猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第16話 襲来



















「ほい、王手。詰みだな。」


『――――っな!?待ってくださいですの!』


「最初に決めだろ?待ったは3回までた。俺の勝ち。」


クロ一行はちょっとした偶然により、犬族の村で厄介になっている。
急ぐ旅では無いので滞在してすでに3日経っていた。
クロは暇つぶしがてらこの村の守護精霊であるルナと将棋をしている。
だが、初めて間もない彼女は一度もクロには勝ててはいない。
クロも将棋が強いわけではないが初心者にはまだ負けないほどだ。


「フォッフォ、クロは強いのぉ。ワシも全敗、ルナさんも全敗か。」


陽気に笑う彼はこの村の村長、カロン・ジルベール。
白髪が混ざっている薄茶色の髪の毛を持っている犬族。
しかし、彼には獣人の誇りである獣耳は存在にしない。
彼曰く、昔ヘマをしたらしいが人族にやられた事は火を見るより明らかだ。
耳無は獣人からもたまに疎まれる存在である。そんな彼が村の長というのだから驚きだ。
なぜ勝てなかったか悩むルナを横目にクロは懐から1枚の金貨を取り出してカロンに渡す。


「・・・・これは?」


「明日にはこの村を出て旅を再開しようと思う。宿泊代だと思ってくれ。」


カロンが自分が耳無のを利用してよく街に行く事は聞いていた。
渡しといて邪魔になるとは思わない。


「そうか・・・・。まだゆっくりしてもいいんじゃが・・・・。」


「いつまでも厄介になる訳にはいかないさ。・・・・そろそろ街にも行って人族の情報も集めておきたい。」


「・・・・なるほどのぉ。それならここから北西にまっすぐ行ったところにフュルトという町がある。そこに向かってはどうじゃ?」


「少し方向がズレるが・・・・行ってみるか。情報助かる。」


そして、次の日。
日が昇ってまだ間もない時間帯にクロたちは村の外にいた。
見送りとして、カロンとシアン、そして精霊のルナが来てくれた。


「じゃあ、達者でなクロ!」


朝から元気なシアンはクロに元気に別れの挨拶をする。


「あぁ、お前も無理すんなよ。」


しっかりと握手をする2人。
最初の頃はあまり仲良くなかったが、3日ともなれば彼の性格もわかってきてそれなりに仲良くなった。
クロがこの世界に生まれて初めての男友達となったのだ。


『行ってしまうのですわね・・・・、お元気で、ケットお姉ちゃん。』


悲しそうな表情をする狐の精霊、ルナ。
付いて行きたいのだが、彼女はここの地脈を使って顕現化している。故に離れることが出来ないのだ。
ケットはそんな彼女を肉球で優しく撫でながら微笑む。


『また、どこかで会えばいいさ。・・・・彼がなんとかしてくれるよ。』


そう言いながらケットはクロと手を握るシアンを見る。


『・・・・気づいたのですの?シアンの才能スキルに。』


『当たり前さ。何年精霊やってると思ってるんだい。・・・・まだ自覚はしてないみたいだね。』


『ええ。でも、きっとシアンもいつかその力を発揮する時が来るですの。』


こうしてクロ一行は犬族の村を離れ、北西にあるフュルトという町を目指して歩き出した。




















「・・・・良い人たちだったね。」


少し別れに感傷的になっているティナ。
シアンたちは短い間だったがすごく世話を焼いてくれた。
彼ら犬族の特徴として仲間意識が強く、人懐っこい。何よりも世話好きという面がある。


「あぁ。またどこかで会えるさ。」


彼らはこの土地を動くように準備をしているらしい。
それもそのはず、人族が攻めてきたのだ。
今まで精霊の守護を受けていたので手放すことに戸惑いを感じていたらしい。
しかし、その精霊の鶴の一声により決断した。


『私からすれば貴方がたが・・・・ここで殺される方が嫌ですの。』


ケット曰く、ルナは精霊の中では上位精霊としての力も持っているらしい。
しかし、地脈による顕現化は本来の力の10%も出せないとか。
ある程度の人族は追い払えても今回の様に軍で来られてしまったら手も足も出ない。
そして逃げる為の備蓄などの準備を進めていたところに俺たちがやってきたらしい。
たしかに村の様子は少し慌しかった。


「・・・・あの人達もゆっくり移動しながらエデンを目指すって言ってた。」


「そうなのか?」


地味に住民と仲良くしていたのはシエルだった。
彼女は各家庭においてある本が目当てだったみたいだが。
実際にいくつか譲ってもらったり、借りて読んで過ごしていた。


「私たちの部族みたいに生まれ育った土地で死にたがる部族ではなかった。・・・・人族が獣人に対してやることを理解していた。」


彼ら犬族は村長の体験談をよく聞かされている。
いざという時に一族全てが移動できる様にする為に村長が語っていたのだろう。
彼の体験は・・・・クロらには想像しやすい。
それを分かっていたのか実はシエルも家々に自身の体験も話している。


「あの人たちは来るよ。・・・・特にシアンがなんとかしそうな気がするんだ。」


「・・・・ティナの勘は当たる。」


長年一緒にいるクロもそれは分かっている。
3人と1匹はカロンに教えてもらったフュルトの町に向かった。


















犬族の村を出て、4日ほど歩けば町が見えてきた。
フュルトの町は大きさ的に見れば以前立ち寄った、ヘルネの城塞都市の半分くらいの規模の町だ。
クロらはいつもの様に頭にバンダナを巻き、冒険者カードを使って町の中へと入った。
ちなみにシエルの冒険者カードはヘルネの組合で作った。アレほどの規模の街だと孤児も多いのか、疑われずに作れたのだ。


「すっごい人が多いって訳じゃないんだね。」


ティナは町行く人々を観察しながら言う。
活気がある町なのだが、通る人の数はヘルネの街に比べると半分以下だ。


「・・・・ヘルネは貿易都市、人が多いのは当たり前。・・・・でも様子が変。」


シエルが言う通り、活気はあるのだが・・・・何か重い空気を感じる時がある。
クロは情報収集がてら冒険者組合へと足を運んだ。
シエル達には外で待機してもらい、クロは1人で組合の中に入る。
そこにはヘルネほどでないものの沢山の冒険者が飲み食いしていた。
クロはウェイトレスの女性に声をかけて一杯のエールを一人で飲んでいる男に渡す様に伝える。


「・・・・なぁ、ちょっと良いか?」


「・・・・あ?」


クロは男の隣に座る。
良いタイミングでエールを持ってきたウェイトレスが男の前にエールを置く。


「・・・・へへっ、分かってるガキだな。なんでも聞け。」


ちょうどあおる酒がなくなっていたみたいで嬉しそうにエールを口にする。


「ここの町には初めてきたんだが・・・・空気が所々重くてな。何があったんだ?」


「・・・・あぁ、悪いことが続いてるんだよ。」


「悪いこと?」


男はゴクッゴクッとエールを飲んで話し始める。


「まず、害獣供の駆除に王国軍がやってきてな・・・・どうやら近くに住処があるらしくそれを駆除しに来たらしい。その時、徴兵って名目で何人かここの住民が連れてかれた。」


クロはシアンの村の近くで氷漬けにされた兵士たちを思い出していた。


「まぁ、結果は全滅・・・・。『金魔のフレイド』って奴がやったらしい。伊達に最強の精霊魔法士って名乗ってない訳だ。」


「・・・・なるほどな。他に何があったんだ?」


彼の話し方だと悪いことがまだあるように感じた。


「・・・・ワイバーンが近くの街道に出たらしいんだ。」


「――――っな・・・・!?本当なのか?」


クロは驚きを隠せず、声を上げてしまう。
しかし、その反応は正しい。


「あぁ。・・・・討伐依頼が出てんだが、まぁこの町にワイバーンを倒せる冒険者はいねぇ。ヘルネの街に依頼を再発行してるらしいが・・・・来るのに何日かかるやら。」


男は深いため息を吐く。
ワイバーン。
竜種の中でも1番弱く、よく群れを追い出される存在でもある。
そのためか、よく人里に下りて来ては人を襲っていく。
人肉が好きな彼らは1番弱いといっても竜種の中で、である。
1番弱いと言われてもあくまでそれは竜種の中で、だ。
一般市民どころかそれなりの実力者ではないとただの餌にしかならない。
所謂、人類の敵だ。


「・・・・とにかく、どこから来たからは知らねぇけど今は外に出るのはやめといたほうがいいぜ?」
















その日の夜。
あの後、大した情報も手に入れることはできなかったクロらは宿に泊まり、休むことにした。
いつもの様に宿屋に泊まっていると、クロの耳がピクッと動く。
寝ていたのだが、ばっと起き上がり窓から町の外を見ようと乗り出す。


『・・・・どうしたんだい?』


精霊なので寝る必要のないケットだが、一応寝ていたのだがクロの行動に気がつき、ぷかぷかと近づいてくる。


「・・・・ッチ!ケット、他の2人を叩き起こせ。逃げるぞ。」


クロの視線の先には小さいが何がこちらに飛んでくるのが分かる。
ケットもその存在を確認すると冷や汗を垂らす。


『・・・・マズイね。』


ケットは急いで2人を起こす。
寝惚けていたが、迫り来る気配を2人は感じ取り目を見開いた。
2人でも察知できるほどの魔力を感じたのだ。


「く、クロ!?これは・・・・!?」


「・・・・これは、危ない。」


すぐに出るための準備を進める。
そして宿の外に出た瞬間、夜の町に鐘の音が鳴り響く。


カンカンカンカンッ!!


その音は1匹の魔物の咆哮によりかき消される。


「ガァァァァァッ!!!」


空を舞う、1匹の竜種。
3、4メートルあるだろう巨体を巨大な翼を羽ばたかせ飛んでいる。


「――――ッチ!早く逃げるぞ!!」


「う、うん!」


4人は町の外へ出るために走り出す。
これが後に語られる『フュルトの悲劇』と呼ばれるワイバーンによる災害の始まりだった。























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