VRゲームでも身体は動かしたくない。
間章最終幕 将棋<shogi>
奇妙な夢を見たせいか少し、寝覚めが悪かったので、冷蔵庫にある牛乳を取り出し、一息に飲み干します。
なんだったのでしょうか。あの夢は。
気にしていても仕方ないので、朝ごはんと気分転換のシャワーを済ませます。
気にしないでいようと思えば思うほど、あの黒い人型が気になってしまします。
笑い話としてエルマにでも聞いてもらおうかな。
そう考えた私は、いつもの如く専用端末を頭に被ります。
TACを起動し、現実の身体としばらくの別れをします。
ログインしてすぐにグループのログイン状況を確認すると、エルマがログイン中でしたので、<窓際の紫陽花>のルームへ飛びます。
「おっ。チェリー早いね」
「おはよ。ちょっと嫌な夢見ちゃってね」
「そっかー。ちなみにどんな夢だったの?」
私が聞いてほしいそうな顔をしていたのか、エルマが聞いてきました。
「うーん。なんか塔の高いところから黒い人型<あいおえ>のプレイヤーとかNPCとかを見下ろして嘲笑っている感じの夢」
「ちょっとよくわからないね。んでもまぁ気にすることないんじゃないかな?」
「だよね。妙に背筋がゾッとしちゃってそれで寝覚めが悪かった感じかな」
「なるほど。とりあえずそんなことは忘れてなんかしよ!」
「そうだね」
そうして将棋板を取り出したエルマと将棋を打つことになりました。
自慢ではありませんが、私生まれて一度も将棋で勝ったことありません。
開始から5分ほどするとエルマが汗をかき始め、声を発します。
「ちょ、たんま!」
「うん」
エルマがストップをかけ急に考え込みます。
もしかして、私強い?
「やっ! お二人さん! おっと今日は将棋かい?」
エルマがうーん、うーん、と唸っていると、サツキがログインしてきました。
「サツキ、取材はもういいの?」
「あぁ。朝一で宿を出てもう家に帰ってきたところだよ。本当はもっとくつろぎたかったんだけどね。こればっかりは仕方ないさ」
「なにかあったの?」
「文章が降って来てね。すぐにでも書きたくなってしまったのさ」
「なるほど」
「参りました……」
「嘘でしょ!?」
突然のエルマの参りました宣言に驚き、反射的に、返してしまいます。
「エルマ将棋弱かったんだね」
「生まれて一度も勝ったことない……」
「私は生まれて初めて勝ったよ」
「ちっきしょ」
「ならワタシがお相手しようか? 金銀飛車角落ちで」
「それなら勝てそう!」
「ふっ。早速始めようじゃないか」
その数分後エルマの「なんで!? もっかい!」が部屋に響きました。
「さぁ今日はここまでにしておこう。これ以上は弱い者いじめになってしまうからね」
「ぐすん」
流石に実力差がありすぎて、私とエルマ二人で考えてもまるで歯が立ちませんでしたね。
「そう言えば<IOE>の第二陣ログインがもうすぐだったよね?」
「そうだね」
サツキがそれとなく<Imperial Of Egg>の話をし始めました。
「第一陣が、VRテスターのようなイメージでね。何か変わった事とかあったかい?」
「色々変わったよ!」
エルマがそう返したので私は紅茶でも用意しようかと、キッチンへ向かいます。
TACにおいては茶葉をポットに入れて、ポットのメニューを開き、作成というボタンをタップするだけですぐ紅茶が入ります。
<Imperial Of Egg>よりも少し簡略化されていますね。
準備してリビングに戻ると、鼻高高にVR化した<Imperial Of Egg>の事をエルマが語っていました。
「それでねー。チェリーが魔法系になったんだよ!」
「それは、意外……でもないかな?」
「だよね。素質的なアレならピカイチだったよね! 魔法系から見ても魔法系としての立ち回りが上手かったし」
「となると……また4人でパーティーを組んだ時はエルマが前衛になるのかな?」
「あー。うん。そうだね」
「ワタシも近距離は練習しておくとしよう。≪銃格闘≫のスキル取らなきゃね」
「サツキが近接もできたらいいね。紅茶持ってきたよ」
私も会話に参加します。
「ありがと」
「助かるよ」
ふーふーずずっ、とエルマが紅茶を飲み始め、サツキもカップをくいっと傾けます。
「実はどっちかの紅茶には毒が入ってるよ」
私がそう嘘をつくと二人がマーライオンさながらの紅茶シャワーを口から発射しました。
「ちょっと!」
「冗談だよ。っていうかこんな感じでハリリンあたりに睡眠薬盛られて、身動き取れなくなるかもしれないよっていう忠告かな」
「うわー。あいつやりそう」
「気を付けるよ。<IOE>の話に戻ろうか」
「そうだね。どこまで話したっけ?」
そう言い、首をかしげるエルマに助言をします。
「私が魔法系やりはじめたってとこじゃなかった?」
「そうそう。それで戦争の主役になって……」
それから数時間ダイジェストで第一陣の話をサツキに聞かせました。
「いやー。テンションが上がってくるね。ワタシも早くやりたいね」
「あと数日の辛抱だよ」
「あたしはもうデスペナ明けてるからいつでもできるんだけどね。サブキャラもいるし」
「私はまだ……あっもうこんな時間なのか」
残りのデスペナルティー期間を計算しようと時計を見たところ、夕方に差し掛かっていました。
「お昼くいっぱぐれてしまったね。それと睡眠時間が短かったせいかとても眠い。ワタシは一度落ちることにするよ。また……夜中になるかな? ログインするよ」
「わかった。お疲れさま」
「おつー」
サツキを見送り、私とエルマの二人が残されます。
「私も眠くなってきちゃったな」
「寝ておいでー。あたしは少し<Imperial Of Egg>に入って来るよ」
「うん。じゃぁおやすみ」
「おやすみ」
そうしてTACからログアウトし、現実の身体に戻った私はすぐに夢の世界へと落ちていきました。
今朝のような夢は見ず、普通に目が覚めました。朝の6時を回ったところです。
夕方6時に寝て朝の6時に起きるというのもなかなか健康的ですね。
朝食を取り、朝のシャワーを浴びます。
シャワーだけだと物足りなかったので少し、熱めに入れたお風呂に入りました。
あと6時間もしないうちにデスペナルティーが解除になりますね。
TACに入って来ているサツキには悪いですが、一足先に<Imperial Of Egg>の世界に戻れそうです。私がデスペナルティーになったのは今週の日曜日で、第二陣のログインが始まるのが来週の日曜日ですね。今日は木曜日なのであと二日少々の我慢ですみます。
早くサツキとも遊びたいという気持ちがありますが、あの後どうなったのかなどが気になり、まずはそちらを詳しく知っておきたいのです。
未だに掲示板を覗く気にはなれなかったので、まだ何もわかっていないという感じですね。
ギルド『虎の子』ですと私以外はみんなログインできる状態になっていると思います。そもそもジュンヤはデスペナルティーになっていませんし。
チラチラと時計を見つつ、デスペナルティーが開ける時間を待ちます。
椅子に座ったり、ベッドに寝っ転がったり、落ち着きが無くなってしまいます。
とても長く感じる6時間を耐え抜き、ついにその時が来ました。
セットしておいたアラームが鳴ったのを確認し、ベッドに飛び込み、専用端末を被ります。
メニューから<Imperial Of Egg>を選択し、久々のあの世界が味わえると胸を高鳴らせます。
さぁ。帰ってきたよ。
『デスペナルティー期間中。』
『残り時間00:05:22』
あっ。あと5分……。
<間章完>
なんだったのでしょうか。あの夢は。
気にしていても仕方ないので、朝ごはんと気分転換のシャワーを済ませます。
気にしないでいようと思えば思うほど、あの黒い人型が気になってしまします。
笑い話としてエルマにでも聞いてもらおうかな。
そう考えた私は、いつもの如く専用端末を頭に被ります。
TACを起動し、現実の身体としばらくの別れをします。
ログインしてすぐにグループのログイン状況を確認すると、エルマがログイン中でしたので、<窓際の紫陽花>のルームへ飛びます。
「おっ。チェリー早いね」
「おはよ。ちょっと嫌な夢見ちゃってね」
「そっかー。ちなみにどんな夢だったの?」
私が聞いてほしいそうな顔をしていたのか、エルマが聞いてきました。
「うーん。なんか塔の高いところから黒い人型<あいおえ>のプレイヤーとかNPCとかを見下ろして嘲笑っている感じの夢」
「ちょっとよくわからないね。んでもまぁ気にすることないんじゃないかな?」
「だよね。妙に背筋がゾッとしちゃってそれで寝覚めが悪かった感じかな」
「なるほど。とりあえずそんなことは忘れてなんかしよ!」
「そうだね」
そうして将棋板を取り出したエルマと将棋を打つことになりました。
自慢ではありませんが、私生まれて一度も将棋で勝ったことありません。
開始から5分ほどするとエルマが汗をかき始め、声を発します。
「ちょ、たんま!」
「うん」
エルマがストップをかけ急に考え込みます。
もしかして、私強い?
「やっ! お二人さん! おっと今日は将棋かい?」
エルマがうーん、うーん、と唸っていると、サツキがログインしてきました。
「サツキ、取材はもういいの?」
「あぁ。朝一で宿を出てもう家に帰ってきたところだよ。本当はもっとくつろぎたかったんだけどね。こればっかりは仕方ないさ」
「なにかあったの?」
「文章が降って来てね。すぐにでも書きたくなってしまったのさ」
「なるほど」
「参りました……」
「嘘でしょ!?」
突然のエルマの参りました宣言に驚き、反射的に、返してしまいます。
「エルマ将棋弱かったんだね」
「生まれて一度も勝ったことない……」
「私は生まれて初めて勝ったよ」
「ちっきしょ」
「ならワタシがお相手しようか? 金銀飛車角落ちで」
「それなら勝てそう!」
「ふっ。早速始めようじゃないか」
その数分後エルマの「なんで!? もっかい!」が部屋に響きました。
「さぁ今日はここまでにしておこう。これ以上は弱い者いじめになってしまうからね」
「ぐすん」
流石に実力差がありすぎて、私とエルマ二人で考えてもまるで歯が立ちませんでしたね。
「そう言えば<IOE>の第二陣ログインがもうすぐだったよね?」
「そうだね」
サツキがそれとなく<Imperial Of Egg>の話をし始めました。
「第一陣が、VRテスターのようなイメージでね。何か変わった事とかあったかい?」
「色々変わったよ!」
エルマがそう返したので私は紅茶でも用意しようかと、キッチンへ向かいます。
TACにおいては茶葉をポットに入れて、ポットのメニューを開き、作成というボタンをタップするだけですぐ紅茶が入ります。
<Imperial Of Egg>よりも少し簡略化されていますね。
準備してリビングに戻ると、鼻高高にVR化した<Imperial Of Egg>の事をエルマが語っていました。
「それでねー。チェリーが魔法系になったんだよ!」
「それは、意外……でもないかな?」
「だよね。素質的なアレならピカイチだったよね! 魔法系から見ても魔法系としての立ち回りが上手かったし」
「となると……また4人でパーティーを組んだ時はエルマが前衛になるのかな?」
「あー。うん。そうだね」
「ワタシも近距離は練習しておくとしよう。≪銃格闘≫のスキル取らなきゃね」
「サツキが近接もできたらいいね。紅茶持ってきたよ」
私も会話に参加します。
「ありがと」
「助かるよ」
ふーふーずずっ、とエルマが紅茶を飲み始め、サツキもカップをくいっと傾けます。
「実はどっちかの紅茶には毒が入ってるよ」
私がそう嘘をつくと二人がマーライオンさながらの紅茶シャワーを口から発射しました。
「ちょっと!」
「冗談だよ。っていうかこんな感じでハリリンあたりに睡眠薬盛られて、身動き取れなくなるかもしれないよっていう忠告かな」
「うわー。あいつやりそう」
「気を付けるよ。<IOE>の話に戻ろうか」
「そうだね。どこまで話したっけ?」
そう言い、首をかしげるエルマに助言をします。
「私が魔法系やりはじめたってとこじゃなかった?」
「そうそう。それで戦争の主役になって……」
それから数時間ダイジェストで第一陣の話をサツキに聞かせました。
「いやー。テンションが上がってくるね。ワタシも早くやりたいね」
「あと数日の辛抱だよ」
「あたしはもうデスペナ明けてるからいつでもできるんだけどね。サブキャラもいるし」
「私はまだ……あっもうこんな時間なのか」
残りのデスペナルティー期間を計算しようと時計を見たところ、夕方に差し掛かっていました。
「お昼くいっぱぐれてしまったね。それと睡眠時間が短かったせいかとても眠い。ワタシは一度落ちることにするよ。また……夜中になるかな? ログインするよ」
「わかった。お疲れさま」
「おつー」
サツキを見送り、私とエルマの二人が残されます。
「私も眠くなってきちゃったな」
「寝ておいでー。あたしは少し<Imperial Of Egg>に入って来るよ」
「うん。じゃぁおやすみ」
「おやすみ」
そうしてTACからログアウトし、現実の身体に戻った私はすぐに夢の世界へと落ちていきました。
今朝のような夢は見ず、普通に目が覚めました。朝の6時を回ったところです。
夕方6時に寝て朝の6時に起きるというのもなかなか健康的ですね。
朝食を取り、朝のシャワーを浴びます。
シャワーだけだと物足りなかったので少し、熱めに入れたお風呂に入りました。
あと6時間もしないうちにデスペナルティーが解除になりますね。
TACに入って来ているサツキには悪いですが、一足先に<Imperial Of Egg>の世界に戻れそうです。私がデスペナルティーになったのは今週の日曜日で、第二陣のログインが始まるのが来週の日曜日ですね。今日は木曜日なのであと二日少々の我慢ですみます。
早くサツキとも遊びたいという気持ちがありますが、あの後どうなったのかなどが気になり、まずはそちらを詳しく知っておきたいのです。
未だに掲示板を覗く気にはなれなかったので、まだ何もわかっていないという感じですね。
ギルド『虎の子』ですと私以外はみんなログインできる状態になっていると思います。そもそもジュンヤはデスペナルティーになっていませんし。
チラチラと時計を見つつ、デスペナルティーが開ける時間を待ちます。
椅子に座ったり、ベッドに寝っ転がったり、落ち着きが無くなってしまいます。
とても長く感じる6時間を耐え抜き、ついにその時が来ました。
セットしておいたアラームが鳴ったのを確認し、ベッドに飛び込み、専用端末を被ります。
メニューから<Imperial Of Egg>を選択し、久々のあの世界が味わえると胸を高鳴らせます。
さぁ。帰ってきたよ。
『デスペナルティー期間中。』
『残り時間00:05:22』
あっ。あと5分……。
<間章完>
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