Noah's Ark

佐上 充

7話 生きるため

「ーー香織!香織!」

「……うぅ…」

 崩れた家の下敷きになり、その衝撃で気を失っていた香織は、呼びかけると直ぐに意識を戻した。

「香織っ!大丈夫か!?」

「遥斗…くん…?」

「今助ける!」

 幸い、彼女の身体に乗っている瓦礫は少なく、直ぐに助け出すことが出来た。

「香織…無事でよかった…!」

「ありがとう。また…助けられちゃったね…。遥斗くん、一体何が起こってるの?」

 辺りを見れば、いくつかの建物は香織の家と同じく崩壊し、所々火の手が上がっていた。
 遠くからはサイレンの音がしてとても騒がしく、まるで大きな地震でも起こったかの様な有様だった。

「取り敢えず逃げよう。話は歩きながらする」

「ーー♪」

 香織が頷くと同時に、俺のポケットからケータイの着信音が響いた。
 着信の相手は幼馴染の直紀だった。

「はるちゃん!?良かった…やっと繋がったよ…」

「直紀!無事だったのか!!」

「うん、こっちは何とかね…それよりはるちゃん、まだ街にいるなら早く逃げないと!」

「そんなことわかってる!!でも一体どこに…」

「ザザーーのあーー!ザザーーに逃げーーだーー!」

「もしもし!?直紀!?直紀!?」

 その後も何度か掛け返し、他の番号にも掛けて見たが、業務用のメッセージがなるばかりでどこにも繋がることは無かった。

「遥斗くん…?」

「…どうやら直紀は無事みたいだ。香織、ノアに逃げるぞ」

 直紀との電話が切れる直前、僅かに聞こえたノアと言う単語。
 それを頼りに香織とそこに向かうことを決めた。

「でも…ノアってただの保護センターなんじゃ… 」

「あぁ…だけど直紀がノアって言ったんだ。こんな状況じゃ、何でもいいから縋るしかないだろ?」

「うん、私は遥斗くんを信じるーー」

 真っ直ぐな瞳で彼女に見つめられ、何がなんでも香織を守ると心の中で誓った。
 ここから、ノアまで決して近くはない距離だ。
 しかし行くしかない、どーせここでじっとしててもいずれはあの怪物に殺されるのだ。

「行こう」

 向こうに無事たどり着けば直紀に会えるかもしれない、俺は覚悟をきめ、香織と共に歩き出したーー
 その道中、俺は香織にこれまでの経緯や、見てきた事をそのまま説明した。

「そんな…遥斗くんの家族が…」

「あぁ、目の前で奴らに殺された。香織んとこの家族はどーなんだ?」

「親は仕事で殆ど家に居ないし…私、一人っ子だから…」

「そう言えば香織のとこの親御さん、なんの仕事をしてるんだ?」

 普段家に居ないことは聞いていたが、仕事にしては帰って無さすぎる気がする。

「うーん、なんかの学者をしてるって昔聞いた事あるような…」

「学者?両親揃ってか?」

「そう見たい。なんか世界各地を回って、神話とかそういう物に纏わる研究をしてるんだって」

ーー直樹が憧れそうな職業だな…

 少し進むと辺りには死体や、怪物が歩いているのが遠くに見える。
 香織はその光景に血の気が引いた表情をしている。
 死体は道中それなりに見てきたが、やはり嫌悪感が無くなることは無かった。
 それに対して俺は最早何の反応を起こす事も無く、冷静にその光景を眺めていた。

 少し休もうと物陰で腰を下ろした俺達は、現状の確認をした。

「それで不思議なのは、遥斗くんが気付いた時には消えてたどこからともなく現れた剣とーー」

「ーーこの変な模様だ」

 遥斗は香織に左手の甲を見せた。

「あれ?これって家のどこかで見たような…」

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