
「エルマ、エルマ!」
私がエルマに声を掛けると、「むにゃむにゃ」という近頃の漫画でも言わないぞ、という音を立てていました。
「永谷さんエルマお願いできますか?」
「もちろんでございます。開いたグラスはそのままで結構ですよ。では失礼致します」
そう言ってエルマをお姫様抱っこし、部屋まで連れて行きました。
「夜風にでも、あたろうかな」
私は誰もいなくなったこの空間に、自分の声を溶け込ませました。
庭に出て、少し歩きながら、冷えた夜の風で火照った身体を冷やします。
まだ秋とは言え、冬も近いですし、夜は冷えますね。
私がそう考えていると、何かがバサッと肩に掛けれらます。
「そんな恰好で夜風にあたるのは、身体によくないんじゃないか?」
サツキはどこからか羽織りを持ってきてくれたようでした。
「サツキ、起きたんだ」
「ん? あぁ。すまない。現実で酒を口にしたのが久々でね」
「そっか」
「何かあったのか?」
「ううん。何でもない」
私はそう答えますが、心の内をサツキに看破されていました。
「チェリーがそう言うときは何かあった時だ。誰にも言わないさ」
「エルマともこちねるさんと家族の話をしたんだ」
「あぁ。家族か。そうもこのチームは家族関係が複雑なメンバーだな」
「サツキも?」
このサツキの言い方だと、「自分も含めて」ということが感じ取れたので、そう聞き返します。
「あぁ。幼いころにね、母を亡くしたんだ」
そう言ってサツキが過去を語り始めます。
「もう正直記憶も無いんだ」
「それは寂しいね」
「いや。それがそうでもないんだ。ワタシは母を亡くした後、すぐに祖母に引き取られたからね。おばあちゃん子だったていうのもあって、充実していたよ」
「あれ? お父さんは?」
「ふっ。聞かれると思ったさ。いないんだ」
「えっ?」
「私が誕生したときには、もう蒸発した後だったらしい」
「そんな……」
「なぁに気にすることじゃない。元々知らない顔だ、どうってことない」
気丈にしてはいますが、少しサツキも寂しそうでした。
「それからは世間一般の人と変わらんさ。変わったのは祖母が亡くなってから、だね」
そう言ってサツキはそれからのことを話してくれました。
広い家に一人寂しく住んでいること、作家になろうとしたきっかけなどを聞き、外を散歩しているとうっすらと眠気がやって来て、私はあくびをしてしまいます。
「ふぁーあ。ごめんね。話してるときに」
「気にしないさ。ワタシなんか寝ていたんだからね」
「それもそうだね」
二人であはは、と笑いながら屋敷へと戻ります。
「じゃぁゆっくり休んでくれ」
「サツキもね」
階段を登り切ったところでサツキと別れ、私も部屋へと向かいます。
エルマが用意したんだか知りませんけど、扉にチェリーって書いてあるのは止めてほしいですね。
そう思いながら扉を開け、私はすぐベッドに入ってしまいました。
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