俺はどこでもモブ扱い

海ネズミ

第3話 再び出会う

俺は絶対音感を得た。
内心ではいつ使うんだよと思っていたが、あのメモを読み終えたあたりから周りの人間の言っていることが理解できるようになっていた。こっちの世界の絶対音感の意味は少しちがうらしい。
「何言っているかわかる。わかるぞ。」
俺は少し興奮した。やっと異世界デビューということになるのだ。しかし金もないし、コミュニケーション能力も皆無だ。
「よし、自給自足生活でもしてみるか。魔王討伐?ふざけるなよ。俺は面倒なことはしたくないんだよっ、と…」
俺は街を後にしようとお尻についた土ぼこりを払い歩き出そうと思ったら聞いたことのある声が聞こえてきた。
いや、泣き声だ。
銀色の髪に緑の瞳の女の子。
そうカミューが泣きじゃくっていた。
「おーい、なんでお前がここにいるんだ?」
「父上が魔王と戦う気のないやつをこっちの世界に押し付けるなって。リーネを改心させるまでは帰らせないって…」
「えぇ…てかリーネって俺か?」
「ひっ、うわぁぁぁぁぁんん」
周りの人たちの目が痛いことになってきている。そりゃそうだ。まだ10歳にもなっていないであろう女の子を泣かせているようにしか見えない。
「わかったからもう泣くな。」
「グスン…改心してくれるの?」
(面倒ごとには絡まれたくないからなぁ)
「あぁ、魔王を倒すよ。だから、最低限のお金はくれよな」
「わかった..」
急に機嫌が直りニコニコしたカミューを見て少しホッとした。
「はい」
カミューは金貨が3枚ほど入っている袋を渡した。
俺もなんだかこんだけニコニコされると、さっきまでの怒りはどこかに消えていったみたいに穏やかになった。
「これで帰れるのじゃ!頑張るのじ…」
カミューの顔がどんどん青ざめていく。
「ないっないない、、、、」
「何がだよ」
「神具」
「まさかとは思うがそれがないと帰れない的なあれか?」
「う、うん」
探し回っているとカミューがポケットの中からメモを見つけた。どうやらお父さんかららしい。
「なんだ、天界でそれは流行っているのかよ…」

我が愛娘、カミューよ
お前には旅をして広い世界を見て欲しいと思っているのだ。だから、魔王討伐完了までは天界には戻れないようにしておくぞ。
カヌトリーネと仲良くな!

「えーっと仲良く…って待って待ってー!」
「なんだよ。」
「私を1人にしないでよ~。」
「絶対面倒ごとに巻き込まれると俺の危険センサーが反応したんだよ。ってか、あの偉そうな口調はどうしたんだよ。」
「だってだって〜。あの喋り方は神っぽくしたかったんだもん。お願い1人にしないで。」
「わかったわかったから離れてくれ」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で俺にぐりぐりしてくる。
「いいか、よく聞けよ。俺はできるだけ楽して、異世界生活を楽しみたい。魔王討伐に向けて頑張るとかはないからな。」
「私は神様になる存在だよ!下に見ないで ︎」
「わかった。じゃぁな。」
「ごめんなさーい!」

何だかんだで仲間ができた。
自称神様のロリっ子、カミューだ。わがままで泣き虫だが、将来が期待できる美少女だ。
「おーい、いくぞー。」
「はーい!どこに行くんだリーネ?」
「俺はもうリーネなんだな。とりあえずギルドに向かうぞ。そこで先のことを考えような。」
「うん。」

新たな世界への一歩はまだ踏み出したばかりだ。これから、極力楽をして有名になってチヤホヤされたい。リアルで無理だった脱モブ!それが俺の夢だな。
「よし!目標決定だ。」
「なんだリーネ?」
「いや、一人言だ。」
「そっか。」
俺達はギルドに向けて歩き出した。





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