猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第26話 勇者との遭遇
『始まりのダンジョン』の20層。
そこでクロらは野営をして、身体を休めていた。
野営をするため安全な場所を選んだとはいえここはダンジョン内部。油断はできないため、見張り番をいつも通り順番を決めて4人でローテンションしながら野営をしている。
本日の見張り番の順番はティナ、シエル。その後にクロとケットだ。
ケットは寝なくてもいいんだが、最近寝ることの気持ち良さを覚えたみたいでクロの魔力を勝手に奪い、人化しては寝ている。
とは言っても彼女はとてつもなくマイペースな性格だ。また突然飽きるだろうとクロは言っている。
それと精霊姿だとどうやら寝にくいとのこと。
パチパチッと薪がはじける音だけが鳴り、2人はぼーっと1人の少年を見つめている。
小さく寝息を立てるのはクロとケットだ。
「・・・・襲いたい。」
「ティナ、心の声が漏れてる。」
最近になり、大人に近づいてきた彼女らは思春期のど真ん中。
特に猫は生物の中でも性欲が強い方だが、猫族もそれを若干受け継いでいる。
猫族の女性は人族と比べるとかなり積極的と言われている。
特に年頃なので邪な感情が巡ってもおかしくはないが・・・・ティナは欲望に忠実だ。
思わず心の声が漏れてしまうが聞かれた相手がシエルだからだろうか、恥ずかしがる様子はない。
「だってー・・・・可愛いし、かっこいいし、良い匂いするし・・・・可愛いし。」
「・・・・分かるけど可愛いを2回も言わなくていい。」
まるで正反対の性格の2人だが、根っこの部分・・・・クロにベタ惚れというところは一緒だ。
2人とも最初は淡い恋心だったのだが・・・・今では冷静沈着なシエルもクロの無防備な姿に少なからず、欲情している。
「クロは何しても襲ってくれないし・・・・私たちのこと嫌いなのかな?」
「それはない。・・・・でも、私たちをまだ子供だと思ってるかも。」
ティナは「そーかなぁ〜?」と言いながら最近出てきた自身の胸を揉んでみる。
それを見てシエルは未だに成長を見せてくれない自分の胸への当てつけか、と軽く舌打ちをする。
「とにかく、クロの隣に私たちが並べてない。」
「・・・・そうだね。」
彼女らは強くなった。
ベテラン冒険者にも負けないほど強くなった。
しかし、クロはその上を行くスピードで強くなっていく。
これに関しては2人ともクロの才能が関係しているのが分かっているが、クロが強すぎるせいでまだクロがティナらを守るべき対象だと見ている。
「私だって、隣に立てるようがんばってるんだけどなぁ。」
「クロの成長速度がおかしい。・・・・クロはいつか獣人の頂に辿り着くような存在。」
獣人の頂。
それは獣人が目指している存在であり、望んでいる存在でもある。
シエルはクロはいつかその頂に辿り着くと確信しているのだ。
「過去の唯一の『獅子族』だったシーサーと呼ばれた初代獣王は・・・・孤独だったと言われている。」
初代獣王であるシーサーは強すぎる故、孤独であった。
そして、1人で国を守り、戦い、生き残った。
しかし誰も彼を助けることができなかった。
誰一人として隣で立って歩くことができなかったのだ。
その孤独が勇者との戦いでの敗北の原因だと言われている。
「そのしーさーって人がどんな人かは知らないけど・・・・、クロからは私たちが絶対に離れない。」
「・・・・ん。分かってる。クロは私のヒーロー。」
「うん!ひーろーを助けるのはひろいんの役目だもんね!」
仲良く握手を交わす2人。
彼女らは誰から見ても親友なのだが、同時にライバルでもある。
どちらが先にクロの正妻へとなるか勝負しているらしい。
そんなことをつゆ知らないクロは眠りながら自身の貞操の危機を感じ、身震いをする。
夜は明け、朝日が照らす光が眼球を刺激する時間。
ダンジョン内部にも関わらず時間が外とまるで同じように光が照らされたり、暗くなるのはとてつもなく不自然なことなのだが、クロはこの異世界特有の意味不明な現象に慣れてきた頃だ。
「やっと朝だな。2人を起こして朝ごはんにするか。」
「・・・・なんでキミはそんなにリバーシが強いんだい?」
この世界に来る前からの付き合いであるケットとクロは仲良く、見張り番の際はよくこうやってリバーシを暇つぶしとしてやっている。
覚えるのは一瞬、極めるのは一生と言われているリバーシはクロの得意なボードゲームの1つだ。
理由としては簡単。
前世の猫宮和人は猫ばかりかまけていたせいで友達が少なかった・・・・というよりいなかった。
高校では毎日のように野良猫がくっついた状態で学校に通っていたため、『猫魔人』と影で言われ距離を置かれていたほどだ。
しかし、和人は猫が友人だと思っていたため必要がなかったのかもしれない。
そんな彼でも猫との関わりがない時間帯もある。
そこで暇つぶしの一環として自宅でネットのボードゲームにハマっていたため極めていったという経歴がある。
その中で特に得意としていたのがリバーシだ。単純なので余計な頭の処理を行わなくて済むのも彼が得意とする所以でもある。
ケットはハンデとして四つ角を全て渡されたがそれ以外をほぼ黒色に染められ、少し唖然としていた。
「そういえばキミが他の人間と遊んでるところは見たことが・・・・そんなに暇だったのかい?」
「おい、ケットさんや。確かに俺は友達はいな・・・・少なかったが、暇ではなかった。」
毎日のように猫に構っていたからだ。
ケットは「ここまでくると狂気を感じるよ。」と苦笑いを浮かべていた。
「とにかく、2人を起こそう。」
「はぁ・・・・主人がこんなんだと先が思いやられるよ。」
「ムカつく言い方だな。」
クロはムッとさせながら2人を起こした。
閑話休題。
2人を起こし、一度抱きつかれ揉みくちゃにされかけながらクロらは朝食を済ませて帰るために先を進んだ。
そして、第15層まで戻ってきた時に気配を感じる。
「っ!」
「クロ・・・・。」
「あぁ。人族だな。」
クロの耳は仕切りにピクピクと動いている。
猫族は気配と音に敏感だ。
前から聞こえてくる足音と話し声が聞こえてきた。
「どうする?」
ここは死者の絶えないダンジョンの中。
パーティーの1つや2つ全滅してもおかしくない。
つまりシエルの先ほどの質問は殺すか否か、ということだ。
「いや、無駄な戦闘は避けておこう。それに人族がこの階層まで来れるっことはそれなりの実力者だろうからな。」
クロはそう言いながら3人にバンダナを巻くように指示する。
このダンジョンで人族が攻略出来ているのは11層までと風の噂で聞いていた。
それが一気に15層目まできているとしたらそれなりの大規模部隊か実力者と見ていいだろう。
しかし、足音から聞こえる人数は多くて10人。
少なくて7人といったところだ。
これらから後者であると考えるのが妥当だとクロは判断したのだ。
「今は平静を装ってすれ違おう。」
「りょーかい!」
そして足音と気配が近づいてくる。
クロは念の為に腰につけてある『天雷刀』の柄に手を添える。
そして姿が見えてくる。
先頭を歩いているのは何度か見たことのある筋肉隆々の男性。その後ろには組合に行くたびによく見る受付のスーランジュだ。
「・・・・あれ?クロロさんじゃないですか?」
「なんだ・・・・スーか。少し警戒しすぎたな。」
顔見知りの人物だったためクロの警戒度は下がる。
ティナたちも同様で握っていた武器から手を離す。
「スーちゃん!こんなところ来たら危ないよ?」
ティナがスーランジュの身の心配をする。
しかし、彼女も伊達に組合の受付をしているわけではない。
組合の受付をするためにはそれなりの実力者でなければならないという規定があり、基本は現役を退いた冒険者がやっていることが多い。
しかし、ウルムの街のように大きな街では現役冒険者が受付をしていることが多い。
彼女もその1人であり、彼女の実力はクロら(ティナを除いて)はそれを見抜いてはいた。
「バカ。スーの実力を分かってないのはティナくらい。」
「えー?」
すると先頭の男が睨みを利かせて質問をしてくる。
「・・・・坊主らはこんな所で何してんだ?最高攻略階層は俺らが進んでたんだがな。」
「別に・・・・あんたらより深く潜ってただけさ。」
「ほう、なぜ報告してないんだ?」
「義務じゃない。面倒なことは避けたい性質でね。」
クロは睨み返しながら答える。
男からはかなりの殺気のような威圧感を感じるが竜王に比べれば可愛いものだ。
「お前らの報告があれば死ななかった冒険者が居てもか?」
「知るかよ。冒険者なんて自己責任の仕事だろうが。聞かれて金を払ってくれるんなら情報提供するが、タダで渡してやるほど俺は酔狂な精神を持ってないんでね。」
「・・・・なるほど。」
男はニヤッと笑う。
「面白い。気に入ったぜ坊主!俺の名前はサミュエル・ドルッセンだ。よろしく。」
そう言って手を差し出してくるがクロは軽くその手を当てるだけで呟くように自己紹介する。
「クロロだ。」
クロはどこまでいっても人族と仲良くはしない。
したくないのだ。
「スーちゃんらはどうしてここに?」
「それはですね・・・・――――」
そう言いながら後ろを向く。
男のデカさで隠れていたがそこには5人の人族が居た。
「――――勇者様の指導と案内役ですよ。」
クロらは息を止めた。
いや、息を吐くのを忘れてしまうほどの衝撃だったのだ。
最初に口を開いたのはシエルだった。
「・・・・その人たちが勇者?」
4人はこの世界では珍しい黒髪と黒目。
もう1人は王国騎士団の兵士だろうか・・・・クロらが嫌ほど見た鎧を身に纏っている。
勇者の護衛として付いてきているのか、しっかりと兜もしているため顔を確認できない。
「は、初めまして。スーさんの知り合いですよね?私たちが勇者として召喚されたタイチ・カミタニです。」
「マサヨシ・イチジョウだ!」
「チヅル・タキザワよ。」
「か、カオリ・アイザワです。」
そう言いながらぎごちない挨拶をしてくる太一ら。
太一は勇者の中で何故か代表として前に出されている。
他の仲間曰く、太一なら落ち着いているから。だとか。
「(日本人、か。)」
勇者は獣人の敵。
しかし、クロにとって彼らはおそらく同郷の日本人なのだ。
「・・・・あぁ。よろしく。」
「クロ・・・・。」
察したケットはクロの様子を確認する。
クロは視線でここから離れようと訴えかけ、伝わったのかケットは頷く。
「・・・・ボクたちは疲れててね。先にお暇するよ?」
「ええ!ケットさんもお気をつけて。」
「スーもね。」
そうしてすれ違い、離れようとした時。
近くにいた兵士が太一に耳打ちをする。
「・・・・早く亜人の有無を確かめましょう。」
小さく、普通なら聞こえないほどの声。
猫の特性が強いクロでさえ、聞き取れないかと思われるほどの声量だった。
しかし、その聞こえてきた声にクロの記憶が脳裏をよぎる。
『――――とうさん?あぁ。このゴミの子供か。』
 
『強かったぜ?さすが旧獣王国の三獣士の1人、『黒弓のクロード』ってわけだ。まぁ、獣風情が人族様には敵わねぇって。』
刹那、クロはすでに兵士の首めがけて刀を振るっていた。
「――――っ!?」
あまりのスピードの攻撃と油断から兵士は仰け反り、ギリギリクロの剣戟を躱すが兜が刃に当たり、弾け飛び宙に舞った。
カランコロン。
兜が地面に落ち、反響音が虚空に消える。
クロの突然の行動に仲間である3人も動けていない。
「・・・・何しやがる、クソガキ!」
怒りを露わにする兵士。
クロはその声を、その顔を忘れることがなかった。
「・・・・この顔を忘れたとは言わせねぇぞ。」
クロは兵士に向け、常人なら気絶してしまうほどの殺気を放ち頭のバンダナを取る。
シュルシュルッとバンダナが取れるとピョコッと黒色の猫耳が露わになる。
「――――っ!!?テメェは・・・・!」
突然のクロの行動に冷静なケットでさえ理解できていなかった。
「・・・・ケット。」
「クロ、待つんだ。キミは・・・・何をしているか分かっているのか?」
ケットはクロを冷静にさせようと声をかけるがクロから溢れ出る禍々しい殺気に気圧される。
「アイツは・・・・アイツは、ティナの父さんを・・・・俺の父さんを殺した。」
そのセリフに最初に動いたのはティナだった。
魔剣フラムを抜刀し、自身もバンダナを取って構える。
「黒髪に銀髪の亜人・・・・お前ら、やっぱり。」
「待ってください!どういうことか説明してください!メイトさん!」
常人には耐え難い殺気に気圧され続けている太一らは護衛の兵士、メイトに問い出す。
「アイツらは俺が以前消した亜人の村の生き残り・・・・。『銀剣のティルト』と『黒弓のクロード』のガキですね。」
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