Noah's Ark
6話 黒猫
小学三年生の時、内気で大人しかった私は友達もおらず、同じクラスの同級生達から毎日のように虐められていた。
いつも独りで、何をしても怒らない私が、まだ幼い同級生達には格好の遊び道具だったようだ。
『うぅ…やめて…やめてよ…』
今日も私は、放課後の帰り道に、いじめっ子達からの嫌がらせを受け泣いていた。
ランドセルの中身を道にばら撒まかれ、挙句には暴力まで振るわれる。
そんな地獄の様な日々が続いていた。
両親にも話したが、学者である父と母は、殆ど家に帰って来ず、相談した所で状況は全く改善しなかった。
そして一人っ子だった私はずっと、父の部屋で見つけた綺麗な砂時計を眺め、ひたすら一人で耐え続けていた。
そんなある時、私に小さな友達が出来た。
それは近所の公園で、ダンボールの中で鳴いていた、一匹のまだ小さいオスの黒猫だった。
家でペットを飼うことを許されていない私は、彼を"クロコ"と名付け、毎日公園に通い世話をした。
黒い子猫だからクロコ。
小学生らしい安直なネーミングセンスだ。
クロコと戯れている時だけは、日々の辛い虐めや、家での寂しさを忘れる事ができた。
しかし、そんな日は長くは続かなかった。
いつもの様にクロコの世話をしに公園に来た私は、いつもの場所に彼が居ない事に気付いた。
『クロコー!!どこー!!』
幾ら呼び掛けてもクロコは姿を表さ無かった。
恐らく近所の人が保健所に連絡したのだろう。
もうクロコの姿はどこにも無い。
私は罪悪感と唯一の友達を無くしたショックで、頭が真っ白になったのを覚えている。
次の日から、私はまた一人で耐え続ける日々が始まった。
そしていつもの放課後。
『お前本当ジメジメしててバイ菌みてーだなー!バイ菌女だ!皆バイ菌女をやっつけろー!』
『『やっつけろー!くらえー!』』
私は遠くから小石やゴミを投げつけられ、何も出来ずその場に蹲りただ泣いていた。
そんな時。
『おい!お前らいい加減にしろよ!この子、泣いてるだろ!?』
いきなり、庇うように私の横に立つ初めて見る顔の男の子。
少し猫目の、綺麗な顔をした男の子だった。
鍔の付いた黒いキャップを被り、黒いTシャツにジーパンを穿いた彼は突然私の目の前に現れたのだ。
『もうやめろ!!女の子一人に寄って集って…このっ腰抜けが!!』
『んだと…っ』
そこからいじめっ子達と彼との取っ組み合いの喧嘩が始まった。
『はぁ…はぁ…。おい、もう行こうぜ』
『帰ろう…』『痛いよぅ…』
さすがに三人同時には手に負えず、いじめっ子達が去った後、そこにはボロボロになった彼が一人取り残されていた。
『いてて…あいつら、三対一はずるいだろ…』
『だ、大丈夫!?』
そして私はぼろぼろになった彼を改めて見た時思わず
『クロコ…?』
そう呟いていた。
『クロコ?なんだそりゃ?俺は一ノ瀬遥斗。昨日隣街から引っ越して来たんだ。君は?』
『あ、ごめんなさい…。私は…園田香織…です…』
『園田香織ね!俺、明日から市原小学校に通うんだけど、こっちにまだ友達一人もいなくてさ、良かったら友達になってよ!』
『え…?いいの…?』
『もちろん!よろしくな!香織!』
これが私を救ってくれた、遥斗との出会いだった。
彼と私は同級生で、クラスは違えど学校でも外でも積極的に遊びに誘ってくれた。
相変わらずいじめっ子達は、私に嫌がらせをしてくるも、その度に彼が助けてくれた。
私は当時、彼はあのいなくなってしまったクロコで、それが人間に生まれ変わって私を助けてくれているんじゃないかと本気で思っていた。
誰にでも明るく接する彼の周りには次第に人が集まるようになり、彼はいつも輪の中心にいた。
そんな彼と、ほぼ毎日過ごしていくうちに私に対するいじめも徐々に無くなって行った。
その後、中学校に上がり、彼とは離れ離れになってしまった。
私は酷く落ち込み、食事も喉を通らず、憔悴仕切っていた。
しかし、彼と過ごした三年の中で私も多少は成長したのか、このままではいけない、私も彼の様に誰かを守れるくらい強くなろうと思い、剣道部にはいった。
練習は過酷だったが、中学校三年の最後の試合で、見事個人戦で優勝した私は、もう小学校時代の面影は残っていなかった。
ーーそして運命の日。
私は部活の推薦で地元の、少しレベルの高い高校に進学していた。
その始業式、私は見覚えのある横顔に目を奪われた。
昔より大人びていて、少し気だるそうな表情をした彼は、紛れもなく一ノ瀬遥斗、その人だったーー
いつも独りで、何をしても怒らない私が、まだ幼い同級生達には格好の遊び道具だったようだ。
『うぅ…やめて…やめてよ…』
今日も私は、放課後の帰り道に、いじめっ子達からの嫌がらせを受け泣いていた。
ランドセルの中身を道にばら撒まかれ、挙句には暴力まで振るわれる。
そんな地獄の様な日々が続いていた。
両親にも話したが、学者である父と母は、殆ど家に帰って来ず、相談した所で状況は全く改善しなかった。
そして一人っ子だった私はずっと、父の部屋で見つけた綺麗な砂時計を眺め、ひたすら一人で耐え続けていた。
そんなある時、私に小さな友達が出来た。
それは近所の公園で、ダンボールの中で鳴いていた、一匹のまだ小さいオスの黒猫だった。
家でペットを飼うことを許されていない私は、彼を"クロコ"と名付け、毎日公園に通い世話をした。
黒い子猫だからクロコ。
小学生らしい安直なネーミングセンスだ。
クロコと戯れている時だけは、日々の辛い虐めや、家での寂しさを忘れる事ができた。
しかし、そんな日は長くは続かなかった。
いつもの様にクロコの世話をしに公園に来た私は、いつもの場所に彼が居ない事に気付いた。
『クロコー!!どこー!!』
幾ら呼び掛けてもクロコは姿を表さ無かった。
恐らく近所の人が保健所に連絡したのだろう。
もうクロコの姿はどこにも無い。
私は罪悪感と唯一の友達を無くしたショックで、頭が真っ白になったのを覚えている。
次の日から、私はまた一人で耐え続ける日々が始まった。
そしていつもの放課後。
『お前本当ジメジメしててバイ菌みてーだなー!バイ菌女だ!皆バイ菌女をやっつけろー!』
『『やっつけろー!くらえー!』』
私は遠くから小石やゴミを投げつけられ、何も出来ずその場に蹲りただ泣いていた。
そんな時。
『おい!お前らいい加減にしろよ!この子、泣いてるだろ!?』
いきなり、庇うように私の横に立つ初めて見る顔の男の子。
少し猫目の、綺麗な顔をした男の子だった。
鍔の付いた黒いキャップを被り、黒いTシャツにジーパンを穿いた彼は突然私の目の前に現れたのだ。
『もうやめろ!!女の子一人に寄って集って…このっ腰抜けが!!』
『んだと…っ』
そこからいじめっ子達と彼との取っ組み合いの喧嘩が始まった。
『はぁ…はぁ…。おい、もう行こうぜ』
『帰ろう…』『痛いよぅ…』
さすがに三人同時には手に負えず、いじめっ子達が去った後、そこにはボロボロになった彼が一人取り残されていた。
『いてて…あいつら、三対一はずるいだろ…』
『だ、大丈夫!?』
そして私はぼろぼろになった彼を改めて見た時思わず
『クロコ…?』
そう呟いていた。
『クロコ?なんだそりゃ?俺は一ノ瀬遥斗。昨日隣街から引っ越して来たんだ。君は?』
『あ、ごめんなさい…。私は…園田香織…です…』
『園田香織ね!俺、明日から市原小学校に通うんだけど、こっちにまだ友達一人もいなくてさ、良かったら友達になってよ!』
『え…?いいの…?』
『もちろん!よろしくな!香織!』
これが私を救ってくれた、遥斗との出会いだった。
彼と私は同級生で、クラスは違えど学校でも外でも積極的に遊びに誘ってくれた。
相変わらずいじめっ子達は、私に嫌がらせをしてくるも、その度に彼が助けてくれた。
私は当時、彼はあのいなくなってしまったクロコで、それが人間に生まれ変わって私を助けてくれているんじゃないかと本気で思っていた。
誰にでも明るく接する彼の周りには次第に人が集まるようになり、彼はいつも輪の中心にいた。
そんな彼と、ほぼ毎日過ごしていくうちに私に対するいじめも徐々に無くなって行った。
その後、中学校に上がり、彼とは離れ離れになってしまった。
私は酷く落ち込み、食事も喉を通らず、憔悴仕切っていた。
しかし、彼と過ごした三年の中で私も多少は成長したのか、このままではいけない、私も彼の様に誰かを守れるくらい強くなろうと思い、剣道部にはいった。
練習は過酷だったが、中学校三年の最後の試合で、見事個人戦で優勝した私は、もう小学校時代の面影は残っていなかった。
ーーそして運命の日。
私は部活の推薦で地元の、少しレベルの高い高校に進学していた。
その始業式、私は見覚えのある横顔に目を奪われた。
昔より大人びていて、少し気だるそうな表情をした彼は、紛れもなく一ノ瀬遥斗、その人だったーー
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