内気なメイドさんはヒミツだらけ
梅野じゃない、夢野だよ
下校時刻になると、夢野さんが真っ直ぐにこちらへやってきた。
「じゃあ、行こっか」
「あ、ああ……」
マジか。やっぱり夢じゃなかったのか。今から本当に来るつもりなのか。あれ?部屋片づけたっけ、大丈夫かな。
考えていると、背後からこっそり霜月さんが話しかけてきた。
「夢じゃなかったんですね」
「ああ……てか、聞いてたんですか、霜月さん?」
「い、一応隣なので……最初聞いた時は、ご主人様が催眠術でもかけたのかと思いました……」
「真っ先にそこ疑われるって中々ないですよね!」
「……本当に何もされてないんですね……ど、どうしたのでしょうか、梅野さんは」
「夢野、な。まだクラスメートの名前覚えてないんですか?」
「はわわ……えと、その……梅野さん、ですよ?ご、ご主人様、頭がおかしいんじゃないですか?」
「いやいや、どうしてそれで通そうとしてんの?そっちのが頭おかしいからね」
「……ご主人様、絶対にそうと言いきれますか?」
「あれ?そう言われると自信が……」
「アンタ達、全部聞こえてるわよ!私の名前は夢野ありすよ!」
「だよな。俺は知ってたよ、もちろん」
「ふん。自信なさげになったくせに」
「わ、わ、私は……知ってました、よ?」
「アンタは絶対に嘘でしょ!」
「ううぅ……ごめんなさい」
「ま、いいけど。いや、よくないけど。とにかく早く行くわよ」
「あ、ああ……」
「は、はい……」
*******
帰り道、クラスメートの女子と、クラスメートでメイドで家族な女子と一緒に歩くというレアなイベントにドキがムネムネな状態でいると、夢野さんが霜月さんに声をかけた。
「あの……なんで霜月さんは稲本君ちでメイドしてるの?」
「えっ?……あ、その……」
「…………」
まさかこの質問が来るとは……いや、今まではメイド服姿の転校生というインパクトのでかさに隠れていて、横田以外は特に聞いても来なかっただけだが。
意外なくらい真面目っぽい雰囲気に、ついごくりと唾を飲んでしまう。こんなタイミングで本当の事を言うとは思えないが……かといって、この人が上手くかわす事ができるとも……
「はい。実は私は……孤児院で育てられたのですが、そこが閉鎖される事になり、どうしたものかと悩んでいたら、ご主人様のご両親が手をさしのべてくれたのです」
「…………」
なんかめっちゃ流暢に喋ってる!普段のオドオドはどこ行った!?
だがその言葉には、あらかじめ打ち合わせして作った文章を淡々と読み上げるような空々しさがあった。
すると、霜月さんはこそっとこっちを見て、人差し指を唇に当てた。まあ、嘘だからそういうことにしといてくださいとか、そういう意味だろう。
……事前に父さん母さんと打ち合わせしてたのかな?
彼女の落ち着いた目つきから、何となく察する事しかできなかった。
*******
そして、それなりに会話をしていると、いつの間にか家に到着していた。
見慣れているはずの家は、これからクラスメートの女子を家に上げるというだけで、どこか違う建物に見える。
「……どうぞ」
「お邪魔します」
「わ、私はお茶を、い、入れてきます……」
ぱたぱたと台所へ向かう霜月さんを見送ると、夢野さんは丁寧な所作で靴を脱ぎ、我が家の床を踏みしめた。
その足取りからは、どこか緊張みたいなのが見えるが、彼女もクラスメートの異性の家に来るのは初めてなのだろうか?
その様子を見ていると、きっと睨まれた。
「それで……稲本君の部屋はどこなの?」
「あ、ああ、悪い。こっちこっち」
いつも通りを心がけ、階段を上がり、自分の部屋のドアを開け、中が散らかってないか確認し、彼女を部屋に通した。
「へえ、ここが稲本君の部屋か……」
どこに興味深い要素があるのか、彼女はそわそわと部屋のあちこちに視線を送っていた。
「そういや、今日は一体何の用があったんですか?」
「何故敬語……まあ、その……」
「失礼します」
霜月さんが持ったお盆には、普段は見ないティーカップが載っていた。さらに、普段とは違う上品な香りが鼻腔をくすぐる。ウチに紅茶なんてあったのか……。
そして、テーブルにカップが置かれると、夢野さんはお礼を言って、苦笑した。
「なんか不思議な感じね。メイドさんにもてなしてもらうのって。稲本君いつもこんな感じなの?」
「まあ、最初は慣れなかったけど」
「霜月さん、大丈夫?変な命令とかされてない?」
「は、はい……今のところは」
おい。今後もその予定はねえよ。俺だって自分の命は惜しい。
すると、視界にある物が入った。あれは……。
「あら、押し入れからコンセントが出てるわよ」
そして、親切心から直そうとしてくれたんだろう、そのまま押し入れの扉に手をかけた。
「はわっ……」
「あっ……」
夢野さんが押し入れの扉を開けると、彼女の前には霜月さんのゲーム部屋のカオスな光景が広がった。てか、おい。なんだ、あれ……小型のエアコンみたいなのついてるし、なんか内装が西洋風になってるし、色々アップデートされてやがる!
霜月さんの方を見ると、窓の外を向いて、ヘタクソな口笛を吹いていた。よし、事情は後でじっくり聞いてやろう。
そして、風変わりな押し入れを見て固まっていた夢野さんは、ようやくこっちを見て、引き気味な表情を見せた。
「……何、これ」
俺が聞きたいです。
「じゃあ、行こっか」
「あ、ああ……」
マジか。やっぱり夢じゃなかったのか。今から本当に来るつもりなのか。あれ?部屋片づけたっけ、大丈夫かな。
考えていると、背後からこっそり霜月さんが話しかけてきた。
「夢じゃなかったんですね」
「ああ……てか、聞いてたんですか、霜月さん?」
「い、一応隣なので……最初聞いた時は、ご主人様が催眠術でもかけたのかと思いました……」
「真っ先にそこ疑われるって中々ないですよね!」
「……本当に何もされてないんですね……ど、どうしたのでしょうか、梅野さんは」
「夢野、な。まだクラスメートの名前覚えてないんですか?」
「はわわ……えと、その……梅野さん、ですよ?ご、ご主人様、頭がおかしいんじゃないですか?」
「いやいや、どうしてそれで通そうとしてんの?そっちのが頭おかしいからね」
「……ご主人様、絶対にそうと言いきれますか?」
「あれ?そう言われると自信が……」
「アンタ達、全部聞こえてるわよ!私の名前は夢野ありすよ!」
「だよな。俺は知ってたよ、もちろん」
「ふん。自信なさげになったくせに」
「わ、わ、私は……知ってました、よ?」
「アンタは絶対に嘘でしょ!」
「ううぅ……ごめんなさい」
「ま、いいけど。いや、よくないけど。とにかく早く行くわよ」
「あ、ああ……」
「は、はい……」
*******
帰り道、クラスメートの女子と、クラスメートでメイドで家族な女子と一緒に歩くというレアなイベントにドキがムネムネな状態でいると、夢野さんが霜月さんに声をかけた。
「あの……なんで霜月さんは稲本君ちでメイドしてるの?」
「えっ?……あ、その……」
「…………」
まさかこの質問が来るとは……いや、今まではメイド服姿の転校生というインパクトのでかさに隠れていて、横田以外は特に聞いても来なかっただけだが。
意外なくらい真面目っぽい雰囲気に、ついごくりと唾を飲んでしまう。こんなタイミングで本当の事を言うとは思えないが……かといって、この人が上手くかわす事ができるとも……
「はい。実は私は……孤児院で育てられたのですが、そこが閉鎖される事になり、どうしたものかと悩んでいたら、ご主人様のご両親が手をさしのべてくれたのです」
「…………」
なんかめっちゃ流暢に喋ってる!普段のオドオドはどこ行った!?
だがその言葉には、あらかじめ打ち合わせして作った文章を淡々と読み上げるような空々しさがあった。
すると、霜月さんはこそっとこっちを見て、人差し指を唇に当てた。まあ、嘘だからそういうことにしといてくださいとか、そういう意味だろう。
……事前に父さん母さんと打ち合わせしてたのかな?
彼女の落ち着いた目つきから、何となく察する事しかできなかった。
*******
そして、それなりに会話をしていると、いつの間にか家に到着していた。
見慣れているはずの家は、これからクラスメートの女子を家に上げるというだけで、どこか違う建物に見える。
「……どうぞ」
「お邪魔します」
「わ、私はお茶を、い、入れてきます……」
ぱたぱたと台所へ向かう霜月さんを見送ると、夢野さんは丁寧な所作で靴を脱ぎ、我が家の床を踏みしめた。
その足取りからは、どこか緊張みたいなのが見えるが、彼女もクラスメートの異性の家に来るのは初めてなのだろうか?
その様子を見ていると、きっと睨まれた。
「それで……稲本君の部屋はどこなの?」
「あ、ああ、悪い。こっちこっち」
いつも通りを心がけ、階段を上がり、自分の部屋のドアを開け、中が散らかってないか確認し、彼女を部屋に通した。
「へえ、ここが稲本君の部屋か……」
どこに興味深い要素があるのか、彼女はそわそわと部屋のあちこちに視線を送っていた。
「そういや、今日は一体何の用があったんですか?」
「何故敬語……まあ、その……」
「失礼します」
霜月さんが持ったお盆には、普段は見ないティーカップが載っていた。さらに、普段とは違う上品な香りが鼻腔をくすぐる。ウチに紅茶なんてあったのか……。
そして、テーブルにカップが置かれると、夢野さんはお礼を言って、苦笑した。
「なんか不思議な感じね。メイドさんにもてなしてもらうのって。稲本君いつもこんな感じなの?」
「まあ、最初は慣れなかったけど」
「霜月さん、大丈夫?変な命令とかされてない?」
「は、はい……今のところは」
おい。今後もその予定はねえよ。俺だって自分の命は惜しい。
すると、視界にある物が入った。あれは……。
「あら、押し入れからコンセントが出てるわよ」
そして、親切心から直そうとしてくれたんだろう、そのまま押し入れの扉に手をかけた。
「はわっ……」
「あっ……」
夢野さんが押し入れの扉を開けると、彼女の前には霜月さんのゲーム部屋のカオスな光景が広がった。てか、おい。なんだ、あれ……小型のエアコンみたいなのついてるし、なんか内装が西洋風になってるし、色々アップデートされてやがる!
霜月さんの方を見ると、窓の外を向いて、ヘタクソな口笛を吹いていた。よし、事情は後でじっくり聞いてやろう。
そして、風変わりな押し入れを見て固まっていた夢野さんは、ようやくこっちを見て、引き気味な表情を見せた。
「……何、これ」
俺が聞きたいです。
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