猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第21話 本の内容そして決断





























「ティナの様子がおかしい。」


そう言ったのはこの物語の主人公であるクロ・マクレーンだ。
ウルムの街に来てから1週間ほど経った頃。
宿屋のテラスの様な場所でクロは相棒でもあり、家族でもある精霊のケットに相談をしていた。


「どうおかしいんだい?」


突然何を言いだすんだこの男は、と言っているような表情をしたケットは問う。


「昨日、魔剣を買っただろ?」


先日、新しい武器を購入するためにクロらはガッツ武具店という腕のいい鍛冶屋がやっている武器屋で剣を二本購入した。
一本は現在、クロの腰につけてある美しい刃を持つ『天雷刀』という銘をもった刀だ。
二本目の刀はティナが今現在、部屋の中で手入れをしている魔剣フラムと呼ばれる両刃の西洋剣だ。
だが、購入してからティナの様子が少しおかしいとクロは感じた。


「・・・・なんか、剣に話かけてるんだよ。」


「・・・・へぇ。」


ケットは面白そうな表情を浮かべた。
確かに部屋にいるティナは手入れをしながら剣に話しかけている。
実はその原因はケットには分かっているんだが困った表情をするクロが面白くて相談に乗ったふりをしている。


「いや、日本にはさ『厨二病』という恐ろしい病があってだな・・・・。この世界に来てから発症している人を見てこなかった。」


盛大に訳のわからないことを言うクロを内心大笑いしているケット。
込み上げてくる感情を表に出さないよう、ケットは無言で話を聞く。


「・・・・だが、アレは恐ろしい病でな。一度発症すれば治すことは・・・・難しい。」


「・・・・そんな大変な病なんだね。」


ケットは「どちらかと言えばキミが発症してるじゃないか」と思いながら笑わぬように顔をひきつらせる。


「・・・・実を言うと俺も発症してた時期があった。その頃を思い出すと・・・・!」


くっ!と言って涙を浮かべるクロ。
ケットが拾われた頃は彼は中学生だった。
そう。ケットは知っている。彼が厨二病だった悲しい時代を。
そして、思い出す。






〜回想〜


『・・・・クソ、堕天使ルシファーめ!俺の右手に余計なことを・・・・!!』


と言いながら包帯を一生懸命巻いている和人。
ケットは最初、『この世界にはそう言った要素がないと聞いてたんだけどなぁ』と思っていた。


『この仇は・・・・!必ず取ってやる!!』


自室のベッドの上で叫ぶ和人を見ながらケットは気づいた。
あぁ。この子は馬鹿なんだ、と。


〜回想おわり〜






そして、ケットはお腹を抱えて笑い始める。


「あはははははっ!もう!キミはボクの腹筋を鍛えて――――っぶは!!ダメだ!あはははは!!」


大爆笑するケットを眺めながらクロはキョトンとしている。
閑話休題。
ケットは笑いすぎて痛くなったお腹を抑えながら言う。


「安心していいよ、クロ。あの魔剣は危ないものじゃない。」


「そうなのか?」


「あぁ。精霊の王として誓うよ。」


クロはこんな時にだけ自身を王と言うのだから都合のいいやつだ、とクロは思う。
すると、ケットは真剣な表情を浮かべてクロに一冊の本を渡す。


「――――?なんだよこれ?」


「良いから読んでみな。ボクはその文字について勉強した訳じゃないからね、読めないんだよ。」


そう言われて、クロが本をめくる。
そして目を見開く。


「――――っ!?これは・・・・日本語?」


その本に書かれているのはこの世界の言語ではなく、クロの前世の世界にある言語。
日本語と呼ばれる言語だ。


「・・・・あぁ。キミになら読めるだろ?」


そう言われてクロは本の内容を読んでいく。




















〇〇年〇月〇日。


突然だが私は異世界へとやってきた。
普通に学校で友達と今やってるオンラインゲームの話をしていたんだけなのだが・・・・。
気がつくと友人らと共に中世のような国にやってきてた。
そこで王様のような人に勇者として亜人って呼ばれてる奴らから世界を救ってくれと頼まれた。
最初こそ訳がわからなかったが友人たちとやっていたオンラインゲームみたいで楽しそうだったからやってみることにした。
夢にまで見た異世界だ。
これからは日記をつけてみよう。












〇〇年〇月〇〇日


どうやらこの世界には魔法があるみたいだ。
初めて使った魔法は面白かった。
こんな力があるならどんな奴にだって負けない。
私には剣術の才能があるみたいだ。
それに私の才能スキルとやらは剣術との相性が良いみたいだ。
大きな岩を切った時は爽快だった。








〇〇年〇月〇〇日


今日は初めて魔物を退治した。
エグくて吐き気がこみ上げてきたが、なんとか我慢できた。
私は確実に強くなってる。
最近は若干ホームシックだ。
父さんと母さんは・・・・元気だろうか?
心配してるだろう、さっさと亜人を倒して元の世界に帰ろう。






〇〇年〇月〇〇日


初めて亜人との戦闘になった。
初めて、人を殺した。
・・・・亜人と呼ばれた人たちは獣人だった。
だが、あそこまでしなくて良いじゃないか・・・・。
話し合えば・・・・分かり合えるのではないのか・・・・。






〇〇年〇月〇〇日


友人が、1人死んだ。
安全と思ってた城の中で殺されたらしい。
城の中に獣人が侵入してきたらしい・・・・。
アイツは、病弱な母親のことをずっと心配してた。
よりにもよって・・・・アイツが死ななくてもいいのに。
許さない。










〇〇年〇月〇〇日


また1人死んだ。
この想いを・・・・伝えておけばよかった。
アイツらが憎い。








〇〇年〇月〇〇日


また1人死んだ。
もう、私だけだ。










〇〇年〇月〇〇日


全て分かった。
アイツらを動かしてるのは・・・・。
アイツがみんなを殺した。絶対殺してやる。










〇〇年〇月〇〇日


殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる


















クロはゾッとして本を閉じた。
所々文字が消えていたり、読めなかった部分はあるがこの日記を書いた人物が狂っていくのが分かった。


「・・・・なんだよ、これ。」


クロの表情を見てケットは何が書いてあったのかを察した。
かつて、クロが抱きかけた人族への恨み、感情。
それらに似たような狂気がこの日記には書いてあった。


「・・・・やはり、勇者の日記だったかい?」


「知ってるのか?コイツがどうなったかを。」


「・・・・いいや、知らないよ。」


クロは俯いているとケットが呟く。


「勇者とはいえ・・・・人だ。どんな結末になったかは知らないけど・・・・きっと恨みながら死んだんだろうね。」


確かにこの本からは恨み、怒りや憤りがひしひしと伝わってくる。
クロは遣る瀬無い気持ちなりながら薄っすら輝く月を見上げた。






























クロが目を覚ますとそこにはいつものようにみんなが起きるのを待ってるケットがいた。
あの日記のせいで少し寝付きが悪い。いつもより早い時間だろう。


「やぁ、おはよう。」


「ふぁ・・・・おはよう。・・・・あれ?ティナは?」


部屋を見渡してもまだぐっすり寝ているシエルしかいない。
ケットは視線を窓の外に向ける。
眠たい目をこすりながら、クロは窓から外を見る。
そこには宿屋の中庭のようなところの中心で剣を振るうティナがいる。


「キミは気づいてなかったと思うけどああやって毎日剣を振ってるんだ。」


「・・・・そうなのか?」


剣を振るうティナの姿をクロは見惚れてしまっていた。
以前は稚拙で重心もぐらついていた剣筋も今では熟練の剣士のようなものに変わっている。
何より、その剣筋は美しい。


「・・・・あの子はずっとクロの隣に立つために頑張っている。」


ケットはティナがどれだけ努力してきたか知っている。
彼女は雨の日も風が強い日だって剣を振ることをやめない。
そうでもしなければクロに追いつけないと思ってるからだ。


「無理はしてほしくないんだがな・・・・。」


「ふふっ。確かにそうだけど・・・・あれはあの子なりの愛情表現さ。」


凛とした瞳で剣を振るうティナ。
クロは昔の彼女と見比べてしまう。
村に暮らしていた時はいつもクロに付いてきていた。離れたくない、一緒にいたい。
その気持ちは今でも変わってないのだろう。


「さて、これからどうするんだい?」


ケットはティナの様子を見学しながら、今後の予定をクロに問う。
エデンと呼ばれる獣人の楽園に向かうのは最終目標だ。
だが、急ぐ予定もないため彼らはゆっくりと北に向けて旅をしていただけだ。
目的であった武器も手に入り、この街に来てそれなりの時間が経っていた。


「・・・・エデンに向かう、って言いたいところなんだが1つ問題があってな。」


「ほぅ。どんな問題だい?」


「情報を集めてる時に北のほうに何があるか調べたんだ。」


クロは独自に動き回り、武器屋の情報とともにこの先に何があるのかを調べていた。
そこで手に入れた情報。


「エデンがあるとされる北の方角・・・・そこには『竜王山』がある。」


「なるほどね。」


ケットはクロの懸念がなんなのか察した。
『竜王山』
この世界の竜種が最も生息している山であり、竜神から生まれた世界最強の生物が住む山。


「あそこにはファフニールが住んでるからね・・・・。特にキミらは目をつけられたようなもの。スンナリと通してもらえないと?」


「あぁ。」


クロは思い出していた。
フュルトの町で遭遇したあの強大な存在。
力の権化といっても過言ではないあの存在が住む場所を超えなければならない。
もし、ファフニールと遭遇しなかったとしても竜種との戦闘は避けられないだろう。


「俺たちには戦闘経験があまりにも少ない。・・・・今じゃワイバーンに囲まれただけで全滅だ。」


そもそもワイバーンに囲まれたら死んでしまうのはしょうがないことなのだが、クロの目的である安住の地に向かうにはそこを突破せねばならない。


「運が良いことにこの街の近くに魔物が溢れてる場所がある。」


「ダンジョンだね。」


「あぁ。そこで、戦いまくって力を付ける。・・・・時間が許す限り修行して、竜種を圧倒できるくらいまで成長するぞ。」


















それから数ヶ月後にウルムで奇妙な噂が流れ始める。
バンダナを巻いた子供達が冒険者組合に頻繁に魔物の素材や魔石を持ち込んでくると。
その中にはダンジョンに出没する大型モンスターの素材もあったとか。
そして、もう一つの噂が流れ始める。
ダンジョンに獣人が住み着いているんじゃないかという噂だ。























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