内気なメイドさんはヒミツだらけ

差等キダイ

あいむすとろんぐじゃぱにーずめいど

 立ち上がったのは、ウエイトリフティング部のエースと呼ばれている小山大介だ。見るからに力自慢っぽいので、おそらく霜月さんの特技が腕相撲と聞いて黙ってられなかったのだろう。何故か学ランを脱いで夏服になった。暑苦しい。
 小山はのしのし歩き、霜月さんの傍までやってきた。つまり、俺の傍にやってきた。暑苦しい。

「アンタ、俺と勝負しろや。どっちが上かはっきりさせとこうぜ!!」
『…………』

 小山君の熱い言葉にクラスが凍りつく。いや、さすがに……ねえ?

「小山、サイテー!!」
「合法的に女子と手を繋ぎたいだけだろ!」
「朝から暑苦しいぞ!」
「爆発しろ!」
「くたばれ!」
「……ちょ、ちょっと皆ひどくない?そこまで言う?」

 皆からの心ないバッシングに、小山はダメージを受けていた。意外と繊細な心の持ち主なのだ。俺もさりげなく言ったんだけど、さてどれでしょう?
 小山は哀しそうな顔をしながらも、霜月さんに向き直る。

「俺は腕相撲学年一で知られている。その俺を差し置いて学年一位を名乗るのは許せねえな」
「え、あ、あの……そのような事は言ってませんが……えと、あ、頭は大丈夫、でしょうか?狂ったりしてませんか?」
「…………」

 あ、小山の心が折れかけてる。ちなみに霜月さんの言ってる事が正しい。そのような事は一言も言ってません。
 すると、小山は黙って教卓に肘を乗せた。あ、喋ったらドツボに嵌まりそうだから、さっさと力勝負に出た。ちなみに、先生は椅子に座ってスマホを弄っている。もう少し興味を持て。

「ほ、本当に、腕相撲するんですか?あの……」
「さあ、来い」

 小山の見た目と物言いは男らしいが、行動はアレなのはさておき、これは止めるべきか否か……彼の為にも。
 ……ま、いっか。
 見るだけなら楽しそうだし。
 霜月さんはしばらく逡巡してから、決心がついたのか、そっと教卓に肘を乗せた。依然として表情は頼りないが、何となくわかる。これ、徐々にエンジンかかってきてますね。
 そして、両者見合って……おい、小山。ちょっと照れてんじゃねえよ。童貞かよ。仲間かよ。
 彼は深呼吸し、ゆっくり口を開いた。

「よし、じゃあ、ready……「……えい」ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」

 凄まじい轟音。叫ぶ小山……マジか。ウエイトリフティング部相手にも……もうこの人、ターミネーターなんじゃね?
 感心していると、霜月さんの周りには、どっと人だかりができた。

「すげえ!瞬殺かよ!!」
「ねえねえ、何か部活やってるの!?空手興味ある!?」
「メ、メイドさん、可愛い……」
「是非とも我がウエイトリフティング部に~~!!!」

 いきなり大勢に囲まれた霜月さんは、顔を真っ赤にしてあたふたしていたが、やがて控えめな笑みを見せた。
 その瞬間、小さくて可憐な花がぱあっと開いたような、何ともいえない心地よさが教室内を包み込む。
 皆が温かく見守る中、霜月さんはそっと口を動かした。

「……あ、あいむ、すとろんぐ、じゃぱにーず、めいど」

 なんか微妙に調子乗ってる!!!
 ていうか、何で英語!?しかもすげえヘタクソ!!

「なあ、そろそろホームルーム始めてもいいか?」

 *******

 こうして霜月さんの学生生活が幕を開けた。少しデビューが派手な気もするが。
 彼女は夢野さんから奪った席に座り、俺の隣で無駄に存在感を放っている。うーん、隣の席の人が、そこそこの美少女から変人メイドにチェンジか……何か残念だ。
 えっと、今日の一限目は現代文か。

「ご主人様……」
「どうしたんですか?」
「あ、あの……教科書忘れたので見せてください」
「あっ、そうか。まだ持ってないんですよね?」
「……いえ、家に忘れてきました」

 メイドさんから教科書を忘れたという報告受ける日が来るとは……てか、普通に忘れたのかよ。

「えと……今度からはしっかり置き勉しておきますので……」
「…………」

 まさかメイドさんから置き勉という言葉を聞く日が……もうこれキリがねえな。止めとこう。
 霜月さんは、「し、失礼します……」と言って、ガタガタと机を動かし、くっつけてくる。
 彼女が再び腰を下ろすと、肩と肩とが微かに触れ合う。
 ふわりと漂ってくる香りは、同じシャンプーを使っているはずなのに、やけに甘く感じた。

「……あの、ちょっと近くないですか?」
「あぅ……でも、見えないので……」
「……ですよね。はい」

 教科書が見えないなら仕方ない。助け合い大事。
 結局、今日の授業は全て彼女と机をくっつける事が決定した。

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