Azurelytone【3】アズレリイトオン

羽兼

001 重ならない

私と彼は似ている
………でも重ならない。 


彼と私は似てる………
でも重ならないんだ……。



例えば……私は朝焼けが好き。
………彼は夕焼けが好き。


あの世界が碧く碧く
染まる刻が大好き……。


同じ世界の同じ色……
でも違う刻………。


彼と私は似てる……でも
重なる事はない。 



あの日も彼はいつものように、
二人のお気に入りの噴水で、
夕日が沈むのを静かに見ていた。


この仕事がうまくいけば、店を買い戻せるからって…………。

お父さんと……
ミヅキと……
私と……
あの女の子と……

四人でお店をやろうって……。


あの夜、女の子のトランクを取りに来たミヅキは、今日は絶対に店にくるなって……。

夜明けには帰るからって……。


待ってた………

二人の約束の場所で、

夜明けが見える噴水で。


夜は…………


明けなかった。



極夜がはじまったあの日から……


私たちは、死ななくなった。

死ねなくなった。




彼は、

人間ではなくなり……。


私は、


目覚める事ができなくなった………。





私達は、どこか似ている……
でも、重なる事はない。


ベッドの縁に腰をかけたミヅキは、
静かに瞼を閉じる。


そこには、密やかにお互いの時間を分かち合った男女がいた。

「ああ………」

「ほんとは、夕日がすきなんじゃなくて…………夕日をみてたら、お前が現れただろ………」 

「ふふ………」

「意外とわかりやすい人ね」

「なら………あなたは
   朝日から現れてよ」


「私……噴水の反対側で
あなたが帰ってくるの
待ってるから……」

「そんな時があればね………」

………………


ミヅキは目を開いた。

「リナ…………必ず、夜が明ける」

「必ず、目覚めさせる」


ミヅキは、一輪の花を枕元に捧げると、
部屋を後にした。


部屋は、数百本の美しい紫の花で、
満たされていた。

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