Noah's Ark

佐上 充

7話 被害者

「…弟だと?」

「そうよ!!四年前、貴方の部隊に配属された!!」

「芹沢なんて苗字は覚えがないぞ!!」

「ーーでしょうね!!」

 彼女の槍の連撃に徐々に押されながらも、頭を働かせる。
 しかし俺の部隊に"芹沢"なんて苗字の奴がいた記憶が無い。

「…っ!?まさかーー」

 彼女は攻撃の手を休め、憎悪のこもった目で俺を見つめた。

「やっと気付いた?芹沢なんて人間は初めから存在しないわ。私の本名は五十嵐麗奈イガラシレイナて言うの、よく覚えといて?」

 五十嵐、その苗字には聞き覚えがあった。
 そして確かに、この俺が自ら手をかけた一人の青年だ。

「なるほど…な…」  

「私は…弟がたった一人の家族だった…!小さい頃に親が死んでから、二人で何とかここまでやってきたのに!!貴方が…貴方が殺したのよ!?私の唯一の家族を!?」

 苗字を変え、身分を偽りその復讐の為にここまでやってきたのかーー

「貴方にいつか復讐するために、私はここに来るまでに武器の扱いを必死で学んだのよ。本当は模擬戦の日に殺したかったんだけど、思ったより強いのね?今も全く歯が立たないわ。でもーー」

「くっ」

 彼女は再び槍を大きく動かした。

ーー俺に彼女を止める権利はない…しかしここでやられる訳にも行かないんだ!!

「死んで!!」

 彼女の縦横無尽の槍は的確に急所を狙ってくる。
 俺は彼女の槍をかわし続け、何とか最小限の怪我で済まそうと考えていた。

 私は殺したくせにーー

「え?」

 耳元で誰かにそう囁かれた気がした。

 そしてーー

「ここよ!!」

 彼女の槍が俺の右肩を貫いた。

「ぐぁっ」

「…これで終わりね、遥斗隊長?あの世で弟によろしく伝えといてーー」

 俺は利き腕を刺されたことにより剣を落とした。
 後ろは瓦礫の山、前には復讐の鬼とかした女。

 終わったーー

 そう諦めかけたその瞬間。

ーードドドドドドド!!!

「ん?何の音かしら…?」

 彼女は振り向きその顔を驚きと絶望の表情に変えた。
 その視線の先、もうすぐそこまでに、大地を覆い尽くすほどのADGがこちらに迫ってきているのが見えた。
 そのあまりの数に、大地が真っ白な絨毯を敷いたかのように染まっている。

「なんだあの数は…!?」

「一体何が起きたのよ!?」

 一度諦めかけた俺には、この状況はむしろ好機、まだ生き残れる!

「五十嵐!今すぐ聖粉を集めるんだ!急いでシェルターに帰還するぞ!!」

「黙りなさい!人殺し!!」

「復讐なら後でいくらでもできるだろっ!急がないと二人共死ぬぞ!」

「貴方を殺して私もーー」

「なら勝手にしろ!!俺は逃がして貰うがな!!」

 俺は肩の傷を庇いながら、辺りに大量に落ちた聖粉を集め、採取用の袋に大急ぎで詰めた。

「ま、待ちなさい!!」

「待たない!!選べ!ここで俺を逃がして死ぬか!!生き延びて復讐の機会を伺うか!!どっちだ!?」

「…っ!いつか仇を取ってやるわ…!」

「あぁ!いつか取られてやる、しかし俺はまだ死ねないんでな、走れ!!」

 俺達は必死で走った。
 もう距離はだいぶ縮められている、しかしシェルターまでなんとか…!

 そこに突然通信がはいったーー

《遥斗!!今どこだ!?》

「支部長!ADGの大軍に追い回されてるところですよ!!」

《ADGの大軍はこちらでも確認している!今そちらに殲滅部隊がむかっている。そして遥斗の部隊も参戦命令が出てーー》

「俺は肩を負傷!部下も一人失いました!とても戦える状況ではありません!帰還許可を!!」

《…!?……少し待て》

「……」

《…任務の達成状況によって帰還が許可された!》

「感謝します」

《必ず生きて帰ってこい、以上だ》

 そして通信を終えると同時にADGの大軍に対抗すべく、大量の兵士が目の前に見えた。
 俺達は彼らの青ざめた表情をよそに、シェルターのエレベーターに何とか駆け込んだ。

「「はぁっはぁっ…」」

(間にあった…!)

《…期間ノルマの達成を確認。神崎瑠衣の未帰還を確認。遥斗隊長、芹沢愛、お疲れ様でした》

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