VRゲームでも身体は動かしたくない。
第5章20幕 手がかり<clue>
宿屋に戻った私は、ステイシーとマオ、サツキ、ついでにハリリン、にも事情を説明します。
『なるほどねー。じゃぁ『パラリビア』の八位研究所だっけー? そこが関係している可能性もあるってことかー』
『可能性じゃなくない? 間違いないと思うけど』
私の説明を聞いたステイシーとエルマがそう言います。
『その時ワタシはいなかったから何とも言えないのだけれど、聞いた話だと関わっていないほうがおかしいのではないかい?』
サツキも同意見のようで、そうチャットを返してきます。
『私もそう思うんだけどね。とりあえずプフィーの情報収集能力にかけるしかないね。あとハリリン』
『ハリリンがどうかは知らないけどー。いまは厳しいんじゃないかなー? まだ新マップの攻略中じゃないー?』
そうでした。すっかり忘れていましたが、ハリリンは新マップの情報収集に言っているんでした。頼れるのはプフィーだけということですね。
『一応いま『ヴァンヘイデン』に来てるヨ。でモ、結構苦戦しちゃウかナ。あンま詳しくナいかラ』
プフィーは普段のロールプレイ口調でそう返してきます。
『とりあえず任せるね』
『まかせてヨ。一応情報屋だからネ』
情報屋ではない私にできることはないのでしばらく任せることになってしまいますね。
「チェリー」
扉の外からエルマのこえが聞こえます。
「入っておいでよ」
「了解!」
無理してテンションをあげているようなエルマの声が扉の向こう側から聞こえ、扉がキィと音を立てて開きます。
「どうしたの?」
「ん。いや。特に何でもないんだけどね」
エルマがそう言いながら私の部屋へと入り、ベッドに腰を掛けます。
「何か飲む?」
「びーるがいい」
「ないから居酒屋でも行く?」
「そうしようか。こもってぐずぐず考えてても仕方ないしね」
座ってすぐ立ち上がるエルマが扉の外へと歩いていったので、私もそれに続いて部屋を出ます。
数分歩いた場所にあるNPCの酒場に足を運びます。
「近くに居酒屋があってよかったよ」
エルマがそう呟きながら扉を開け酒場に入ります。
「いらっしゃいませ! そうぞ!」
ウェイターの女性NPCに案内された席に座り、呪文『とりあえず生』を唱えます。
1分程で到着したビールを二人で煽り、会話を始めます。
「やっぱり、チェリーの目から見てダーロンと同じに見えた?」
話す内容は八位研究所の改造部門についてでした。
「私が見た限りはそうだった。同じ気配だって」
〔猛虎猿 バーグバンダー〕が≪憑依≫していた時のダーロンの記憶と、先ほど八位研究所で見たサンプル008との様子を比較しながら答えます。
「どの辺ぐらいまで同じ?」
「感じた範囲だと≪憑依≫がしてあるのかどうか分からなかったけど、薬品での強化は間違いなくやってる」
雰囲気の違いを≪憑依≫の違いだと考えた私は、そうエルマに説明しました。
「そっか。まぁそれが分かったところで、あたし達にはどうしようもできなくない?」
「もしかして、その為の十二位研究所なのかな?」
「どういうこと?」
首を傾げながら、聞き返してくるエルマに、推論ですが、話を続けます。
「十二位研究所のこれまでのクエストが八位研究所に忍び込む為だけってのは考えにくいかなって。だからもしかしたら、さっき見てきたことを十二位研究所に言ってみるのはどうかな?」
「できることってそれくらいしかないよね」
すこししゅんとした様子のエルマがおかわりのビールを注文し、ぐびぐびと飲み始めます。
数十分が経った頃、プフィーからチャットが入りました。
『チェリーさん。やはり『ヴァンヘイデン』と『パラリビア』の間で極秘裏の取引があったみたいです』
『どんなっ!?』
待ち望んでいた報告だったので、私はすぐに返信しました。
『具体的にはまだ分かっていないんだけど、俗に言う『お近づきの印に』ってことで何やら薬品をたくさん持ち込んでいたみたい。その持ち込んだ『パラリビア』の商人がダーロンって人に無理やり≪憑依≫させたのかも』
あのバカ国王……。
『わかった。ありがとう。気を付けて戻って来てね』
『うん。すぐ戻る』
『手ー。貸そうかー?』
『ワタシもよければ手を貸そうじゃないか』
ステイシーとサツキがそう言ってくれますが、今回は断っておくことにします。
『ううん。手を借りたいっちゃ借りたいけど、ここまで3人でやってきたから、このまま3人でやれるとこまでやってみるよ。どうしても無理そうだったらその時は手を貸して』
『わかったー。僕はいつでも行けるから安心してねー』
『ワタシもだ。がんばってくれたまえ』
『ありがとう』
チャットを終え、一息吐くついでに無くなっていたお酒を追加します。
「この先、どうなるんだろうね……」
エルマの呟きが、このクエストのことなのか、このゲームの今後のことなのか、私には分かりませんでした。
私とエルマは酒場を出て、帰ってきたプフィーと合流しました。
「おかえり」
「ただいま。さっきチャットで言った通りのことまでしか調べられなかった。でも情報屋の集まるギルドで情報を探ってもらうことになったから少しまてばもうちょっと情報が増えるかもしれないよ」
多少息を切らしながらプフィーが言いました。
「この後どうする? さっきチェリーと話したんだけど八位研究所の話を十二位研究所に伝えようかって思ってはいるんだけど」
「どうだろう。クエストが『悪事を暴く』だったよね。でもいま悪事を知っても進行していないからもしかして別の研究所……私達なら十二位研究所かな、に伝えないといけないのかも」
プフィーもそう判断したようで、十二位研究所に報告に行くことにしました。
酒場から十二位研究所までの距離はそれほどなく、すぐに到着しました。
プフィーが門番に説明し、中にはいらせてもらいます。
いつも通りに応接室で待つようにと言われたのでそれに従います。
この応接室にも慣れたもので、プフィーが備え付けの道具を用いて紅茶を4人分淹れています。
プフィーが淹れた紅茶を飲み干し、おかわりを貰おうとしたところで、パタパタという、フェアリル特有の足音を聞きつけた私は紅茶のカップを机のソーサーに戻し、気を引き締めます。
「ごめんなぁいねぇ。おまたせぇ。随分早い戻りだったけどぉ、もう視察はいいのかしらぁ?」
そこまで言ってからフェアリルはソファーに座り、プフィーがいれた紅茶を飲みました。
「八位研究所のことでお話があります」
私がそう切り出すと、フェアリルは飲みかけの紅茶をソーサーに置き、こちらの話を聞く姿勢を取りました。
「聞かせてぇ」
「八位研究所では人体実験を行っていることはご存知ですか?」
「もちろんよぉ。八位研究所は環境が人体に与える影響とかぁ、延命とかを研究しているものぉ」
「延命……?」
何かが私の頭で繋がりそうな気がします。
「人体改造は知っているの?」
エルマが問います。
「人体改造ぉ? わかったわぁ。そう言うことなのねぇ」
何かを納得した様子でフェアリルがコクコクと頷いています。
「何かわかったんでしょうか?」
プフィーが少し身を乗り出して聞きます。
「ふふぅ。詳しい話は、できないけれどぉ。四位研究所が八位研究所の邪魔になっていた理由はわかったわぁ」
誰かがゴクリと唾を飲みこみます。
紅茶を飲んで喉を潤したフェアリルが言います。
「〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕よぉ」
to be continued...
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