猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第7話 猫にこそ小判
村の唯一の出入り口が閉まる日没の30分前ほど。
村中に鐘の音が鳴り響く。
カンカンカンカン!!
「火事だぁー!!」
カンカンカンカン!!
「急げー!火の回りが早いぞー!!」
「こっちに火が移りそうだ!!ここを壊すんだ!!」
「家に移らないようにしろー!」
必死に住民たちは火を消そうと走り回っている。
その姿を建物の物陰から見るバンダナを頭に巻いている3人組。
黒い髪の毛がチラリと見える1人の少年は呟いた。
「――――ちょっとやり過ぎたな。」
「ちょっとじゃないよ。クロのバカ。」
「これは流石にボクもドン引きだね・・・・。」
何故こうなったかと説明するには1時間ほど時を遡らなければならない。
「作戦はこうだ。まず俺の魔法で雷が壁に落ちたかのように見せかける。」
地面に簡単な村の見取り図を書きながら、クロは幼馴染のティナと自身が顕現化させた精霊であるケットに説明をする。
2人は真面目に聞いており、どんな立派な作戦があるのだろうかと期待しているのだろう。
「それでどうするんだい?」
「混乱に乗じてそのまま入る。以上。」
「「・・・・。」」
「質問は?」
単純明快なバカでもわかる作戦に2人は少し呆れている。
そこでティナは質問する。
「・・・・そんな簡単にはいれるのかな?」
「九分九厘、確実に入れる。」
「ちょっとボクにも分からないんだなー・・・・。なんでそんな自信満々なのクロは?」
クロは村の門番の方向を見る。
「まず、この村は人族の中ではさほど大きくない村だと思ったんだ。」
「へ?そうなの?」
ティナが驚いた表情をする。
確かにティナは生まれてこの方あの小さな村から出たことすらなかったのだ。
それより大きいこの村は人族の中でも大きい方と思ったようだ。
「ここに来る人族は誰もが一度門番と軽く談笑して入っていく。つまり、この村を出入りする人間なんてほぼ変わらないってことだ。」
「そうだねぇ・・・・。確かにそんな感じはするよ。」
「とにかく、何か騒ぎを起こせば門番はそっちの方に行くんじゃないかなと思ってな。・・・・やってみる価値はあるだろ?」
ニヤッと悪い笑みを浮かべるクロ。
こうしてクロは出入り口より少し離れた壁に雷を落としたのだ。
雷によって壁が炎上。クロの狙い通り、消火のため門番や近くにいた大人たちは駆り出されその騒ぎに乗じて3人は無事に村に入ることができた。
時は戻り、侵入から約1時間後。
炎は未だに燃え盛り、周囲の壁や家を燃やし尽くしている。
「・・・・そんなに強くした覚えは無いんだがなぁ。」
「キミは精霊を顕現化させたんだよ?基礎的な精霊魔法の威力も上がるに決まってるだろう。」
「・・・・そうなのか。」
当たり前だ、と言うようにケットはクロを冷たい目で見る。
真っ赤に染まる炎を眺めながら、クロは踵を返す。
「やってしまったもんはしょうがない。俺たちは次の行動に移すぞ。」
「火、消すのを手伝わなくていいの?」
少し申し訳なさそうな表情をしているティナ。
「ここじゃ俺たちは余所者だ。見知らぬ顔の俺たちは色んな意味で目立つわけには行かない。」
「・・・・お母さん、私たちは悪い子になっちゃったよ。」
しょぼんと落ち込むティナ。
ティナたちを苦しめたのは人族とはいえ、関係のないここの村の人族たちに申し訳ないとティナは思ったのだ。
少し歩き、火事の現場からは正反対の少し拓けた広場のような所に向かった。
時刻は太陽が傾き始めた頃。
広場では農作業や家の手伝いを終えたクロたちとそれほど変わらない子供達が遊んでいる。
「さて、村に入れたのは良いけどお金を稼ぐのはどうするんだい?」
クロたちの目的はクロとティナの両親の知り合いというフレイドという人物を探すこと。
そのために必要となってくるのは食料費や回復薬などを購入する資金。
しかし、クロたち3人組の容姿は10歳ほどの子供だ。
ケットに関してはクロの記憶が正しければ20歳ほどの筈だが、変身した姿は何故か子供姿だ。
「・・・・異世界転生したら稼ぐ方法なんて1つだろ?」
ティナには聞こえない小声でニヤッとケットに言うクロ。
そして、クロは2人にちょっと待ってろよと言い残し遊んでいる子供たちのところへ向かう。
「・・・・何してるんだろうね?」
「まぁ、クロは昔から変な悪知恵だけはあったしね。」
残された2人は子供達と楽しく話すクロを眺める。
「そういえば、ケットって昔からのクロの知り合いなの??」
「え?」
「・・・・なんか変なんだよねぇ。クロってば私と同じ年の筈なのにお兄ちゃんっぽいっていうか、お父さんたちの難しい話に入っていけるし、まるで私より何歳も年上みたいだし・・・・。」
ティナは若干頬を膨らませながら、クロを見つめる。
「・・・・そうだね、質問についての答えはボクからは言えないかな。それはクロが話すことだし。」
「えー、ケチ。」
「・・・・ティナはクロのこと、好きなんでしょ?」
ティナはビクッと身体を揺らし、驚いた表情をする。
頬を赤らめながら小さく頷く。
「好きな人のことはなんでも知りたい・・・・それは間違ってはないけど、あんまり焦っちゃダメ。ちゃんとクロに寄り添って、クロから色んな話をしてもらえるようにするんだよ。」
「・・・・うんっ!わかった。」
「まぁ1つ懸念があるとすれば・・・・クロは稀代の天然猫たらしだからね。奪われないように。」
「・・・・確かに!でも、別にクロが認めたなら他の子と一緒でもいいけどなぁ。」
猫の社会は必ずしもそうとは限らないが、一夫多妻のことが多い。
猫族もその社会性は強く、クロたちの両親は違ったが村には3人の奥さんを持つ人もいたのだ。
「っと、クロが帰ってくるよ。この話は女の子同士の秘密だからね?」
「うん!」
ティナはニコッと笑みを浮かべる。
小走りで2人の元へ帰ってきたクロはなんだか打ち解けたような2人の空気を感じた。
「・・・・??何か話してたのか?」
「ふふっ、女の子同士のひみつ!」
ティナとケットは向かい合って「ねーっ」と笑い合う。
なんだか除け者にされた感を否めないクロであった。
「で、そっちは何を話してたんだい?」
「あぁ。この村で1番の商人の家を聞いてたんだ。」
「なんだい?お金を盗み出そうとでも言うのかい?」
「ど、ドロボーはダメだよクロ!ドロボーしたらドロボー猫って言われちゃうんだよ!」
間違ってはないのだが、少し言葉の綾がある。
そんなティナの頭をクロは撫でる。
ちょっと抜けたティナがとても可愛くてこういう時についつい撫でてしまうのだ。
「大丈夫だ。次は悪いことはしないよ。」
「(次は・・・・なんだね。)」
その次はするかも、ということかと思うケット。
「そうなの?・・・・えへへ。」
クロが悪事を行わないという発言より、頭を撫でられたことを喜ぶティナ。
バンダナを巻いているがクロの手腕は布一枚で防げるものではなく、ティナを骨抜きにしていく。
「じゃあ商売でもするのかい?」
クロはニヤッと悪い笑みを浮かべる。
「そのまさかだよ。」
場所は村の中心にほぼ近くにある家。
周りの家と比べると一回り大きなその家の前にクロらは居る。
「・・・・というかこの村に商人が居るかどうか分からないのに壁を燃やしてまでこの村に入ったね。」
とケットはクロに少し都合が良すぎるんでは?と思いながら言う。
「それは思い違いだなケット。俺はここにそれなりの商人が居ると踏んで入ったんだよ。」
「そうなの?」
ティナが2人の会話を聞いて、問う。
「まず、数時間村の手前で観察してたろ?その時にヤケに門番がペコペコしてる商人が居た。」
「そういえば居たかもね。」
「さらにここの防壁は木製とは言え、かなり立派だ。この村の規模で集めた税金では結構無理があると思ってな。誰かが出資したんだと思ったんだ。」
案の定、その予測は正しかった。
子供に商人の家を聞いた時も真っ先にこの家の場所を指した。
「・・・・ま、都合のいい村があるかどうかはかなりの賭けだったが。」
「・・・・キミってそんなに頭良かったかな?」
ケットの記憶では前世のクロ、猫宮和人はお世辞でも頭が良いとは言えなかった。
クロもケットに言われ、自分ですら疑問に思いながら呟くように言う。
「・・・・ティナのため、だからかな?」
それを聞き、ケットは納得する。
「(そういえばキミは昔から猫のためなら天才的な能力を発揮してきてたね。・・・・本当に変な才能だよ。でも、その才能は・・・・あの人の希望でもある。)」
ケットは上を見上げ、笑みを零す。
「さて、ここからはガチンコ勝負だ。2人はここで待っててくれ。」
クロはそう言い、表情を引き締めて2人を置いて家の扉に向かう。家の扉をノックする。
中から「はーい」と声がすると数秒で扉が開く。
「・・・・子供?どうしたの??」
出てきたのはメイド服を来た女性だ。
「ここのご主人さんに会いたいんですけど居ますか?」
「・・・・居られるけど、どうしたの?」
女性はクロたちを観察し、この辺りでは見ない子供と認識する。
疑いの目を向けながら、見定める。
「父に大事な書類をここの主人に届けて欲しいって言われたんです。」
女性は別の村から来た商人の子供と認識する。
だから、この辺りで見ない子供かと勝手に脳内補完される。
しかし、彼女はこの家の従者の端くれ。
子供とはいえ主人の許可なしに家に入れることはできない。
「偉いわね!じゃあその書類は預かっておくわ。私がムースン様にお渡ししておくから。」
そう言って彼女はクロに書類を渡してもらうよう手を差し出す。
だが、クロは首を横に振りそれを拒否する。
「ダメですよ。商人は信頼と信用がとても大切です。・・・・この書類はそう言った意味を持つものと父に言われました。僕が直接ムースン様にお渡ししなければなりません。」
「んー、でも子供を勝手にお屋敷に入れるわけにはいけないの。大切なものならまたお父さんと一緒に来てくれる?」
「舐めないでください!この歳でも父の跡を継げるように勉強をしている商人の見習いです!!・・・・父に無理を言って頼み込んだんです。お願いします。」
クロは頭を深々と下げる。
我ながら名演技してるなと内心ほくそ笑む。
しかし、この程度ではダメだと理解している。
すると家の中から少し小太りの男性がやってくる。
「何をしているんだ、イザベラ。」
「あ・・・・ムースン様。じ、実は・・・・。」
イザベラと呼ばれたメイドは家の主人であるムースンにこれまでの出来事を耳打ちする。
「・・・・ほう、少年。顔を上げるんだ。」
「は、はい・・・・。」
クロは顔を上げる。
ムースンはクロを見定めるようにしっかりと見る。
動きやすい服装に裾は若干ほつれている。腰には護身用であろう短剣を付けている。
「(・・・・商人の息子と言うには若干だが見窄らしい格好だ。しかし、目は真剣そのもの。かなりの違和感を感じるがこの子供からはとてつもない金儲けの匂いがする。)」
商人の勘。
ただそれだけなのだが、一代でこの近辺の村々の稼ぎ頭になった男。
彼の目標は王国で1番の大商人になることである。
怪しい子供でも金の匂いがすれば誰だろうと構わない。
「・・・・この子供を応接間に通しておけ。」
「む、ムースン様?よろしいのですか?」
「あぁ。商人は信頼が大切だからな。俺は一度自室に戻って今の仕事を終わらせてくる。悪いが10分ほどた待っててくれ。」
「は、はい!」
そう言って、ムースンは自室へ向かう。
クロは内心ガッツポーズを決めていた。
「(よし!まずは同じテーブルに着ける事に安堵しよう。勝負はこれからだ。)」
クロは応接間に通され、この世界に来てから初めてのふかふかソファーに少し戸惑いも見せつつ、頭の中で今後のシナリオを反芻する。
約10分後、ムースンが部屋に入ってくる。
対面のソファーに座り込み、メイドに商談が終わるまで入ってくるなと伝える。
重い空気の中、最初に口を開いたのはムースン。
「・・・・さて、事情は知らないが父から預かった書類、それは嘘だろう?」
「・・・・はは。やっぱりバレてましたか?」
そう言いつつクロは頬をぽりぽりと掻く。
「やはりな・・・・商人は信頼の仕事だ。始めの一手がそれではダメだぞ。」
「僕からしたら、同じ卓に着けない方が悪手ですよ。」
「・・・・そうか。では、本題に入る前に君の次の手を見せてくれ。今の私は君を信用していない。・・・・どうする?」
「そうですね・・・・これで――――」
クロは覚悟を決め、頭に巻いていたバンダナを解いた。
先程までバンダナで隠されていた猫耳がぴょこっとでてくる。
「――――どうですか?」
ムースンは目を見開いた。
実際、子供ができることなんてタカが知れていると思っていたのだが、クロはムースンが想像を遥かに超えた一撃を放った。
「・・・・亜人、だったのか。」
「出来れば獣人と呼んで欲しいのですが・・・・今の論点はそこではありません。さて、僕は命を差し出したようなものです。どうですか?」
ムースンは苦虫を食べたような表情をし、ソファーに背を預ける。
「・・・・無茶をする子供だ。私たち人族が今まで君達に何をしてきたか知ってのことだろう?」
「はい。ですが、今の俺は何振り構ってられないので。」
「・・・・私が騒ぎ出したらどうするつもりだったのだ?」
「その場で斬り捨てて、次の手を考えますよ。」
クロはそう言いながら腰につけた短剣に手を添える。
「(・・・・恐ろしい子供だ。信用を勝ち取るどころか、服従させるように無理矢理に持っていくとは。)」
ムースンは額に汗を浮かべながら、クロの目を見る。
「・・・・今は騒がなくても君が去った後に私が騒ぐ可能性があるぞ?」
「・・・・それはそれで構いませんよ。向かってくる人族は全て殺せばいいだけですから。・・・・ですが、今は貴方にとって利益のある話をしようと思ってこうして真正面から来たんですよ。」
これが脅すように不法侵入してきた取引ならば商人のプライドとして儲け話とはいえ受け止めれない。
ムースンはニヤッと笑う。
「これは一本取られたな。そうだな、私は商人だ。真正面から持ってきた商品は誰が持ってきても問題ない。稼げるか否か、だ。」
ムースンは「本題に入ろう。」と言い、クロを見据える。
「貴方の広い心に感謝をするよ。俺が持ってきたのは商品のアイディアだ。」
ここでクロは前世の記憶を元にリバーシや将棋、チェスやトランプなどの様々なアイディアを提案していく。
その説明をムースンは齧りつくように聞いていく。
「――――っていうのが俺の商品アイディアだ。」
ムースンはどれもが画期的なアイディアでこの世界にはないものと踏んだ。
「(この子供・・・・どんな頭の構造してるんだ?)」
とても10歳ほどとは思えない、別の何かが入ってるのではないかとムースン推測した。
「・・・・なぜこの話を私に?これほどの物だ。君自らの手で売った方が儲けはいいだろう。」
「簡単な話ですよ。俺はまだ子供ですし、今はすぐにお金が必要でしてね。何より、商人は性に合ってないもんで。」
「(これほどのアイディア力と交渉力、行動力を持っているのにも関わらず、どの口が言ってるのか・・・・。)」
自分自身の才能に気づいてないなのかとムースンは思いつつ、溜息を吐く。
ムースンは知らない。クロの原動力はどこまでいっても猫なのだ。
「これらの商品のアイディアはとても素晴らしい発想だが、問題が1つある。」
「と、言いますと?」
「全て模倣されやすいことだ。」
この世界にはまだ著作権や商標登録などの法律は存在していない。
模倣品や偽物などは簡単に出回る。
「そうですね、それに対しては俺も考えがあります。」
「・・・・その方法とは?」
「商品に付加価値を付けるんですよ。コレクション性とかブランド化とかね。」
「コレクション性に・・・・ぶ、ぶらんど?とはなんだ?」
クロは「あ、この世界にはまだない言葉か」と思いながらブランドについて説明する。
「他の商品と区別するために高級感を出したり、目新しいデザインの物を作ったりしながら商会名を売りにするんですよ。そうすれば顧客は「ここの商品だったら間違いない。」と思い始めます。」
「・・・・そう上手くいくのか?」
この世界では模倣されやすい商品などはあまり儲けにならない。その付加価値すら模倣されては意味がない。
そこをどうするのか、とムースンはクロの発想に期待しながら耳を傾ける。
だが、ムースンの予想とは反し、クロは予想外なことを言う。
「まぁ、これらの商品は正直言ってメインじゃないですからそこそこ稼げればいいんですよ。資金調達の一環ですから。」
「――――っな!?」
ムースンは度肝を抜かれた。
これらの娯楽の商品は1つとっても予想を遥かに上回る利益を出すと思っていたからだ。
だが、クロはそれを上回る商品があると言う。
クロはおもむろにカバンの中から二本の瓶を取り出し、テーブルの上に置く。
「これはリンスという物なんですが、髪の毛を綺麗にする液体とでも言いましょうか。」
実際はリンスインシャンプーであるが、この世界ではないものであるのでクロからすればどちらでもいいのだ。
クロは前世で猫専用のシャンプーとリンスを作ろうと奮闘したことがあった。
当時飼っていた猫、ケットはお風呂に入れると喜ぶ少し珍しい猫だったからだ。
その時の知識を元に作ったのだ。
「・・・・なるほどな。先ほどのアイディアはこれを量産するための資金調達の手段ということか。」
クロはカバンの中から事前に用意した羊皮紙をムースンに渡す。
「このリンスの使い方を書いたものです。女性の方に好評なんで、ぜひ奥様に使ってみては?」
「なるほど・・・・これで効果を実感できたらレシピを渡すということだな。」
「そうです。」
クロは元々リンスを売るつもりはなかった。
身近な女性、ティナや母親に渡していたのだ。
しかも渡していた理由はモフモフ猫耳をいつでも見たいという邪な理由。
持ち歩いていた理由としては、美人猫耳が現れた時にいつでもプレゼントできるようということ。
クロという人物はどこまででも猫のために生きているのだ。
「(まさかこういう形で使うことになるとは思わなかったがな。)」
ムースンは考え込んだ。
この商品たちはどう考えても巨万の富を築くもの。
「・・・・よし、私も商人だ。腹を括って君の商品を購入しようじゃないか。」
クロはニヤッと笑みを浮かべる。
「それでは、本日は先に述べた娯楽商品のアイディア料を頂きたいですね。」
「それで構わない。――――いくらだ?」
ムースンは息を飲んだ。
最初のうちは適当な額を吹っかけてリバーシなどのアイディア料をぼったくろうと考えた。
「(――――だが、この後から出されたリンスとやらは別格だ。)」
これは売れると商人の勘が激しく訴えている。
しかも、模倣されにくい秘匿性のある人工物だ。
そのレシピの価値は稼げる金額にすると国家予算に匹敵するだろう。
そのレシピを買うためには彼方の指定してきた金額をできる限り譲歩しなければならない。
「そうですねぇ・・・・。金貨、100枚でどうですか?」
「――――っえ?」
再びムースンは驚愕した。
確かに金貨10枚あればやり繰り次第で1年間は生活できるほどの金額。
だが、これらのアイディアが生む商品価値を考えると金貨1000枚は下らない。
それほどの価値の物をクロは10分の1で売るというのだ。
「(金の価値が分かってないのか・・・・?確かに亜人に人族の貨幣価値がわかるとは・・・・しかし、ここまでする子供だぞ?)」
「・・・・安いと思ってるようですね?」
ムースンは自分の思考を予測され、虚をつかれる。
「ま、確かに安いです。この世界の娯楽環境を考えれば金貨1000枚は行くレベルのアイディアだとは思っています。」
といってもクロの知識は本や両親から聞いたものだが、それくらいは予想できる知識は得ていた。
「ですが、俺は金が稼ぎたいわけじゃありません。それに商人は信頼と信用が商品でしょ?」
ここでムースンは察する。
「(・・・・この者は自分が亜人ということを言って私に無理やり話を聞かせた。そこには信用も信頼もない。この者は・・・・信用と信頼を最安値とも言える金額で商品を売ることによって買おうとしてる。その裏には自分を亜人だとバラすななどの意味合いも含まれるだろう・・・・――――やられたな。)」
最初はこちらが主導権を握ろうと思っていたのにふと気がつけば逆に主導権を握られていた。
ムースンはふぅと深いため息をついた。
「――――いい育ち方をしたみたいだな。」
「まぁ両親が良かったですから。」
「ふはは。買ってやろうではないか。金は信用できる。」
夕日が沈みかけ、空が茜色に染まり始めた頃。
場面は変わり、商人の家の外。
クロの帰りを待つ2人は談笑しながら待っていた。
「・・・・遅いね、クロ。」
とティナが呟く。
「そうだねぇ。まぁそろそろ帰ってくるよ。」
ケットはクロの魔力により顕現化した精霊だ。
クロとは魔力的な繋がりがありある程度はお互いの位置を把握することができる。
クロの魔力がこちらに向かっているのを感じ、屋敷のドアを見る。
ガチャと扉が開くとクロが大きめの麻袋を持って出てくる。
少し重そうだが、軽い足取りでクロは2人の元へ帰ってきた。
「――――荒稼ぎしたみたいだね。」
「まぁな。」
「クロ!おかえり!」
「ただいま、ティナ。」
ニコッと笑顔になりいつものようにティナの頭を撫でる。
「えへへ・・・・それで、どれくらい稼げたの??」
「ふふふ。これを見たまえ!」
と言ってクロは麻袋の中身を2人に見せる。
中には金貨が100枚ビッシリ詰まっている。
「すごーい!私、金貨なんて初めて見たよ!」
「まぁ、村に自体お金がないからな。」
クロの村では自給自足が基本のため、お金はほとんど置いてなかった。
だが、一年に一度ほどの頻度で外から保存食やちょっとした娯楽品を売りに耳無の猫族が売りにくる。
何故、耳無かと言うと彼らは元人族の奴隷だったのだ。
耳を取られてしまえば村によっては追い出されてしまうらしい。
そこで彼らは人族の村に入り、商品を購入して村々を渡り歩いている。
「とにかく、これで久しぶりにベットで寝れる。」
「子供だけで泊まれるのかい?」
「そこはなんとでも嘘つけばいいさ。あっちだって商売なんだから金さえ貰えれば何にも言わないと思うよ。」
クロはそう言いながら2人を連れ、村にある宿屋に向かって歩き始めた。
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