Azurelytone【3】アズレリイトオン

羽兼

008 姉

「ただいま~」

「親方  リナがまた連れてきた」

ミヅキは、厨房にむかって声をかけた。

「親方じゃねぇ!!  店長だろうがっ!!」

厨房から、いかつい声と共にしかめっ面の巨体が現れる。

店の客たちは、前者の表現が正しいことを目の前にして、クスクス笑いだした。


リナに手を繋がれてるのは、長い白髪の老人………いや子供だ。

店長は、一瞬眉を潜めたが、空いてる席に目配せをして、厨房に戻っていく。

「一晩だけだぞ……明日には役所につれてけよ」

厨房から、無愛想に響く声に、リナは笑顔になった。

「よかったね」

「すぐ ご飯用意してくれるからね」

白髪の少女を席につかせ、向かいに座った。

たまにしか帰ってこない店長の娘は、たびたびこうやって、迷い子を連れてくる。

何百年もかけて増築を繰り返した街は、夜になると、子供にとっては恐怖の迷宮と変わらない。

リナの迷子を拾ってくる噂は有名だから、次の日には、親が探しに店にくるだろう……。


<めんどうな事を……>

思いながらも、それを口にしないのは、ミヅキ自身が、リナに拾われた身だからでもあった。

ミヅキは、親方(店長)に渡された賄いの材料を刻んで、手早くスープを煮込む。

「はいよ」

リナと、少女にそれぞれふるまう。

「おっ……美味しそう」

リナは早速口に運ぶと、ほぼ同時にもだえた。


「ん〜おいしい!」


少女も恐る恐る口をつける

「……すごい……おいしい」

「今回の料理名は?」

「トマト多めのアマトリチャーナ風スープ……バジル風味……かな」

普段無口なミヅキもリナの前では、饒舌になる。


「ミヅキは料理は上手なのにネーミングセンスがね〜」


「トマトとバジルのスープ………」

少女がポツリと呟く。

「うんうんわかりやすいね」

ミヅキは、夢中で食べ出すリナに視線を向けている。

美味しそうに食べる……この表情が……。


わずかに、少女が呟く。


「大人になったわね……ミヅキ」


<なぜ? 俺の名を知っている?>



「私よ………サヤよ…」


「な……」

<……なぜ……死んだはずの姉の名を>



ミヅキは、少女が20年前行方不明になった姉の貌をしている事に気がついた。
























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