VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第6章20幕 会食<mess>


 大層な時間をかけ、全参加者が景品を選び終えると、今度は最上賢治ではない、社員が壇上へ上がります。
 「景品配布お疲れさまでした。私は[Multi Game Corporation]<Imperial Of Egg>の運営部門長の白河美華夏です。ささやかですがお食事を準備させていただきましたので、お楽しみください」
 それだけ言うと白河美華夏は壇を降ります。
 直後たくさんのワゴンが会場内へと入ってきます。
 一人一人に丁寧に調理の説明をしながらテーブルの上に並べていきます。
 説明をし終え、下がるスタッフを見送ると、すぐにエルマとマオとサツキが食器を手に取ります。
 それを見た私とステイシーは慌てて食器を手に取り、見よう見まねで食べ始めます。
 「いつも思うんだけど、瑠麻さんがテーブルマナーとかに詳しいのは分かるよ。でも月見さんも詳しいよね」
 「ん? そうかい? まぁ家があれだからね。幼少の時から叩きこまれたのさ。そういう智恵理も悪くないと思うが?」
 「そうかな?」
 「たしかに。あたしの目から見ても合格点だよ」
 エルマから見て合格点なら大丈夫でしょう。
 「どこで、覚えたの?」
 マオから受けた質問に私は食器を一度手から離し、口元を拭って話し始めます。
 「<Imperial Of Egg>の中だよ」
 「そうかー。僕もそこできちんと学んでおくべきだったー」
 「真琴。いつでも、教えるわ」
 「普通に遠慮する」
 「そう」
 また少ししゅんとなるマオでしたが、すぐに食べるのを再開します。

 しばらく談笑しながら食べていると、私達のテーブルに最上賢治が歩いてきます。
 「いや。食事中にすまない。こういう機械でもないと話ができないものでね」
 「いや。大丈夫だ。ところで話とは?」
 代表してサツキが問います。
 「早速本題に入ろうか。<Imperial Of Egg>はどうだい?」
 「遊んでいる感想でいいのかい?」
 「それが聞きたいのだよ」
 「そうか。ワタシが思うのは【称号】が細分化されすぎだ。中には意味があるのかどうかも分からないものがある。管理する側としても大変ではないのか?」
 「手厳しい意見だが、参考になる。【称号】の数はでたらめに増やしているわけではない。そして【称号】をそこまで獲得できるのは本当にごく一部の者だけだからね。今のままでいいのだよ。ライトユーザー向けのコンテンツだからね。【称号】は」
 「ん? 【称号】がライトユーザー向け?」
 「そうだ。君たちはハイエンドの武器……そうだな……【神器】を持っているか?」
 「この中で【神器】を保有しているのは3人だな」
 「それがヘビーユーザー向けのコンテンツのつもりだ。入手が困難、条件も不明。だがそれを補えるほど魅力のある性能。スキルを行使するという意味では【称号】の方が手早く入手でき、尚且つ汎用性も高いだろう。しかし、【神器】はスキル行使のためだけにあるわけではないのだ」
 確かにそうですね。スキルを扱うだけでしたら手ぶらで【称号】のスキルをぶっ放せばいいだけですもんね。
 その威力をあげたり、消費を減らしたり、そう言う点で武器の性能が肝心になってくるわけですし。
 「なるほど。開発者側は【神器】などをハイエンドと考えているわけか。もう一つ質問いいだろうか」
 「構わないよ」
 「では【天罰神】のような、あえてハイエンドと言わせてもらうが、【称号】はどう考えているのだろうか」
 サツキがそう言うと、最上賢治は少し考え、まとまった考えを述べます。
 「あれは武具での再現が困難だと考えたが故の処置だ。武具で、あえてユニーク装備と言わせてもらうが、差異を出すより、同一の条件下の方が生きるだろう?」
 サツキの言い回しを意識してニヤリと笑いながら最上賢治は述べました。
 「すばらしい。今のは響いた」
 サツキがそう言って頭を縦に振っていると、エルマが今度は最上賢治に質問します。
 「デスペナルティーって長くない?」
 「おっと。その質問は来ると思っていた。この後、削手について述べるから待ってもらえるかね?」
 最上賢治は少しだけ申し訳なさそうな顔をします。
 「わかった」
 「他に何かあるか?」
 私はゴクリと唾を飲みこみ、質問をします。
 「何故争いを助長するようなことをするのですか」
 そう聞くと、少し最上賢治の目線が鋭くなりました。
 「それは今、全部答えることができない。君のような心優しきプレイヤーには酷かもしれない。しかし、我々にはそうすることしかできないのだ。分かってほしい」
 そう言って私に頭を下げました。
 「頭をあげてください。別に責めているとかそういうのではないんです。ただ、どうしてなんだろうっておもっただけですので」
 「いずれ、いずれ君たちにもわかるときが来る」
 そう言って最上賢治は私達のテーブルから離れていきました。

 「智恵理。結構エグイこと聞いたね」
 エルマにそう言われて、少しむっと来ます。
 「月見さんだって結構噛みついてたじゃん!」
 私はサツキを指さしながらそう言います。
 「え? ワタシかい?」
 「まぁまぁ落ち着きや。こんなうまい飯食っとるんやからお静かにやでー。うちの皿もう空っぽなんやけどな」
 そういってもこちねるが自分を皿を傾け、私達に見えるようにして笑いを誘っていました。

 会場全体の食事が終わったころ、食器が回収され、再び白河美華夏が壇上に立ちます。
 「お食事いかがでしたでしょうか。ではこちらの皆さまに先行でとある映像を見て頂きます」
 そう言って横にずれた白河美華夏がスイッチを操作し、何やら映し出します。

 『現実か、仮想か。』
 『それを決めるのは……』
 『あなた達だ!!』

 そうテロップが流れ、映像が流れ始めます。
 そして私達は歓喜の声を上げました。

 「以上ご覧いただいたトレイラーは今後実装予定のものです。では説明させていただきます」
 そう言った白河美華夏がスライドのようなものを捲りながら説明していきます。
 「まず我が社が開発しております<Imperial Of Egg>とこちらも我が社が開発しておりますTACの世界を行き来するアップデートを予定しております。しかし、TACの世界で買い物ができる、というわけではなく、特定の条件を満たす、もしくは、イベントが起こった際、TACの世界へ<Imperial Of Egg>のキャラクターをコンバートし、モンスターを討伐して頂く、というものでございます」
 今度は音声のない動画が流れます。
 「このように、TACへコンバートし、現れるモンスターを狩る。そしてその光景をTACにログインしている方々がご覧になれる、というわけでございます」
 シーンごとに言葉を区切り、分かりやすく説明していました。
 「TACの方は迫力のある戦闘をその目で。<Imperial Of Egg>の方は現実とほぼ同じ世界での戦闘を体験できる、というわけです」
 確かにこれはワクワクします。
 「つきましてはこちらのイベントのテスターを募集したいと考えております。チームごとで参加不参加を決め、提出していただけるでしょうか」
 そう言うと社員が私達の元へ、タブレット端末を置いていきます。
 「参加でしょ?」
 エルマが即ボタンを押し、社員に即返しました。
 「決めるの早いなぁ! でもええで。うちもこれは賛成や」
 誰も異論を唱えず、参加が決定しました。
 「ありがとうございます。…………。全チーム参加ですね。ご協力感謝致します。では詳細は後ほど、電子メールの方でお知らせいたします」
 そう言って白河美華夏はお辞儀をし、壇を降りました。
 そして再び最上賢治が壇上に登りました。
 「お食事の際、皆さんのテーブルを回らせていただき、色々お話を聞かせていただきました。そこで一番多かったのはやはり、デスペナルティーの期間についてでした」
 先ほどまでとは打って変わって、丁寧な口調で話す最上賢治はとても真剣な顔で私達を見ていました。
                                      to be contin

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品