内気なメイドさんはヒミツだらけ

差等キダイ

あれ……?

『ねえ、稲本君……稲本君はどんな下着が好き?』
『私、それ履いて明日から登校するわ』

 オーマイガー!!
 ま、まさかこのような展開になるとは……!
 霜月さんはふざけた事ぬかしてたけど、それ見たことか。こうして俺に下着を選ばせるクラスメートが……

「ちょっと……!何下着コーナー見てニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い!!一緒にいる私まで恥をかくじゃないのよ、この変態!」
「あ?いや、だってあのランジェリーショップに行くんだろ?しょ、しょうがねえなあ……」
「違うわよ!隣の洋服屋よ、バカ!」
「…………はぁあ!?」
「え、何?その逆ギレ。ドン引きなんだけど」
「……あ、そろそろ家に帰らなきゃ。宿題あるし」
「待てい!このタイミングでそんな言い訳通用するかぁ!ていうか、クラスの男子に下着なんて選ばせるわけないでしょうが!」
「へいへい、どうせハナから期待していませんよ」

 いきなりアテが外れてしまった。
 こうなったら、なるたけ露出度高いやつを選んでやろう。

「いや、アホな事考えてる最中、申し訳ないんだけど、アンタ荷物持ちだけでいいからね?」
「……わかってるよ」
「どうだか。鼻の下伸びてたし」
「…………」

 *******

「ふぅ……」

 ……さて、どうしたものでしょうか?
 御主人様が心配になり、あとをつけてみたら、さっそく恥を晒しています。メイドは恥ずかしいです。
 しかし、それでも御主人様は御主人様です。
 今晩の夕食、エビフライを一本追加しておきましょう。
 それにしても……本当にただの荷物持だったとは、残念極まりないイベントですね。てっきり私へのプレゼント選びだと思ってしまいました。
 いえ、そのような図々しいことを考えるのはやめておきましょう。謙虚さが大事です。てへぺろっ♪

「あの~、お客様?」
「はひゃいっ!?」

 あわわっ、いきなり声をかけられてしまいました!
 振り向くと、そこには苦笑いの女性店員がいます。しかも、これは不審者を見る目です!

「な、なな、な、なんですか?」
「いえ、その……何故お客様はマネキンの後ろに隠れていらっしゃるのでしょうか?それもメイド服で……」
「えと……そ、それはその……失礼します!」

 とりあえず、逃げるが勝ちです!
 御主人様!……ご武運を!

 *******

 なんか向こうの売り場騒がしいな。まあ、いいけど。それより……買い物の待ち時間ってヒマだなぁ。
 このままさりげなく帰れないだろうか。そもそも霜月さんにやらせればよかったのでは?今さら考えても仕方ないけど。
 いや、待て!まだ諦めるな!もしかしたら…

『ねぇ、稲本君。背中のファスナー閉めてくれない?』

 なんて展開があるかもしれない。信じる者は救われる。

「よし、試着終わり!買ってくるから待ってて!」
「…………」

 ガッテム。
 そして、彼女は会計を済まして、買い物は終了した。
 それと、さっきから向こうの売り場から、メイド服とか何とか聞こえてきたけど、メイド服売り場でもあるのだろうか?
 ……いや、まさかね。もしこの嫌な予感が本物でも、俺は知らない。

 *******

 彼女が買った洋服を入れた紙袋は、ちっとも重くなくて、荷物持ちとしてはこれでいいのかと不安になるくらいだった。

「それで、買い物はもういいのか?」
「ええ。買い物はいいけど、あと少し付き合って」
「お、おう……」

 まだ何かあるのかと思いながら、彼女の後ろをとぼとぼついていくと、その足が向かう先には、ケーキ屋があった。

「……ケーキ、買うのか?」
「ここで食べるのよ。今日付き合ってくれたお礼」
「お礼?いやだって今日は……」
「いいの。気にしなくて。いいから、席確保しといて」
「あ、はい…」

 きっぱりとした口調に、つい敬語で返してしまう。まあ、そこまで言うなら、ここは素直に奢られよう。
 夢野さんはすぐにケーキを載せたトレイを運んできた。

「お待たせ」
「……ありがとう」

 こんな楽な荷物持ちでケーキまで奢ってもらうとか、むしろ申し訳ないんだが……。
 しかも……美味い。
 ここまで好みのケーキが食えるとは……まるで、事前に下準備でもしたかのような……いや、考えすぎか。

「ほら、ほっぺにクリームついてるわよ」
「……え?」

 彼女は、俺の口元についたクリームを指で拭い、そのままその指をペロリと舐めた。
 ……はい?

「…………」
「何よ」
「……い、いや、何でも。いきなりすぎて驚いただけだよ」
「そう?それより、こっちのチーズケーキ、美味しいわ。はい」
「…………」

 何故か彼女は、ケーキを少し削り、フォークにそっと突き刺し、こちらに向けてきた。

「……え?」
「ほら、さっさと食べなさいよ。この姿勢疲れるんだから」
「あ、どうも……」

 言われるがままにケーキを頬張るが、何だか味がよくわからなかった。もふもふと柔らかい物を飲み下し、ポカンとしていると、彼女はそっぽを向いてケーキを頬張っていた。

「……どうしたの……か、顔紅くない?」
「……別に」

 その後、二人して無言でケーキを食べ、淡々とショッピングモールの前で解散したのだが、途中から幻覚を見ていたかのような気分になった。

 *******

 そのままぼんやり歩きながら帰っていると、いつの間にか家に到着していた。
 いまいち現実味のない見慣れた風景に囲まれ、俺はぼんやりと家の中に入った。
 しかし、そこに飛び込んできたのは……

「ただいまー……霜月さん?」
「お、おかえりなさいませ、御主人様……」
 
 霜月さんは、長い黒髪をやたらボサボサにしていた。
 しかも、メイド服が所々汚れている。まるで草むらにでも入ったかのようだ。

「ど、どうしたんですか?ボロボロですけど」
「あ、こ、これは……その……ポケモンに遭遇しまして」
「そんな嘘じゃ幼稚園児すら騙せませんよ。それで、どんなモンスターだったんですか?」
「……アグモンです」
「それ、デジモンだから」

 まあ、追求しても無駄だろう。それに、今はそんな気分じゃない。
 ……なんか今日はよくわからん日だったな。

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