Noah's Ark

佐上 充

3話 動機

 キラキラした瞳で見つめてくる芹沢を無視して、俺は神崎へと近寄る。
 すると彼女の方から声を掛けてきた。

「す、凄いです!あんな早い槍を躱してカウンターを決めるなんて!」

「経験を詰めば誰でも出来るようになる。それより、お前はもう少し武器の扱いをなんとかしろ。でなきゃシェルターから出た途端十分と持たないぞ」

 彼女の腕じゃ敵の一体どころか、そのまま返り討ちにあうのが目に見えている。

ーーしかし彼女は、いや彼女達は恐らく…

「すいません…どうしても武器を持つと、相手に怪我を負わせるかもって考えちゃって、怖くて…」

「お前は志願して軍の道を選んだとデータにはあったが、何故だ?」

「…審判の日に、家族を奴らに殺されて、それで大切な人を守るために強くなろうって…それで軍に…」

 おおかた予想通りの理由だな…。
 復讐、審判の日を生き残った奴らの大半はこれを理由に軍に入る者がほとんどだ。

「そうか…ならお前は"ADGアドッグ"を実際に見た事が…」

「…はい、あの白い肌と突き出した頭部は今でも鮮明に思い出せます…」

 このノアでの軍人の待遇の良さに惹かれ、軍に入る者も少なくは無いが…こいつはその心配は無いだろう。

ーーしかし、その待遇の良さも結局は口減らしを円滑に行うためなのだが…

 このシェルターと言う限られた空間じゃ養える人間に限りがある。
 その一定の人口を維持する為にも兵士と言う建前で、外で死んでこなければならないのだ。

「おい芹沢、いい加減落ち着け」

「あら、充分落ち着いてるわよ?それより何が知りたいの?何でも聞いてくれて構わないわ、スリーサイズ?男性のタイプ?それとも…」

「……」

 気を取り直して。

「…お前のその槍の腕で、なぜ訓練の成績が下位なんだ?筆記がいくらダメでもここまで酷くならないはずだがーー」

 そう、筆記よりも実技に重きを置いた軍では、どれだけ覚えが悪くとも強ければ強いほど、成績はそれなりに良くなる。
 そして成績が良ければ、エリートとしてこのノアの治安維持、防衛の任務に回され、安全なシェルターの中で過ごす事ができる。
 だから死にたくないのであれば真面目に訓練をこなした方がいいはずなのだ。

「あら、そんなこと?ほら、私ったら失業して仕事が中々決まんないから、強制的に軍に連れてこられたってことはもうご存知なんでしょう?」

「あぁ、確認済みだ」

 このノアでは職が無いまま三ヶ月経つと、非生産者を養う余裕のない資源節約の為徴兵されるのだ。

「それでどうせなら装魔士殿と一緒に仕事をしたいな、なんてくだらない理由で訓練で手を抜いたのよ。あと面倒だったし。ほら、部隊の任務達成率を平等にする為か、成績が悪い人達が優先的・・・に装魔士の元に配属されるでしょ?」

「あぁ、そうだな…」

「だから私としてはこの状況が願ったり叶ったりなのよ。そこのお嬢ちゃん見たいに立派な志しなんて特にないわ」

「っ…!お嬢ちゃんて!私これでも二一歳なんですけど!?」

「あら?貧相な身体してるからまだ中学生何じゃないかと思ったわ?よく間違われない?」

「くっ…!!」

「あらあら図星かしら?」

「言いましたね…」

 全く…こんな所で言い争ってたら話が前に進まない。

「まてまて落ち着け二人とも。芹沢もわざわざ挑発するな」

 いがみ合っていた二人は少し距離を開き並び直した。

「それで…話をもどすが。ならさっきの模擬戦ではなぜ手を抜かなかった?別に弱い振りを続けていても良かっただろう」

「んー特に理由は無いんだけど、もう振りをする必要もないし、強いて言うなら身体を思いっきり動かしたい気分だったからかしら」

「…そうか。まぁろくでもない理由なのは何となく予想できてたよ」

「もう!ろくでもないってなによ!」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品