VRゲームでも身体は動かしたくない。
第4章14幕 捕食<predation>
がばっと布団を跳ね除け飛び起きます。
現在は正午を回ったところの様です。
やってしまった。
サツキ初VR<Imperial Of Egg>で何もしないで落ちることになろうとは……。
いえ。気にしていても仕方ありませんね。
現実世界で用を済ませ、<Imperial Of Egg>にログインします。
ログインしたのはサツキのホームでした。
「おや? チェリー。意外と早いお目覚めだね」
そうサツキが話しかけてきます。
「おはよう。昨日はごめんね」
「気にしてないさ。むしろいきなりダンジョンとかに連れていかれなくて良かったよ。まだ慣れていなくてね」
腰に着けた魔銃を取り出しくるくると指で回しています。
「でも実際に武器を握ると高揚感はあるね。異世界物の主人公の気持ちが少しだけれど、理解できたかな」
「じゃぁ今後そっち系の作品も書くのかな?」
「どうだろうね。そういうオファーが来たら考えるよ」
「そっか。ほかにだれかログインしてきた?」
「あぁ。マオちゃんだっけ? あの子はインしてきたよ。他の2人はまだだね。仮想のお酒がまだ抜けていないんじゃないかな?」
「わかった。サツキ戦闘はやった?」
「いや。まだだね」
「なんかクエストでも行く?」
「おぉ。それはうれしいお誘いだ。是非お供させていただくよ」
「じゃぁマオも呼ぶね」
私はそうサツキに伝え、愛猫姫にチャットを送りました。
一階で本を読み漁っているらしく、すぐ戻ると返事がありました。
まさか愛猫姫が本好きだとは思いませんでした。
「じゃぁ早速だけれど、何のクエストをうけようか」
「軽めの戦闘と報酬がそこそこなもの無いかな?」
「とりあえずは職安にいくかい?」
「そうだね。マオは何かやりたいクエストある?」
「ない、わ。サツキ、に任せる」
「ここから職安はすぐだからね。必要なものがあったら取りに戻ってこよう」
サツキのその言葉をきっかけにお店を出て、案内所まで歩きます。
『科学都市 サイエンシア』の案内所はとてもSFチックで、転送ゲート等という物を通り抜けて目的の場所へ行くそうです。
「聞いてたけど本当SFだね」
「そうだろう? だからここにホームをおいているんだ。刺激が欲しくてね」
そう会話をしながら低級から中級程度のクエストを探すために、カウンターまでやってきました。
「なるほど。運搬系依頼ばかりだ」
「そうだね。あまり戦闘系はないね」
「そう? これ、戦闘、じゃない?」
愛猫姫が持ち出した一枚の紙には戦闘系依頼の特徴がありました。
「良く見つけたね。流石いい目だ」
「どこにあったの?」
「上級の、束に入って、いたわ」
上級かい。でもこの内容でしたら上級でも簡単な部類ですね。
条件にLv.300を超えるものが一人以上いることとありますけど。
「じゃぁこれにしようか」
私がそう言って受け取った紙にサインをします。
「リーダーは…・・レベル条件あるし、私にしておこう」
「それがいいね」
「さん、せい」
同意も取れたので依頼を受注するためにカウンターへ持っていきます。
今回受けた依頼は『〔ロータス・トレント〕の討伐及びサンプルの回収』クエストです。
〔ロータス・トレント〕はプレイヤーでもNPCでも構わず捕食する厄介なモンスターなのですが、味に好みがあるらしく、そこまで危険視はされていないモンスターです。弱いそうですし。
条件Lv.300以上が一人以上とついていたのは、〔ロータス・トレント〕の生息地の近くに〔ユニーク・モンスター〕が湧いたという情報が入ったため、急遽付けたとカウンターの人が言っていました。
遭遇さえしなければ大丈夫ですね。
「じゃぁ準備を整えていこっか」
「そうだね。ステイシーとエルマがくるまでには終えて、少し遅い昼食にしよう」
「わかった、わ」
私達はすぐに〔ロータス・トレント〕の群生地へ向かい、歩き始めました。
『科学都市 サイエンシア』からはそれほど遠くなく、20分ほど歩くだけで着きました。
「『サイエンシア』の近くにまだ森が残ってるんだね」
「あぁ。そこの森からは、良質な虫が取れるらしくてね。残しているそうだよ。『サイエンシア』の科学力なら持ち帰って培養、繁殖できそうなものだけどね。どうもその森の中でしか育ってくれないそうだ」
「そうなんだ。戦闘準備」
近づいてくる気配に気付き、サツキと愛猫姫に注意します。
「メインの戦闘はサツキに任せるね。存分に撃っちゃって。防御は私がする。マオは軽めの風魔法とかで視界の確保を」
一息に指示を出し、各々が配置に着きます。
「おっ。でたね。〔ロータス・トレント〕久しぶりに見たけど、VRだと一層気色悪いね」
そうサツキがいうと『酷い!』と言わんばかりに身を捩り、抗議しています。
「初討伐は君にしよう。一思いに撃ってあげるから恨まないでくれたまえ。≪サンダー・ショット≫」
通常なら明らかに土属性を扱えるモンスターに対して雷属性の魔法は使わないです。
しかし、それはサツキには適用されません。なぜなら彼女は……。
「ヒット。≪チェンジ・プロパティー≫。火属性で間違いないみたいだね」
どんな属性の攻撃でも相手の抵抗が一番低い属性に変更できるのです。
ユニーク【称号】の【精霊女王】を持っていますから。
精霊魔法をほとんど使用しないサツキがなぜこの【称号】を獲得できたのかわからない、と昔エルマが吠えていました。
条件さえわかればエルマも取りたい【称号】でしょうから。
「うん。手ごたえはあるね。VRでもやれそうだ」
「それはよかった」
「属性、変換、すごい、わ」
「おっとそれだけじゃ無いよ。っと会話を邪魔する不届きものだね。君も恨まないでくれよ。≪ファイヤー・ショット≫。見た目通り火が効くようで助かるね」
危なげない戦闘ですし、私達が手を出すまでもなさそうですね。ちゃんと動けていますし。
そう思い愛猫姫の横まで歩いて戻り、サツキの戦闘をただただ眺めています。
パーティメンバーが上手に立ち回り、優位な状態を維持している戦闘だと、支援職はとても気が緩みます。それは私達も例外ではありませんでした。
そしてその気の緩みをつくように足元から口が生えてきました。
「!?」
突然生えてきた口に私はひどく驚き、なんとか愛猫姫を突き飛ばします。
「! チェリー!」
「あっ……」
次の瞬間、私は〔ロータス・トレント〕の口の中にいました。
やらかしましたね。
この状態ですと、パーティーメンバーが助けてくれるまで動けそうもありませんね。
ぬるぬるとした液体が全身にまとわりつき、やけにザラザラする舌のようなものが私の身体を隅々まで舐め回していきます。
初めてVRで捕食されましたけど、これはきついですね。女性なら失神物です。あっ。私も女性でした。
舐め回されるのにひたすら耐えていると口の中の圧力が上がっていくように感じました。
『カーッ……ペェ!』
「は?」
粘液まみれになった私をペッと吐き出し、こちらを汚物を見るような視線を送ってきます。目ありませんけど。
『オマエ……マズイ……トクニ……カミ……』
ふーん。あっ。そうですか。
「チェリー……うわぁ、これはひどいね」
「ぐちょぐちょ……」
「ちょっと離れててね」
全身から粘液を滴らせた私は、立ち上がり、魔法を発動します。
『叫ベ 叫ベ 闇ノ火ヨ 抱ケ 抱ケ 絶望ヲ 我ガ精神ヲ供物トシ 焼キ尽クサン』
『≪闇カラ現ル尽キヌ火ヨ≫』
そうして発動した詠唱魔法で〔ロータス・トレント〕を炭になるまで、焼き尽くします。
「クエスト終わったらお風呂入りたいんだけど、サツキのホームにお風呂ある?」
「あぁ。クエストならもうとっくに終わっているよ。ドロップ品の〔魔力を帯びた紙〕が欲しくて狩り続けていたんだ。お風呂はもちろんあるよ。自由に使ってくれたまえ」
「ありがとう。≪ワープ・ゲート≫。さぁ帰ろう」
そうして私達はサツキのホームの前へと転移しました。
サツキはクエストの報告に行くと言い、愛猫姫は本を読むと言っていましたので、私はすぐさまお風呂を借りました。
お風呂で粘液をさっぱり流し、気持ち悪さを落とした後、1階で本を読んでいるであろう愛猫姫のもとへ向かうと、ステイシーとエルマもログインしていた様で話し声が聞こえます。
「いや。本当に驚いたよ。まさかマズイって言われて吐き出されるなんてね。おっと、チェリー。さっきは災難だったね。あまりにもひどいから2人にも聞かせていたんだ」
あの……お願いですから忘れてもえらえませんでしょうか。
to be continued...
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