VRゲームでも身体は動かしたくない。
第5章15幕 沼の主?<guardian of pond>
「酷い目にあった」
エルマがそう言いつつバケツの中のおひねりを数えます。
「でも楽しかったでしょ?」
私がエルマにそう言うとニヤと笑って頷きました。
「いくらくらいなの?」
「大体9000金くらい集まった」
「大収穫じゃん。御昼代にしよう」
「だねー」
インベントリから取り出した巾着袋にガサッとお金を移したエルマがバケツを返してきます。
「チェリー結構大道芸ごっこしてたんだよね?」
「そうだよ。VR前はわりと頻繁にやってた。結構プレイヤーがお金恵んでくれたし」
「お金に困ってなかった癖に!」
「そういえばそうだった」
「ところでチェリー、エルマ。外来生物の調査に行きたいんだけど」
プフィーが少し申し訳なさそうな顔で言ってきます。
も、もちろん覚えていましたよ?
「じゃ、じゃぁ行こうか」
私は装備を元に戻し、そう言いました。
屋上から降り、外来生物が多くいるという沼へ向かい歩き始めます。
「なんていうとこ行くんだっけ?」
場所の詳細を聞いたはずですが、忘れてしまっていたのでもう一度聞きます。
「確か『メチャクサイ沼』だったかな?」
エルマが言うと、プフィーに間違いを指摘されます。
「『メチクサ沼』! くさい沼なんか行きたくないよ!」
たしかに。
「そうだそれそれ! 『メチャクサイ沼』!」
あっ。その呼び方で通すんですね。
「もうすぐ着くよ」
首都『グージー』からあまり遠くない場所にあるらしく、会話をしながら歩いているとすぐに見えてきました。
「うっわっ! でっけぇ!」
エルマがテンションをあげ、ピョンピョン飛び回ります。
「うちらのセカンドホームの10倍はあるよ!」
「さすがにもっと大きいと思うよ。プフィー、なんの調査するんだっけ?」
「んーと。具体的にはよくわからないけど、とりあえず生物と触れ合えば良さそう」
「そういうことなら……」
エルマが口の横からペロリと舌を出し、インベントリをあさっています。
そしてインベントリからにゅっと出てきた謎の釣り竿に驚愕します。
「いつどこでそんな釣り竿を?」
「へっへ。こないだ海に水性モンスター狩りに行ったじゃん? あのときついでに釣りしようかと思って買っておいたのだ」
両手を腰に当てながら、自慢げに言っています。
「どんなスキルが付いてるの?」
私は釣り竿という武器にどんなスキルが付いているのか気になったので聞いてみます。
「≪射程延長≫、≪受動探知≫、≪筋力増加≫、≪鋼糸≫、≪誘惑≫、≪隠蔽≫」
「えっ? 6個もついてるの?」
スキルが6個ついているという恐ろしい武器のように思えましたが、エルマが舌打ちをしながら右手の人差し指を横に振る動作をしていたのでスキルレベルが低いのだと認識します。
「ちなみにあと4本ある」
「持ちすぎ」
プフィーが突っ込みますが、エルマはそれを無視して2本取り出します。
「チェリーとプフィーの分。さて釣るぞー!」
そう言ってエルマがインベントリから取り出したレジャーシートのようなものを地面、というか沼なので泥ですが、にひきドカッと胡坐をかいて座りました。
シュッと風を切る音が聞こえ、釣りを始めたエルマに倣い、私達も釣り竿を持ってシートに座ります。
「≪筋力増加≫ついてなかったら私持てなかった」
プフィーがそう言いながらエルマの見様見真似で竿を振っています。
私も釣りは初めてなので、プフィーを真似、竿を振ります。
数分しても釣れず、途方に暮れていると、エルマが「うわあ!」と叫んでいたのでそちらに顔を向けます。
「やばい! やばいよ! これ絶対主! 沼の主だ!」
要するにめっちゃ引いてるって言いたいんですかね。
「エルマ! 竿持ちあげて!」
「こう!?」
エルマがグッと竿を垂直に持ち上げます。
「走れ!」
「えっ?」
「走れ! 向こうに!」
プフィーが大きな声でエルマに走るように指示します。
どうも私の知ってる釣りとは違うみたいです。VRのことなら彼女たちのほうが詳しいですし、それが正しいのでしょう。
エルマが竿を垂直にしたままクルリと後ろを振り返り「おりゃー!」と走り出します。
私は走っていくエルマよもエルマが釣った主のほうが興味あったので釣り竿から垂れた糸を見つめています。
するとばちゃんという音とともに、10cmくらいの小魚が掛かっていました。
「主釣れたっ!?」
エルマが少し遠くから声をかけてきますが、私にはこれが主には見えません。
先ほど装備を取り替えた際、≪鑑定≫を使用するため【称号】を入れ替えていたので、確認します。
「〔ボラニア〕だってさ。随分小さい主だね」
そこまで何とか一息で言い切り、私は肩を震えさせます。
プフィーも唖然といった様子で〔ボラニア〕を眺めていましたが、プッと吹き出し、それにつられるように私も声をあげて笑い始めました。
「ほんとにめっちゃ重くて主だと思ったんだよ……」
グスンと音を立てながら〔ボラニア〕を眺めるエルマが言います。
「〔ボラニア〕ってよく見たら在来生物なんだね」
プフィーが情報を調べた用で〔ボラニア〕が在来生物だということが分かったそうです。
「でもほとんどいなくなった在来生物を釣り上げるとか結構レアい?」
エルマが「そう言って!」と期待を込めた眼差しを送って来るので、私は「これはレアケースだー」と棒読みで返しておきました。
在来生物を捕獲したら持ってきてほしいとフェアリルから依頼も受けていたようで、専用のボックスに入れました。後ほど十二位研究所に届けます。
その後、体感では30分ほど、実際には2時間ほど釣りをし、ある程度の外来生物を確認しました。
在来生物も何度か釣り、その都度専用ボックスに入れていました。
その際、外来生物が在来生物よりも二回り以上大きいということとフェアリルの言う通り、食用、素材用としてかなり優秀だということも確認できました。
「結構釣ったし、クエストはどう?」
「あっ。うん。随分前に進行したよ。次は『調査を報告する』になった」
「報告は十二位研究所でいいのかな?」
「たぶん」
そう確認し、私達は再び十二位研究所に行くため、首都『グージー』に向かって歩き始めました。
途中プレイヤーの経営するお店を見つけたので昼食をとり、ちなみにお刺身が美味しいお店でした、十二位研究所へとやってきました。
「お話は伺っております。どうぞ中へ」
フェアリルから話が行っていたのか、門番がスムーズに通してくれます。
「昨日の応接室にてお待ちください。外来生物部門主任がすぐに参られると思います」
そう言って頭を下げていました。
昨日内部をじっくり見る機会がなかったのでチャンスと思い内部をよく見てみます。
研究所というより学校のような雰囲気です。
正面玄関を入ると右手側と左手側に通路があり、正面には上階へと昇る階段があります。右手側が外来生物部門、左手側が在来生物部門と別れている事が案内図から見て取れます。
幸い右手側に直進し、応接室と書かれたプレートがすぐに発見できたのでよかったです。
応接室に入り、2.3分待っていると、パタパタパタとこちらに駆けてくるような音が聞こえてきます。
「ごめぇんなぁい。おまたせしましたぁ」
フェアリルが応接室の扉を開け、乱れた呼吸を整えずにそう言います。
ちょっといけない気持ちになってしまいますね。これは。
「在来生物をいくつか捕獲してきました」
プフィーがそう言い預かっていた専用ボックスを机の上に置きます。
「ありがとぉ。在来生物部門の主任に渡しておくわねぇ」
フェアリルがそう言って専用ボックスを受け取り、椅子の横によいしょと置いていました。
「では外来生物について報告します」
先ほどの軽い調査の報告をフェアリルにすると、右手の人差し指を顎の下に置き、「うーん」と唸っています。
「どうかされましたか?」
私がそうフェアリルに聞くと、どこか上の空といった感じで答えてきます。
「えっとねぇ。成長がぁ、早すぎるかなぁってぇ」
「成長が早い? どういうこと?」
エルマが食いつき、質問します。
「この間ねぇ、調査をしたときはそこまで個体数も多くなかったしぃ、大きくなかったのよぉ。だから不思議なのぉ」
「でも外来生物にとっては理想郷みたいなところなんですよね? ならそんなに不思議ではないのでは?」
私はその話を聞き、思ったことを述べます。
「そうなんだけどねぇ? ちょっと引っかかるのよぉ」
口をすぼめながらフェアリルがそう答え、ぽんと手を叩きます。
「そうだぁ。お水は持ってるぅ? 沼のぉ」
「あっそれなら一応専用ボックスに入っています」
「助かるわぁ。ちょっとお水も調べるわねぇ。一日時間くれるぅ?」
「はい。大丈夫です」
「あっじゃぁ、明日のこの時間にまたきてねぇ」
「わかりました」
「またねぇ」
専用ボックスを持ったフェアリルが応接室から出て、手を振り去っていきました。
十二位研究所を後にした私達は、クエストの進行について再びプフィーに尋ねます。
「どう?」
「『調査結果の報告を受ける』ってなってるよ」
「あっじゃぁ一応進んだんだ」
エルマが少し不満そうな顔と声でそう言います。
「どうしたの? 少し不満そうだけど」
私がそう聞くとエルマが、だってーと続けます。
「時間ばっかりかかるクエストなんだもん。刺激が欲しい」
分からなくもないですが、私的にこういうクエストは嫌いではありません。移動は面倒くさいですけど。
「とりあえず、もう一回案内所に行ってみる? 何か新しいクエストがあるかもしれないし」
プフィーが言ったことに賛成した私達は、途中で休憩を挟み、案内所へとやってきました。
to be continued...
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