VRゲームでも身体は動かしたくない。
第5章29幕 風の声<whisper of wind>
「大丈夫ですかっ!? ≪オーヴァー・キュア≫、≪オーヴァー・ヒール≫」
地面を転がり、ファリアルの足元にたどり着いた私にファリアルはそう声を掛け、聖属性魔法を掛けてくれました。
「ありがとう……ございます。かなり重い一撃でした」
嘘偽りなく本当に重い一撃でした。HPが2割をきるほどでしたので。
「少しじっとしてください」
まだ治りきっていない腕で身体を起こし、エルマとプフィーの様子を確認しようとしましたが、ファリアルに怒られてしまいました。
「一つ見ていて気付いたことがあります」
「なんですか?」
「純粋な防御力ではなく、特殊なスキルによって防がれているのだと思います」
でないと、物理、魔法の両方を完全に防ぐことはできないでしょう、と付け加えていました。
私もそう思います。
実際いくら防御に特化していたとしても、刃が弾かれる、ということは普通では考えられません。普通だったら刃が刺さり、抜けなくなるはずです。
それに私は【イナーシャグローブ】を装備していました。抵抗等はほぼ無効化できるはずです。たぶん。
「なので対策は二つあります。〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の防御性能を上回る攻撃をすること。若しくは、防御性能を無効化する何かを用いること」
「後者は難しいかもしれません」
「何故ですか?」
「この手袋は対象の抵抗をほぼ無効化できるものです。しかし発動した形跡がありません。あっ」
私はそこで一つ思い出しました。
「どうしました?」
「えっと……」
私はマオのスキルのことを話しました。
「なるほど。そういうスキルの可能性もあります。現に私がゴーマンの攻撃を防いだのも似たようなスキルです」
伝わって良かったと思う気持ちと、それが分かったところで条件が分からないとどうしようもないという気持ちが湧いてきます。
「そちらは何とか方法を考えます。いまは前線の二人を」
「わかりました」
完全に治った両腕に改めて武器を握り、プフィーの元へ走ります。
「ごめん。おまたせ」
「HPは大丈夫?」
「うん。ファリアルさんに治してもらった。ところで何か気付いたことはある?」
前線へと戻ってきた私は軽傷だったためすぐに戦線復帰したプフィーにそう話しかけます。
エルマが一人で攻撃を捌いてくれているので少し話せる余裕ができて助かりました。
「わからない。でもあいつあの場所から動いてないんだよ」
プフィーに言われ、記憶をたどると、確かに〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕は今の場所からほとんど動いていません。
攻略の糸口になるかは分かりませんが、ファリアルにも伝えておいて貰いましょう。
「じゃぁプフィー。ファリアルさんに伝えてきて。私はエルマとタゲを交代してくる」
「気を付けて」
「そっちもね」
私は後ろに走っていくプフィーに背を向けたままそう言い、エルマの近くまで行きます。
「エルマ。チャンジ!」
「あいよ!」
顔の位置に伸びてきた拳をしゃがみながら回避したエルマが軽快な後方宙返りで私の後ろまで下がります。
「任せた」
「回復とかしておいてね」
自分に向かって繰り出される拳は身体を捻ったり、工夫をしながら躱します。
魔法攻撃は武器で叩き落とせるので問題なく回避できます。
『≪フレイム・エンチャント≫』
〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕 が拳に火を纏います。
『≪フィスト・ショット≫』
そして纏った火をこちらに向けて射出してきました。
両手の武器を上手く操り、火の拳をかき消していきますが、単純な魔法よりも幾分か威力が高いようで、余波ですこしずつHPが削られていきます。
しかし、優秀な魔導師であるだろうファリアルがタイミング良く魔法で回復してくれましたのでそれほど気にせずに回避に専念ができます。
慣れてくると、速度があまり早くないこともあり、容易に躱すことができるようになります。
長時間回避をすることで仲間が何か好転させる言いきっかけを持ってきてくれる、そんな予感がしています。
それから十数分躱していると、プフィーが戻って来て交代してくれます。
タイミングよくチェンジし、私は今一度ファリアルの元へ戻ります。
「何かわかりましたか?」
「いえ。まだ決定的な事は掴んでいません。ですが、やはり動かないことと関係あるかもしれません」
「あともう一つ私が感じた疑問なのですが、〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕ってMP尽きないんでしょうか?」
私がそう聞くと、ファリアルは少し考えるようなしぐさをして、答えます。
「火属性で燃費が良いのでしょう。消耗よりも回復のほうが多いように思えます」
よくある話ですが、〔ユニークモンスター〕でそれはずるいです。
「とりあえずあいつを何とか動かせないかな?」
エルマもその場にいたのでそう言ってきます。
「それは賛成だけど方法が……」
「でしたら私が土属性魔法で地面ごとひっくり返してみましょうか?」
ファリアルの技量ならできる、という確信があったからなのか、その作戦とも呼べない作戦が自然と良いものに感じられてしまいます。
「では準備に入ります。発動まで注意をそらしてください。そして地面が白く発行したら急いで退避してください」
そう言った後、背筋を伸ばし何やら唱え始めます。私達が知っている、使っている詠唱魔法とはどこか違うそれを美しい、と感じながらもファリアルの指示通り、〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の注意をそらすため、エルマと一緒にプフィーの元へ走ります。
「なるほど。わかった」
三人で上手く竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の攻撃を避けながら会話をします。
慣れればどうってことありません。
「それでそのあとは?」
そのあとは言うまでもなく、攻撃が効くかどうかしらべ、効くようなら全力攻撃ですね。
あえて口に出さずニヤリと笑みをプフィーに向けます。するとそれだけで私の言いたいことが伝わった様でプフィーもニヤリと笑みを浮かべました。
数分というほど長くもない時間、〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の攻撃を捌いていると、突然地面が白く発光しました。
これが合図なわけですね。
エルマとプフィーに目くばせをして、退避します。
〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕は少しだけきょとんとした様子をしますが、何をされるのか悟った後、急にじたばたと暴れ始めました。
つまり……。
「効果外確定! 全力攻撃準備!」
エルマがそう言うと、それを聞いていた数少ない人の内一人は、徐に武器をしまいます。
もう一人は、何かに気付いように走り出しました。
『キャキャキャシャ!』
突然不安そうな声をあげる〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕をファリアルは容赦なく土を半円状に変形させ、ひっくり返すという芸当で地面に叩きつけました。
『キシャァアァァ!』
ダメージがあるようで、苦しんでいるようです。良かった、この程度のダメージでいいなら……。
『集エ 集エ 光ヨ 示セ 示セ 道標 我ガ精神ヲ供物トシ 降リ注グ恵ト成セ』
『≪天から閃く光の柱ヨ≫』
何やら騒いでいる〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕の上に数個の球体が生成され、それは恐ろしい速度で私のMPを吸い上げていきます。
そして私のMPをほぼ全て吸い上げた後、天と地へと伸びる大きな柱を形成しました。
地面へと刺さった数本の光の柱は、次第に太さを増し、〔竜骨鬼 ダドラ・スケルティア〕を飲みこみ、一つの巨大な光の塔を完成させました。
MPを失った身体で多少ふらふらとしつつも、この原因を生み出したゴーマンに一つ言いたくて仕方ありません。
「貴方は、国を守りたかったんですよね。ですがやり方を間違えた。その報いは受けなければなりません。願わくば、その魂が浄化され、いつかこの地へ還らんことを」
詠唱魔法の発動中、頭に流れて来たゴーマンの未練や苦悩を知ってしまい、否定することだけをするのはやめ、少し認めてやりたくなってしまったんです。
私の声は、自分にだけ聞こえるはずの物でした。
だからその後に聞こえてきた「ありがとうございました」という言葉ははきっと風が生み出した幻聴なんですよね。
to be continued...
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