VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野佑

第1章7幕 置物<ornament>

アニキもとい諭吉のもとから退散し、ホームに帰るかギルドホームに顔出すか、どうしようかなと考えながら街をぷらぷらしていると、おいしそうな匂いが私のお腹を刺激します。
匂いのする方向へスラスター(仮)で移動します。
焼き鳥のようなものをくるくるしている気難しそうなおっちゃんと「おいしいよー! やすいよー!」と声を出す若い女性がいました。
「すいません。1本ください」
「ありがとうございますー! 大将! 1本お願いしますー!」
「はいよろこんでぇー!」
そう言ってくるくるしてた焼き鳥のようなものを1本取り、たれに浸して再び焼き始めます。
「最近リアルでも焼き鳥食べてなかったのでちょっとうれしいです」
そう話しかけると大将はニッコリ笑って答えてくれました。
「ですねぇ。もう屋台の焼き鳥なんてとんと見ないですわ」
「リアルでも焼き鳥屋さんなんですか?」
「いやいや! 違います! 焼き鳥の屋台をやるのが夢だったんですわ!」
「そうなんですか」
「リアルじゃぁただの一会社員でしてね。昇給もしないし、サービス残業はひどいし。こりゃもう働くために生きてるんだなって思ったんですわ。死んだように生きてきた社会人20年目の時にこのゲームに出会いましてね。救われた気がしましたよ。VRの端末買うために仕事さぼって大目玉でしたわ」



結構重い話さらっとしないでほしい。
焼き鳥早く焼けてくれ……!


「そんでVRにログインした日からいろんな都市を回って焼き鳥の屋台だしてるってわけですわ」
「そうなんですねー」
早く焼けろ……!
「おぉっとすまねぇ話こんじまってちーと焦げちまった。焼きなおすからまってな!」
くそっ……焼き鳥め……早く焼けやがって……。
あっフラン達にも買って行ってあげよう。
「大将すみません。追加で7本お願いできます? 合計8本で」
「うれいしいねぇー」
「お嬢ちゃんは普段なにしてんだい?」
「リアルはニートやってます」
「……そうかい。こっちではなにしてんだい?」
「特にこれといったことはしてないですよ。たまに狩りに行ったりするくらいです」
「そうかい。VRでいろんな都市っていってもまだ3都市しかいってないんですがね、そこでちーっと面白い話をきいたんですわ」
興味ありますね。
「どんな話だったんですか?」
「それがあれなんですわ。あれ。あるモンスターの肉が焼き鳥にするとめっちゃ旨いっていう」
「ほう」
「なんでも『マスティア』にその肉を専門で扱うプレイヤーの店があるらしいんで、次は『マスティア』いってみようかなぁって思ってるんですわ」
「いいですね。あそこ鉄パイプとオイルしかないですけど」
「いったことねぇんでしりませんでしたわ。とっと……いい感じに焼き上がりましたわ!」
「おいしそう」
「8本で1600金ですわ」
「はい。また見つけたら立ち寄らせていただきますね。ありがとうございます」
と1600金払い、焼き鳥を受け取ります。
「毎度、ありがとうございましたー!」


包みを受け取りホームまで直立移動(仮)をしながら食べようと開けると、9本入っていました。
おっちゃん……! あんたぁいいやつですわ!
遠慮なく焼き鳥をもぐもぐしホームに着く前に1本食べきります。
「ただいまー」
「おかえり!」
「おかえりなさい!チェリーさんその包みは?」
「あっこれ? 外の人がやってるおいしそうな焼き鳥の屋台を見つけたから買ってきたの。3人でたべよ」
「おいしそう!」
「ごくり……」
「おいしいよ。……って店員さんが言ってた」
「8本ある!」
「あっ2本は残しておいてね。カラガマさんにもっていくから」
「「はーい!」」
「ではいただきます」
「「いただきます!」」


うーん。やっぱりおいしい。甘めのたれが良く焦げていて、肉の味をグッと持ち上げていますね。
「やっぱりおいしい」
「おいしい!」
「おいしい!」
「チェリー?」
「うん?」
「さっきから口の横にたれついてるよ」
「あっほんと? さっき食べたとき、ちゃんとぬぐったつもりだったんだけど」
ハンカチを取り出し口元をごしごし拭きます。
じーっとフランが見てますがなんのことだかわからないのでスルーします。


「「「ごちそうさまでした」」」
「カラガマさんのところにもっていくね」
「あっそれなら私がいってきますよ!ちょうど休憩の時間なので」
「じゃぁおねがいしようかな」
ラビが持って行ってくれるみたいなのでまかせましょう。
「ついでにゴリラの様子も見てきてくれる? さぼってるようだったらこれで殴ってあげて」
インベントリから乗馬鞭を取り出して渡します。
「りょうかい! いってきます!」
「きをつけてね」
「いってらっしゃーい!」

ふと思い出した忘れ物をフランに確認します。
「フラン。そういえばカラガマさんに従業員用の制服渡すの忘れちゃったんだけど、明日の朝届けてもらってもいいかな?」
「大丈夫! さっき部屋を案内するとき渡しておいた!」
えっなんでこの娘こんなに仕事できるの?
この店もう私いらないじゃん。
置物店主になろう。
とりあえずはプレイヤーで腕のいい【彫刻師】探して、銅像作ってもらいますか。


「ちょっと【彫刻師】のお店に行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」

ではまず腕のいい【彫刻師】を探しますか。
街をスライディング(仮)で移動しながら、掲示板でも腕のいい職人を探します。

この街、意外と【彫刻師】少ないんですね。お店がほとんどなかったです。


しばらく情報が書き込まれるのを待っていると、『鉱山都市 アイセルティア』に凄腕の【彫刻師】がいるとあったので行ってみることにしました。


いつも通りの≪テレポート≫で『鉱山都市 アイセルティア』に着いたのですが、VR化されたことで土煙が酷く、息をする度に喉が壊滅的な被害を受ける都市になり果てていました。
ケホケホと咳をしながら情報のあった区画へ向かいます。
マスク欲しい。コンビニないのかな?


情報のあった場所でうろうろしていると、『彫刻あります』と書かれた立札が見えたので入ってみます。
「ごめんくださーい」ゲホゲホ
「……いらっしゃい」
「ちょうkゲホゲホ彫刻してもらえますか?」
「ちょっとまちな」
そう言って何かインベントリから取り出してくれます。
「〔コォフ・メディ〕。のみな」
「ありg……ゲッホゲッホ」
ゴクゴクと差し出された液体を飲みます。
するとすぐに咳が収まり、呼吸も楽になりました。
「すいません。助かりました」
「かまわん。持っていても余らすだけだ。マスクは持っていなかったのか?」
「すいませんVRでこんなことになってるなんて知らずに来たもので」
「しかたるまい。誰もこんなところにこんさ」
「私がきましたよ」
「ふっ……物好きめ」


少し会話をしたら打ち解けられた気がします。
「注文は彫刻か? 付加か?」
付加というのは武器等に文字を彫って装備効果を追加したりするものですね。
「彫刻です」
「わかった。何を彫ってほしい?」
「私を」
「もう一度言え」
「私を彫ってください」
「からかっているのか?」
少し語気が強くなりましたね。
ちょっとちびりそう。


「いえ。本気です。私の店の従業員がとても優秀なので置物店主になろうかと思いまして」
「そうか。お前一度ログアウトして、置物店主の意味調べてこい。話はそれからだ」
ぷいっと顔をそむけてしまったのでしかたありません。
言う通りにしましょう。

現実に戻りベッドの上から音声認識端末に話しかけます。
「ボンジュー・ゲーゲロ! 『置物店主』の意味をおしえて」
数秒後返事が返ってきます。
『置物店主とは置物のようになにもしないお飾りのへっぽこ雇い主です。』


「私が間違ってました。出直します」
ログインしてそう言い放ち、早々に立ち去ろうとします。
「まちな。その反応だと意味はわかったみたいだな」
「はい。ですから今日は帰ります」
「そう焦るな。いいだろう。お前の像を作ってやる。金もいらん。ただし材料はお前が持ってこい」
「わかりました。でもなぜ急に?」
「お前からは金の匂いがする」
「匂いますかね?」
すんすん……。
わかりません。
「お前やっぱバカだな」
「失礼な。これでも大学は中退してますよ!」
「高卒の俺よりはましだ」
「勝った……」
「いいから早く持ってこい。あと2時間以内だ」
「わかりました。って何集めてくればいいんですか?」
「……鉱石とか鉄とかあるだろ」
「わかりました。鉄系の武器素材っていう認識でいいですか」
「それでいい。早くいけ」
「はい。ではいってきます」


店を追い出されてしまったので金属集めでもしますか。
なにせここは鉱山都市ですからね。
腐るほど金属なんてあるでしょう。
まず市場を探します。


市場を何分かさまよい見つけたのですが、市場に金属があまりなかったので諦めます。
もう掘りに行くしかないみたいですね。
面白いことを思いついたので、ツルハシを予備を含め16本購入します。
ついでに〔オリファルコンの羽〕と〔ヘマイマイタイトの殻〕〔怨霊がこもった骸〕を購入します。
では採掘に行きましょうか。


歩いて採掘場の入口をくぐりしばらく進むと、地下深くへ一直線に貫く大穴がありました。
ここをずっと下ったところで採掘をしてるみたいですね。
私はその先を行きましょう。
「≪ネクロマンシー≫」
〔怨霊骸骨兵〕と〔オリファルコン〕と〔ヘマイマイタイト〕、それぞれの素材を消費して≪ネクロマンシー≫を発動しました。
「しゅうごーう」
ピッと右手を挙げて集合させます。
『カタタカタカタ』
『ピエェエエイ』
『…………』
カタツムリだけ鳴かない……。
まぁ口がないんでしょう。ないものはしかたない。
「骸骨兵、ハイこれ持ってー」
一人1本づつ8人に持たせます。
「ハイ。ここで分かれて。そうそう。4人一組ね」
『カタカタカタタ』
「次ー。鳥くーん。こっちの4人を指揮して金属探して掘らせて。A隊ね」
『ピエエェエイウェイウェイ』
ノリノリじゃん。
「はいつぎー。ナメクジくーん。こっちの4人を指揮して金属みつけて掘らせて。こっちはB隊」
『…………』

チームを二つ作り、金属が好きそうなモンスターを召喚し、そいつに指揮をとらせ、骸骨兵に掘らせる。
これは楽ですね。
普通ならできない使い方ですが、ENいまほぼ無尽蔵なので。


「さぁいってこーい」
と送りだし、暇なので≪ネクロマンシー≫で遊びます。
とりあえずインベントリになぜか入れっぱなしの〔マッスルガーゴイルの筋肉〕からマッスルガーゴイルを召喚しています。
ぽむぽむと全身を触るとやっぱりカチカチです。
筋肉のカチカチなのか石っぽい素材のカチカチなのかはわかりませんがじっくりモンスターが見れるのは楽しいですね。
胸筋的な部分をピクンピクンさせてるのはちょっとアレですが。
「キンニクルーレットできる?」
『ギャッギャッギャ』
これはたぶんできるって言ってますね。
「やってみて。じゃぁA隊とB隊どっちが早くもどってくるかで」
『ギャギャギャギャッギャー』
『ギャギャギャギャギャギャ……』
『ギャ……ギャ…………』
『ギャギャーン ギャーギャ』
どっちだかわかんない……。


そうしてマッスルガーゴイルと遊んでいると採掘隊が戻ってきました。


『…………』
おお。ナメクジのほうが先でしたね。
ガンっという音がしたので隣をみると〔マッスルガーゴイル〕が地面をたたいて悔しがっています。
マッスルルーレットはAチーム予想だったみたいですね。残念でした。


やけに身が膨れた〔ヘマイマイタイト〕が口からペッっと大量の金属を吐き出ししぼみます。
おお。これは結構な量がありますね。
重さにして約500キロといったところでしょうか。
よく運んでこれたな。
あと口あったんだ。


B隊がA隊に遅れること30分ほどで帰ってきました。
『ピエェエエエーイ』
後ろをついてきた4対の骸骨兵が大きい袋をぽいっと私の前におきます。


ほほう。こちらもなかなか量がありますね。
約300キロといったところですね。


「この勝負B隊の勝ち!」

骸骨兵がカタカタいいながら喜びを表しています。
とりあえずモンスターを使って採掘とか採集させるのはいいかもしれませんね。
集めてきてもらった金属をインベントリにしまい≪ネクロマンシー≫を解きます。


『条件達成を確認。【称号】【部隊長】を獲得しました。』
久しぶりに称号が増えたみたいですね。
とくに効果のある【称号】ではなかったのでスルーします。


たくさんの金属を手に入れ、〔マッスルガーゴイル〕と遊んでるときにスライド移動という名前に決定した移動方法で【彫刻師】のもとに帰ります。


「あつめてきました」
「早いな。見せてみろ」
インベントリからドサっと取り出し目の前に置きます。
「……どんな方法を使った?」
「魔物召喚して掘らせました」
「ふっ……おもしろい。どんな姿にしてほしい?」
「あっじゃぁこの格好でお願いします」
そういってメイド服を着て、見せます。
「わかった。しばらく時間をくれ。おそらく4.5時間で終わる」
「わかりました。あっちょっとお昼寝したいのでここでログアウトしてもいいですか?」
「昼寝? かまわんが」
「では失礼して。おやすみなさい」
「おやすみ」



現実世界に戻り目覚まし時計を5時間後に5分毎に鳴るように設定し、お昼寝をします。

目が覚めたら8時間ほど経っていてすでに夜になっていましたがログインします。
「こんばんわ」
「こんばんわ。長い昼寝だな」
「ええ。目覚ましがなぜか鳴らなくて」
「まぁいい。できたぞ」
そう言って布がかぶせられた像を指さします。
「おお。これは期待できますね」
「自信作だ」
「では布外させていただきますね」

バッっと布を外すと、ロングのメイド服を着て、胸をこれでもかと強調するような腕組ポーズを取った私の姿がありました。
「嬢ちゃん爆乳だからな。このぐらいインパクトあったほうがそそるだろ?」
「チェンジで」
「認めん」
「チェンジで」
「二度言わせるな」
「捨ててくぞ」
「勝手にしろ。俺が拾うだけだ」
「…………」
「ちなみに関節が動くから恰好は変えられる」
「先に言え」
「ふっ……」
腕組ポーズからにゃんにゃんポーズに変更された自分の像を見てため息をつきます。
「しかたないですね。いくらですか?」
「ん? タダでいいぞ。余った金属だけで釣りがくる」
「そうですか」
「また像が必要だったら言え。あと可愛いやついたら連れてこい。格安で像にしてやる」
「考えておきます」
「またこいよ」
「いえ。たぶんもうきません」
「ふっ……」
「宣伝だけはしておきますよ」
「当たり前だ」
「では」
「じゃぁな」


像をインベントリにしまい、≪テレポート≫でホームに帰ります。
「ただいま」
「「「おかえりなさい」」」
おや。カラガマさんもいるようですね。
「カラガマさんお部屋や仕事場の準備は終わったんですか?」
「はい。こいつのおかげですぐでしたよ」
やるやんゴリラ。
「えらいぞー」
『グルーグルゥー』
あとでバナナでも上げよう。この世界にあるかどうか知らないけど。
「≪帰還〔GGB〕≫」


「あっそういえばもう私無しでも大丈夫だろうと思って、置物店主になろうとおもったんだ」
「えー!」
「それで置物の私を作ってきた」
「「「はっ?」」」
「見て」
ドカっと部屋の中に像を出します。
「めっちゃレベル高い」
「そっくり」
「胸回りがかなりエロイですね」

「とりあえずこれを作ってくれた【彫刻師】に興味がわいたお客さんが来たら紹介してあげて」
「「はい!」」
「ちなみに関節が動くから好きな態勢にできるらしい」
「「「【彫刻師】すげぇ……」」」
【像職人】じゃないのにこんな芸当ができるあの人は変態だけどすごい人だと思います。
余談ですがフラン達の勤務開始後一番最初の仕事は、この像の体勢をかえて磨くことになったそうです。
to be continued...

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品