Noah's Ark

佐上 充

第1章 1話 装魔士

ーー母さん!姉ちゃん!かおり!!

「っ…」

 どうやら夢を見ていたようだ。

 六年前、突如人類に攻撃を仕掛けてきた神の軍勢。
 審判の日は、たった一日足らずで家族と恋人を殺した。

ーーそして俺が神に復讐を誓った日。

 俺はあの後、捜索部隊に救われこの元環境保護・・・・・センター"ノア"に連れてこられた。
 どうやら幼馴染の言ってたシェルターと言う話は本当だったようだ。

 俺は必死で殺しの技を磨き、そして死にものぐるいで戦ってきた。
 このノアでは俺のような左手に刻印スティグマと呼ばれるものがある人間は装魔士そうましと呼ばれ、悪魔に力を借りる事が出来る人類の最大戦力だった。

 装魔士になる条件は分かってないらしく、一部の悪魔に魅入られた男女が、16歳の誕生日を迎える日、突然左手の甲に刻印が現れ装魔士となる。
 その後、装魔士として強制的に軍に配属され、二年の訓練期間を終えた後、人類の天敵、天使狩りへと送られる。
 これは、あの地獄を生還した俺も例外ではなく、次の日から軍人として生きる事になった。

 神の軍勢には一切の火器、兵器は通用せず、装魔士のみが召喚できる"魔装"と呼ばれる武器、または魔装の模倣品"神機"と呼ばれる武器のみが、唯一の対抗手段だ。
 それにより混乱状態だった人類は、審判の日から数日間、魔装も神機も無い状態でそれなりに抵抗はしたが、もはや抵抗とは呼べないまま滅びかけた。

ーーあぁ、昔の事を思い出して感傷に浸るなんて俺も歳をとったかな…

 目覚ましの時間までまだ余裕はある。

「寝よ…」


 そしていつもの時間に目を覚ました俺は、鍛錬に明け暮れていた。
 この後支部長に呼ばれていた俺は、鍛錬を早々に切り上げ、シャワーを浴びてから支部長室のある本部へ向かった。

「失礼しますーー」

 支部長室に着いた俺は、ノックをして扉をあける。
 すると、支部長のいる机の前に、短めの黒髪に、少し背の小さな、まるで小動物の様な可愛らしい顔の女と、長い茶髪を後ろでまとめた、スタイルのいい綺麗な顔の女が立っていた。

「来たか。今日からお前が率いる部隊はこの二人だ。遥斗、自己紹介しろ」

 自己紹介を促してくる支部長ーー鳳紅葉オオトリクレハは、凛とした声で俺に促した。

 鳳紅葉。
 長い金髪で、まるで女豹のような鋭い目をした美人だ。
 スタイルも良く元軍人だけあって程よくしまった体に出るとこは出ている。
 女性の身でありながら最前線に立っていた彼女は、六年前のあの日、俺を救ってくれた一人だった。
 そしてここまで俺の面倒を見てくれた育ての親でもある。

「…一ノ瀬遥斗、装魔士だ」

 俺は短くそれだけ答えた。

「はぁ…他にもっと言うことはないのか遥斗よ。」

いつも・・・の事ですよ。俺の端末に二人のデータを送ってください。用がこれだけなら俺はもう行きます。次の討伐任務に備えたいので」

 そして俺はそう言い残し、逃げるように部屋を後にした。

ーーこの瞬間だけは今だに慣れない。

「全く…二人とも済まない。どうやらあいつはあまりここに長居するのは好きじゃないみたいでな…悪くおもわないでくれ」

「私は…特には……」

「私も特に気にしません」

「そう言ってくれると助かる。では、二人は呼び出しがあるまで好きに待機していてくれ、以上だ」

「「はっ!」」

 あの後家に戻った俺は、剣型の神機の手入れをしながら、先程の二人のデータを確認する。

 黒髪の女、神崎瑠衣カンザキルイ、二一歳。
 実技での成績はあまり宜しくないようだ…
 士官学校卒業後、軍へ来たか。

 さて、次は茶髪の方か。
 芹沢愛セリザワアイ、二四歳。
 こいつは実技、筆記共に駄目。
 失業後、期限内に職が決まらず軍に徴兵された…ね。

「……」

 また…繰り返しか…
 明日、彼女達の実力を実際に確認しよう。

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