VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第5章21幕 通販<catalogue shopping>


 「どういうことでしょうか?」
 フェアリルの発言がよくわからず私は聞き返します。
 「〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕が変化していることについては知っているかしらぁ?」
 「一応、その調査で私達はここに来たので」
 「元々は空色の体液を持っていたのねぇ。それが何らかの外的要因から琥珀色の体液に変化したのよぉ」
 「はい」
 「その要因はぁ、八位研究所が作ったなんじゃないかしらぁ?」
 「なるほど……」
 〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕 の体液を琥珀色に変化させることで、薬品を作る材料にしていた可能性がある、というわけですね。
 「私から十三位研究所に報告をあげておくわぁ。このあとはどうするつもりなのぉ?」
 フェアリルにそう聞かれ、私達は一度顔を突き合わせ相談を始めます。
 「実際、どうする?」
 エルマがそう言います。
 「ここまで来ても『悪事を暴く』から進まない……」
 「ならこの路線でクエストを進行させないと駄目だよね?」
 プフィーが少し焦りの混じった声で言ったので、私はフォローというほどでもありませんが、とりあえず進行するべきという意見を出します。
 「進行するのは決まりだろうけど、どう動くの? また八位研究所に視察に行くの?」
 エルマの言うことも最もです。クエストを進めるのは確かに決定事項なのですが、どうやって進めるのか見当がつきません。
 「フェアリルさんが旨い事十三位研究所に報告したら進まないかな?」
 他人任せですが、私の頭で考えられるのはこの辺が限界です。
 「とりあえず思ったこと言っていいかな?」
 プフィーがそう言って少し顔を近づけてきます。
 「なに?」
 「なに?」
 私とエルマがそう言って顔をさらに近づけます。
 「この国の法律で人体実験ってどういう扱いなんだろうって」
 「…………」
 「あっ!」
 プフィーに言われて気付き、無言になる私と、手をポンと叩き合わせるエルマという対照的な図が出来上がった直後、エルマが先ほどよりも大きい声で言います。
 「図書館とか行ってそこ確認しなきゃ悪事もクソもないよね。そりゃそうだわ。罪人にはそういうことしておっけーっていうんだったら悪事じゃないもんね」
 「その場合の悪事って〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕に何かしたってことだよね?」
 「そうなると思う」

 短い相談を経て、結論を出した私達はフェアリルに向かって今後の方針を話します。
 「……ということで、図書館とかはないですか?」
 「図書館ねぇ。十三位研究所にあるわよぉ。でも無断では入れないわねぇ。貴女達の切符を貸して頂戴ぃ」
 言われた通りに私達は切符を渡しました。
 「情報を書き換えて、八位研究所に入れる視察切符から、全研究所に出入りできる臨時顧問の切符にしておくわぁ」
 これはありがたいです。
 「ありがとうございます」
 「いいのよぉ。貴女達のおかげで研究サンプルを取りに行く手間が省けたんだものぉ。そのお礼よぉ」
 そう言って紅茶のカップを持ちながら私達にウインクを飛ばしてきました。

 十二位研究所を後にした私達は、時間も少し遅くなってきたので、明日、十三位研究所にあるという図書館に行くことにしたため、現実世界に戻って休息を取ることにしました。

 頭から専用端末を外し、むくりと、ベッドから起き上がり、大きく伸びをしながら息を吐きます。
 音声端末でお風呂にお湯を溜め、私はリビングへとやってきます。
 最近あまりテレビとかは見ていなかったのですが、無音なのも寂しいので付けてみます。
 バラエティー番組やニュース番組、旅番組、スポーツ番組等、最近では番組や放送局も増え、どんな時間帯でも好きなジャンルのテレビが見れるようになっているのはいいことですね。
 数多ある動画配信サイトと提携を結んだテレビ局が人気の動画を流したり、小さな映画製作会社が制作した映画を流したり、とテレビ番組も昔に比べて変わってきたと思います。
 自動調理機を動かしている間の時間、やることがなかったので私はリモコンを操作し、番組表を見ています。
 オンラインゲームについて紹介する番組が目につき、ちらりとチャンネルを回してみますが、私の知らないゲームで、あまり好きな物ではなかったので再び番組表に目を向けます。
 結局いい番組は見つからず、通信販売のチャンネルを見ることにしました。
 『ご覧ください! この色! 艶! 匂いも大変食欲をそそります!』
 お米の通信販売のようで、パカッと開けた炊飯器から湯気が立ち込め、こちらまで匂いが届きそうな気がします。

 余談ですが、テレビ番組の内容に合わせ、合成した香料を噴出する事で匂いも体験することができるテレビは5年ほど前に完成しました。私はテレビにこだわりがないのでいりませんが。そもそも、テレビから匂いがしてきたら嫌じゃないですか? 夜中お腹がすきますし、スプラッタ系の映画等を見ていたら吐いてしまいます。

 自動調理機から完成した食事を取り出し、通信販売の番組を見ながらもぐもぐと食べているとちょうどお米の通信販売が終わり、続いて健康器具の紹介に移りました。
 待っていました! と言わんばかりに健康器具の通信販売を眺めつつ、食事を取っていると、私好みの商品が紹介されました。

 『こちらの商品はですね! 女性に大人気のダイエット器具なんですよ!』
 ほう。女性に大人気ね。
 『まずこのフォルム! リビングの机の上に置いてあっても違和感がなさそうです!』
 いや。あるでしょ。それ、ぱっと見、乗馬鞭じゃん。
 『あっ。今皆さま違和感があるって思いましたね?』
 思ったよ。こいつエスパーか。
 『その通りです! 流石にリビングにあったら違和感があるでしょう』
 おい。じゃぁ言うなよ。
 『皆様のツッコミが聞こえてくるようです! ではこの商品! なんとテレビを見ながら振るだけで腕が細くなるんです!』
 なんだとっ!?
 『ただ座って、こうする。ただそれだけなんです! 簡単でしょう?』
 それは簡単だわ。でもそれだったら別に乗馬鞭振る必要なくない?
 『実はこの先端……消臭剤が入っていまして、部屋の匂いを消せるんです!』
 おお! それはいい!
 『さらにさらに……この柄を外しますと……』
 ゴクリ……。
 『もう片方も消臭剤になるんです!』
 二個もいらねぇよ。

 食事をせずに夢中で見ていましたが、あの商品を買ったら何か負けな気がしたので、そっとチャンネルを変えます。
 いつも通り、動画配信サイトで好みの配信者の動画を見つつ、食事を食べきり、お風呂に入ることにしました。

 お風呂から上がった私は、いつも通り牛乳を飲み、不足した食材等を注文します。
 お湯を沸かし、紅茶を淹れた私はカップを持って部屋に戻り、パソコンデスクの前に座ります。
 日課、というほど毎日しっかりはやっていないですが、世界情勢等をチェックし、トレードを行います。
 大金を稼ぐつもりはなく、家賃と食費、光熱費とちょっとした買い物の分だけあればいいので、気楽にトレードできるのは素晴らしいです。

 一通りのチェックややることを終えたので私はベッドにもぐりこみ、携帯端末から動画サイトを開き眺めていると、いつの間にか夢の中に入っていたみたいでした。

 朝9時頃に目を覚ました私は、朝食を取ろうとベッドから起き上がります。
 最近自動調理機のご飯ばかりで少しウェストが太……くなってないです。本当です。
 気分転換の為に、あくまで気分転換の為に、学生時代よく食べていたシリアルを引っ張り出し、牛乳とともにいただきます。
 最近のシリアル凄いですよね。一食で一日に必要な食物繊維が取れてしまったり、中には美肌効果があるものもあります。
 いつもより短い時間で朝食を済ませた私はベッドに入り、<Imperial Of Egg>にログインするため、専用端末をかぶりました。
                                      to be continued...

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