VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章36幕 解放<release>


 【称号】である程度の魔法が使えるので両手をどちらも近接武器に変更します。
 お馴染みの短剣【ナイトファング】と短刀【短雷刀 ペインボルト】ですね。
 【短雷刀 ペインボルト】は精霊を宿したままのほうが良かったので今回はどちらの武器空も精霊は出さずに戦います。まぁ精霊出したら魔法で戦うのと変わりないですからね。
 「≪スライド移動≫」
 これもお馴染みの移動スキルを発動し、〔マシナリー・ダーク・ビショップ〕との距離を詰め、左手の【短雷刀 ペインボルト】で一閃します。
 先ほどのゴーレムとの戦闘でわかったように、武器自体の等級が跳ね上がっているので苦もなく切断できます。
 三度目の<転生>クエストのボスであった〔機械怪鳥 ヒクイ・ヴェロキラ〕の時に使えてたらどんなに楽だったでしょうか。まぁ過ぎてしまったことを考えても仕方ありません。
 【ナイトファング】のスキル、≪ダブルファング≫を【短雷刀 ペインボルト】で発動し、機械部分を刻んでいきます。
 しばらく続けていると、機械部分の活動が停止し、討伐が完了しました。
 私のレベルは現在Lv.334ですので、経験値的にいいというわけでもなく、疲労だけが残ります。
 ふぅと息を吐き出し、いつもの装備に戻してから狭い出口を潜り抜け、デルバのもとへと戻ります。
 「倒し終わりました」
 「早かったね。どれ」
 そうデルバが確認して奥へと向かいます。
 「ほう。本当に倒しておるの」
 奥からそう声が響き、ひっよこりとデルバが戻ってきます。
 「流石さね。これなら精霊駆動を手に入れても悪用はしないとわたしゃ信じるよ」
 「ありがとうございます」
 「じゃぁ精霊神像のとこまで案内するさ。ついといで」
 「はい」
 先導し、この裏都市『捨てられた都市』から『アースバルド』の案内所へと戻ってきます。
 「こっちさね」
 案内所を出て左にデルバが進んでいきます。
 「そう言えば精霊神像って都市の中心にあると聞いたんですが」
 「あぁ。それかい? 都市の中心と言っても物理的な中心じゃないんだよ。精霊の通り道が一番太い場所に設置してあるんさね」
 「そうなんですか」
 うん。わかりません。エルマとかサツキとかだったらわかるのかもしれませんね。

 デルバ空外の人の話を聞きつつ歩いていると教会のようなものが見えてきました。
 「あそこさね。あそこで祭られているのさ」
 「おお」
 他の副都市は噴水にしたり、山頂に放置されたりしていたんですがここはしっかりと管理しているようですね。
 デルバについて、協会に入ります。
 現実でもよく見るような教会ですね。
 現物はドラマの中でしか見たことはありませんが。
 「祈りを捧げてくるといいさね」
 そう言われたので精霊神像に近づき祈りを捧げます。
 すると三度目のウィンドウが出てきます。『精霊神像3/11』となっています。これで三カ所目ですね。
 「終わったかい?」
 「ええ。終わりました。案内してくれてありがとうございます」
 「気にすることはないさ。元々精霊駆動はこの都市の為に作られた物さね」
 「そうなんですか?」
 「この都市の者はみな、農作物に取りつかれたように栽培しておる。それを危険と考えた昔の精都王が精霊に詳しいものを集めて作らせたのだよ。少しでも負担を減らすためにってとこさね」
 「なるほど」
 「戦争等が起きたら導入するつもりもあったかもしれないね。まぁ起きなければよいのさ」
 「ですね」
 「このあとはどうするのだ?」
 「特に決めていはいませんが四大精霊で回っていないのが風精霊なのでまずそちらに行こうかと」
 「『風精の高原』に行くのかい?」
 「ええ。『ウィンデール』に」
 「あそこは人も少ない、案内所もないしの、場所だけ教えておこう。大きな風車があるのさ。そこの内部にあるとおもうぞ」
 「ありがとうございます」
 「宿屋や飯屋もないだろうからこちらで済ますか、『風精の高原』からすぐ近くにある『雷精の里』に行くとよい。あそこは副都市の中で唯一他国と共同で開発しているからの。かなり豊かじゃ」
 「分かりました。そうします」
 「気を付けて行ってくるのじゃぞ」
 「ありがとうございました」
 そうデルバに感謝を告げ、私は他のみんなに連絡します。

 『精霊神像のクエスト進んだ。次は『風精の高原』に行こうと思うんだけど、何もないらしくて、少しだけ寄ったらその近くの『雷精の里』に行こうかなって思ってるんだけど』
 『了解ー。馬車の休憩所にもどるねー』
 『あたしももどるね』
 『待ってる、わ。クルミちゃん、も、つれていく、わ』
 
 連絡をしたところみな休憩所に戻ってくるそうなので私もすぐに休憩所まで戻ります。

 「おまたせ」
 「おつかれー」
 「案内所の人が言うには『雷精の里』ってかなり発展してるらしい」
 「へー。僕は雷魔法たくさん使うし興味あるなー」
 「じゃぁ『雷精の里』で一泊するってことでいいかな?」
 そう聞くと三人ともから同意が得られたのでそのプランで行きましょう。
 「では馬車にお乗りください。『風精の高原』に立ち寄ったあとすぐに『雷精の里』に参りますね。もう少しで日が沈んでしまいますので少し飛ばしますね。フレンデール」
 クルミがそうフレンデールに話しかけ、ポンポンポンと首元を叩きます。
 するとフレンデールの背中から翼が生えてきました。
 「ペカサスだったんですか」
 「ええ。貴族馬車を轢くのにこの子が選ばれる理由です」
 クルミがニコと笑うとフレンデールも自慢げに翼を羽ばたかせます。
 「飛ぶことはあまりしないんですけどね。とりあえず出発しましょう」
 そう言ってクルミは手綱をピシと引き、フレンデールを走らせます。

 少し、どころか私の≪スライド移動≫に匹敵するんじゃないかというほどの速度をだし、馬車は『風精の高原 ウィンデール』へと進んでいきます。
 景色はあまり見ることができませんでしたが早いのはいいことです。
 「内部まで馬車で参りますか?」
 「ちょっとまってね。みんなも来る?」
 「色々調べたんだけど、本当に『ウィンデール』って何もないらしい」
 「なら僕はパスかなー。チェリー一人ならすぐ終わりそうだし」
 「ということであたしもパス」
 愛猫姫もふるふると首を横に振り、行かないと表現しています。
 じゃぁ私だけで行きますか。
 「私だけで行くので少し待っていてください」
 「かしこまりました。『サンデミリオン』へ向かう道との合流支店で一度停めますね」
 「分かりました」
 私がそう返事するともう到着したようでフレンデールが勢いを落とし馬車を停止させます。
 「このまま道なりに進んでいけばすぐです。いってらっしゃいませ」
 「ありがとうございます。いってきます」
 私はクルミとみんなにそう告げで馬車から飛び降りました。
 
 すぐに≪スライド移動≫を発動し、道を進んでいきます。戻りは≪テレポート≫でいいですかね。
 う考えていると意外に早く『風精の高原 ウィンデール』が見えてきました。
 人がいないと言っていたので少し気になり、≪探知≫を使ってみます。
 「≪探知≫」
 すると≪探知≫にかかったNPC及びプレイヤーはいませんでした。
 本当に人がいないみたいですね。
 人がいないのならこのまま≪スライド移動≫で行ってしまいましょう。
 そう思い大きな風車に向かって移動します。

 風車も思ったほど大きくなく、少し意外な感じがします。
 風車の内部に通じる扉があり、私はその扉を開け、入ります。
 「おじゃまします」
 中は結構暗いですね。
 「≪ルーン・ライト≫」
 一定時間光を放つ球体を召喚し内部をじっくりと見ます。
 すると机と奥に精霊神像がありました。
 精霊神像に接触する前に私は机の上の本が気になって見てしまいました。
 『ここはもうお終いだ。風の精霊様がいかに優れていようとも、雷の精霊様の有用性は明白である。ここの放棄が決まったそうだ。途中で手放す等職人としての俺は許せない。しかし、国の命令だ。逆らえない。もし、もしもこの日記を見たものがいたなら風精様を開放してやってくれぬだろうか。手順は記してある。』
 そう書かれていました。
 手順によると、精霊神像に触れ、≪解放≫というだけでよいそうです。このくらいでしたら私にもできますし、読んでしまったのでやりましょう。
 
 精霊神像の前まで歩き、手をかざします。
 『精霊神像4/11』という見慣れたウィンドウには目もくれず私は≪解放≫と唱えます。
 すると精霊神像が淡く光りを帯び、何かが抜け出してきました。
 『解放してくれてありがとう。風精を束ねる、風精王、ウィンデールです。』
 「チェリーという外の者です」
 『風車が止められ、私は水を奪われた魚のような状態で深い眠りについておりました。解放して頂けたので死なずに済みました。』
 「いえいえ。この本に書いてあったのでそうしただけです」
 『そうだとしても貴女のおかげで助かったことにかわりはありません。本当にありがとう。』
 「いえいえ。では私はこれで失礼します」
 『私はこの地にとどまり、風精の行く末を見守らなければなりません。お礼もできずに申し訳ないです。』
 「大丈夫ですよ。では」
 私はウィンデールという名の、風精王を精霊神像から解放したので、そのまま風車を出て馬車まで≪テレポート≫します。
 「≪テレポート≫」
                                      to be continued...

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