VRゲームでも身体は動かしたくない。
第5章48幕 口調<tone>
地下の避難所をつなぐ通路を私達は歩いています。
人の気配を≪探知≫で探りながらの移動で、速度はあまり早くはないですが、確実にNPCの方に進むほうが大事なので、この方法を取っています。
「チェリー。次はどっちだい?」
「地図がないからわからないけど、こっちを左かな」
先ほどの≪探知≫で大まかな位置を把握しておいたのでそうサツキに返事します。
「了解だ」
サツキを先頭にし、そのあとを私と空蝉が隣り合わせで歩き、別の避難所を目指します。
3度目の≪探知≫を使ってから十数分ほど歩くと、NPCの反応が多く見られる空間にたどり着きました。
「ここだよ」
「そうか。準備がよければあけるが?」
「いいよ」
サツキが扉に手を掛け、ガラガラっと開けます。
すると内部にいたNPCの強烈な視線が私達に刺さります。
「区長と話がしたいんだが、いまどちらにいらっしゃるか?」
サツキがその視線を物ともせずそう一番近くにいたNPCに問いかけます。
「区長なら奥です」
「感謝するよ」
サツキが奥に向けて歩いて行こうとするので、私と空蝉も続きます。
「ご無事でしたか」
区長が私に向かってそう言いました。
「ええ。なんとか。仲間たちが来てくれたので」
「それはよかったです」
「ご老人。お話をお聞かせ願えないだろうか」
私と区長の社交辞令を遮り、サツキが言い放ちます。
「話とは?」
「貴方が持っている〔龍の恵〕についてだ」
事前にサツキは鎌をかけると言っていたので、私達はおどろかずに済みました。
しかし、区長はそうではないようで、どこか動揺したような雰囲気を醸し出します。
「な、なぜ……それを?」
「貴方は……余裕を見せすぎた」
「それは区長として最低限の……」
「ありかがわからないものを探している人間に、手あたり次第破壊されても動じなかったのがすべての証左だ。まるでどこにあるかわかっているような」
「ふぅ。お話しましょう。ここではなんです。こちらへ」
そう区長が何か観念したような様子で一度避難所から出て、地下道に行きました。
「ではまず何が聞きたいのですか?」
「なぜ〔龍の恵〕を持っていることを隠したのか、まずはこれをお聞きしよう」
「私はまだ貴女方を信用したわけではないのです」
助けてあげたのに! ひどい!
「そうか。仮初の命だが、こちらは貴方達を逃がす為に深手を負っているのだが」
「それに関しては心から礼を言わせていただきます。ですが、外の者は皆同じだと私は考えております。この〔龍の恵〕を手にしたとき、本性は現れます」
「本当にそうだろうか。では別の質問をしよう。私達とあの殺人鬼。どちらにそれを渡したいか聞いても?」
サツキはそう言いながら区長の杖を指さします。
あっ。〔龍の恵〕って杖に埋め込んであったんですね。サツキよく気付いたな。
「仕方ないですね。お話ししましょう。私としてはどちらに渡しても同じですよ。どうせ扱えませんから」
「扱えないというのは、貴方も同じだろう?」
そういう結論は先ほど出していました。
使えるなら使ってるはずですからね。
「どうしてそう思うのですか?」
「聡明な区長様にあらせられる。言わずとも分かるだろう」
「そうですか。秘密に気付いたのですか」
「ああ」
気付いていませんけどね。
「ならば心配いりません」
「私はほかの人が死なない様にと考えているのだが?」
「他の者など替えが利きます。ですが私はそうじゃない」
あれ。不穏な空気。
「では依頼を出しましょう。殺人鬼から私を守りなさい。そのあとでなら続きを話しましょう」
「すでに二人倒している。首領もだ」
「もう一人いますよ」
「では倒そう」
「ええお願いします。倒し終わったら証拠を持ってきてください」
「ちょっと待ってくれ。証拠は無理だ。私達プレイヤーは死ぬと消えてしまう」
「では殺さず連れてきて、目の前で殺して見せてください」
あわわ。面倒な条件上乗せされた。
「あぁ。それで信じてもらえるなら、そうしよう」
そう言って区長が戻る避難所ではない方向へ歩き出すサツキを追って、私達も歩き出します。
「どうだった?」
「私的には、あのじじいやばい匂いしかしない」
「私も空蝉には同感。たぶんまだ何か隠してる」
「あぁ。そうだろうね。だが一番手早いのがもう一人の不動組を捕まえることか。幸い、こちらには適任がいる」
「私? 相性次第じゃ無理だよ」
空蝉が頭をぶんぶんと犬のように振りながら答えます。
「大丈夫。相性なんて飾りだ」
相性で苦しめられるのがこのゲームなんですけどね。
私、未だにサツキに勝てないよ……。
地下から地上に上がるために、別の地下通路を歩いていると、ステイシーやエルマ、マオのログインを知らせるアラートが鳴り、ちょうどそのタイミングで空蝉の仲間たちもログインしてきたようです。
ステイシーとエルマ、マオには残りの一人を探すように伝え、最後にログインしてきたクーリとは合流して話す事になりました。
「じゃぁこの後はその不動組の残りを探すのか?」
別の避難所から地上へと戻り、クーリと合流しました。
「ちゅぱ太郎とかは?」
「エルマ達と合流して向かわせている」
「そうか。なら俺らがこっちで主力部隊ってわけか」
「主力は向こうじゃない?」
「俺がいる方が主力なんだよ!」
「まんちかんのほうが強い」
プチ口論が始まるクーリと空蝉を放って私はできる限り≪探知≫の範囲を広め、残りの一人を探します。
しかしまるで見つかる気配がありません。
「なぁ本当に魔法系なんだろうか。≪隠蔽≫積みすぎじゃないか?」
サツキもそう思っていますし、私も勿論そう思っています。
「範囲外ってことも可能性としてあるから分からない。ステイシーに聞いてみよう」
わたしはサツキにそう告げた後、すぐにパーティーチャットでステイシーに問いました。
すると「≪広域探知≫でもかからないよー」と返事が来たので、本格的に≪隠蔽≫等を持っている可能性があります。
「他の案もあるぞ」
すると後ろからクーリの声が聞こえます。
「それは?」
「まだログインしてない」
「あっ」
「あぁ」
そうですね。その可能性もありますね。
その後2時間ほど捜索をしたのですが残りの一人は見つかりませんでした。
2時間もあればデスペナルティーから戻ってきた不動やヤタ丸が戻って来てもおかしくはないですが、さすがに罪を重ねていた様で、戻ってくる様子がありません。結構な都市から重罪判定されてそうですからね。
一度、ステイシーの組と合流し、昼食兼作戦会議を行う事になりましたので、例の酒場に集合します。
「いやー。見つからないねー」
「足、つかれたわ」
私達が到着するや否や、ステイシーの声とマオの愚痴が聞こえてきます。
「チェリー。大丈夫? 二人とやったんでしょ?」
「うん。大丈夫」
エルマの優しい声に答え、私も椅子に座ります。
マンチカンや鶏骨ちゅぱ太郎、ベルガ、犬面もそろっていたので、作戦会議がはじめられそうです。
全員が椅子に座り、空蝉が口を開きます。
「あと一人なんだけど……」
そこまで声に出すと、すぐに犬面が言葉を被せてきます。
「俺気付いたんですけど、まだログインしてないだけですよね?」
彼がそこまで言ったあと、場の空気は一変しました。
「ようー。犬面ー。ちょっと顔貸せよー。二人で話してぇことできちまったなぁ!」
一瞬の沈黙の後、すぐにクーリが犬面の肩に手を置き、外へと連れ出していきます。
「あっごめん。電話」
私もそう苦しい言い訳をしながら外へ向かい歩いて行きます。
外で楽しそうに談笑しているように見えるクーリの背に私は声をかけます。
「殺さないでください。生きたまま連れて来いって言われてるので」
「おう。分かってら。さて……」
クーリに隠されたせいで後ろが見えないであろう犬面を取り押さえるため、マオを除く全員が周囲に展開し円形に取り囲みます。
「犬面の真似は止めな」
クーリがそう言うと、犬面に≪変装≫した誰かは、「きゃははは」と笑い出しました。
「何時気付くのか楽しませてもらいました! いやー! こういうの大好きです! ≪デッド・ポイズン≫」
いきなり≪変装≫を解き、纏ったローブから紫色の空気を噴出し、それは逃げていきました。
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人の気配を≪探知≫で探りながらの移動で、速度はあまり早くはないですが、確実にNPCの方に進むほうが大事なので、この方法を取っています。
「チェリー。次はどっちだい?」
「地図がないからわからないけど、こっちを左かな」
先ほどの≪探知≫で大まかな位置を把握しておいたのでそうサツキに返事します。
「了解だ」
サツキを先頭にし、そのあとを私と空蝉が隣り合わせで歩き、別の避難所を目指します。
3度目の≪探知≫を使ってから十数分ほど歩くと、NPCの反応が多く見られる空間にたどり着きました。
「ここだよ」
「そうか。準備がよければあけるが?」
「いいよ」
サツキが扉に手を掛け、ガラガラっと開けます。
すると内部にいたNPCの強烈な視線が私達に刺さります。
「区長と話がしたいんだが、いまどちらにいらっしゃるか?」
サツキがその視線を物ともせずそう一番近くにいたNPCに問いかけます。
「区長なら奥です」
「感謝するよ」
サツキが奥に向けて歩いて行こうとするので、私と空蝉も続きます。
「ご無事でしたか」
区長が私に向かってそう言いました。
「ええ。なんとか。仲間たちが来てくれたので」
「それはよかったです」
「ご老人。お話をお聞かせ願えないだろうか」
私と区長の社交辞令を遮り、サツキが言い放ちます。
「話とは?」
「貴方が持っている〔龍の恵〕についてだ」
事前にサツキは鎌をかけると言っていたので、私達はおどろかずに済みました。
しかし、区長はそうではないようで、どこか動揺したような雰囲気を醸し出します。
「な、なぜ……それを?」
「貴方は……余裕を見せすぎた」
「それは区長として最低限の……」
「ありかがわからないものを探している人間に、手あたり次第破壊されても動じなかったのがすべての証左だ。まるでどこにあるかわかっているような」
「ふぅ。お話しましょう。ここではなんです。こちらへ」
そう区長が何か観念したような様子で一度避難所から出て、地下道に行きました。
「ではまず何が聞きたいのですか?」
「なぜ〔龍の恵〕を持っていることを隠したのか、まずはこれをお聞きしよう」
「私はまだ貴女方を信用したわけではないのです」
助けてあげたのに! ひどい!
「そうか。仮初の命だが、こちらは貴方達を逃がす為に深手を負っているのだが」
「それに関しては心から礼を言わせていただきます。ですが、外の者は皆同じだと私は考えております。この〔龍の恵〕を手にしたとき、本性は現れます」
「本当にそうだろうか。では別の質問をしよう。私達とあの殺人鬼。どちらにそれを渡したいか聞いても?」
サツキはそう言いながら区長の杖を指さします。
あっ。〔龍の恵〕って杖に埋め込んであったんですね。サツキよく気付いたな。
「仕方ないですね。お話ししましょう。私としてはどちらに渡しても同じですよ。どうせ扱えませんから」
「扱えないというのは、貴方も同じだろう?」
そういう結論は先ほど出していました。
使えるなら使ってるはずですからね。
「どうしてそう思うのですか?」
「聡明な区長様にあらせられる。言わずとも分かるだろう」
「そうですか。秘密に気付いたのですか」
「ああ」
気付いていませんけどね。
「ならば心配いりません」
「私はほかの人が死なない様にと考えているのだが?」
「他の者など替えが利きます。ですが私はそうじゃない」
あれ。不穏な空気。
「では依頼を出しましょう。殺人鬼から私を守りなさい。そのあとでなら続きを話しましょう」
「すでに二人倒している。首領もだ」
「もう一人いますよ」
「では倒そう」
「ええお願いします。倒し終わったら証拠を持ってきてください」
「ちょっと待ってくれ。証拠は無理だ。私達プレイヤーは死ぬと消えてしまう」
「では殺さず連れてきて、目の前で殺して見せてください」
あわわ。面倒な条件上乗せされた。
「あぁ。それで信じてもらえるなら、そうしよう」
そう言って区長が戻る避難所ではない方向へ歩き出すサツキを追って、私達も歩き出します。
「どうだった?」
「私的には、あのじじいやばい匂いしかしない」
「私も空蝉には同感。たぶんまだ何か隠してる」
「あぁ。そうだろうね。だが一番手早いのがもう一人の不動組を捕まえることか。幸い、こちらには適任がいる」
「私? 相性次第じゃ無理だよ」
空蝉が頭をぶんぶんと犬のように振りながら答えます。
「大丈夫。相性なんて飾りだ」
相性で苦しめられるのがこのゲームなんですけどね。
私、未だにサツキに勝てないよ……。
地下から地上に上がるために、別の地下通路を歩いていると、ステイシーやエルマ、マオのログインを知らせるアラートが鳴り、ちょうどそのタイミングで空蝉の仲間たちもログインしてきたようです。
ステイシーとエルマ、マオには残りの一人を探すように伝え、最後にログインしてきたクーリとは合流して話す事になりました。
「じゃぁこの後はその不動組の残りを探すのか?」
別の避難所から地上へと戻り、クーリと合流しました。
「ちゅぱ太郎とかは?」
「エルマ達と合流して向かわせている」
「そうか。なら俺らがこっちで主力部隊ってわけか」
「主力は向こうじゃない?」
「俺がいる方が主力なんだよ!」
「まんちかんのほうが強い」
プチ口論が始まるクーリと空蝉を放って私はできる限り≪探知≫の範囲を広め、残りの一人を探します。
しかしまるで見つかる気配がありません。
「なぁ本当に魔法系なんだろうか。≪隠蔽≫積みすぎじゃないか?」
サツキもそう思っていますし、私も勿論そう思っています。
「範囲外ってことも可能性としてあるから分からない。ステイシーに聞いてみよう」
わたしはサツキにそう告げた後、すぐにパーティーチャットでステイシーに問いました。
すると「≪広域探知≫でもかからないよー」と返事が来たので、本格的に≪隠蔽≫等を持っている可能性があります。
「他の案もあるぞ」
すると後ろからクーリの声が聞こえます。
「それは?」
「まだログインしてない」
「あっ」
「あぁ」
そうですね。その可能性もありますね。
その後2時間ほど捜索をしたのですが残りの一人は見つかりませんでした。
2時間もあればデスペナルティーから戻ってきた不動やヤタ丸が戻って来てもおかしくはないですが、さすがに罪を重ねていた様で、戻ってくる様子がありません。結構な都市から重罪判定されてそうですからね。
一度、ステイシーの組と合流し、昼食兼作戦会議を行う事になりましたので、例の酒場に集合します。
「いやー。見つからないねー」
「足、つかれたわ」
私達が到着するや否や、ステイシーの声とマオの愚痴が聞こえてきます。
「チェリー。大丈夫? 二人とやったんでしょ?」
「うん。大丈夫」
エルマの優しい声に答え、私も椅子に座ります。
マンチカンや鶏骨ちゅぱ太郎、ベルガ、犬面もそろっていたので、作戦会議がはじめられそうです。
全員が椅子に座り、空蝉が口を開きます。
「あと一人なんだけど……」
そこまで声に出すと、すぐに犬面が言葉を被せてきます。
「俺気付いたんですけど、まだログインしてないだけですよね?」
彼がそこまで言ったあと、場の空気は一変しました。
「ようー。犬面ー。ちょっと顔貸せよー。二人で話してぇことできちまったなぁ!」
一瞬の沈黙の後、すぐにクーリが犬面の肩に手を置き、外へと連れ出していきます。
「あっごめん。電話」
私もそう苦しい言い訳をしながら外へ向かい歩いて行きます。
外で楽しそうに談笑しているように見えるクーリの背に私は声をかけます。
「殺さないでください。生きたまま連れて来いって言われてるので」
「おう。分かってら。さて……」
クーリに隠されたせいで後ろが見えないであろう犬面を取り押さえるため、マオを除く全員が周囲に展開し円形に取り囲みます。
「犬面の真似は止めな」
クーリがそう言うと、犬面に≪変装≫した誰かは、「きゃははは」と笑い出しました。
「何時気付くのか楽しませてもらいました! いやー! こういうの大好きです! ≪デッド・ポイズン≫」
いきなり≪変装≫を解き、纏ったローブから紫色の空気を噴出し、それは逃げていきました。
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