猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第19話 ダンジョン
フュルトの悲劇と呼ばれる惨劇から2ヶ月。
町は徐々に復興の兆しが見えてきた頃。
「俺たちは亜人・・・・いや、獣人に対して勘違いしてたのかもな。」
そう呟いたのはあの惨劇から生き残った町の住民の1人の男。
年老いた母を助けれなかったことが悔しくて堪らないが生き甲斐である妻と娘はある獣人によって助けることができた。
「・・・・お前な、滅多なこと言うんじゃねぇぞ?ラッシュ教の奴らがいたら、『異端審問だ!』とか言って殺されるぞ?」
そう言う彼もまた、この災害から生き残った1人である。
友人である彼が狂信的なラッシュ教の信者が聞いたら発狂してしまうようなことを口にするものだから、ビクビクと怯えながら辺りを見渡す。
どうやら話を聞かれてはなかったようで安堵の息をする。
「だが・・・・あの獣人に助けられたのは事実だ。町の連中も口には出していないが、それを理解している。」
彼が言う獣人とはもちろんクロらの事なのだが・・・・クロらは人族を助けようとは思っていなかった。
ただ、逃げようとしたら追いつかれ、闘うしかなかったので戦った。
その逃げたことが良かったのか・・・・ワイバーンを1匹のワイバーンを惹きつけてもらったおかげで助かった命も少なからずある。
むしろ、クロらが惹きつけてたおかげで彼らは助かったと言っても過言ではないだろう。
「・・・・ラッシュ教の奴らはこの惨劇は亜人がやったとか言ってるが、俺はあの子供らがそんな事できるとは思わない。」
実際にクロらの戦闘を直で見た人族は数少ない。
しかし今、友人と会話をしている彼はその戦闘を目撃した数少ない1人だ。
「あの子らは必死に戦っていた。そして、最後の方は圧倒してたんだ。」
「・・・・皆んながそう言うんだからそうなんだろうな。」
実際に見ていない彼の友人は眉唾で話を聞いていた。
そして、長い年月をかけてこの町は復興する。
その長い時間の中で市民の心の支えとしてとある信仰宗教ができる。
その宗教の名は『猫耳教』。
誰かを助けることを信条とし、世界の宗教の中で唯一、猫を神として崇める不思議な宗教が生まれるのであった。
そんな宗教が生まれるとは猫耳を愛し続ける男、クロ・マクレーンは知る余地もなかった。
時は同じく、フュルトの悲劇から2ヶ月経つ頃。
この物語の主人公であり、猫耳のクロ・マクレーン含む一行は北へ向けて、旅を続けていた。
「つまり、猫耳は世界の中心であり、心の拠り所であり、正義でもある・・・・そんな宗教を作ろうと思うんだ。」
『・・・・何ふざけたことを言っているんだい?』
クロの叶うことのない野望を冷めた視線で答えるのは彼の契約精霊でもあるケットだ。
「またクロが変なこと言ってるね〜。」
「・・・・私は、慣れた。」
よく分からないことを言っているクロを生暖かく見守る銀色に輝く美しい髪の毛を持つ美少女、彼女の名はティナ・フローン。
クロの幼馴染だ。
その隣を歩く無表情な鮮やかな水色の髪の毛を持つ、文学系美少女の名はシエル・クレール。
奴隷の身として人族にひどい扱いを受けていたが、クロに助けてもらって旅に同行している。
彼ら3人には立派な獣耳・・・・猫耳が生えており、獣人の証でもある尻尾も備えている。
「・・・・それで、今はどこに向かってるんだっけ?」
目的地を忘れ、ただ前を歩くクロに着いて行くだけのティナ。
シエルはいつもの彼女に対して、いつもの抑揚のない声で答える。
「・・・・武器を新調する。もう、ボロボロ。」
「あぁ!そうだったね!」
彼らが旅を始めて、約半年の月日が流れている。
旅の道中には魔物が現れたり、盗賊に襲われたりと・・・・争いごとが絶えない。
そして、遂にティナの短剣が折れてしまった。
現在はクロの短剣を貰ってなんとか凌いでいるが・・・・その剣すら長くは持ちそうにない。
「とにかく、俺たちには安定した武器が無いからな。」
「・・・・ん。弓矢もそろそろ壊れそう。」
そんな事情が重なり、急遽人族の街へと向かうことになった。
『・・・・でも、気をつけなよ。この辺りは王都が近いんだから。』
クロの隣をぷかぷかと浮かぶケットは忠告をする。
現在のクロらの位置はエルラルド王国の中心地に近い。
そこにはこの国の首都である王都があり、クロたちを苦しめてきた人族たちの本拠点でもある。
しかし、王都が近いということはクロたちの旅は半分ほど進んでいることになる。
「・・・・お、見えてきたぜ。」
クロの視線の先にはヘルネの街よりかは低い防壁に囲まれた都市が見えてくる。
あの街こそがエルラルド王国の武器庫と呼ばれるウルムという鍛治の街だ。
「・・・・ふぁ〜、すごいね。」
家々から立ち上る煙、様々な方角から聞こえてくる鉄を叩く高い音。
そして、多くの人が行き来しておりティナは目をまたもや初めて見る光景に目を輝かせている。
「ん。いろんな武器か置いてある。」
屋台のような露店には様々な武器が並んでおり、どれも質の良いものが多い。
珍しく目を輝かせている(ように感じる)シエルを横目にクロは真っ直ぐとある場所に向かう。
「・・・・?どこに行くんだい?」
いつものように人化しているケットがクロに問う。
「いつもの情報収集さ。良い武器なんか俺たち知らないだろ?」
「確かに。」
話を聞いていたのか納得した表情(していると思われる)をするシエル。
相変わらず、分かりにくい表情をしているシエルに苦笑いをしながらクロは冒険者組合へと足を運んだ。
10分ほど雑踏をかき分けて歩くとかなり大きな組合の施設が見えてくる。
「おっきいねー・・・・。」
今まで見てきた組合の施設の中で1番の大きさだろう。
その大きさに圧巻されているティナ。
「確かに・・・・デカイな。」
この街に入ってからだが、冒険者らしき人族も多いとクロは感じていた。
武器の街と言われて尚且つ、王都からもさほど距離は離れていない。
それのせいかと思っていたが、情報収集してるうちにそれが違うことがわかる。
「・・・・ダンジョン?」
「ん?坊主、知らねーのか?」
恒例の適当に酒を奢って話を聞きましょう作戦を決行していたクロは情報を聞き出していた男が奇妙なことを言った。
「あぁ。すまないが初めて聞く単語だ。」
「そうか。・・・・この街の近くにな、ダンジョンって呼ばれる魔物が溢れ出る洞窟ができたんだよ。」
男は淡々と説明してくれる。
良い感じに酔いが回っているのだろう。
曰く、ダンジョンは魔素の根源である地脈が弱ったために発生したらしい。
魔素を吸収するために魔物を大量発生させる。
そして、魔物が死んで行けば地脈は魔素を吸収して元の力を取り戻す・・・・とお偉い学者が言ったとのこと。
とにかく、そのダンジョンを攻略するために冒険者がたくさん来ているらしい。
「・・・・不思議なものだな。」
「ははっ!俺も最初聞いた時はなんだそりゃ?って思ったけどよ、地脈・・・・この世界も生きてるってことだ。」
「(・・・・なるほどね。大地が、世界が生きてる、か。そんな考えは前世では一回も考えたことがなかったな。)」
クロが元々生きていた世界では魔力などの不思議要素は存在しなかった。
地球という星は現象の塊だと思っていた。
だが、星という存在は死ぬ。自身の重力に負けて爆発するなどは聞いたことはあったが生命として見てはいない。
「(・・・・この世界に来て色々と考えさせられる。人族との関係だったり、世界の理だったり・・・・神様だったり。――――ん?待てよ。)」
クロは疑問が生まれる。
そして、ケットが前に行っていたことを思い出す。
『ありとあらゆる生物は魔素を吸収している。そして、自身の許容できる以上の魔素を吸収すると凶暴化する。』
魔素と呼ばれるものは地脈により生成される。
ここで矛盾が生まれるのだ。
「(魔素がない地脈が魔物を大量発生させる、どうやって?)」
魔物を大量発生させるなら魔素がいる。でも、ダンジョンの元となるはず地脈には魔素がない。
「(・・・・ま、ケットに聞けばいいか。亀の甲より年の功だ。・・・・いや猫の功だ。)」
クロは考えるのを放棄した。
「――――って事なんだけど、ダンジョンってなんなんだ?」
「・・・・たまには自分で考えてみなよ?なんでもボクに聞かないでくれ。」
時間は進み、宿屋でクロは先ほどの情報収集の際に感じた疑問をケットにぶつける。
ケットはティナとリバーシをしながら、クロの質問に対して呆れて答えていた。
「・・・・ケットは俺がそんなに頭良いと思うのか?」
「ははっ!思わないね!」
ストレートに言って笑うケット。
若干傷つきながらクロはケットに問う。
「そうだね。・・・・まず、キミらがダンジョンって呼んでる存在は、話を聞く限りキミたちが定義する魔物と言って良いだろうね。」
「・・・・?どういうことだ?」
すると部屋のベットの上で本を読んでいたシエルが本を閉じてケットの方を見る。
「私も知りたい。」
どうやらシエルの知識欲が唆られたようだ。
「ボクの中での魔物の定義は覚えているかい?」
「あぁ。・・・・確か『人間に害を成す存在』だったか?」
そう言われて、ケットは軽く頷きながらパチンとリバーシの石を置き、大量にひっくり返していく。
ティナは「え?なんで?なんで?」って顔をしている。
「ボクはそのダンジョン?とやらは人間に害を成す存在だと思うよ。」
「何故そう言えるんだ?」
「・・・・少なからず、そのダンジョンの中で人は死んでいるだろう?更に無視をしていたら魔物が溢れると・・・・。」
クロは先ほどの組合の中で男が言っていたことを思い出した。
『ダンジョンってところは・・・・恐ろしいところでな。素人が入っちまえばすぐに死んじまう。』
大量に魔物が現れてしまう場所もあるんだとか。
とにかく恐ろしい場所だと語っていた。
「地脈も・・・・生きてる。そういうこと?」
パチンとまた音が響く。
クルクルと白色に石を変えていくケット。
ティナはガクッと落ち込み、尻尾も垂れ下がっている。
可愛い。
「とにかくだ、ダンジョンってやつも魔物の一種と定義した方が対処しやすいだろう。・・・・ちなみに地脈がそういった進化をするなんて、ボクは聞いたことがない。」
神界のある場所。
金髪の男はニヤッと笑みを浮かべた。
「・・・・地脈も影響され始めたか。」
男は笑みを絶やさない。
自身の目的が徐々に達成しつつあるからだ。
「・・・・ふははっ。順調だな。もう少しで・・・・もう少しで・・・・会える。」
クロらが知らぬところで世界が狂い始める。
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