ニートの魔法

山本の熊

7話 山1


「はぁ…」

疲れと不安が入り混じったようなため息を吐く。
セジアントは黙々と前を飛んでゆく。

「なーんで山なんだよ。」

こんな文句を十数回口にしている。
セジアントはにっこりと振り向いて

「人気のない!広い!自然が豊富!空気がおいしい!」

などと呪文のように言う。後半お前の自己満のような気がするが。

そもそもなぜ山を登っているのか。それは昨日の事だった。




「山ぁ!?」

セジアントが誇らしげにうんうんと頷く。

魔法使いになる→エムラスを倒したい→その為に修行する。

ここまではわかるんだが…なぜ…山…

「部屋でやればよくないか?」

「家には家族もいるし、人目につく可能性が高い。」

もっともな理由だ、俺もコスプレは見られたくない。

ふてくされながら俺は承諾した。




そして今に至るわけだ。

セジアントとおんなじような会話をしながら山の奥深くに入っていく。

「とりあえず、ここらへんで今日は休もう!」

やっとだ。やっぱりニートには歩くのが向いてない、疲れた。
セジアントに

「自然とともに暮らすんだよ!」

なんて一喝されて食料は持ってきてない。

「腹減ったな。飯はどうするんだ?」

「ぼくは大丈夫!食料はこの山にある果物や野生の動物を狩るのさ!」

…アツラだけじゃ狩れないよな…

「と、アツラだけじゃ狩れないと思って、魔法を増やしました!」

「魔法を増やす?どうやってだ?」

「ぼくら使い魔は魔法使いが倒したエムラスの死骸を食べることで、魔法書に新たな魔言が生まれるんだよ!」

へえ、俺が転びそうになったエムラスを食べたんだなぁ

「なるほどね、それでどんどん強くなってゆくと。どんな魔法なんだ?」

「ショックル!衝撃を与える魔法だよ!使い勝手の良い中々の魔法だよ!初めて開放する魔法がこれなんて幕くん運がいいね〜!」

魔法に運もクソもあるか。

とまあ野生動物に出会うこともなく、ショックルで木を揺らしてりんごを食べて1日が終わった。

早めに寝ないとな。明日が早そうだ。

セジアントと魔法書を眺めつつ、ゆっくりと焚き火を消した。




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