VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第4章19幕 姉妹<sisters>


 「とりあえず二人が無事に入国できたことに感謝して。乾杯」
 サツキがそう言って、ワイングラスを頬の高さまで持ち上げます。
 「「「「乾杯」」」」
 みんなで乾杯を済ませ、料理が運ばれて来るまで少し説明をします。
 「驚いちゃった。王族騎士かー」
 「でもまー。振りかざすほどでもないからねー。こっそりしておこうー」
 「それがいいよ」
 そう言ったエルマがワインをくぴっと飲み、続けます。
 「王族騎士になれるって知ったら他のプレイヤーの中に過激な行動に出る人がいるかもしれないし」
 「とは言っても本当の【王族騎士】じゃないんだよ。みて」
 私はそう言ってメニュー画面から、獲得した【称号】の一覧を見せます。
 「多いな! あっ確かに【称号】にないね。大罪系の【称号】2つもあるー」
 「チェリーの【称号】はレアなものが多いね。一番ワタシの琴線に触れるのは【斬罪神】だね」
 「マオ、は【仙姿】、ね」
 ステイシーは全ての【称号】を知っていたので特に聞かれませんでしたが他の3名から出た質問には回答しておきます。
 「まず大罪系の【称号】ね。これは獲得条件が本当にわからない。〔神話級モンスター〕を討伐したときにもらえることが多かったけど、貰えない時もあった。次に、【斬罪神】ね。これは〔人型モンスター〕を切断系武器で一撃で倒すのを1000体くらいやったら貰えた。マオは【仙姿】のどこがきになるの?」
 「気になる、って程じゃ、ないけれど、たぶん、【傾国美人】と、同系統のスキル、かしら、って」
 「同系統なの?」
 「あくま、で、推測。どんなとき、取れたの?」
 「『ヨルダン』の国王様に気に入られたときかな?」
 「なら、たぶん、そうだわ。【称号】のクラスが、上がれば、一緒、だと思う、わ」
 「ってことは進化前の【称号】なのか。進化条件は?」
 「わから、ない」
 「そっか。いい情報だった。ありがと」
 「気に、しなくて、いいわ」
 進化して愛猫姫と同等の防御スキルが得られれば、怖いもの無し、ですね。

 【称号】の話がひと段落し、私とステイシーが駆けずり回ってる時のことを聞きます。
 「中に入れたワタシ達も結構な目にあったわけだよ。如何せん監視が多かったね。何をするにもみられていたよ」
 「そんなひどかったのー?」
 「あぁ。女としての尊厳を失うところだった」
 「なんかごめんね」
 「気にすることはない。悪いのは『ヴァンヘイデン』の国王だろう? 違うかい?」
 「そうだと思ってるー」
 「私も」
 「サツキは男っぽいからね。仕方ないね」
 「エルマ。少し外で空気でも吸うかい? 鼻の穴からじゃ、大変だろう。直接吸えるように肺に風穴を開けてあげよう」
 「ほう? まだ3度目の<転生>が終わってないのに言いますにゃー。よーし。後で捻ってあげよう!」
 「望むところだ。VR最初のPvPがエルマとは少し、意外だったね」
 「お二人さんー。落ち着いてー。やるならこいつで試すといいよー」
 そう言ってステイシーが愛猫姫を指さします。
 「あら。マオ?」
 「そうそう、お前」
 「マオ、何か、気に障る、こと、した?」
 少し悲しそうな愛猫姫の顔をちらりとも見ずにステイシーはふいっと顔を背けてしまいました。 
 「やっぱり、弟に、似てる、わ」
 愛猫姫がそう言った瞬間ステイシーが座っていた椅子からビクンと跳ね上がり、「ちょっとお手洗いー」とか言っていなくなってしまいました。
 あー。もしかしたら、ポテトにこのことを言われたんですかね。

 ステイシーは食事が運ばれてきても戻ってこなかったのでチャットで一言『ごはんきたよ』とだけ伝え、残った私達4人は初めての『精霊都市 エレスティアナ』の食事に手を伸ばします。
 「では、いただきます」
 サツキのセリフを皮切りに、皆口々に唱え食事を口に運びます。
 「ん?」
 最初に違和感に気付いたのは誰だったでしょうか。
 誰かが疑問の声をあげ、続くように二人、三人と疑問の声をあげていきます。
 「ねぇ」
 エルマが持っていたスプーンを置き、私達に問いかけます。
 「塩味しなくない?」
 はい。私もそう思っていました。
 「そうだね。塩の味が皆無だ。食材自体の鮮度は最高なんだけどね」
 「おいしく、ないわ」
 皆同じような感想ですね。

 塩味のしない食事を口に運んでいるとステイシーがやっと戻ってきました。
 「おまたせー」
 「おかえり! とりあえずおいしいから食べてみるといいよ!」
 そうエルマが無理やりテンションをあげてステイシーに話しかけました。
 「まずいって聞いてたけどねー。いただきますー」
 ステイシーはフォークで刺した肉っぽい何かを口に運びます。
 「……んー?」
 あっ。
 「塩味しなくないー?」
 「きゃっはっははは!」
 ナイフとフォークを机に置き、腹を抱えて笑うエルマと、顔を少し背け、肩を震わせるサツキ、ぽかーんとしている愛猫姫とみんな反応は少し違いますが、味についての感想は一緒のようですね。

 しばらく無言で口に食べ物を詰め込み、ワインで流し込むという行動を繰り返していると少し聞き覚えのある声がしてきます。
 「えー? おいしいよ?」
 「私、もう食べれない。全部あげるよ……」
 「いいの!? なんかごめんね。でも食べれないなら仕方ないよね」
 「うん。取ったりしないからあんまり急いで食べないでいいからね」
 どこかで聞き覚えがあると思ったら、レーナンとまりりすですね。
 「私のフレがいるみたいなので少しお話してきます」
 「いってらー。よろしくいっといてー」
 面識のあるステイシーはわかるみたいですけど他の三人はピンと来てないですね。まぁあったことがないと思うので仕方ありませんが。
 
 「お久しぶりです」
 「「チェリー!」」
 テーブルの横に立ち話しかけます。
 「観光できたんですか? こんなところで会うのは奇遇ですね」
 「いや。今回は観光じゃないんだ」
 そうレーナンが言います。
 「では何をしに?」
 「まりりすの杖に精霊を宿らせようと思ってきたんだ」
 「そうだったんですか」
 なんだろう。私の気のせいじゃなければですが、この人、ごはんがまずいところにいる気がする。
 「まりりすさんいい精霊は見つかりましたか?」
 「いえ。まだです。それよりも食事が……」
 わかります。めちゃめちゃよくわかりますとも。
 「塩味しないですよね」
 「はい。臭みとかはないんですけど」
 「そうかなー?」
 来た。味覚音痴。
 「素材本来の味がして僕はいいと思うよ? ふつーにおいしいし」
 「「…………」」
 「あっ。では二人の時間、邪魔しちゃいけないのでここらで去る事にします」
 「いえ。気にしなくていいですよ。まだしばらく滞在する予定なのでまた会うかもですね」
 「そうですね。私達もしばらくいると思うので、また近いうちに。あとステイシーがよろしくーだそうです」
 「杖の事、大事にしてますってお伝えください」
 「はい。ではまた」
 「またね!」
 「また!」

 「ふぅ」
 戻ってきた私は席に戻り、ワインを飲み、乾いたのどを潤します。
 「あちらがチェリーの友人か。そうだね。あれは夫婦だ」
 「「えっ?」」
 私とステイシーが驚きます。
 「なんて説明すればいいんだろうね。女性の方の顔からにじみ出てる慈しみといえばいいのかな。あれが夫婦のそれにしか見えなくてね」
 言われてみれば、別々にログインしてるのを見たことないかもしれません。時折フレンド欄からチャットを飛ばすときに見ていたのですが、いつも一緒だったような気がします。
 「話を出したワタシが言えた義理じゃないんだけどね。こういう話は無粋だ。やめにしよう」
 そういって、サツキもワインを飲もうとしてグラスを手に持ちます。
 「ん? おかしいね。さっき注いだはずなんだが」
 となりで愛猫姫がすーんってしてますね。
 「まぁ、気にすることではなさそうだ。無意識に飲んでしまったんだろうね。ちょうどお酒もなくなったことだし、今日は宿に行くかい? 人数分押さえておいたよ」
 「ありがとう。助かる」
 「なに。このくらいどうってことないさ」
 「じゃぁ、宿に、行くの、ね。サツキ、後で、本を持って、来て」
 「あぁ。もちろんだとも。相談と言ってはあれなんだが、次々回作の序文を読んでもらえないだろうか」
 「!? 読む! わ!」
 おーう。完全に愛猫姫がサツキに取られてしまいました。

 サツキが全員分の食事代を支払い、女性の店員の前に跪き、手にキスして出てきます。
 うん。男装してるってわけではないのですが、やっぱりかっこいいですよね。
 ステイシーのほうが女の子っぽいです。本人の前では血を見ることになるので言えませんが。

 食事を取っていた場所から宿はそこまで遠くなく、すこしぶらついてから宿にやってきます。
 「えっと。チェックインの時に告げていたんだけれど、追加の二人が到着したんだ。そちらの鍵をもらえろうだろうか」
 「はい。少々お待ちください」
 ん。この従業員がハンナとカンナにとても似ているような気がします。
 名札を付けているようなので、そちらをちらっと確認します。
 アンナ。
 やはり姉妹かもしれませんね。
 聞いてみましょうか。
 「あの……」
 「はい? いかがされました?」
 「ハンナとカンナという名前に聞き覚えはありませんか?」
 「あっ。私の双子の妹ですが? ご存じなんですか?」
 「えーっと。ハンナとカンナにはうちの店で働いてもらっていまして。『セーラム』というんですが」
 「あ! ではあなたがチェリーさんなんですね。妹たちがお世話になっています」
 アンナはそう深々とお辞儀をしました。
 「いえいえ。お世話になってるのはこちらなので。今もお店任せちゃってますし」
 「こちらには観光ですか?」
 「いえ。ちょっと素材の調達などに」
 「そうだったんですか。なにか良さそうなお話がありましたらあとで伺いますね」
 「お願いします」
 あっそうだ、と私は付け足します。
 「ハンナとカンナは『精霊の森 エレメンティアーナ』出身と聞いたんですが」
 「あぁ。『エレメンティアーナ』はこの都市に含まれているんです。ここは精霊の種類で名前が変わる都市なのです。計11種類の精霊がいますので、全部で11都市あります。その中で一番大きい、ここを『エレメンティアナ』として国家名にしていますね」
 「ずいぶんと似た名前ですよね。『エレスティアナ』と『エレメンティアーナ』って」
 「そうですね。『精霊の森 エレメンティアーナ』が原初精霊の住まう地なのでそこを立てた形ですね。いま『精霊の森』小さくなってしまいましたが」
 「そうなんですか。ところで精霊が計11種類とはどういうことですか? 10種類ではないのですか?」
 「あぁ。そちらは簡単です。基本属性の火、水、土、風の4属性に応用属性の雷、氷、光、聖、無の6属性の合計10種類だと認識していると思います」
 「そうですね」
 「そこに『エレメンティアナ』では木属性を加えるんです。原初精霊として」
 「なるほど。それで原初精霊の『精霊の森』というわけですね」
 「流石です。詳しい話は今度ハンナに聞いてください。ハンナは『精霊の森』の中で一番精霊に詳しかったですから」
 あー。また身近にすごい人いたー。
 他の娘とかもこういうすごい娘だったらどうしよう……。ラビとポテトを上回るほどの娘はいないでしょうが。
 「長々とすいません。ためになりました」
 「いえ。妹たちをこれからもよろしくお願いします」
 「はい」
 「ではごゆっくりお過ごしくださいませ」
 そう言ってもう一度深々とお辞儀をするアンナに先ほどあったばかりのハンナとカンナの面影を重ね、少し胸が苦しくなります。

 「話は終わったかい?」
 「ごめんね。待たせちゃって」
 「いや。気にすることはないさ。皆部屋へ行っている。疲れただろう。今日はこれでログアウトして休んでくれ。ではお休み。いい夢を見られるよう祈っているよ」
 「うん。おやすみ」
 サツキに挨拶を返し、鍵に記された番号の部屋へと向かいます。
 扉の前に立つとひとりでに鍵が浮き上がり、鍵穴に刺さり、カチリと音を立て扉が開きます。
 なん……だと……。
 この都市は、天国でしょうか。
                                      to be continued...

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