VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章24幕 侵入<aggression>


 「おほん。気を取り直して、うちができんのは取引場所までの潜入ルートを教えることまでや。せやからそこから先は二人で頼むわ。うちの優秀な人材は各地に散ってしもうての」
 もこちねるが咳ばらいをしてから話し始め、内容を確認します。
 「それで問題ないヨ。じゃぁ潜入ルート教えてもらおうかナ?」
 「ええで。これみい」
 紙にマップを書き写したものを机にバンと広げます。
 「ほんなら、うちらがいまいるのはここやね。地下通路から近場に出て、そこから左に行ったとこ。ここやね」
 もこちねるが説明しながら紙のマップに筆で経路を書き加えていきます。
 「地下通路は案内したる。特別やで」
 「ありがとうございます」
 「ほんまやったらチェリーの持っとるその【称号】についてぎょうさん聞きたいことあんねんけどそれはまた今度でええわ。準備できたら言うてや。あんま時間ないけどな」
 くひひと笑いながらもこちねるが言いました。
 「私は準備できてます」
 「私モ」
 「お早いことで。ほな行きましょ」
 薙刀を杖のようにし、立ち上がったもこちねるが奥の扉を抜けていくようなのでそれに続きます。

 「地下通路は入り組んでてかなわんな。こっちや」
 ぶつぶつと一人言を言いながら案内してくれるもこちねるに続いてしばらく歩くと、「ここや」と言ってもこちねるが立ち止まりました。
 「このはしご上ってくれればあとは地図通りで大丈夫や。ぐっどらっくやで」
 「案内ありがとうございます。また戻ってきますね」
 「いってくるヨ」
 「帰りも気をつけてな」
 ひらひらと可愛らしい手を振るもこちねるに見送られ、私とプフィーははしごを昇っていきます。

 「ふーふー」
 「チェリー。息上がってるの?」
 「ふー。上がって、ないよ」
 多少強がりつつもはしごを上りきり、マンホールを頭で押し上げたプフィーが安全を確認したのち、地上へと上がります。
 「左だよね?」
 「うん。でもちょっと待って。見張りがすごい多い気がする」
 「どういうこと?」
 そう言いながら私も周りを確認します。
 するとこの『風鈴街 キャンドラ』には似つかわしくない、白衣を着用している人が多いように感じました。もともとこの『風鈴街 キャンドラ』は和風、和服の街ですので、違和感はそこですね。
 「≪透視≫。全員武器持ち。銃が大半。一人は刀」
 プフィーが発動した≪透視≫で白衣のNPCを見て分かったことを教えてくれました。
 「穏やかじゃないね」
 「ばれないように無力化していきたい」
 「なら任せて。催眠使う」
 「ここなら感知されないし大丈夫だと思う。やって」
 「『眠レ 我ガ歌ニテ』≪スリープ≫」
 私が≪スリープ≫を発動させ、白衣のNPCを眠らせます。
 「一人残った。殺さない程度に黙らせなきゃ」
 プフィーが状況を見て、そう言いました。
 「魔法抵抗が高いのか、対策を積んでたかだね。……っ!?」
 「どうしたの?」
 「いっ……≪逆探知≫っ……」
 自分に掛かった魔法が自身の抵抗力を下回り、且つ、スキルを習得していた場合に使うことのできる≪逆探知≫を浴びてしまいました。めちゃくちゃ頭痛いですね。これ……。
 「チェリーは少し休んでて。黙らせてくる! ≪気配分散≫」
 スキルを発動し、分身のようなものを作り出したプフィーがあくまで人目に付かないように無力化するべく動いてくれました。
 その間に私は、≪逆探知≫の痛みに耐えつつ、ポーションを飲みます。
 「「「さァ。くらいナ」」」
 分身の内の半数が肉弾戦、もう半数が吹き矢のようなものを取り出し取り囲みます。
 しかし、唯一≪スリープ≫に掛からなかった彼は、プフィーを視認できていないようで、辺りをきょきょろしています。
 「「「≪麻酔針≫」」」
 プッと吹き矢を吹き、針のようなものをNPCの身体に刺し、自由を奪っていました。
 見事なものです。

 「おまたせ。頭は大丈夫?」
 「大丈夫。POT飲んだら良くなった。≪気配分散≫って?」
 「≪気配分散≫は自分の存在を薄めて複数に分けるスキルだよ」
 「分身じゃないの?」
 「分身じゃないよ。分身だと関係ない人にも気付かれちゃうだろうし、こういうとき≪気配分散≫は使えるスキルだよ。【忍】系で取れるから覚えておいた方がいいよ」
 「覚えておく」
 手を差し出してくれるプフィーの手を掴み立ち上がります。
 「よしじゃぁできるだけ気配を消して侵入するよ」
 「りょうかい」

 私とプフィーは現時点ででき得る限りの隠蔽技能を用いて、その辺の石よりも存在感を薄めて取引場所に潜入します。
 『普通の家じゃないね。貴族の別邸かな?』
 『それにしては警備がいない』
 パーティーチャットで言ってくるプフィーに対し、私もパーティーチャットで返します。
 『護衛はいるかもしれないけど、使用人とか警備員には聞かれたくない取引って可能性もあるね』
 『そうだね』
 建物の構造的には、『騎士国家 ヨルダン』にある私達のセカンドホームのような感じです。まさか……。いや、考えすぎですね。
 『≪探知≫は使わないほうがよさそうだね。手分けして探そう』
 『わかった。じゃぁ一階を探す』
 『私は二階ね』
 私が一階を、プフィーが二階を探す為に、一度別行動を取ります。

 一階には台所、食堂、浴場、遊戯室、応接室がありました。
 音声や認識の阻害障壁等は張っておらず、ここは外れだとわかりました。
 それを伝えようとパーティーチャットでプフィーに伝えようとしたところで、そのプフィーからチャットが届きます。
 『二階がビンゴ。寝室で何やらやってる』
 『わかた。行くね』
 私はそう告げ、階段を物音を立てないように登っていきます。

 『ここ?』
 階段を上った先でプフィーを発見し、そこまで慎重に歩いていき、聞きます。
 『っぽい。声も聞こえる』
 『どう侵入するの?』
 『そのためのレディンでしょ。レディン見てる?』
 『もちろんです!』
 『今私達の座標見えてるよね?』
 『はい! ばっちりです』
 『そこから数メートル前方……東側に転移させて』
 『了解です。お待ちくださいです!』
 そうチャットが届いた数秒後、レディンから再びチャットが来ます。
 『準備できましたです』
 『やって』
 『了解です!』
 そのチャットを見た瞬間私達は一瞬で扉の奥へと転移し、取引現場への侵入に成功しました。

 こちらの気配に気づくこともなく、ベッドに入ったままの、高級そうな身なりの、男性を取り囲むように白衣を着た人が集まっています。
 「ですからこうしてはせ参じたわけでございます」
 「こちらから、返せるものなど、ないぞ……」
 咳をしながら男性が答えます。
 「大丈夫です。この薬で体調が少しでもよくなっていただければと。対価をくださるというのであれば、今後我々との取引を優先して頂きたいのです」
 「それは構わんが、その薬に、本当に、価値はあるん……だろうな?」
 「もちろんでございます。我が『パラリビア』研究所の名にかけて、相違ありません」
 くそっ。取引の初めから聞けなかったのが惜しい! もう一度言ってくれ……。
 私の願いが通じたのか、咳をしている男性がしゃべり始めます。
 「本当に、この薬に、延命効果があるんだろうか。副作用もないとはいかにも信じがたい代物だ……」
 わーい。全部教えてくれた。
 私がそうガッツポーズを取ると、肘をちょんちょんと突かれます。
 突いたプフィーの方を見るとウィンドウを可視化してこちらに見せてきます。
 先ほどまであった『悪事を暴く』から『『風鈴街 キャンドラ』国王、ドモモス・ゲイ・キャンドラの命を救い、悪事を止める』に代わっていました。
                                      to be continued...

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