猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第18話 精霊昇華そして終結



















「・・・・終わったな。」


『ええ。』


場所はフュルトの町から離れたエルラルド王国の最東端。
この先に住まう鳥人族を救うため、フレイドは近くにある城塞拠点を潰していた。
簡易的な城の中は氷漬けにされた人族が夥しい数になっており、人の気配は感じられない。


「・・・・もうすぐ夜明けか。」


彼らは夜襲を行い、確実に殲滅したのだ。
東の空は若干の明かりに包まれ始めている。
すると、フレイドの契約精霊であるエイスの耳がピクッと動き西の方角に視線を向ける。


「・・・・どうした?」


『・・・・いえ、何でもないわ。』


エイスはプイッとそっぽを向き、フレイドの肩に乗る。


『(・・・・流石あの人が認めたってことね。あの年で『精霊昇華』を使えるなんて。)』


エイスは西の方から感じる自身が信頼する王の魔力を感じていた。
彼女は精霊の中でも1番の感知能力を持っている。
ここからかなり離れているであろう力を察知することができたのだ。


『・・・・行きましょう、フレイド。』


「・・・・?あぁ。」


そう言って彼は自身が持っている才能スキルを発動し、姿を消した。
























「待たせたな、ティナ。」


そう言ったクロの姿は眼を見張るものがあった。
まず外見での容姿がガラリと変わっているのだ。
紫がかった白い紫電が辺りを照らしている。
髪の毛もクロからその色へと変化している。
それと同じ色調の紫電が服のようなものを形成しており、クロの周囲に電撃がバチバチッと鳴る。


「・・・・ケットは?」


ティナを助けに来たシエル。
いつもクロと一緒にいるケットがいないことに違和感を感じる。
すると、バチバチッ!と音を立ててクロの服の一部が変形して猫の姿を現わす。


『今のボクはクロと同化しているよ。』


声は聞こえるが形を成しただけのケットに2人は少しビクッと身体を揺らす。


『・・・・これは『精霊昇華』って言ってね。人と契約できた人間だけが使える必殺技の様なものさ。』


そう説明しているうちに下敷きにしていたワイバーンが動き出す。


『――――説明は後だね。クロ!』


「わかってる・・・・。離れてろ2人とも!」


忠告を素直に受け入れ、シエルは力の入らないティナを抱えて距離を取る。
クロはワイバーンの頭から飛び降り、起き上がるワイバーンを見据える。


「ガァァァァァッ!!!!」


頭を踏まれたからか、今まで感じたことのない痛みを感じたからか、どちらにせよワイバーンは怒り叫ぶ。
クロは咆哮を物ともせず、天に手を掲げる。


「喰らえ・・・・『雷槍招来ライソウショウライ』!」


クロが手を振り下ろすと同時に辺りの空気を切り裂き、巨大な雷の槍が降ってくる。
激しい爆音が辺りに響き渡る。


「・・・・ガ、グガ・・・・」


あまりの電気量にワイバーンは口から黒い煙を出し、動きを止める。
クロは追い討ちをかけるため、辺りに魔力で生成されていく電撃の塊をばら撒く。


「『千雷弾センライダン』!!」


クロが手を出すとばら撒かれた千個は下らない雷の弾丸がワイバーンの鱗と肉を削いでいく。
だが、ワイバーンも負けずと口元に魔素を収縮していく。


「――――っ!あれは!?」


少し離れたところでティナとシエルは見ていた。
ティナはあの全てを消しとばした光線を再び放つと感じ取った。
そして、ワイバーンが咆哮と同時にクロに向かって光線を吐き出す。


「ガァァァァァッ!!」


直線上に再び町の一部が消し飛ぶ。
しかし、クロはすでにそこには居ない。


「――――遅えよ!!」


クロは転移したような速度でワイバーンの頭上に現れる。


「『万雷砲撃マンライホウゲキ』!!!」


クロの手のひらに巨大な雷の塊が出来る。
バンッ!!と轟音を立て、生物が感知できる速度を遥かに超えたスピードでワイバーンに直撃する。
雷の塊はワイバーンの身体を貫く。


「・・・・ふぅ。」


クロは上空からゆっくりと降りてくる。
スタッと軽く着地し、動かなくなったワイバーンを見つめる。
あれ程溢れ出していた魔力は徐々に消えていき、そしてワイバーンが地面に倒れると同時に魔力反応は消えた。


「――――クロ!」


少し休んで回復したのか、ティナが走って向かってくる。
クロは『精霊昇華』を解除し、飛びついてきたティナを受け止める。


「くろぉぉ・・・・!死ぬかと思ったぁぁ!」


と、薄っすらと涙を浮かべながらクロの胸に顔を埋めるティナ。
ぐすんと言っていたがよく聞くとクンクンと匂いを嗅いでいる。


「・・・・えへへ、クロの匂いすきぃ・・・・」


先ほどの泣き顔は何だったのだろうか、蕩けた表情をするティナの首根っこをシエルは掴んでクロから引き剥がす。


「・・・・抜け駆け禁止。ズルはダメ。」


「・・・・えへへ、バレた?」


てへぺろっ!と可愛い顔をするティナ。
クロは苦笑いしながら、頭の上でグダーッとしている猫を見るように視線を上に向ける。


「大丈夫か、ケット?」


『・・・・いやぁ、流石に疲れたよ。『精霊昇華』はボクの魔力も使うからね。』


と言いつつ、いつもの様にケタケタと笑う。
すると、シエルの視線に気がつく。


「・・・・私は心配した。無理はダメ。」


「すまないな・・・・。ギリギリの戦いだってのはわかってた、俺も魔力が空っぽだ。あと10秒、アイツが生きてたらどうなるか分からなかった。」


常人の何倍もの魔力を保有するクロが思うほど、『精霊昇華』という技は魔力消費量が激しい。
まるで燃費の悪い車だ。


『・・・・まぁ初めてだったし、しょうがないさ。もっと訓練すればさっきの10分の1の魔力の消費量で済むよ。』


グッタリとしながらケットは説明をしてくれる。
するとシエルはワイバーンの方を見る。


「・・・・ワイバーンは夫婦で生活する生物。群れから追い出されたとすれば、相手が居る・・・・かも。」


「・・・・いや、それは真面目にヤバイ気が・・・・。」


そして、クロらの後方。
町の中心地の方で爆発音が聞こえる。
クロらは振り向いて、驚愕する。


「――――冗談じゃねぇぞ?どうすんだ?」


そこにはシエルの言う通り、もう1匹のワイバーンが空を舞っていた。
クロは町の外への距離を確認する。
どう考えても、満身創痍の彼らがもう1匹のワイバーンを狩れる訳がない。


「・・・・逃げるぞ。」


「・・・・賛成。」


「流石に、ね・・・・。」


クロらは冷や汗をかきながら疲れた足取りで町の外の方へ歩こうとするその時。


「ガァァァァァッ!!!!!」


激しい咆哮が聞こえる。
見つかってしまった。


「ッチ!走れ!!」


クロらは必死に駆け出す。
しかし、先の戦闘で完全に疲労した身体は思うように動かず、一瞬にして回り込まれる。


「ガァァァァァッ!」


咆哮が空気を轟かせる。
死んだ――――そう思った刹那。
ワイバーンの倍の大きさはあるであろう、竜種が上空に居るのを確認した。


「・・・・は?」


ワイバーンの上位種。
見ただけでわかるその竜の身体から溢れ出る魔力。
クロらは息を吸うのを忘れ、動けずにいた。
膨大な魔力と威圧感を放つ竜の存在にワイバーンは気がつき、激しく威嚇する。


『・・・・言葉も話せぬ、若造が。調子に乗るな。』


竜が声を放ったのだ。
頭の処理が追いつかないクロらはその光景を眺めていただけ。
そして、巨大な竜種がワイバーンの首を目にも留まらぬ速さで喰い千切る。
鮮血が飛び散り、噛みちぎった肉片をぺっと吐き出しながらクロらの前に着地する。
暴風が吹き荒れるがなんとか耐える。
そして、竜種はクロらを見つめる。
圧倒的な存在感。
今まで感じたことのない恐怖がクロらを襲う。
先ほどのワイバーンが可愛く思えるほどの威圧感に意識を飛ばさぬよう耐えていると、竜はゆっくりと口を開いた。


『・・・・精霊王か。』


視線の先はクロの上にグッタリとしているケット。
ケットは竜の存在に気がつき、怠そうに見つめる。


『・・・・なんだ、君か。元気だったかい?』


どうやらケットとは面識があるようだ。


『・・・・っふ、まぁな。貴様は・・・・元気そうではないな。』


『慣れないことをしちゃったからねぇ・・・・。まぁトカゲに対してこれほど苦戦するとは思わなかったよ。』


『ぬかしおるわ・・・・。』


竜はクロを観察するように頭の先から尻尾の先まで見る。


『・・・・まだ発展途上ということか。』


『まだ生まれて10年ほどだからね。これからだよ。』


すると竜は飛び立とうと翼を広げる。


『同族が迷惑かけたことは謝罪しよう。・・・・だが、次会う時は・・・・楽しませてくれ。』


ニヤッと笑い、そう言って竜は飛び立つ。
大きな翼を広げて、どこかへ去っていく。
姿が見えなくなるまでクロらは呆けていた。
見えなくなると忘れていた呼吸を思い出したかのように息を吐く。


「――――はぁっ!?何だよ・・・・アレは。」


なんとか息を吐き出すことができたクロは竜が去っていった方向を見ている。


『・・・・アレはトカゲ供の王様さ。』


「・・・・知り合い?」


シエルも強大なあの存在に気圧され、冷や汗を大量に流していた。


『・・・・知り合い、というか異母兄妹みたいなものさ。』


「どういうことだよ・・・・。」


意味のわからない説明にクロは溜息をつく。


『・・・・アレは竜の神、竜神から生まれた竜の王。竜王ファフニール。世界最強の生物さ・・・・。』
























今回の話の後日談。
フュルトの悲劇と呼ばれたこの惨事は2匹のワイバーン襲撃により、起こされた事態だ。
町は悲劇的な大打撃を受け、町民の8割は死亡。町の機能は完全に停止した。
しかし、その中でワイバーンの死体が二体発見される。
人族の魔法は通じない竜種を倒すには強力な才能スキルを持つ者ではないと倒せない。
救援要請を受けた王国騎士団はワイバーンの死体を見て誰がやったのかわからなかった。


「・・・・これは火傷?ワイバーンを焼く程の火力を放てる者がこの町に居たのか?」


1匹は謎の火傷と激しい裂傷により死んでいた。もう1匹は首を噛みちぎられていた。
謎が謎を呼ぶ。
ワイバーンの死体を調査する王国騎士団の1人は町民達に聞き取りを行なったのだ。
しかし、町民は理解不能なことを口を揃えていう。


『獣人の子供らが戦っていた。』


『もう1匹の巨大な竜種が現れた。』


1匹のワイバーンはその話の中の巨大な竜種により殺されたのだろうか?
竜種の生態は謎が多い。しかし、群れを追われた竜種が別の竜種に殺されることは少なくなかった。
しかし、問題はもう一方の話だった。
話によれば10歳ほどの猫耳の獣人がワイバーンを圧倒していたという。
最強と呼ばれる精霊魔法士の『金魔のフレイド』だったら理解できるが聞けば聞くほど子供らと皆口を揃えて言う。


のちにワイバーンを圧倒していた獣人の姿が誇張され、とある吟遊詩人に詠われることとなる。
その詩の題名は――――






――――『猫耳無双』と。

























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