内気なメイドさんはヒミツだらけ

差等キダイ

同居決定

「父さん、くだらない冗談はいいから。わざわざこんな手の込んだ真似して……」
「「…………」」

 父さんと母さんは顔を見合わせる。どうやら息子の聡明さと勘の良さに驚いているようだ。そういつもいつも騙されると思うなよ。
 しかし、二人からは予想外のリアクションが返ってきた。

「ど、どうしよう!息子が馬鹿だよ、母さん!!」
「そうね~かわいそうに……」
「うるせえよ!」
「…………ふふっ」

 何気にメイドさんが笑いを堪えている。いや、笑ってる場合じゃないだろ。

「悪いね、霜月君。息子は……童貞なんだ」
「……わ、わかります」
「おい」

 いきなりメイドさんに息子の童貞事情を話すのとかあり得ないし、大体「わかります」って何だよ!!オドオドしてるかと思えば、やけに失礼じゃねえか。
 ……こうなったら、意地でもこの話はなかったことにしてやる。

「……メイドと同居するには条件がある」
「……ほう」
「なぁに?」
「あわわわ……」

 俺はテーブルに肘をつき、堂々と宣言した

「俺に……腕相撲で勝ったら認めよう」
「う、腕相撲……?」

 霜月さんはキョトンとしている。そりゃそうだろう。
 いち日本男児たる俺が、小柄で細身な霜月さんに腕相撲を挑もうとしているのだ。正直自分でもどうかと思う。

「母さん、見てくれよ。息子がわかりやすく卑怯な真似しているよ」
「姑息ね~。我が息子ながら恥ずかしいわ」
「ぐっ……う、うるさいよ!」
「?」

 俺らのやり取りに霜月さんは小首を傾げる。まだ現状が把握できていないような表情だ。だが悪いな。いくら顔が可愛くったって……あれ?よく見たらかなり可愛い気が……目はぱっちりと可愛らしいが、どこか憂いを帯びていて、色気がある。鼻は小さく整い、薄紅色の唇は形がよく瑞々しい。胸の膨らみは華奢な腰つきには不釣り合いなほど……

「は、恥ずかしいです……ご主人様……」

 彼女はドアの陰にさっと隠れ、怯えた目をこちらに向けてくる。
 べ、別にいやらしい視線を送ったつもりはないんだが……

「母さん、息子がメイドさんを視姦しているよ。見てくれ、あの上から下まで舐め回すような目つき」
「あらあら、これは警察を呼ばなくちゃ」
「おい」

 反論したものの、少し不安になる。えっ?俺って女子を見る時にそんな目付きになってるの?とりあえず警察はやめてください。
 とりあえず、俺は精一杯の笑顔を向けてみる。

「っ!」

 霜月さんはビクリと肩を跳ねさせた。何でだよ。
 別に俺は強面系の顔はしてないし、ルックスは平均(と自分に言い聞かせている)だと思うのだが……もしかして……

「あ、それはないです」
「先を読まれた……てか、はやく始めましょうよ」
「……いいんですか?」

 何故か心配されている。きっと優しい女の子なんだろう。
 とはいえ、ここはきっちり勝たせてもらい、のんびりシングルライフを満喫しよう。
 そんな決意と共に、さっそくスタンバイする。
 彼女もそっと確かめるように俺の手を握ってきた。
 ……あれ?何だ、この感触……
 なんかものスゴく……固い。
 どんなに押してもびくともしない壁のような……き、気のせい、だよな……。
 妙な不安はあるが、とにかく勝負を始めることにする。

「よし、じゃあ……レディーゴ「えい」あああああああああああああああぁぁぁぁっ!!?」

 今、腕がねじきれるんじゃないかと錯覚した。もちろんそんなことあり得ないとわかっているんだけれども。
 とにかく、俺は一瞬で負けていた。
 こんなにもオドオドした女の子に。

「あ、あの、だ、大丈夫……ですか?」

 霜月さんは心配そうに俺の手にそっと触れた。
 不意打ちの柔らかさに思わずドキリとしてしまう。

「べ、別に?このぐらい何でもないですよ」
「そうですか……」
「母さん、見たかい?我が息子は一瞬でやられてしまったよ。しかも、メイドさんに惚れかけてるよ」
「二重の意味でやられたのね」
「いや、別に上手くねえからな……」

 てか、息子の腕の心配をしろよ……バカ両親。
 こうして、僕とメイドの同居生活が強制的に始まりを告げた。

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