Noah's Ark

佐上 充

8話 誓いを守れず誓った日

 とある豪邸の一室に、見た目は二十後半の、黒いスーツに身を包み、真っ白な髪に異様な雰囲気をした男が、椅子に腰掛け目を閉じていた。
 そんな男に付き従う様に、同じく黒のスーツに身を包んだ黒髪の男が横に立っていた。

「…どうやら近づいて来ている様だ」

「承知しましたクロード様。直ぐにご準備をーー」

 初老の男は恭しく頭を下げ、部屋を出ようとした所を、目を開いた白髪の男に呼び止められたーー

「もう…人の名で呼ぶ必要は無い」

「失礼しました…では、私はこれで失礼します」

 白髪の男の目は炎の様に赤く、目には怒りと企みが入り交じっていた。






 俺達は息を切らしながら雑木林の中を全力で駆けていた。

「香織!急げ!もう少しだ!!」

 呼び掛けられた香織に答える余裕は無いのか、必死の形相で黙々と走り続けていた。
 目的地までもう少しと言う所で、運悪く怪物たちの集団に出くわしてしまったのだ。
 初めはそこそこの距離があったのだが、怪物達にスタミナと言う概念は無いのか常に初めと変わらない速度で追い続けてくる。
 ただ歩いてる時は二足歩行の奴らも、効率を重視してか、走る時は四足で追いかけてくる。
 こちら永遠同じ速度で走れる訳もなく徐々にその差は縮んで行った。

「はぁ…っ、遥斗くん!もう私は…っ、先にーー」

「ーーもう少しなんだ!頑張れ!」

 俺はそう言うも、限界が近かった。
 このまま行けば必ず辿り着く前に奴らに殺されるのが目に見えている。

「…遥斗くん、ごめんねーー」

 香織は突然足を止め、肩で息を切らしてる彼女は、

「生きてーー」

「そんな…俺は香織を…守るって誓ったんだ…!」

ーーこうなったら戦うしかない。

 あの時突然現れ怪物を葬った漆黒の剣を召喚しようとするも、右手は汗を滲ませるばかりだった。

「くそっ!なんでっ!なんで出ないんだよこんな時にっ!!頼むっ!出ろ!出ろよ!!」

 怪物達はもうすぐそこまで迫っていた。

「遥斗くん!!お願いだから…もう行って…?短い間だったけど、遥斗くんと付き合えて、幸せだった。私は昔から…あなたに助けられてばかりで…だから今度は私が助ける番…!」

虐めから救ってくれた。友達になってくれた。恋人になってくれた。抱き締めてくれたーー

「ーー遥斗くんありがとう…っ」

ーー愛してるよ。

 香織は最後の言葉を言う前に、追い付いてきた怪物達の手により、見るも無残な死体へと瞬く間に変えられた。

「あぁ…!やめろ…やめてくれ…!かおり…かおりぃぃぃぃぃ!!!」

俺は無我夢中で走っていたーー

 彼女と怪物達を背にし、全てを奪われた、誰も救えなかった己の無力さから目を逸らす様にーー

「害虫共が!!殺してやる!!いつか必ず!!ぶっ殺してやるぁぁあぁあぁぁぁ!!!」

 そして相変わらず迫ってくる怪物達に、いつか必ず復讐してやると、何度も心に誓った。
 そしてそれに共鳴するかの様に、左手の刻印スティグマが赤く輝いていた。

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