VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第2章6幕 報道<news>

 「おまたせっすー」
 そう言い、支援物資と増援を連れたハリリンが合流します。
 「悪かったな」
 そうジュンヤが話しかけると、ハリリンは頭をブンブン振って返事を返します。
 「いや。いいんすよ。俺戦闘力低いっすから。ところで戦闘音がまだきこえてるっすけど?」
 「まだ纏花と敵さんがたたかってる」
 私がそう言うとびっくりした様子で辺りを見回します。
 「かろうじて見えるっすね。纏花さんが優勢に見えるっす」
 「そうなんだ」
 まぁこちらに被害が出ていないので、落ち着くまでは無視でしょうね。
 「他のメンバーは倒したんすよね? 愛猫姫はどうなったっすか?」
 「もうとっくに逃げ出した後だろうさ」
 そうジュンヤに即答され、ハリリンが唸ります。
 「うー。それはこまったっすね。手掛かりなしじゃ俺でもみつけられないっす」
 手掛かりなしで見つけられたらそれはエスパーだよ。
 「とりあえず纏花の戦闘終了待ちかな?」
 「そうっすね。今のうちに物資をわけるっすよ」

 インベントリからハリリンが取り出した物資で床がごちゃごちゃになったとき戦闘音が一時的に止まりました。
 「んー?」
 ステイシーが疑問の声を上げ、扉側を見ています。
 スッと姿を現した纏花と満身創痍の奏寅が向かい合っています。
 「俺の負けだ。久々にいい戦闘だった」
 「ええ。僕も久々に刀を振るって戦えました。ありがとうございます」
 がっしりと握手を交わし、いつの間にか友情が芽生えたみたいですね。
 バトル漫画の主人公みたいです。
 「礼……ってほどではないが、一ついい情報をやる」
 「なんでしょう?」
 「ジルファリは恐らく『アイセルティア』に向かっている」
 「それは本当っすか?」
 ハリリンが口をはさみます。
 「推測……だけどな。次の拠点だなんだって言ってるのを聞いた」
 「なるほどっすー。調べる価値はありそうっすね。俺の元居たギルドに声かけて調べてもらうっす」
 チャットを送っているだろうハリリンは置いておいて、私も疑問があったので口にします。
 「奏寅さんでしたっけ? あなた側近なんですよね?」
 「一応」
 「なぜ側近が行先すら知らないの?」
 「それは簡単だ。ジルファリが誰も姫様に近寄らせないから」
 「えっ? 側近なのに?」
 「自分以外の奴が姫様に触れるとキレて殺すような奴だからな」
 なるほど。こじらせてますねー。
 「だから行先は知らん。あぁあと自分以外の奴はみんな雑魚って決めつけて……」
 奏寅が愚痴をグチグチ言い始めたので耳をシャットアウトし、思考の世界に入ります。

 まず第一にギルド『猫姫王国』は愛猫姫のファンクラブであること。
 第二に貢献度によって序列があること。
 そこから考えるとナンバーワンと言われているジルファリ氏は相当ヤバイ奴ですね。
 愛猫姫のことを他のメンバーに話さないというのもですが、触れただけでメンバーを殺すのはヤバイですね。
 もっとメンバー同士仲良くワイワイやってるのかと思ってた。
 イメージとしては愛猫姫を5人くらいで囲んで、傷一つ着けないように高レベル狩場でレベル上げしているような感じで。

 ジルファリ氏が何者かと手を組んで愛猫姫に国を渡したという可能性もありそうですね。
 もしかしたら真犯人は……。
 いえ。でもギルドメンバーがそんな事をしているのを知ったら普通は止めるか除隊させると思うのでやはり愛猫姫が主犯ですかね。
 胸に少しの違和感を残しつつもある程度の推論を立て、思考の世界から戻ります。

 「……つもなんだ! やってらんねー!」
 まだ話してた。

 ひとしきり毒を吐き終わった奏寅は一つ提案をしてきます。
 「俺を連れていくか? ジルファリに対してなら俺は結構な戦力になる」
 「ごめんねー僕は反対ー」
 すぐにステイシーが反対意見を出します。
 「さっきまで戦ってたんだ。はいお願いします、とはいかねーんだ」
 ジュンヤも否定ですね。
 私はどっちでもいいですが。
 「僕も反対ですね」
 纏花までも反対のようです。
 「纏花は賛成かと思った」
 素直にそう聞きました。
 「奏寅さんの腕も性格もわかっていますが、彼に殺されてデスペナになった人に申し訳が立たないでしょう」
 正論。
 「了解だ。纏花、斬ってくれ」
 「では。10日後、また会いましょう」
 スパッと奏寅の首を刎ね、血を払う動作もなしに納刀しました。
 「チェリーさん。腕ありがとうございました。私もここでリタイアです」
 そう言って刀を地面に落とし、膝から崩れ落ちます。
 「あっ、回復は必要ありませんよ。何せ彼のスキルの効果ですからね。本当に強敵でしたよ。楽しかったですけど」
 「お疲れ、10日後また会おうね」
 「助かった」
 「おつかれさまー」
 「おつかれっすー」
 そう言ってみんなで纏花を見送ります。
 「デスペナですかー。MMOでは初めてです」
 そう言い残し、纏花は消えていきました。
 「MMOで初めてのデスペナ……?」
 何者なんでしょうか、あの人。
 
 「余裕のあるもので再編成。『隠密忍者隊』が情報を報告するまでは待機」
 そうジュンヤが言い、しばしの休憩になります。
 「ハリリン」
 「なんすかー?」
 「他の国の〔最強〕レベルの人達はどうしたの?」
 「あー。そうっすねー。半数がデスペナでもう半数は興味ないとかでログインすらしてないですね」
 「薄情者め!」
 「まーまー。落ち着いてくださいっすー。泰然自若がチェリーの売りっすよー? あと巨乳」
 「お前よくそんな四字熟語しってたな? 殺すぞ」
 「別に殺してもらってもいいっすけど、今はダメージはいんないっす」
 「たしかに。この件が終わったら……」
 「! 師匠も呼ぶんで一緒に殺ってください!」
 「…………」
 こういう状況でもぶれないハリリンを少しうらやましく思います。
 私はぶれぶれなので、本当にうらやましいと思いますよ。
 「実はそんなチェリーにいい話があるっす」
 「なに?」
 そういうと耳に口を近づけてきて小声で話しかけてきます。
 「バイク……。ほしくないっすか?」
 「!? どこにあるの!?」
 「作れるかもしれないんす。俺と師匠とファンダンの力を合わせれば」
 「なら素材は集めてくるから! この一件が終わったらお願いね!」
 「まかせるっすー」
 
 交代でログアウトし、ごはんやお風呂を済ませる事になったので私もお言葉に甘えログアウトしてきました。
 現実が久しぶりな気がします。
 ゲーム内で濃密な時間を過ごすとよく感じる奴ですね。
 携帯端末を確認するとエルマからメッセージが入っていました。
 『ちゃんとご飯はたべること』
 そう書かれていたので返信します。
 『じゃぁエルマが作って』
 すぐに返事が返ってきました。
 『電子レンジ爆発させるし、包丁でシンクまで切るよ!』
 『ごめん』
 『あやまるなー! っとチェリーのことだからデスペナじゃないと思うけどなにか進展あった?』
 『交代でごはん休憩。進展はないけど、愛猫姫がすでに逃亡してて、それを探してる感じ』
 通話ボタンを押し、あったことを一通り話します。
 「そうだったのかー」
 「そうだったんだよー」
 「まだ解決まで掛かりそうだね」
 「うんー」
 「サブ垢でちょっと覗いてくるかな」
 「掲示板よりは新しい情報があるかもね」

 そうして通話をしながらお風呂に入りご飯を食べます。
 いつの間にか<Imperial Of Egg>の話から化粧品の話になり、最終的には健康器具の話になっていました。
 「その機械がすごいんだよ! もう全身の脂肪が燃焼されてる? 的な!」
 「そうなんだー」
 「おすすめはこれ! いまページ転送した!」
 「ありがと。……。これかー」
 「これはチェリーさん大興奮の品物よー? なにせ動かないで装着してるだけで脚痩せができる優れものだぁ!」
 「それはちょっとほしいかも」
 「かっちゃえ!」
 悪魔の囁きに背中を押され購入してしまいました。
 「ポチった。明日届くみたいだから楽しみ」
 「感想よろしく!」
 「うん。あそうだ、エルマに似合いそうな服を見つけたんだよ。桃色のカーディガンなんだけどね」
 「見たい!」
 「これこれ」

 そうして1時間ほどエルマとしゃべり、サブアカウントでログインするそうなので通話を切り、私も再び<Imperial Of Egg>の中に帰ります。

 「ただいまー」
 「おかえりっすー」
 ハリリンが返事をくれました。
 「みんなは?」
 「いまみんなログアウト中っす。ニュースで<Imperial Of Egg>のことやるらしいっすよ?」
 「へー」
 「俺も互換性のある動画ツールを入れてこれから視聴するっすー」
 「見せて」
 そう言い、私はハリリンの横に座ります。
 「あぁ……なんか幸せっすー」
 右手の親指と人差し指、左手の親指と人差し指で長方形を作っていたハリリンがそれを広げ拡大した画面を見せてくれました。
 数分間通常のニュースをやっていましたがCMを挟んだあとテロップが<Imperial Of Egg> のものに変わっていました。
 「はじまるっすね」
 『それでは皆様、今話題のVRMMOゲーム<Imperial Of Egg>の開発、運営のMGC社から白河さんにお越しいただいてます。』
 アナウンサーがそう言い紹介します。
 『皆様初めまして。[Multi Game Corporation] <Imperial Of Egg>の運営部門の白河美華夏です。』
 『本日はよろしくお願いします。』
 白河と名乗った人物に対してアナウンサーが返答します。
 『ではまず、このゲームについてお聞きしてもよろしいでしょうか?』

 数分間<Imperial Of Egg>をしらない人達向けの説明等があり、次の話題に移ります。
 『本日こちらに越させて頂いたのには実は理由がございまして……』
 そう言って専用端末を取り出します。
 『こちら、<Imperial Of Egg>をVRで遊んでいただくために必要な端末なのですが、初回生産分がすぐ完売していまして……』
 専用端末の用意不足の不備を詫び、再生産の目途が立ったこと、販売価格の見直し等のセールスが入りました。
 「買えなかった廃人結構いたみたいっすからねー」
 「だねー」
 と聞き流しつつ、他愛もない会話をしているとテロップが流れ始めます。
 『こちらをごらんください。』
 そうしてリアルタイムの<Imperial Of Egg>が映し出されます。
 『これが<Imperial Of Egg>なんですねー。実写の映画を見ているような気分になります。』
 『自信作ですから。』

 自分の遊んでいるゲームがニュースで取り上げられるって結構うれしいですね。
 どことなくハリリンもうれしそうです。

 『実は少し前から面白いことがゲーム内で起こっていまして。』
 「ん?」
 『戦争が起きてるんです。』
 『えっ? 戦争ですか?』
 『こちらをご覧ください。』
 先ほどの私達の戦闘が映し出されます。
 「はっ? えっ?」
 「録画してんすか!?」
 これにはプレイヤーは皆驚いたと思います。
 『≪ホーリー・キューブ≫≪シャドウ・ボルテックス≫』
 よりにもよって私の戦闘シーンじゃないですか!
 私の魔法攻撃を意に介さない奏寅の姿も映されています。
 プライバシーの侵害だぞ!
 徹底抗戦してやる!

 『どうでしょう。なかなか迫力のある戦闘だと思いませんか?』
 そう白河が言うとアナウンサーも手をパチパチと叩きながら誉め言葉を吐き出し続けます。
 たしかに映像のクオリティーはすごかったですが何か釈然としませんね。
 その後の内容はほとんど頭に入ってこず、特集の時間は終わってしまいました。
 「チェリー。有名人っすね。これみるっす」
 そういってハリリンが掲示板を見せてくれます。
 『突如ニュースに表れた<Imperial Of Egg>の美人キャラクターについての情報交換求む!』
 「やめてええええええええ!」
 そう叫ぶ私の声が人のほとんどいなくなった部屋に響き渡りました。
                                      to be continued...

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